INTERVIEW

小林千晃×アイナ・ジ・エンド

旅を続ける勇気と立ち止まって考える力「ムーンライズ」が教えてくれたこと


記者:村上順一

写真:村上順一

掲載:25年04月09日

読了時間:約8分

 声優の小林千晃とアーティストのアイナ・ジ・エンド(以下、アイナ)が、Netflixシリーズ『ムーンライズ』(4月10日より世界独占配信)に出演。小林は月開拓事業を担う大企業シャドウ・コーポレーション社長夫妻の養子であり、本作の主人公ジェイコブ・シャドウ(ジャック)を、アイナは朗らかな性格の月の民マリーを演じる。『ムーンライズ』は、WIT STUDIOが贈る、日本発のスペクタクルSFアニメシリーズ。『マルドゥック・スクランブル』などを手がけた小説家・冲方丁によるストーリー原案、『鋼の錬金術師』などの人気作を手がけた荒川弘がキャラクターデザイン原案を担当。宇宙という大きなスケールの世界の中で、様々な困難に立ち向かうジャックとフィルという二人の男を通して、現代に生きる私たちの支えになるような物語。インタビューでは、お互いの印象やアフレコでこだわっていたこと、主題歌「大丈夫」の制作背景について話を聞いた。

こだわった息芝居

小林千晃×アイナ・ジ・エンド

――お互いの印象は?

小林千晃 アイナさんとは今日お会いして同い年だということも分かり、とても喋りやすい方だと思いました。取材をしていく中で親近感が湧きました。

アイナ 小林さんは本当にいい声で、その場にいてくれるだけで癒しで、存在がマイナスイオンだなと思いました。また、小林さんはそのお声でみんなに夢を与えるような方なんだなと思いました。

小林千晃 それはアイナさんもですよ(笑)。

――さて、ジャックを演じるにあたり小林さんはどのような意識でアフレコに臨みましたか。

ジェイコブ・シャドウ

小林千晃 ジャックは飄々としているというか、自分が養子で育ての親の会社を継がないように、あえて頼りない感じに振る舞っていたり、周りに対して失望させるような行動をあえてとるような人物です。ただ、根っこの部分はすごく真面目で、優しくて、仲間思い。普段は真意を見せないために飄々としていますが、正義感が強くて熱い男というのは、特に意識しながら演じていました。

――アイナさんはどんなことを考えてマリーに挑戦しましたか。

アイナ 臨場感溢れる戦いのシーンなど難しいシーンでしたし、悲しいシーンも多い中でマリーがいるとちょっと空気が軽くなるというか、そういう存在でありたいと脚本を読んだ時に思いました。

――アフレコはいかがでしたか?

アイナ アフレコは私にとって非常に緊張することなので、不安もあったのですが、以前 『SING/シング: ネクストステージ』でお世話になった音響監督の三間雅文さんがとても心強い存在で、たくさん声をかけてくださいました。納得のいくものができるまで何度も録り直しをして、「もう1回やりたいです」と言ったら、逆に喜んでくれたので、思い切って飛び込ませていただきました。

――特にこだわったところはどこでしたか。

アイナ 息芝居というらしいのですが、声を出さずに吐息などで表現するシーンは、特に力を入れました。

小林千晃 息芝居というのはリアクションのお芝居で、振り向くとか、何かに気づくとか、三間さんはそこのリアクションにすごくこだわる音響監督です。台本には感嘆符(!)だけが記してあったりするのですが、三間さんはその対象がどこにあるのか? というのを明確にすることにとても力を入れています。たとえば近くのものを見て「あっ!」と言っているのか、もっと先にあるものを見て言っているのか、細かくディレクションしていきます。

――とても難しそうです。

アイナ 苦戦しました。それを見かねた三間さんが好きなロボットを現場に持ってきて癒しをくださったりして、アフレコ以外にメンタルのことまで考えてくださいました。

――小林さんから見たアイナさんの芝居の魅力は?

小林千晃 僕ら声優業をやっているものからすると、ある程度いろいろな現場を経験してきているからこそ、こうやったらこういう表現になりやすいといったノウハウ、テクニックみたいなものが培っていると思います。アイナさんは手探りの中でそれらを引き出すために飛び込んで演じてくださったので、我々ができないような豊かな表現がたくさん散りばめられていて、型にはまっていない素敵なお芝居だと思いました。それを僕が真似しようと思ったらあざとくなってしまうところを、自然と出せるというのはとても魅力的でした。

――アイナさんは小林さんの声を聞きながらアフレコを?

