堂珍嘉邦(CHEMISTRY)と柴田敏孝(Acoustic Piano, Key, Backing Vocal)によるアコースティック編成ライブ『堂珍嘉邦×柴田敏孝 DUO in OSAKA』が、11月8日大阪心斎橋のMusic club JANUSで開催された。本公演は、春にファンクラブ限定で開催された公演の地方版で、今回はファンクラブ限定ではないものの、前売りで早々にソールドアウトしたレア公演だ。アコースティック編成ならではの、極上の歌と演奏を堪能できるのはもちろんのこと、初披露となるカバー曲や、アンコールでは、盟友の光永泰一朗が1曲飛び込み参加するなど、内容もかなりプレミアであった。

 【写真】『堂珍嘉邦×柴田敏孝 DUO in OSAKA』の模様

 開演を数分過ぎたころ、仲良く肩を組んでステージに登場し、満員の会場から大きな拍手で迎えられた二人。1曲目は、Sing Like Talkingの楽曲「Flame」をカバー。堂珍がその甘い歌声を響かせ、柴田がテンションコードの複雑な響きで彩りを添える。続けて2曲目もカバー曲で、久保田利伸の代表曲「Missing」。柴田がイントロのフレーズを紡ぐだけで、思わず会場中が息を呑む。

 最初のMCコーナーでは、現在、大黒摩季の全国ツアーにてバンドマスターを務める柴田が、最近の自身のスケジュールが堂珍嘉邦と大黒摩季で交互に埋め尽くされており、まるでオセロのようだと笑いを誘った。そして、その大黒摩季ツアーにコーラスで共に参加している光永泰一朗が、今日は観客として来ていると、堂珍が後方の席を指差し紹介。光永といえば、ミュージカル『RENT』で共演以降、堂珍の公演に頻繁に足を運び、ファンにも親しみを持たれているシンガーである。そんな盟友光永の来場を知った会場からは、温かい拍手が起こった。

 それから話題は、お互いの誕生日が11月で近いことから年齢の話へ移り、堂珍が胸の内をこう切り出した。「この年齢になって、言葉の重みというのをヒシヒシ感じる。しょうもないことを歌にできないっていう思いが強くなってきた。実は、ずっとやってみたかった曲があるんだ。それをちょっとやってみようかな」と。その心意気を受け、「見たことない堂珍さんを引き出すのが僕の役目ですから!」と胸を叩く柴田。そして、少しの緊張感をもって披露された曲は、Spinna B-ill & the cavemansの「one & only」。レゲエ、ソウル、ファンク、ヒップホップ、更には、どことなく日本土着の民謡の風味も感じさせるかなり雑食な楽曲だ。上着を脱ぎ、<伝える>ではなく<訴える>にヴォーカルスタイルをギアチェンジした堂珍。その意気込みを察知したオーディエンスは、ハンドクラップで応える。次に、CHEMISTRYのナンバー「Why」を丹念に歌い上げ、七尾旅人の「サーカスナイト」をプレイ。浮遊感ある音色のキーボードと、堂珍の柔らかい声が心地よく、客席も自然と身体が揺れる。


堂珍嘉邦と柴田敏孝【撮影=逢坂憲吾(luceat /
逢坂憲吾写真事務所)】

 そして再び、和気あいあいとしたMCタイムを挟み、ライブは後半へ。キング・オブ・Jソウル久保田利伸の「君に会いたい」を艶っぽく情熱的に歌い上げ、続くケイコ・リー提供の堂珍ソロの名曲「RAINBOW」では、アコースティック編成とは思えないほどの、ダイナミックで華やかな演奏と、ドラマチックな歌唱で魅了し、本編ラストの「My Angel」へ。はらりと舞う雪のように、そっとこぼす歌と、それに寄り添い優しい音色を奏でる柴田。余韻がいつまでも続くなか、二人へ惜しみない拍手が送られた。

