都倉長官と乃木坂46岩本

 乃木坂46岩本蓮加が14日、文化庁・都倉俊一長官を表敬訪問した。映画『世の中にたえて桜のなかりせば』でW主演を務めた宝田明さんが生前の芸術文化活動への功績が称えられ文化庁長官感謝状を授与。その返礼に岩本が挨拶に訪れた。

 「桜の季節」と「終活」をテーマにした本作は、女子高生が老紳士と終活アドバイザーとしての活動を通して様々な境遇の“終活”を手伝うなかで人生における大切さなものに気付いていく物語。その女子高生・咲を岩本、老紳士・敬三を宝田さんが演じた。同DVDが宝田さんの月命日でもあるこの日に発売され、それを都倉長官に手渡した。

 「宝田さんは僕らの子供の頃からの大スター」と称える都倉長官。「当時の映画界は黄金時代で大スターがたくさんいた。そのなかでも『ゴジラ』とかで主役をされて、超スマートで二枚目。戦後ミュージカルの草分けでもあって、僕もミュージカルが好きで一緒に成し遂げられなかったのが残念」と故人を偲んだ。

 宝田さんは生前、岩本の印象を「度胸のある子でまっすぐ。大女優の片鱗がある」と絶賛していた。そんなエピソードに触れ都倉長官は「あの宝田さんと最後に共演した方。映画史の中で残りますよ」と期待した。

 表敬訪問を終えて取材に応じた岩本。「緊張していましたが、お優しいお方で、宝田さんとの思い出話をたくさん聞けて心が温かくなりました」と振り返った。

 その岩本は、この作品で多くの事を学んだ。宝田さんから褒められ続け、そして亡くなる4日前の舞台挨拶で「大女優の片鱗」と絶賛された。

 「そんな風に思って頂けるとは思ってもいなかったので当時はびっくりして『嬉しいな』というくらいの気持ちでした。でもいざ一人で演技するとなったら心細いと感じることがあって、悩んだ時は『宝田さんに言われたから大丈夫』と奮い立たせています」

 映画公開したその月、出演するドラマ『吉祥寺ルーザーズ』の放送が始まった。演じたのは主人公の過去を知る謎の女子高生・リコ。

 「映画とドラマでは違う部分がたくさんあって思うようにいかない時もありました。映画はじっくり撮影できますが、ドラマは(スケジュールの都合で)スパスパと進んでしまう。思うような演技ができなくてもOKがかかったらOK。行き詰ることもありましたが『でも大丈夫』と頑張っていました」

 演じる上で大切にしているのは、その役に向き合うこと。

 「自分と違う部分が見えた時に、役を理解するのは結構難しいんだと思いました。でも異なる意見や気持ちを理解するのは楽しくて。台本を読み返すこと、まっすぐに寄り添ってあげることが大事だと思います」

 それは『世の中にたえて桜のなかりせば』でも同様だった。目標にしていた咲として生きること。

 「映画を見てくれた同期のメンバーも涙が出たと言ってくれて。(梅澤)美波が『咲ちゃんとして観ていたよ』と最高の褒め言葉をくれました。それを聞いて安心しました」

 そんな思い入れのある作品。今もふとした瞬間に撮影した日々が脳裏に浮かぶことがある。

 「外でロケ撮影したとき空も夕日も綺麗でした。晴れた日の空を見ると、この澄んだ空気の感じはあの時に似ているなとか、ふと思い出します」

 女優としてのスタート地点に立った本作だが、岩本にとっては故郷のような作品だ。

 「本当にそうです。ここから始まったと言っても過言ではないです。感謝しても感謝しきれません。宝田さんや共演した方々から演技を学べましたし、人としての心みたいなことも感じました。心を動かされる映画なので綺麗な気持ちになれました」

 生前最後の舞台挨拶で宝田さんから「もう1本撮りたいね」と言われていた。それはもう叶わないが、岩本には秘める想いがある。

 「宝田さんからは映画がお好きなんだと感じていました。いつかまた映画に出られたら良いなと思います」

 大女優の片鱗。「宝田さんは孫のように優しく接してくれました」。孫の成長を楽しみにしているのはほかならぬ宝田さんだろう。

 そして、都倉長官からは今年大みそか放送予定のNHK紅白歌合戦での再会を期待された。

 「お会いしたらですか?もし乃木坂46として出場させて頂けたら…私からはお話しできないかもしれないですけど…(都倉長官を)探しちゃうかもしれないです。感謝の気持ちをお伝えしたいです」

 桜のような笑顔でそう語った。【取材・撮影=木村武雄】

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