INTERVIEW

多部未華子

DVテーマ作で体現 難役の裏で語った「この現場にいられる幸せ」:連続ドラマW シャドウワーク


記者:村上順一

写真:村上順一

掲載:25年11月24日

読了時間:約7分

 俳優の多部未華子が、WOWOW連続ドラマ初主演作となる『連続ドラマW シャドウワーク』(11月23日放送・配信スタート)で、壮絶なテーマに挑む。原作は江戸川乱歩賞作家・佐野広実氏の同名小説。多部は夫からのDV(ドメスティック・バイオレンス)に苦しみ、生きるために江ノ島のシェアハウスへとたどり着いた主人公・紀子(のりこ)を演じる。「人生はいつでも変えていける」という力強いメッセージを内包する本作は、絶望の淵から這い上がる女性たちの決断と成長、そしてミステリアスな展開が交錯する“究極のシスターフッド”の物語。

 多部は、口数の少ない紀子の「セリフなき演技」に挑戦し、共演の寺島しのぶ、石田ひかりら豪華俳優陣との間で深い絆を育んだという。DVという重いテーマの裏側でキャストたちが語り合った、作品への想い、撮影現場の意外な「楽しさ」、そして俳優・多部未華子の「楽しさの定義が変わった瞬間」とは?  力強いメッセージを放つ本作の魅力と、多部の新たな一面に迫った。(取材・撮影=村上順一)

女性たちの決断と成長

多部未華子

――重いテーマのドラマにご出演されますが、こうした作品に参加することで、俳優として、あるいは一人の人間として得るものや意義を感じることはありますか?

 テーマはとても重いのですが、今回は壮絶な過去を背負った女性たちがそれぞれ決断し、なぜ今そこにいるのか、そしてどういう人生を切り開いていくのかというお話なので、一人の女性としてとても共感できました。自分の決断次第で人生を変えていくというテーマもあり、DVという題材はありますが、それを抜きにしても、女性たちがそれぞれ人生を歩んでいくという力強いテーマだなと感じました。人生はいつでも変えていけるというメッセージ性のある作品で役を演じられるのはとても楽しいことでしたし、今回は私もあまり演じたことのないキャラクターでした。

――この物語のストーリーの面白さ、魅力はどういうところにあると感じましたか?

 キャラクターそれぞれの役割がすごくよくできていて、結末に向かっていく展開も素晴らしかったです。女性を救っている話でもあり、また救われているだけではなく、女性を強くさせる、その成長を描くシェアハウスの話でもあり、本当によくできたお話だなと思いました。

――DVを受けるシーンもありますが、撮影はどのような雰囲気で進められたのでしょうか?

 DVのシーンでは、より痛々しく、残酷に見えなければ、そこからの展開につながっていかない大事なシーンなので、どうしたら残酷に見えるか、「こうしたらもう少し傷が見えるんじゃないか」「こうしたらもう少し痛々しく見えるんじゃないか」とか、見え方や見せ方をみんなで話し合いながら進めていきました。

主人公・紀子の内面、セリフなき演技の挑戦

『連続ドラマW シャドウワーク』場面カット

――紀子は口数が少なかったり、DV被害によって本当の自分が見えづらくなっている部分もあるかと思います。この人物をどのように捉え、表現されましたか?

 紀子は自信をなくし、自分がどう生きていくのかということすら見失っているところから始まります。ですが、ずっと不安定なキャラクターではありませんでした。すぐに軸を失うような女性ではないと言いますか、自分がどう生きていけばいいのか、という答えをすぐに出せる女性だと捉えました。

――口数が少ないキャラクターであるゆえに、セリフ以外の「…」の部分での表現や、受けの演技は難しかったですか?

 やはり、みんなの会話から何かを接していく表情や、受けの演技は難しいです。でも紀子はすごく察するんです。台本上では「…」で表現されている部分で、彼女は多くの情報を察知し、飲み込んで理解し、次のシーンへつなげていく。そこは難しかったのですが、軸がぶれないキャラクターだったので、理解できないということはありませんでした。無言の中にもすごく心の変化があったんです。

――紀子を演じるにあたり、DVについて事前に深く調べたりはしなかったと伺いました。それはなぜですか?

