ダミアン浜田陛下×さくら“シエル”伊舎堂、ヘヴィメタルの魅力に迫る
INTERVIEW

ダミアン浜田陛下&さくら“シエル”伊舎堂

ヘヴィメタルの魅力に迫る


記者:村上順一

撮影:

掲載:21年12月29日

読了時間:約10分

 地獄の大魔王・ダミアン浜田陛下率いるDamian Hamada’s Creaturesが去る11月10日に、大聖典『魔界美術館』をリリースした。昨年、聖飢魔IIの創始者である地獄の大魔王・ダミアン浜田陛下が、選ばれし6人の僕(しもべ)を改臟し、ヘヴィメタルバンドDamian Hamada’s Creaturesを結成。昨年2枚の聖典(アルバムのようなもの)を発表。本作『魔界美術館』はダミアン陛下がかつて作品化した楽曲の中から、改めてDamian Hamada’s Creatures作品として命を吹き込んだ。インタビューでは、ダミアン浜田陛下とボーカルを務めるさくら“シエル”伊舎堂のお二方に、本作の制作背景から、メタルの魅力、変化した意識など多岐に渡り話を聞いた。【取材=村上順一】

打ち上げた花火の色が変化するようなイメージ

Damian Hamada’s Creatures

――魔暦23年(2021年)はどんな1年でしたか。

ダミアン陛下 怒涛の1年だった。昨年は聖典を2作品、年が明けて『真・聖魔伝』という本の取材や、『魔界美術館』を作り上げていった創作の年で、今やっと実ったものを鑑賞しているところだ。楽しめた反面、体にムチを打ってやりあげた面もあるので感慨深いな。

さくら“シエル”伊舎堂(以下、シエル) 今年の1月くらいに『魔界美術館』のデモ音源を頂いて、「また歌わせてもらえる、よかった」という安心感があったんですけど、プレッシャーもありました。ずっとコロナ禍で活動があまりできていなかったので、今年に入っていっぱい歌えたし、ずっと楽しい1年でした。

――『魔界美術館』は、ダミアン陛下が過去にリリースされた楽曲のリメイクですが、どのような経緯があったのでしょうか。

ダミアン陛下 Damian Hamada’s Creaturesを結成するにあたり、去年の2月くらいに悪魔教会と私で集まった。一回のみのレコーディングのためのバンドではなく、しっかりライブ活動もできるバンドを作る、という話になった時に私のなかで「自分の昔の曲をライブで聴いてみたい」と思ったわけだ。それで、I章とII章のレコーディングと並行して今作のデモ版を作成し、去年の暮れくらいに「実はこういう構想がある」ということを、悪魔寺と悪魔教会に伝えて実現した。

――今回の楽曲はシエルさんが生まれる前の曲ですよね。陛下の過去の作品を聴いていかがですか。

シエル 私が生まれる前の曲なのですが、もともと聴いていた曲であるぶん、逆にどうしようというのがありました。ずっと聴き続けている方々が多いところに私たちのバージョンが出るとなったら、どうすればいいんだろうと。みなさんに受け入れてもらえるかなと。自分が聴いていて好きだったものをリメイクでやらせてもらうというのは自分の中でハードルが上がってるんです。本当に歌い方は凄く悩みました。プレッシャーと嬉しい感情がずっと頭の中でぐるぐるしていました。

――それを乗り越えるためにしたことは?

シエル ずっと歌詞とにらめっこして考えていました。原曲を聴いて、自分用のキーにして頂いたものを聴いて歌詞を見て「う~ん」と。

――キーが変わるとリフとの関係も変わると以前おっしゃっていました。

ダミアン浜田陛下

ダミアン陛下 ここが一番の悩みどころだった。かつて自分が作った時点で一番いいキーでリフを弾きやすくしているので、ちょっとでもキーが変わると…半音下がるレベルならまだいいが、上がるとこれがまた厄介なのだ。なので、思い切って2音半くらい下げて1オクターブ上げるとほとんどの曲は解決するのだが、「魔界美術館」ではそれをやったら凄く高くなってしまった。それで結局、オリジナルのキーよりも1音上げたものになった。

