情感を映し出す詞と音の呼応、LUNKHEAD「決戦前夜」に込めた想い
INTERVIEW

情感を映し出す詞と音の呼応、LUNKHEAD「決戦前夜」に込めた想い


記者:木村武雄

撮影:

掲載:16年05月10日

読了時間:約21分

メンバーがいることで保たれる感性

小高芳太朗

小高芳太朗

――初めに曲を聴いた印象が、ずっと聴いていくうちに変わっていくように、色んな事をやり続ける事で固定概念ができてくると思います。でも子供はそういうのがないので、すごく感性が柔らかいですね。

 子供の絵とかもそうですよね。「そう使う?!」みたいな。「線とかそう行くの?」とか。大人にはできないですよね。

――長年やってこられると、ルーティンや固定概念もあるかもしれませんが、それを取り払うようにそういう事をなさっている?

 そうですね。自分一人のプロジェクトではなく、バンドだからメンバーが居るというのはありがたいですね。

――意識しないうちに、自分の目指している方向などからズレていく事もあると思いますが、それをメンバーに注意してもらったり、咎めてもらったりなどはありますか?

 そういうのはウチはあまりないかもしれないですね。もともとズレてたんで(笑)

――逆にまとめるのが大変だったりするのでしょうか?

 どうですかね、仲がいいので。ただ、やりたい音楽とか聴いてきたものがバラバラだったんですよ。そのなかでどう同居していくか、みたいな。僕は最初「Radiohead」とか、日本だったら「GRAPEVINE」とか、わりとズブズブっとしたロックがやりたくて。複雑なコード使ったりして。

 でも、ウチのギター(山下壮)は「Led Zeppelin」とか「Guns N' Roses」とかハードロック畑で育ってきたから、最初はパワーコードとペンタトニック(編注=簡易的な低音域中心の和音と、音数を5音に減らした音階の意)しか弾けなくて、上手いんですけどギターソロはペンタトニック、それ以外はパワーコード、みたいな。もうルート音(編注=第1度音、ベース音)を弾いていないと不安で仕方ない、という感じで。で、ベース(合田悟)はレッチリが大好きで、ひたすらスラップを。カッチカチの音で「ベキブツバキボキッ!」って(笑)。

 だから俺はもう、「そうじゃないんだけどな、ズブズブっとしたのをやりたいんだけどな…」と思ってコード弾いていたら横で「ベキブツバキボキッ!」って。だからライブハウスの人にもオーディションライブで、「何かハードロックの人はいるし、フリー(レッチリのベーシスト)みたいな人もいるし、何やりたいんだか全然わからない」と言われて。

 そんな中でお互いの中の“折り合い”みたいな部分を探して「LUNKHEAD」が出来ていったので、そういう意味では根底で合ってないんですよ。目指す方向が。だからやっていて面白いと思うし、常に発見がありますよね。ドラムはメンバーチェンジしているんですね、もともと高校の同級生なので(編注=石川龍が2009年に脱退。その後、桜井雄一が加わる)。やっぱりお互いライバルみたいな所があって、「負けねえぞ」みたいな気持ちがあるんで、常にベースもギターもすごく練習しているし、引き出しを毎回広げてくるので、アレンジ、レコーディングしていると、いまだに「こいつスゲエな」って思いますね。

――それぞれの曲でもそれぞれのパートが耳に残るんです。「決戦前夜」はベースが特徴的だと思いました。それは合田悟さんの意向でそうなったのでしょうか?

 そう。「合田病」に俺も罹っているんですよね。独特でエグいベースラインはLUNKHEADファンの中での一つの特徴で、もうアレですよね、パクチーとかくさやみたいに「好きになっちゃうとヤメられない」けど、一般的にはどうなのかなというのもあって、そういう“さじ加減”は毎回議論しますね。やり過ぎるとボーカルを食っちゃうところがあるので。

――詞と曲とは別物でしょうか?

 曲によりますね。基本的には一緒のものだと思います。

――ライブがあってこそのものだという点で、詞とはどういう役割を果たすのでしょうか?

 ウチは本当にお客さんが詞を聴きにくるんですよ。ライブハウスだとあまり歌詞の細かいところなんて聴こえないじゃないですか? なのに本当にちょっと間違えただけですごいつつかれるんですよね(笑)そういう意味でも、LUNKHEADにとって歌詞ってすごい大事なんだと思います。歌詞の内容でセットリストのストーリーを考えますね。

――それはアルバムにおいても?

 そうですね。やっぱりアルバムのタイトルを考える時とかも、歌詞をテーマに考えますね。

歌詞と音の融合

小高芳太朗

小高芳太朗

――その中で各パートは主張をしながらも寄り添っていく、合致点を見つけていくというお話でしたが、各楽器はどのように寄り添っていくのでしょうか?

