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第9回「東宝シンデレラ」オーディションで審査員特別賞を受賞した西川愛莉が、公開中の映画『君の顔では泣けない』に出演。芳根京子が演じる坂平陸の高校生時代を担当した。本作は小説家・君嶋彼方氏のデビュー作『君の顔では泣けない』を、主演に芳根京子、共演に髙橋海人を迎えて実写映画化した。本作は、高校1年生の坂平陸と水村まなみがプールに一緒に落ちたことがきっかけで心と体が入れ替わってしまい、その状態で15年も入れ替わったまま過ごすという全く新しい「入れ替わりもの」だ。芳根と髙橋が30歳となった二人を演じる中、高校生時代の陸とまなみをフレッシュな魅力で表現するのが、西川愛莉と武市尚士。今回は、入れ替わったままの陸(まなみの体)という難役に取り組んだ西川愛莉に、その撮影の裏側や芝居への思いについて話を聞いた。(取材・撮影=村上順一)
難役「陸(まなみの体)」への挑戦
――どのように役作りを進められたのでしょうか?
台本をいただいた時は、まず物語全体を楽しむ感じで読みます。2回目からは自分の役にフォーカスを当てて読んで、流れや全体像を掴むという作業をします。自分の第一印象を大事にしつつ、「今回はここのセリフのところにフォーカスして」というように読み込んでいます。私はかなり考えるタイプなので、台本を読み込むことが、撮影前の基本的な準備です。
――入れ替わった直後のシーンで、自転車に乗ってふらつく描写がありましたが、あれはどういった意図があったのでしょうか?
リハーサルや打ち合わせで監督から、入れ替わった直後なので、陸がまなみの体をうまく使いこなせないという感じを出したい、と言われていました。なのでやや大げさめに演じています。うまくこなせているまなみと、なかなかうまくこなせない陸、というコントラストを表現する意図もありました。
――共演された武市尚士さん(高校生時代のまなみを演じる)とのリハーサルで、特に工夫された点はありますか?
最初の「異邦人」(喫茶店)で会うシーンは、セリフがなくても、映画を観ている人に「ああ、2人は入れ替わっているんだ」ということが伝わるようにしたいと思い、リハーサルの時に、お互いの前に鏡を置いて練習しました。自分の顔をした人が目の前にいるという状況をイメージするためです。武市さんとは座り方など、初歩的な仕草についてお互いに情報共有をしました。座り方は最も異性の違いが出る部分かもしれないなど話していました。
「台本を持たない」流儀と大先輩からの学び
――陸を演じるにあたり、仕草の研究はされましたか?
はい。街でたくさんの人を観察しました。特に電車の中や学校などで、男の子の仕草を見て研究していました。陸は入れ替わった後、徐々に女の子の身体に慣れていく3年間の中で、きっとちょっとした部分、例えば気が抜けた時には素の自分がまだ出てしまうんだろうなと考えていたので、そのバランス感覚を意識していました。
――直接の共演シーンはないですが、芳根さんとの交流はありましたか?
芳根さんが私たちのリハーサルにいらしてくださって、私が難しいと感じていた最初の「異邦人」で会うシーンについて、様々な質問をさせていただきました。特に今回のような入れ替わりは経験できないことなので、その衝撃をどう想像すればいいのか、そして「陸の中に残っている陸」をどれくらい出していいのかといった部分について相談させていただきました。実際に、大人になったお二人のシーンを現場で見学させていただくこともあり、多くを学ばせていただきました。
――演技のアプローチについて教えてください。
これほど長く関わる現場は初めてだったのですが、この映画はとても繊細に描かれているので、何か誇張する必要はないと感じました。気持ちが沈んでいる時はマイクがあるから大きい声を出す必要もなく、自分の思うように演技ができたと思います。リハーサルを重ねたことで自信がつき、落ち着いて演技に臨めたことが収穫でした。
――撮影に入る際のルーティン、自分のルールみたいなものはありますか?
私は台本を現場に持っていかないように心がけています。私の場合、台本を持っていると直前まで読んでしまい、「ここはこうした方がいいのかな?」と考えすぎてしまうので、前日までに考えたことを現場で実践しようと決めていきます。また、現場では台本と向き合うのではなく、監督としっかり議論することを重視しています。
――いつ頃からそのスタイルに?
この作品がきっかけです。今回の現場を経て、撮影当日は台本を持たない方が自分に合っていると確信しました。
葛藤を経て見つけた人生の“かけがえのなさ”
――演じていて特に印象に残ったシーン、また大変だったシーンはありますか?
心情的な部分で最も大変だったのは、陸が入れ替わってから初めて実家に戻るシーンです。帰ったら、いつもの光景で非常に落ち着く場所なのですが、母親にやや拒絶されてしまったり、知らぬ間に弟がすごく大きくなっていたりして、自分だけが取り残されているような感覚になるシーンでした。安心感もありながら、陸の感情の起伏が非常に大きいシーンだったので、私自身も感情を込めて演じました。
――本作を通して、どのようなメッセージを受け取られましたか?
「自分とはなんだろう、誰なんだろう」という問いかけはもちろんありますが、私は「毎日普通に生活できている瞬間がとてもありがたい」というメッセージを受け取りました。二人が自分自身を失わないように、かといって相手の人生もダメにしないようにと葛藤する姿を見て、自分の性格の嫌な部分も含めて全てが大切な自分のアイデンティティになっているということ、そして周りにいる人たちと過ごす時間も本当に大切なんだ、というのを改めて教えてもらったような気がしました。
――最後に、映画を楽しみにしている方々へメッセージをお願いします。
「入れ替わり」と聞くと一見ファンタジーな世界観のように聞こえるかもしれませんが、決してそんなことはなく、二人の気持ちに寄り添うような映画になっています。自分の日々の生活などにも改めて向き合うきっかけになるような作品になっていると思います。映画を何人かで鑑賞していただくのも、一人で観て自分と向き合う時間を作るというのも良いと思いますので、それぞれの楽しみ方で、この作品を受け止めていただけたら嬉しいです。
(おわり)
<ヘアメイク>
高村三花子
<スタイリスト>藤井エヴィ
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