 アンコールでは、過去に出演したミュージカル『RENT』で歌唱した劇中のソロナンバー「One Song Glory」をプレイ。ミュージカルのロックなアレンジとは違い、しっとりと、でも力強いメッセージを込めて鼓舞するように歌う堂珍。柴田も、まるで一緒に歌うかのような情感あふれる演奏で呼応する。思い出深い曲に胸打たれた様子の観客からは「ブラボー!」の声が。フレンドリーな土地柄の大阪らしい反応で心が温まる場面だった。

 これにて本日の公演は終了かと思いきや、堂珍が「たいちゃんおいでよ!」と、客席後方で観ていた光永泰一朗をステージへ招く。気さくで明るい光永の登場で、より一層会場は和やかなムードに包まれ、最後には、会場からの熱いリクエストによりトリオでのセッションが実現。曲目は井上陽水と安全地帯の「夏の終わりのハーモニー」。ステージの真ん中で光永と肩を組み、気心が知れた仲間と楽しそうに歌う堂珍。「見たことない堂珍さんを引き出すのが僕の役目」と言った柴田と、「いやそれ2年前くらいまで俺の役割だったんだから!」と食いついた光永。二人とも見事、有言実行、任務完遂である。


柴田敏孝、堂珍嘉邦、光永泰一朗【撮影=逢坂憲吾(luceat /
逢坂憲吾写真事務所)】

 今夜のセットリストを、堂珍本人は「玉手箱のよう」と形容していたが、彼のルーツと、これまでのキャリアを地図に広げたとき、R&Bやソウルだけでなく、ロック、フォーク、ギター・ポップ、レゲエにも食指が動いていることに大変驚かされる。

 もちろん、光永をはじめとする盟友や、舞台等での共演者の存在が、彼が地図を拡大する一助となったことは言うまでもない。また、この日は、9月~10月にかけてミュージカル『キルバーン』で共演した、松岡充のことをしきりに口にしていたのも印象深い。ロック畑の松岡充が、座長として見せた背中から、堂珍は受け取るものが大きかったようだ。

 MCではこんな一幕もあった。「堂珍さんって僕の演奏も本当によく聴いてますよね」と感心する柴田に、「アンテナというか、受信はできるから、このコードの和音の重ね方素敵だねとかちゃんと返すようにしてるよ。やっぱり人対人だからね」と話した堂珍。それほど深い意味はなかったのかもしれないが、「アンテナ」という単語は、本公演を象徴するワードだったように思う。

 彼は、プレイヤーや演者の真意を汲み取る力に長けているのだ。更に、刺激や影響を受けるだけでは済まさず、吸収したものを次のステージでしっかりアウトプットする。この、『表現』というものにとことん謙虚で誠実な姿勢が、堂珍嘉邦というアーティストの魅力のひとつなのだと強く感じさせられた。

 堂珍ソロとしては、12月19日(金)・20日(土)に日本橋三井ホールで『LIVE 2025 -winter-』の開催。それを終えると、2026年はいよいよCHEMISTRY25周年イヤーが控えている。歌手に俳優にと多方面に活躍の場を広げ続ける堂珍嘉邦。彼が今後、どれほど大きな地図を描いていくのかますます楽しみになる、そんな一夜だった。(文=小川あかね)

セットリスト

01.Flame
02.Missing
03.one & only
04.Why
05.サーカスナイト
06.君に会いたい
07.RAINBOW
08.My Angel

En-1.One Song Glory
En-2.夏の終わりのハーモニー(飛び入り:光永泰一朗)

公演情報

堂珍嘉邦

堂珍嘉邦 LIVE 2025 -winter-
2025年12月19日(金) OPEN 18時00分 / START 19時00分
2025年12月20日(土) OPEN 16時00分 / START 17時00分
※予定枚数終了
東京:日本橋三井ホール
https://www.mitsui-hall-conference.jp/place/nihonbashi-mitsui/
お問合わせ:DISK GARAGE
https://diskgarage.com/artist/detail/9550

堂珍嘉邦 オフィシャルサイト https://dohchin.com/
CHEMISTRY オフィシャルサイト:https://chemistry-official.net/

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