 歌詞が書けたらメンバーに見せますね。メンバーも歌詞の内容でアレンジを変えたりするし。

――歌詞においてはみんな同じように認識して音を当てはめていくという感じなのですね。

 そうですね。基本的にはそうなんですけど、そうしない時もあります。あえて、歌詞を見せなかったり。

――長年ついているファンの方々はそのあたりを理解しているかと思いますが、新たにLUNKHEADの楽曲を聴く方々については、そういうところも楽しんで聴いて欲しい、というところもあるのでしょうか。

 「歌詞と音の融合」といったところですかね。「決戦前夜」は特にそれが強いと思いますね。『うしおととら』は「白面の者」というのが最後の敵なんですけど、ギターソロとかをレコーディングしている時、「すげえ、これ完全に『白面の者』と戦ってるよ…! メチャメチャ戦ってる画が浮かぶわ!」とかみんなでワイワイしながら録ってましたね。アニメだと90秒サイズなんですけど、LUNKHEADファンにも『うしおととら』ファンにも、是非フルバージョンを聴いて欲しいですね。ギターソロはもう完全に「白面の者」と戦ってるシーンが浮かぶと思うんですよね。

――これまでも「歌詞と音の融合」はスムーズにおこなえてきましたか。

 実は『メメントモリ』というアルバムで「はるなつあきふゆはる」という曲があって、跳ねたリズムに初めて挑戦したんですよ。曲調もすごく明るくて。でも歌詞の内容は。身近な人を亡くした友人の心境についてなんです。その友人が、時間が経つにつれて日常の中でその事を忘れる時があって、「自分はなんて薄情なんだ」と吐露するんですけど、「それは普通なんじゃないかな。薄情って事はないよ」という事で、その友人の為に歌詞を書いたんです。

 だから歌詞はすごく重いんですよ。でも曲調は明るいんです。スタジオでみんなでアレンジしてて、「ギターが何か違う、何かおどけた感じだしこれじゃダメだ」となったんです。リズムは跳ねているままの感じ、そのままで行って欲しかったんですけど、ギターには“憂い”が欲しかったんです。だからギターにだけ歌詞を見せたんです。

――歌詞を見せずにアレンジをされたけど、ギターサウンドだけ変えたかったので、山下さんに歌詞を見せられた?

 リズム隊の2人にも歌詞を見せちゃうと、皆で暗くなっちゃうから。そうなると曲のコンセプトから逸れちゃうので。「そのギターじゃないんだよ、ちょっと歌詞を参考にしてみて」と言ったんです。その後、(山下が)ドーンと落ち込んで、「オレ、何てバカみたいなギターを弾いていたんだろう…」と言って…。「散歩に行って公園のベンチでしばらくボーっとした」と言ってましたね。そうしたら、“憂い”のあるギターを弾いてくれて。そういうやり方もあります。

 新体制になって最初に作ったアルバムが『[vivo]』(2011年2月9日)なんですけど、当時は虐待とかネグレクトのニュースがすごく多くて、世の中に訴えたい事がたくさんあって、メチャクチャ歌詞を書いていたんですよ。でも、バンドは新体制で、とにかく勢いのあるアルバムを作りたかったんです。歌詞の暗さに引っ張られて欲しくなかったから、『[vivo]』というアルバム作っている時は一切、歌詞を見せなかったですね。だから、いろんなやり方があります。

ツアーは各公演でセットリストを用意

小高芳太朗

小高芳太朗

――ところでライブでは歌っていない曲などもなかにはあるのでしょうか?

 ありますよ。160曲もあれば…。それでもウチは相当やっている方だと思いますよ。アルバムのリリースツアーだと、アルバムの曲はだいたいやるじゃないですか。でも、アルバムの曲以外はライブ毎にすごく変えますからね。1ツアーで全部同じセットリストというバンドもけっこういますけど、ウチはメチャメチャ変えるんで、ネタバレし放題。だから自分からセットリスト乗せちゃいます。どうせ変わるから。

――それはファンにとってもいいですね。

 何回も何カ所も来てくれる方々もいるじゃないですか? そういう方々が毎回新鮮に楽しめるようにという気持ちもあるし、同じセットリストだと自分達が飽きちゃうというのもありますし。あと、どんなセットリストでも、どんな曲をやっても、「全部いい曲だから大丈夫」という自信もあるんですよ。絶対満足してもらえるという。ツアーを全部同じセットリストでやったら20曲くらいしかできないじゃないですか。160曲くらいあるのに!だったらできるだけやりたいですし。だから1ツアーで50曲くらいはやりますね。

――じゃあリハとかも大変ですね。

 大変です(笑)こないだは「被り曲なしにしよう」と言って昼夜で32曲、しかも「何年やってないんだろう?」みたいな曲ばっかりやった事もあったり。自分達でも忘れているような曲ばっかりで。だからワンマンというより、LUNKHEADのコピーバンドやっている気持ちになりました(笑)。

小高芳太朗

小高芳太朗

――それはそれで新鮮ですね。

 そうですね(笑)

(取材・木村陽仁)

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