岡村靖幸、斉藤和義によるユニット・岡村和義が出演する『tiny desk concerts JAPAN 岡村和義』がNHK総合で12月30日(午前2時31分〜)に放送される。アメリカ発、世界的な音楽ブームを巻き起こした「tiny desk concerts」の日本版『tiny desk concerts JAPAN』。普段は大規模な会場を熱狂させる二人の巨匠が、NHKのオフィスの一角という極めて異質な、親密な空間で繰り広げたライブパフォーマンスは、音楽が持つ「プリミティブな力」を改めて世界に問いかける。

 【写真】『tiny desk concerts JAPAN 岡村和義』パフォーマンスの模様

世界が熱狂する「生音」パフォーマンスに岡村和義が挑む

『tiny desk concerts JAPAN 岡村和義』ライブの模様

 「tiny desk concerts」は、米公共放送NPRが2008年にインターネットで開始して以来、瞬く間にブームとなり、テイラー・スウィフトやBTSといった世界のビッグネームも参加してきた音楽プラットフォームだ。NHKが本家NPRよりライセンス供与を受け制作する日本版では、オフィスという日常空間で、アーティストの「生声」と楽器の「生音」のみが響き渡る。Season1では藤井風や稲葉浩志(B’z)、Season2ではASKA、石川さゆりといった豪華な顔ぶれが、この特殊なフォーマットだからこそ実現できる、新たな息吹を吹き込まれたライブを披露してきた。

 そして今回、岡村靖幸と斉藤和義という二大個性が出会ったユニット、岡村和義がこの舞台に立つ。彼らがこの空間で表現しようとしたのは、まさにその「生」の音楽の真髄だった。

 今回の編成は、崩場将夫(Key)、田口慎二(Gt)、佐藤大輔(Dr)、小川悠斗(Ba)といった精鋭バンドに加え、銘苅麻野を擁するストリングスカルテットを加えた。特に弦楽四重奏の導入に岡村は「とても新鮮で楽しかった。感慨深い」とコメント。今回の見どころの一つとなっている。

 岡村靖幸、斉藤和義2人の根幹にあるものは、ビートルズだ。ドキュメンタリー映画『ゲット・バック』を観て感じた、セッションなど生演奏の楽しさが岡村和義というユニットの根底にあるという。岡村は「ビートルズっぽいアレンジや、生演奏はどこか頭にある」とユニットのルーツを説明し、斉藤は「元々1人でやっていたもの同士が、2人でここまでできたけど、次なんかない?」と展開を作っていくところが、この2人でやっている意味があると話す。また年齢を重ねて遊び的な要素も出てきたことに喜びを感じていると語った。

ギターソロを堪能してほしい

 このアコースティックな環境で最大の挑戦となったのが、音のバランスだ。PA※がないためバランスはミュージシャンそれぞれに委ねられるこの企画。2人は歌をきちんと聞かせるために、あえて多くの楽器の音を抑える特別なアレンジを施した。斉藤のギターは、歪み(ひずみ)具合や音量が抑え気味に設定され、エレキで演奏する曲もアコースティックギターに変更するなど、歌を響かせる『tiny desk concerts』用の工夫が随所に凝らされた。その結果、客席(観客の多くはNHKのスタッフ)との近距離感も相まって、「それぞれの音がはっきり聞こえる」贅沢な音楽空間が生まれた。(※音響システムや、その機器、または音響エンジニアを指す)

 「愛スティル」、「春、白濁」など全5曲を披露した岡村和義。ライブ後、斉藤は「楽しかったですよ。自分たちの声があまり聞こえない(モニタリングができない)という環境はなかなかないこと」と、特殊な環境下でのパフォーマンスを振り返りつつも、「歌に集中できた」と充実感を滲ませた。

 そして、岡村和義が世界に届けたいと願うのは、彼らが追求する「プリミティブなロックやポップス」だ。特に斉藤が「サメと人魚」で披露したロングギターソロは注目ポイントの一つで、岡村は「最前列の人がギターソロで踊っていたのが印象的だった」と話す。そして、「今、若い子たちが曲にギターソロを入れないとか結構ニュースになったりします」と現状に触れつつ、「ギターソロを堪能してほしいな」と力を込めた。そのギターソロは日によってフレーズが変わるインプロビゼーション(即興)であり、このステージでしか聴けない一期一会を体現している。

