フレデリック、新体制後初のMVに込めた想い 撮影密着取材で探る
INTERVIEW

フレデリック、新体制後初のMVに込めた想い 撮影密着取材で探る


記者:松尾模糊

撮影:

掲載:17年08月01日

読了時間:約8分

新4人体制として初めてフルスタジオでのMV撮影をおこなったフレデリック

 4人組ロックバンドのフレデリックが8月16日に、2ndシングル「かなしいうれしい」をリリースする。それに先駆け6月某日、川崎市内で、同曲のミュージックビデオ(MV)の撮影がおこなわれた。MusicVoiceは過去に「オワラセナイト」と「トウメイニンゲン」のMV撮影に密着してきた。今回も機会に恵まれ、MV撮影では3度目、全体では5度目の密着取材となる。リズムは彼らにとって命だ。そのリズムを分かりやすく視覚化しているのがMVだ。新4人体制で臨むMV撮影。彼らにとってどういうものになったのか、情景描写と4人、そしてスミス監督の声を織り交ぜながらレポートしたい。

全スタジオ撮影の意図

迫力のあるバンド演奏シーンも撮影

 フレデリックは三原健司(Vo、Gt)と三原康司(Ba、Cho)、赤頭隆児(Gt)、高橋武(Dr)からなるロックバンド。もともと4人組だったが、3人編成となり、今年、サポートだった高橋が加入し、再び4人組となった。彼らにとってリズムは命。3人編成になったときに、失った4つ目のリズムを求めておこなったツアーが、今や定番にもなった『フレデリズムツアー』。ここで、4つ目のリズムが観客にあると確信を得た彼らは飛躍的に成長を遂げていく。その過程をドラムとしてサポートしてきたのが高橋であり、今回、正規メンバーとして加わったことの意味は大きい。そして、彼らを一気に押し上げた「オドループ」に見られる特性を放ったMV。そもそも「オドループ」は公開当初からミニマルなフレーズと独特の歌詞、そしてMV中の無表情な女性モデル2人が街を疾走するシュールさと相まって「頭から離れない」と話題になった。現在、YouTubeでの再生数は2300万回を超える。その後も独自性あふれる彼らの世界観は、しばしば“中毒性”とも呼ばれ、数多くのファンを魅了している。彼らにとってキーを握るMV、そしてリズム。4人体制で臨む今回のMVにはおのずと注目が集まる。

 「かなしいうれしい」は、7月3日から放送されているテレビアニメ『恋と嘘』のオープニング曲。漫画家のムサヲ氏による同名漫画が原作。結婚相手を科学的見地から政府により決められ、以降恋愛を禁止されるというディストピア的世界観を描いた物語。「かなしい」と「うれしい」というふたつの相反する感情が織り交ぜられた歌詞と、フレデリックらしいミニマルなサウンドが耳に残る楽曲で、コーラスワークが曲を美しく彩る。康司は「お話をいただく前から原作とは出会っていて、作品の中にある『嘘』への純粋な想い、繊細な絵のタッチにとても惹かれました」と原作の世界観に惹かれていたという。

 彼らのMVは、「オドループ」から一貫して市街地や都市ビルでの屋外ロケの作品であった。しかし、今作ではバンド史上初の全スタジオ撮影。これまでに、氣志團やマキシマムザホルモン、AKB48やNMB48、いきものがかりなど、数多くのミュージシャンのMVを撮影している気鋭の映像作家・スミス氏が監督を務める。スミス監督はフレデリックのMVをこれまでも手掛けているが、今作で初めての全映像をスタジオで撮影したことについて「とにかくシンプルにしたくて場所がどこというよりは、抽象的なものにしたかった」とその狙いを明かした。

 今回の現場は最寄り駅から徒歩15分ほど離れた、大通り沿いのスタジオ。午前9時半前にはすでにメンバーは現場入りしていた。広大な土地にどっしりと構えていて、外からは工場にも見間違えそうな雰囲気だ。重厚な扉を押し開け、中に入るとその天井の高さに圧倒される。中には監督、スタッフ、関係者らが慌ただしくセットの間を動き回り、活気も感じられた。この場所で一体どのような作品が生まれるのか、期待も膨らむ。

4人それぞれの想い

初めてのMV撮影に臨んだ高橋武

 高橋が加入後初のMV撮影。康司は「4人でこうやって撮影できるのは感慨深いものがありますね」と言い、「ライブと音源って違うじゃないですか。MVも一つの作品で、今までフレデリックが作り上げてきた世界観を見てもらえる場ですし、たくさんの人に聴いて欲しい。一作品として僕はどう動こうなど、考えたりしますね」とMVについて持論を述べた。

 高橋は「『OTOTUNE』以降、ライブやレコーディングで一緒に活動していたのでそのままという感じですが、確かにMVに映るというのは初めてだし、そこは新鮮です。僕も康司くんと同じで、ライブと音源は違うと思っていて、中でもドラムが入ることによってライブ感が増すと思うのでMVがライブと音源を繋ぐようなものになればと思います」と初めてのMV撮影に臨んだ。

