tonari no Hanako、ボーカルameの素顔に迫る
INTERVIEW

tonari no Hanako

ボーカルameの素顔に迫る


記者:村上順一

撮影:

掲載:23年03月20日

読了時間:約12分

 マルチクリエイティブユニットのtonari no Hanakoが3月8日、メジャー1stデジタルEP「春めく花葬」をリリースした。tonari no Hanakoは、ボーカルのame、VJ・映像ディレクターのsobueを中心に、楽曲の世界観をより表現していくため、ビジュアルを担当とする “Hanako” を迎え入れ活動。初代Hanako役に、若手モデルのアイビー愛美を起用し、音と映像で独特な世界観を演出し注目を集めている。今回リリースされたEP「春めく花葬」には、デジタルシングル「ヘアゴムとアイライン」「傷を隠して」「ぜんぶ忘れてしまうって」の3曲に加え、マイノリティの恋愛をテーマに攻撃的に書き上げた「最終解」と、本作のリード曲「会いたいの、ごめんね」の全5曲を収録。インタビューでは、ボーカルを務めるameにインタビューを実施。tonari no Hanakoの源流にはどんなものがあるのか、ミステリアスな彼女の素顔に迫った。

王道のポップスから引き算をして作りたい

村上順一

tonari no Hanako・ame

――ジャズのライブを観て、今のスタイルが確立されたみたいですが、どんな経緯があったのでしょうか。

 知り合いから誘われて、ジャズのライブを観に行きました。そこで圧倒的な演奏を耳にして、これはすごいと思って。tonari no Hanakoはこんな音楽を作りたいというのは頭にあったんですけど、そこにジャズのエッセンス入れたら、完璧にピースがはまると思いました。

 コンセプトを考えてる期間が結構長くて、イメージしている音をどうやって作っていいのか全然わからなくて。それを実際に演奏に落としこんでくださる方を何年も探している中で、みつかったのが先述のジャズミュージシャンの方でした。あと、今アレンジを担当してくださってるTAMATE BOXさんに出会って、「こんな音楽を作りたい」というのをお話させていただいて。それで1曲やっていただけませんかと、お願いさせていただきました。

――TAMATE BOXさんはameさんの作る音楽にどんな感想を?

 最初、ポップスのセオリーとは違うし、今までやってきたものとは違うけど、 面白そうだからやってみたいと仰ってくれました。頂いたデモがドンピシャだったので、TAMATE BOXさんにお願いしたいと思いました。「parade」という曲が初めて作っていただいた曲なんですけど、そこからスタートしました。

――一般的なポップスとはちょっと違うというのは?

  私の好みで言うと、暗いコードと明るいコードが色々織り混ざって、曲の展開が激しくなるみたいな構成だと、私にはちょっとトゥーマッチなんです。良い意味で淡々とした曲の方が、自分の聴きたい音楽、性に合ってると思って。私自身が音が多いと圧倒されてしまう。隙間、休符を大事にしたいと、そういうお話はTAMATE BOXさんとしました。できるだけ王道のポップスから引き算をして作りたいというのはすごくありました。

――ループもすごい大切にされてますよね。

 ループはすごく大事にしています。自分が曲を作る時は、人間心理を考えて作るところがあって、 ループしてるフレーズがあると、その世界観、音楽に没入できると思っています。ループのフレーズで重ねるように音楽を作りたいというのも、TAMATE BOXさんに伝えてました。

――人間の心理を考えて作るとのことですが、昔から人の心理に興味があった?

 はい。小学生の頃から心理学の本読んでましたし、大学では心理学を学んでいました。逆に言うと人の心以外に興味があるものがなくて。高校生の時、消去法で進路を決めたのですが、心理学と教育学しか残らなかったんです。私は小さい頃から今に至るまで、人間の対立とか、心のぶつかりみたいなものを多く目にしてきました。そんな環境もあって、おそらく心に興味を持ったんだと思います。

 人間の対立するところを見てきたせいで、私は本音を言うのが苦手になってしまって、模範回答を答える癖がついてしまいました。そうすると、学校でも友達関係を築くことがすごく難しいんです。人との距離感がわからないというか。これ以上踏み込んだら相手が怒るかもしれない、思ったことをそのまま言ってはいけないとかすごくあって。友達はいたんですけど、本音で心から話せた子は本当に少なかったです。ですので「心とは?」というのが私の中でずっとテーマになっています。

――それが音楽にも反映されていて。

 はい。tonari no Hanakoは私が1人でゼロから立ち上げていて、まず聴いてもらって、かつ気に入ってもらうにはどうしたらいいか、みたいなところをすごく考えました。なので、人が振り向いてくれる可能性のある要素をたくさん入れて作っているつもりです。例えば、自己PRをすごいしてしまうと、 それを受ける人は受け身になるじゃないですか。心理的にあまり自己PRしない人の方が、ちょっと興味持ってもらえると言いますか。

――ミステリアスな感じで。

 そこをtonari no Hanakoはすごく計算していて、あまり主張してこないからこそ気になるというところは、最初から意識してました。私はグループの中で1人寡黙な人がいると、ちょっと気になったりするんです。喋らないのに人の気を引くってすごいなって思ってて。