マリー

アイナ 声が入っているときもありましたし、まだ入っていないときもありました。アフレコでは、まだ絵が完成していないシーンもあって、ラフの映像を観て眉毛が下がっているか、上がっているかで感情を読んでやったシーンもあったのですが、そういうときに小林さんのお声があると、とてもイメージが膨らみやすくて、本当に助かりました。

最高傑作ができた

小林千晃×アイナ・ジ・エンド

――主題歌「大丈夫」はどのように制作されたのでしょうか。

アイナ 脚本読んだ時にとても面白くて、曲を書きたいと思ったのがきっかけでした。

――「大丈夫」は、本作の世界観にピッタリでした。

小林千晃 完成した映像を観て、アイナさんの歌声を聴いたとき、涙が出るぐらい素晴らしかったです。歌から魂を感じました。

アイナ 嬉しい!

――楽曲制作、レコーディングはいかがでした?

アイナ 地球には鳥がいるので、そのさえずりを録音し、環境音も取り入れたり、ゴゴゴゴといった宇宙をイメージした音をストリングスにエフェクトかけて入れたり、今までで一番こだわったと言っても過言ではありません。また、本作では戦うシーンも多いので<大丈夫だよ>という優しい言葉をエンディングに添えることで、この作品を観てくださる人の心が浄化されたらいいなと思いながら作詞しました。本当にいろいろなことを考えて作ったので、私の最高傑作ができたと思っています。

――どんな風に聴いてもらえたら嬉しいですか?

アイナ アニメには心が荒んでしまうようなシーンもありますし、ヒリヒリし続けてしまう場面もあると思うのですが、エンディングの「大丈夫」で皆さんが次のストーリーも観たい!と思ってもらえたら嬉しいです。

一度立ち止まって考えることの大切さ

小林千晃×アイナ・ジ・エンド

――さて、お二人はこのストーリーから学んだことだったり、発見したことはありましたか。

アイナ 旅を続けることに対してひるんではいけないなと思いました。人生は何があるかわからない、進むことがたまに怖いなと思うことがあります。それこそ家にずっといたいとか思ったりもするのですが、マリーはずっと一つの目標、夢を追い求めて旅をしていて、その中でしか味わえない出来事や出会いもあります。それを観てやっぱり旅を続けることは素晴らしいと思い、怖がらずに生きていこうと、本作を観て思いました。

――今回の声優も“旅”の一つですね。

アイナ はい。三間さんから何度も「現場に来てくれてよかった」、「今日の取材も無事に来てくれてよかった」と言ってもらいました(笑)。

小林千晃 まずはそこから褒めてくれる(笑)。家を出て仕事場に行くことは、一見当たり前のようで、決してそうではないですから。

――小林さんは本作からどのような学びや発見がありましたか。

小林千晃 この作品を通して復讐や憎しみ、それだけではない感情で考えるということが、とても大事なんだと思いました。ジャックは序盤では憎しみや復讐、そういった感情を原動力に生きていきます。でも、そういう怒りなどの負のエネルギーというのはとても強いので、逆に生きる上で大切なことだと思います。ジャックもそれがあるからこそ、いろいろなことを乗り越えて頑張っていけたんだと思います。

――確かにネガティブなことも力になります。

小林千晃 ただ、それだけでは本当の解決にはならないと思います。最終的には自分はもちろん、周りの人たちが幸せにならないと本当の平穏を掴むことはできない。それが『ムーンライズ』の醍醐味のひとつで、元々幼馴染だと思っていたフィルがどういう存在なのか、もしかしたら自分たち地球側がいけないんじゃないか、とジャックが迷いはじめ深く考えるようになります。

――僕らが生活している現代社会にも通じるところが多々ありますよね。

小林千晃 はい。たとえばSNSだったら、自分が信頼している人が発信したからといって、それを真正面から信用して、○○が悪いんだ、と決めつけてしまうこともあると思います。一度立ち止まり、考えることの大切さを改めてこの作品から学びました。

(おわり)

Netflixシリーズ『ムーンライズ』キービジュアル

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村上順一

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