 健司は「4人でバンド演奏シーンを撮るというのは、初めてなので。いわゆるよくロックバンドのMVで見られるような映像なのですが。そこが楽しみですね」と4人そろっての撮影についてコメント。

 赤頭は「3人だから、やれたことというのもあるのですが。でも4人でやると、やっぱりバンド感があってこれやな、と思います」と久しぶりの4人でのMV撮影についてしっくりきている様子。

 康司は「今まではロケでその場所が新鮮でいいこともあったのですが、気を張ることも多かった。スタジオだと気持ちに余裕が持てます」と今回の撮影ではリラックスしている様子も見えた。

 さらに、高橋は「3人の視覚的表現の部分は上がっていると思うので、そういう部分も見て欲しいですね」と見どころを述べた。

 「かなしいうれしい」について、康司は「どちらかと言うと、ミドルテンポでこれだけ寄り添える曲だな、と思っていて。肩ひじ張らずにスッと入ってくる曲で、フレデリックにとって等身大の曲だと思っています。今作はアニメのタイアップで、一緒に僕らと作品を作って頑張ってくれる人がいて。たくさんの人に聴いてもらいたいと思うし、この曲をMVで撮れることは嬉しいです」と語った。

 健司は「これから4人で初めてということは段々なくなっていく。初めてのツアー、初めてのMV撮影…。だからこそ、その瞬間は大事だと思っています。その瞬間を皆さんにも見届けて欲しいです」と今回のMVについて特別な気持ちを明かした。

全国ツアーを経た彼らのグルーヴ

女性ダンサーがキレのあるダンスを見せる場面も

 撮影前、ドラムセットを自ら入念にチェックする高橋の姿。フレデリックとして初のMV撮影に否が応でも気合が入っている様子が見て取れた。

 撮影は4人の個別ショットを撮るところから始まった。それぞれが所定の立ち位置で楽器を携え演奏しながら、音と合わせ表情を作っていく。それぞれが撮影に臨む間、他のメンバーは監督やスタッフが観ているモニターを後ろから覗き込んで、自身の番をイメージしたりしていた。

 クラップをおこなう場面で、健司が苦戦していると康司がアドバイスをする様子も見られた。その他にも所々にバンドとして作品に一丸となって取り組んでいる様子が伺えた。

 そして、4人での演奏シーンでは、お互いの立ち位置や間の取り方を入念に示し合わせて調整をおこなう。出来上がりをモニターでチェックする4人のまなざしは真剣だった。監督からOKをもらい、彼らの映像処理をリアルタイムでおこなうモニターを見ながら自分の演奏シーンに合わせてダンスをする赤頭。撮影前や、待ち時間などにも、こうしたおどけた様子を見せ、メンバーやスタッフを和ませる彼はバンド内のムードメイカー的存在であるようだ。

 撮影スタジオでは女性ダンサー4人が様々な動きを監督に注文され、こなしていく作業も。細部の動きにまで監督はこだわり、何度もテイクを重ねる。厳しい注文にも根気強く応える彼女たちに、高いプロ意識を感じた。モニターをチェックしながら重ねる映像などの位置を細かく調整していく。それに従い、ダンサーやセットの位置を動かしていくところには大勢のスタッフが休みなく携わる。メイクも1回のチェックごとに服のシワやヘアスタイルを整える。たった5分に満たない作品でも多くの人間が携わっていることに驚嘆する。

撮影現場でもムードメイカー的存在だった赤頭隆児

 スミス監督は「今までのものとは違うものにしたいな、というのとシンプルだけど飽きないものが良いなと思いました。あと久々に4人体制になったので、バンド演奏をメインにやりたいなと思ったのが一番のテーマです」と今作のテーマについて語った。

 楽曲については「感情的な曲なのに、強くそれを押し出していない、いい意味で湿っぽくないと思います。歌詞は悲しい感じですが曲を聴くとその歌詞にのめり込まないというか。歌詞は悲しいので、映像でわざわざそこを増幅する必要はないのかな、と」詞よりも曲のイメージでMV撮影に臨んだと言う。

 MVについて「4人の演奏を撮るのは初めてなので、その映像を楽しみにして欲しいと思います」と呼びかけた。

 健司や監督が意気込んでいた、この日最後に撮影されたバンドの演奏シーン。深夜までに及ぶ撮影の中、光の当たり方やアンプなどの機材の位置、配色にまでこだわりを見せる場面も。スミス監督も彼らの表情など入念にチェックしながら、カメラの位置などを指示していた。

 カメラが回ると同時に迫力のある演奏が、スタジオの大きな空間を彼らのサウンドで満たしていく。再び4人体制となり、昨年から今年にかけておこなった全国ワンマンツアー『フレデリズムツアー 2016-2017』で血肉となった彼らのグルーヴが存分に発揮されているこの映像は、彼らが言っていたようにこのMVの肝となることは間違いないだろう。

 これまでもツアーなど4人で音を奏でてきてはいるが、正規に4人体制となった新生フレデリックはバンドとしてのグルーヴをさらに強固なものとした。そうしたことからも、これから大きなステップアップを果たすことは想像に難くない。その確かな一歩、そして、4人での視覚化されたグルーヴは、このMVで映像として体感することができるだろう。

(取材・撮影=松尾模糊)

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