INTERVIEW

榊原郁恵

舞台「ハリポタ」の魅力を語る「舞台裏の緻密な連携」と「家族への想い」


記者:村上順一

写真:村上順一

掲載:25年06月05日

読了時間:約9分

 女優・タレントの榊原郁恵が、今なお新たな挑戦を続けている。現在、東京・TBS赤坂ACTシアターで公演中の舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』(以下、呪いの子)にミネルバ・マクゴナガル校長として出演中。本作は、小説『ハリー・ポッター』シリーズの作者であるJ.K.ローリング氏が、ジョン・ティファニー氏、ジャック・ソーン氏と共に舞台のために書き下ろした『ハリー・ポッター』シリーズ8作目の物語。舞台化の話を断り続けてきたJ.K.ローリング氏だが、「家族、愛、喪失をテーマに、ハリー・ポッターの19年後の新たなストーリーを舞台化する」というプロデューサーの提案に初めて共感し、プロジェクトがスタート。現在も多くの人が劇場に訪れる人気作となっている。インタビューでは、この愛されるキャラクター、マクゴナガル校長に新たな視点をもたらした経緯、劇中で重要なテーマとなる家族、愛について、さまざまなことが起きているという舞台裏の秘密に迫った。(※榊原郁恵の「榊」は、正しくは”木へんに神”)

緻密な舞台裏

榊原郁恵

――榊原さんは『呪いの子』初演となる2022年に出演、インターバルを経て、2024年から再び出演し現在に至るわけですが、この1年間でどのような変化がありましたか。

 2022年は『呪いの子』が、アジア初公演ということで、どんな舞台になるのか、どういう形になるのか分からなかったので、正直戸惑いもありました。ただ、皆さんオーディションで受かった人たちの集まりということで、とても活気がありました。ファンの皆さんのイメージを損なうようなことはできませんし、私の中でも映画シリーズの“マクゴナガル先生”のイメージが大きすぎて、最初は自分が思う校長のイメージにたどり着けなかったのですが、1回インターバルを設けたことによって、落ち着いてマクゴナガル校長としてステージに立てるようになりました。

――舞台を先日拝見させていただいて、すごい存在感、威厳を感じました。

 嬉しいです。公演スタート時は、「姿勢がいいですね」といった感想が多かったんです。私は背も小さいし、周りは大きい方が多い。私は子どもたちと同じくらいの背の高さで、自分の中で「なんか違うな」と思うところがあり、かなり力が入っていたのを覚えています。サイズ感は変えられないけれど、演じていくうちにマクゴナガル校長が抱えているバックグラウンドが、私の心の中に深く入り込み、自分の中にも変化がありました。もしかしたらその雰囲気を感じてもらえたのかなと思うと、とても嬉しいです。

――榊原さんの舞台といえば、『ピーター・パン』ですが、その経験は今どのように活きていますか。

 作品、メンバーによって空気感は違います。ただ、全てに言えるのはみんな同じで、 一つのカンパニーとして、一つの作品を盛り上げるために誰一人として気を抜かないというのはどの舞台にも通ずることです。『ピーター・パン』でそれに気づき、それは今も活きています。

――とても大掛かりな舞台ですが、舞台裏はどんな感じなんですか?

 総勢130人ほどいます。みんなが自分の役割もたくさんあるので、舞台裏では色々なことが起きています。私もマクゴナガル校長以外の役もやったり、アンサンブルの方々も何役もやっていらっしゃいます。舞台の上手、下手に着替え場があって、皆各々で着替えて出ていきます。普通はセットの移動や道具の移動は舞台関係者の方々が担当することが多いのですが、この『呪いの子』はキャスト陣がやることも多いんです。

――そうなんですね。

 もちろんスタッフもいろんな役割があって各自動いていますが、周りをしっかり見ていないと連携が取れず大変なことになってしまうので、みんな細かく神経を研ぎ澄ませながら舞台を作り上げています。誰がどこにいるかは、長くやっていると把握できるようになります。予定外のことをすると事故につながったりもするので、ルーティーンはなるべく崩さないようにしています。自分の居場所を作って、この時間は誰がどこにいるかを、みんなが把握しています。私は自分が出番じゃない時は、舞台の流れを感じておきたいので、基本ステージの袖にいます。

――自分たちでセットをセッティングされたり、すごいなと思いながら観ていました。

 ダブルキャストやトリプルキャストが多く、それぞれ個々のやり方があったりもするのですが、そうするとスタッフさんが把握しきれないところも出てきます。この舞台で初めて経験したのですが、自分たちが公演中にどこで何をするかというのを記したノートがあって、それを次のキャストさんに引き継いでいきます。このタイミングで何を着て、どこにスタンバイするのかなど書かれているのですが、そういったものは私は初めてで新鮮でした。

この舞台も負けてない

榊原郁恵

――先日、ロンドンに行かれたとお聞きしたのですが、本場の『ハリー・ポッター』の舞台をご覧になりましたか。

 観てきました。日本の劇場のメンテナンスが2週間ほどあり、お休みがあったのでお願いをしてロンドンに行きました。私たちが今やっているのはニューヨーク・バージョンなんです。ロンドンの舞台は少し長くて、1部2部と分かれているので、登場人物もさらに多く、どんな風になっているのか、とても気になっていました。

――実際に観劇されていかがでした?