――謎の存在感がある(笑)。

 そうなんです。なんか気になってしまう存在になれたらいいな、という気持ちで音楽は作ってます。

――歌詞は恋愛の要素がメインとしてありますが、これも分析された結果なんですね。

 それもあります。人の心がちょっと揺れる瞬間って恋愛が1番多いんじゃないか、というのが自分の感覚としてあります。とはいえ、今後、別の部分の切り取りで曲を書く可能性もあります。

――いまお話をしていても、物事を分析されるタイプだと思いました。全て冷静に対処していくと言いますか。

 本当におっしゃる通りで、一歩引いてしまうんです。それは悪いところでもあるんですけど、物事の表と裏を一度全部見てから判断することが多いです。

――占い師とかもできそうですよね。

 よく言われます(笑)。幼少期の頃は自分をすごく抑えてたところがあるが故に、危機察知能力が高くなってしまって。幼い頃から気を張っていたので、踏み込むのは苦手なんですけど、 何かを感じることは得意なんです。心がちょっと揺れてるな、表面では笑ってるけど本音は笑ってないな、みたいなことはわかるので、そういうのを曲に落とし込んでます。

――消去法で心理学と教育学部しか残らなかったと仰ってましたが、音楽は常に好きなものとしてあったのでは?

 私がちゃんと音楽に触れたのは大学に入ってからなんです。高校卒業の直前に、友人のバンドのライブに誘われて観に行ったのがきっかけでした。それまで音楽はそんなに興味がなかったのですが、ライブを観に行ってすごく格好良くて、楽しそうという印象を受けたので、私もやりたいと思い、大学はバンドサークルに入りました。ただ、音楽について本当に無知だったので、 メタル系のバンドサークルに入ってしまって(笑)。

――tonari no Hanakoの音楽性とは全然違いますね(笑)。

 そもそもメタルという音楽もどんなものかわからなくって、シンプルに黒い服を着た男の人が多いなと思ったんですけど(笑)。でも、サークルはすごく楽しかったんです。 音楽やってる人たちの生き生きしてる感じとか、人の良さとかそういうものに触れて、音楽の面白さを知りました。

――ameさん、メタルだとどんなバンドを聴いてました?

 ノクターナル・ライツやドラゴンフォース、ソナタ・アークティカが好きで聴いてました。チルドレン・オブ・ボドムだと、自分にはちょっと重すぎるんですよね。

あなたのために、私は曲を作ってます

「春めく花葬」ジャケ写

――tonari no Hanakoは映像、MVにも力を入れていますが、それはameさんのどんなところが反映されていますか。

 私、高校は芸術が選択科目だったんですけど、音楽ではなく美術を選択していました。私は耳よりも目から入る情報を主に分析するタイプの人間で、色の組み合わせとか、色から感じるものが好きなんです。tonari no Hanakoで映像を大事にしているのは、それが影響していると思います。

――VJのsobueさんや、ビジュアル担当としてアイビーさんのようなHanakoという存在を設けているのも、その経歴が影響していて。

 視覚から入る情報はすごく大きいと思っています。今はYouTubeなどで動画とセットで音楽を聴くことが多い時代なので、 そこは切り離せないなと思っていました。

――ご自身が考えてるものをアウトプットするのに、音楽がすごく適しているんですね。

 絵が好きなので絵を描きたいと思った時期もあれば、 お花も好きなのでお花屋さんになろうと思った時期もあるんです。色々やってみた結果、自分の中に眠ってるメッセージを100%アウトプットするのがそれらだと難しかった。どうしても抽象的なものとか、 物体を通してメッセージを伝えるとなると難しくて。音楽関連のクリエイティブが一番自分には合っていました。そして、自分の感情が内側に向いているとわかってからは、音楽制作がすごくヒーリングになっています。

――tonari no Hanakoは言葉のチョイスが面白いなと思いました。それはameさんの感覚以外ではどんなところが影響として出てると思いますか。

  私、短歌とかコピーライティングがすごく好きなんです。短い文章の中にグサッと鋭いナイフを仕込めるような文章が好きで、よく読んでいた時期はありました。 日常の中で広告コピーとかを読んだりしていると、ハッとなる言葉があって、その度に「短い文章でなぜこんなにも人の心を動かせるんだろう」と思ってました。そういう文章や言葉に憧れと尊敬があるので、私もそこに辿りつきたいなと思って歌詞を書いています。ですので、言葉選びはすごく大事にしています。

――本作に収録されている「最終解」というタイトルも印象的です。

 元々この曲で書きたかったテーマは、結論の出ない恋愛なんです。例えば、今の日本だと同性婚が認められていないので、同性同士の恋愛は、証が欲しくても法律上では夫婦と認めてもらえない。だけど、結婚している人たちと同じように、相手を好きだという気持ちは変わらない。そういう場合は、どこに落とし所を作ったらいいんだろうと深く考えていった結果、落とし所なんてつけなくても、お互い一緒に居たいという気持ちさえあれば、それでいいんじゃないか、それが全てなんじゃないか、というところに辿り着きました。最終的に出た答えというところで「最終解」という言葉がハマるなと思いました。