 DVに関しては、自分にとってはあくまで想像でしかないですし、気軽に体験談を語っている人もいないだろうと思いました。そういう時は、あえて調べず、素直に、あとは監督や他のキャストさんとのやり取りを重視した方がいい結果につながることが多いと感じています。

和気あいあいとした現場

多部未華子

――寺島しのぶさんや石田ひかりさんをはじめ、豪華な出演者が集結されています。先輩方とのお芝居を通して刺激を受けた部分や、撮影中のエピソードを教えてください。

 撮影中は本当に和気あいあいとしていて、重いドラマを撮っている雰囲気なんて全く感じないくらい楽しい現場でした。中でも、寺島しのぶさんと石田ひかりさんが来られると盛り上がりますし、待ち時間も作品のことをよく話す時間になっていました。会話の中で自然とみんなで(役の気持ちなどを)確認し合える、とても良い現場でした。

――寺島さんや石田さん方との話し合いの中で、演技に落とし込んだ部分はありましたか?

 会話の中で、しのぶさんから「じゃあ紀子ってこういう気持ちってことだよね」と質問していただいて、「いえ、紀子はこのシーンはこうだったと思います」と私の思いを伝えて、そこからヒントをもらったり、みんなで答え合わせをしたりしました。それぞれのキャラクターの、そのシーンにおける立ち位置みたいなものをすごく話しました。私もその会話の中で学んだり、改めて役柄を深掘りしていったりしたことはありました。

――シェアハウスの住人たちはパン屋で働いていますが、そのシーンはいかがでした?

『連続ドラマW シャドウワーク』場面カット

 パン屋はこじんまりとしていて密度が高かったので、またそこでもワイワイと会話をしていたのを覚えています。私は特にあんバターパンがお気に入りで、パンをいつも持って帰っていました(笑)。みんなと「これ美味しかったよね」「これも美味しかったよ」と話をしながら、本当に和気あいあいとした現場で、遊びに来ているのかなと思ってしまうこともありました。

――多部さんはそのシーンでパンを作ったりもされました?

 ほとんどしてないです。もう出来上がったものがあって、生地をこねて丸めたぐらい。それも意外と難しかったので、教えていただきながら作業しました。

――監督の演出や現場でのやり取りで印象的だったことはありますか?

 監督はキャストやスタッフさんの意見をよく聞いてくださる方でした。スタッフの「自分はこういうカットもあった方がいいかなと思って」といった意見に対して、監督も「じゃあそこも撮ってみよう」といったやり取りが新鮮でした。私も「ここってこれぐらいの方がいいんですかね?」とフランクに聞けるような監督で、すごく好きでした。

俳優・多部未華子の「仕事への向き合い方」が変わった瞬間

多部未華子

――過去のインタビューで多部さんが「お芝居は楽しいとはシンプルには思えない」とお話しになっていたのですが、それは、役を深める上での正直な葛藤だったのでしょうか?

 たとえば今回の作品で言うと、DVを受けた人の本当の気持ちを、当事者ではない私が完璧に理解することは難しいと思います。ただ、役を通してその立場を深く理解しようと誠実に努力しますし、それを表現したいと思っています。きっとこうだろうと想像して演じていますが、どれだけ想像しても当事者の方の心の全てを知ることはできないですし、自分自身の人生経験だけでは到底追いつかない領域を体現しようとするとき、役の重圧を感じたり、苦しさを伴うこともあります。そういった意味で、単純に「楽しい」という感情だけでは語れない、というお話をしたことが過去にありました。

――その、役の深さに真摯に向き合っていた時期から、心境に変化はありましたか?

 27歳頃に、役への真摯さゆえに難しさを感じていたのですが、その頃から、初めてお会いする方々だけでなく、久しぶりの監督やプロデューサーさんと再会したり、また全然違う役で同じ役者さんとご一緒したりという機会が増えました。キャリアを積み重ねた年月だからこそ得られる、人との繋がりや、現場を共にする楽しさや喜びがあることに気づきました。

――それが、いまのやりがいにつながっているのですね。

 20代後半で、お仕事の現場全体、作品づくりに関わること自体が楽しくてしょうがなくなりました。それがまた「お芝居の芝居の部分だけが純粋に楽しいか」と言われると、またちょっと違うのですが、「この現場にいられる幸せ」みたいなものが、積み重ねてきた上での経験の喜びとしてあります。もっと頑張ろうと思えるし、人との出会いや深いつながりといった、貴重な経験ができる仕事だなと思っています。

――最後に、放送を楽しみにしている視聴者へメッセージをお願いします。

 テーマは自分がどう生きていくかを見失わずに、諦めずに、強く生きていくという成長物語でもあります。彼女たちの決断や思いをドラマを通して見守ってもらえたら嬉しいです。

(おわり)

ヘアメイク/中西樹里
スタイリスト/岡村春輝(FJYM inc.)

「連続ドラマW シャドウワーク」メインビジュアル©佐野広実/講談社

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村上順一

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