 日本ではどうしても省かなければいけない部分があるので、そこの部分は初めて観たのですが、「あ、こういう風なことがあったから、今のここにつながるのか」という発見がありました。日本公演はロンドン公演と比べると展開が早いので、戸惑ってしまう部分もあると思います。ただ、スピーディーに広げていくことによって、観終わった後に「あっ、こういうことだったのか」と皆さんに納得していただけるような作品に仕上がっていると思います。

――それぞれ、良さがありますよね。

 そうです。ロンドンは歴史ある建物が劇場になっているので重厚感があって、全てがハリー・ポッターの世界で、公演を観て素晴らしいと思いましたが、改めて、いま赤坂ACTシアターで上演しているこの舞台も負けてないなと思いました。

――作品のストーリーは家族や人の絆が重要なテーマになっていると感じました。ちょうど息子さんの裕太さんの年齢と今回のハリーの年齢も同じくらいですが、ご自身の家族と重ねてしまう部分はありましたか。

 ダンブルドア先生の教え、ドラコがハリーに向けて放つ言葉は、「そうなんだよ」って毎回思います。ハリーは親を早くに亡くしているので、「親」というものがどういうものか分からず、息子のアルバスに対してすごく戸惑っています。みんなからしたらハリーは世界を救ったヒーローなのに、子どもの前ではどうしたらいいか分からず、不安だらけの姿を赤裸々に見せます。その時のダンブルドア先生のアドバイスやドラコのセリフを聞くと、「ああ、息子が小さい時にこの言葉を聞いていたら、もう少し上手に向き合えたのかな?」なんて思ったり。いま反省しても仕方ないんですけどね(笑)。

――ハリーがアルバスに向けて言うセリフも印象的で、本心では思ってもいないことも、感情的になり勢いで出てしまう怖さがありました。

 リアルでもそういうことはありますよね。親は自分が正しいと思っていて、上から目線で子どもにいろいろ言っていますし、子どもは子どもでそれに立ち向かっていく。ハリーとアルバスのケンカをするシーンはとてもリアルです。地球上の皆さんが直面するであろう親子間の問題は、国が違っていても共通しているところが多く、そこがしっかり描かれているところが『呪いの子』の魅力だと感じています。舞台を観てくださった皆さんも、きっと何か感じてもらえると思います。

もっと手をつないで一緒に笑ったりしたかった

榊原郁恵

――今回、タイムターナー(※魔法使いが一時的に過去に戻ることができる、砂時計のようなペンダント)が登場し、アルバスたちが過去へ行くシーンがありますが、榊原さんがもし時間を戻れるとしたら、どの時代に戻りたいですか。

 これ、いっぱいあるのですが、いま親子の話をしていたのもあり、浮かんだのは次男がまだ小さかった頃に戻りたいです。

――それはなぜですか。

 2人目の子どもということで、自分の中でどういうスイッチが入ったのか、仕事も少しやりたいと思っていた時期でした。次男と手をつないで、ゆっくり同じ歩幅で同じ空気感で時を過ごすことができなかったと思っていて...。2番目ってかわいそうですね。考えてみたら自分も 2 番目なので、「あなたはいい子だから、もう一人でお留守番もできる」と、私は母によく言われていたのですが、自分では「そんなんじゃないんだけどな」って。

 私はただ何も言わなかっただけだったんですが、次男も同じような感じで、文句も言わず、泣くこともあまりなくて。小さい頃にスキー学校に行ってきてと言ったら一人できちんと行けて、しっかりしている子だなと思いました。でももしかしたら、もっと手をつないで一緒に笑ったり、お散歩をしたりしたかったのかなと、ふと思いました。

――もしかしたらアルバスみたいになっていたかもしれない。

 そうですね。仕事をバリバリしたいという思いが強かったので、次男とその頃の思い出が少なくて。一瞬でもいいので あの頃に戻って触れ合いたいですね。

――いま、榊原さんは仕事について、どう捉えていらっしゃるんですか?

 なくてはならないものです。小さい頃からこの世界に憧れていたわけではなく、幸運にも『ホリプロタレントスカウトキャラバン』のオーディションを目にして受けたのがきっかけでこの世界に入ったのですが、ありがたいことにどんどんいい方向へ行って、今に至ります。仕事は自分を向上させてくれるものであり、自分を作り上げていく唯一の場でした。

――アイデンティティになっているんですね。

 そうですね。これがなかったら、私はいろいろな世界を知らなかったでしょうし、これほど人間関係も広くなかったと思います。

――ところで、榊原さんといえば「夏のお嬢さん」や「しあわせのうた」など素晴らしい曲がありますが、いま音楽活動は考えたりしますか。

 いま音楽活動のことはあまり考えていません。私はあと2年ほどしたら芸能生活50周年を迎えますが、実は歌手活動は芸能活動全体の5分の1だけ、およそ10年間ほどしかしていないんです。私が歌っていた時代は新人にもチャンスがたくさんありましたし、歌番組もたくさんありました。あの頃に比べると今は歌手の敷居が少し高いなと感じています。私の今があるのは、歌手としてデビューさせてもらって、「夏のお嬢さん」があったからなのは間違いありません。

――最近、音楽は聴かれますか。

 歌番組が少なくなったのも大きいのですが、あまり聴いていないです。ただ、SUPER EIGHTさんが出演されている『EIGHT-JAM』(テレビ朝日)を観て、今も良い曲がたくさんあるのだと気づかせてもらっています。

(おわり)

榊原郁恵

・ジャケット
・スカート
ベルマリエ玉川店
TEL 03-3707-4855

•珊瑚イヤリング      
アジュテ ア ケイ
TEL 088-831-0005
www.kyoya-coral.com

•リング        
NINA RICCI/エスジェイ ジュエリー
TEL 03-3847-9903

この記事の写真
村上順一

記事タグ 

コメントを書く(ユーザー登録不要)

関連する記事