『tiny desk concerts JAPAN 岡村和義』ライブの模様

 ちなみに今回登場する斉藤のテレキャスターはこの番組で初公開。自身で色を塗り、パーツを買って組み立てたという。斉藤は、「ギターは変更しなくても良かったんですけど、自慢したくて(笑)」とギターキッズのような笑みを浮かべていた。

ミュージシャンとしての思考

岡村和義

 彼らが「tiny desk concerts JAPAN」の舞台で追求した「プリミティブなロックやポップス」の裏側には、現代の音楽家が直面する課題と、それに対する彼らの明確な哲学があった。ライブ後の質疑応答で、歌唱力や演奏力など実力が問われるこの現場で、今後アーティストやミュージシャンが未来に問われるものについて尋ねられた際、二人はそれぞれの視点から核心を語った。

 斉藤は、「デスクトップだけでもできちゃうし、楽器がなくても作曲ができる」そんな時代であると現状を認識しつつ、音楽の本質的な「再現性」に言及した。彼は、ギターやピアノなど楽器を使って、打ち込みやコンピューターの助けなしに、「生で同じように再現できるべき」と語る。そして、デジタルでの制作スキルと、アナログなライブでの再現力を「両方できる人がやっぱり強い」と結論づけた。今回の「tiny desk」における、あえて音量や歪み具合を抑えるなど、「tiny desk concerts用の工夫」は、まさにこのアナログな力を試す場でもあったと言える。

 一方、岡村は、この10年から15年でボカロ(Vocaloid)を主体としたアーティストたちが台頭している現状に注目。ボカロが生まれてすでに15〜20年近く経ち、今の若い世代にとっては「子供の時からあるもの」となっている。岡村は、そうしたジェネレーションに対して音楽を届ける際、「ボカロというものをどのぐらい意識してやるべきなのか」、そして「どうやったら説得力持たせられるか」という点を常に考えていると明かした。幅広い世代に届けるためのアイデアが重要だと筆者は感じた。

 今回のセッションを通じて、技術の進化があってもなお、生演奏や生音の持つ説得力や熱量が、時代を超えてミュージシャンに求められる本質であると示唆している。「tiny desk」という、テクノロジーに頼らず「生音」に回帰するフォーマットは、まさに彼ら二人が提唱するデジタルもアナログもうまく取り入れながら表現する、未来の音楽家の姿を具現化した場であったと言える。

 岡村和義が、制限された環境を逆手にとって見出した「遊び心」と「化学反応」。彼らの音楽の深さと本質が、NHKのオフィスから世界に向けて発信される。『tiny desk concerts JAPAN 岡村和義』は、12月30日(火)午前2時31分からNHK総合テレビで放送予定。NHK ONE(同時・1週間の見逃し配信)および国際放送NHK WORLD JAPANでも視聴可能となっている。(取材=村上順一)

岡村和義(左から岡村靖幸、斉藤和義)

セットリスト

M-1 I miss your fire
M-2 愛スティル
M-3 サメと人魚
M-4 春、白濁
M-5 少年ジャンボリー

出演者

岡村和義 

Vo.岡村靖幸 
Vo/Gt.斉藤和義 
Key/Cho.崩場将夫 
Gt/Cho.田口慎二 
Dr /Cho.佐藤大輔 
Ba/Cho.小川悠斗 
Vl.銘苅麻野 
Vl.梶谷裕子 
Vla.大嶋世菜 
Vc.結城貴弘

放送予定

【国際放送】NHKワールドJAPAN
12月28日(日)11時10分-11時39分、19時10分-19時39分
12月29日(月)0時10分-0時39分、6時10分-6時39分
番組HP https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/shows/tinydeskconcerts/

【国内放送】総合テレビ
12月30日(火)2時31分〜3時00分 ※12月29日(月)深夜
※通常の放送曜日・放送時間と異なりますのでご注意ください
番組HP https://www.web.nhk/tv/pl/series-tep-KXVP6WG6VM

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