――歌詞に登場する<天涯比隣>という四字熟語が、tonari no Hanakoを表しているようにも思えました。所信表明と言いますか。

 本当にそうです。ずっとそばにいるよというメッセージです。それもあってこの曲をメジャー1stEPの1曲目に持ってきたのは、そういう気持ちもあります。

――メジャーというこの世界は今どう捉えてるんですか。

 今まで自分1人でやってきたので、限界をすごく感じていました。どうしても自分にはできない部分がいっぱいあるなって。作品を作ってネットに公開するとか、パッケージを作ることはやり方を調べればできます。でも、たくさんの人に聴いてもらうというところが、どうしても自分1人だと弱くて。一緒に世の中に出ていこうとしてくれる仲間が増えたのは、すごく嬉しいです。

――人という存在が大きいんですね。

 人ですね。自分1人でやっていきたいと思ってたわけではなく、 曲が好き、tonari no Hanakoアーティストが好きだと言ってくれる人たちと出会って、一緒に盛り上げてくれる人がいたらいいなとずっと思ってました。すごくいい出会いが自分はできていると思います。

――ところで、ライブはどのように捉えています?

 私はどちらかというと裏方気質で、表に出ることは正直得意じゃないんです。前に出たい、目立ちたい、スポットライト浴びたいという感覚はなくて。とはいえ、ライブでダイレクトにお客さんの反応を見たいという気持ちはあります。私自身が生の演奏を聴いて、すごいなと心踊った経験があるので、それを皆さんにも届けたくて。

――生演奏、自分の人生変わるぐらいの衝撃がありますよね。

 音を楽しむって、こういうことなんだとというのを、ジャズのライブで教えてもらいました。今回のライブのバックバンドは、そのジャズミュージシャンをお誘いしたので、その感覚をみなさんに体感してほしいです。ただ私は力が入っちゃうと思うので、いかにリラックスするかが課題です(笑)。

――EPの最後を締めくくる「会いたいの、ごめんね」は、言葉の対比が面白いですね。

 「会いたい」と「ごめん」という言葉のミスマッチ感が面白いなと思って作ったんですけど、私はこう思うことすごく多くて。例えば相手が365日24時間を仕事に費やしたいと思っているのであれば、自分の存在は邪魔になるかもしれないって。時間をもらうということは、その人から仕事の時間を奪うことにもなる、そういうことをかなり考えてしまうタイプの人間なんです。そうすると何もできなくなるんですけど(笑)。それもあってけっこう自分が出ている歌詞になってます。

――歌詞の最後で<歌にしてごめんね>とameさんらしさが出てますよね。

 これは、制作の時に最後こういう言葉もつけられますけど、どうですかと聞いたら、通っちゃったんです(笑)。

――「最終解」と「会いたいの、ごめんね」のMV見どころは?

 「会いたいの、ごめんね」はとにかくかわいくて目の保養になります。観ていてニヤニヤ、デレデレしちゃいますし、今までの作品で一番好きです(笑)。「最終解」はまだ撮ってないのですが、sobueの世界観がすごい出るんじゃないかなと思ってます。(取材時)「会いたいの、ごめんね」とは、真逆の世界観になるんじゃないかなと思います。これはこれで毒があって面白い映像になると思います。

――『春めく花葬』 というEPのタイトルはどんな想いが込められていますか

 彩りの良い色に合わせて、こういった切ない感情は燃やしてしまいましょう、という意味合いでつけました。

――幸せを追い求めていくというのも根底のテーマとしてあると感じました。ameさんが思う幸せとは?

 本音を言える人間関係がそばにあるというのが幸せだなと思います。例えば好きな人と一緒にいたとしても、本音で話し合えなければ、 フラストレーションになるし、心と心が通じ合った時が1番幸せなんじゃないかなと思うので、 ただ一緒にいる、そばにいるだけでは、ダメなんだろうなと思います。難しいんですけど。

――ameさんがリスナーの方に今一言伝えるとしたら、どんな言葉を伝えたいですか。

 うーん、難しいですけど、「きっと独りじゃない」ということですかね。私は俗に言うHSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)なんです。普通に生活している中で光が強すぎる、音が大きすぎるとか、誰が何を考えてるか、すごいわかってしまう。それで、生きづらいなと思っていると世界からはみ出たような感覚になってしまいます。もし、あなたがそういう風に思っていたら、私もそうなので大丈夫。私みたいな人間も存在するので、そんなあなたのために、私は曲を作ってますよと伝えたいです。

(おわり)

作品情報

tonari no Hanako「春めく花葬」
3月8日(水)Digital Release
https://lnk.to/buriedinflowers

【収録曲】

1. 最終解
2. ぜんぶ忘れてしまうって
3. ヘアゴムとアイライン
4. 傷を隠して
5. 会いたいの、ごめんね

ライブ情報

tonari no Hanako メジャーデビュー記念 SECRET LIVE「春めく花葬」
3月24日(金)東京・渋谷区某所(詳細はチケット購入者にのみご案内)
開場18:00 / 開演19:00(終演20:30予定)
SOLD OUT

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村上順一
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