シエル キー的に声は出てもずっと続くと苦しく聴こえて、それは嫌だったので。苦しく聴こえてしまったら曲の世界観が崩れてしまう、そこは調整して頂きながらでした。

――ダミアンさんから見て、この1年のシエルさんの歌の進化はどう感じていますか。

ダミアン陛下 凄いと思う。本人も試行錯誤してここまできていると話は聞いているが、それがちゃんとレコーディングに出ている。表現力で言えば、今回、初のバラードがあったり、シャウトにしても元気のいいシャウトだけではなく、そのなかで声色を変えるというテクニックをやっていたり。本人は意識をしていなかったみたいだが、なかなか男性ボーカルでは聴けないテクニックがあった。

 「失楽園はふたたび」で、がなるようなシャウトがあるのだが、ドスの効かせ方がよりヘヴィメタルにふさわしい歌い方になっている。それもデスボイスとはまた違ったドスの効かせ方で、より巧みになって成長していると感じた。声色を変えるという点に関して、シャウトの時だけではなく、ハイトーン時も上手く変化していくのだが、それは打ち上げた花火の色が変化するようなイメージがある。

この曲はもう私の曲だ!

――シエルさんが歌唱するにあたって意識したことは?

シエル 「失楽園はふたたび」は、もともとデーモン閣下が歌われていたので、どうレコーディングしようかと考えていた時に、昔の私を少し連れ戻してこようという話になりました。I章、II章の時に、聴き取りやすい歌を練習していたので、そこにいかなる歌を足したらどうなるのかやってみようと、混ぜてやってみた結果、凄く気に入って頂いて良いものになりました。この曲は私の中の新旧がいい感じに混じり合っていて、それを褒めて頂けたので嬉しかったです。

ダミアン陛下 新旧いいところのハイブリッドだな。

シエル I章、II章の時に綺麗に歌の下地を作り直してもらえたので、そこに上乗せしてもゴチャゴチャしないし、個性や表現を乗せられるようになったので、自分のなかでも気持ちよくて。私は自分の歌を聴くのが苦手で、勉強のためにと頑張って聴くんですけど本当に嫌で...。でも、I章II章では変わっていく自分が感じられ、はじめて自分の歌を楽しく聴けました。今回の『魔界美術館』もまた違った変化を感じられ「私、成長してる?」って思ったら自分の歌を聴くのが楽しみになっていました。
これはかなり大きな変化だと思います。

――ちなみに、シエルさんから見て陛下の楽曲の魅力とは?

さくら“シエル”伊舎堂

シエル もちろん曲の世界観も好きなんですけど、陛下の歌詞がとても好きです。歌詞カードを読んでいてもひとつの小説、物語を読んでいる気持ちになれます。全て絵が浮かぶような歌詞だと歌いながら思っていて、それに曲が乗ることで映像になると言いますか。私はそれを観ながらどうやって表現しようか、どう歌おうかといつも悩んでいます。

 I章、II章は、陛下の本を読んで聴いてもらっているみたいな気持ちでいたのですが、『魔界美術館』の「嵐が丘」だけ、ちょっと違った歌い方をしています。今までは陛下の歌詞を見てそれを伝える感覚で歌っていましたが「嵐が丘」だけはどうしてもそれができなくて。歌詞の最後に<悪魔の力 手に入れた この魂さえ 奪われても 砕かれても 悔いはしない>という歌詞がそうさせたのですが。

 ずっと陛下や聖飢魔IIが好きで、こういった形でバンドで歌わせて頂くとなった時の気持ちが強くて、第三者的な目線でどうしても見られなくて。何度試しても、どうしてもその歌詞の部分になると自分が中にいるという感覚になってしまい、途中から「この曲はもう私の曲だ!」という気持ちで歌おうと思いました。そういう立ち位置で歌ったほうが伝えたいことが伝わるのかもしれないと思い、思い切ってやってみました。

――考えた結果、そこにたどり着いたのですね。

シエル それで録って聴いて頂いたら「よかった」と言って頂けたので、間違ってなかったんだなと思って。 

――陛下からアドバイスや説明はないのでしょうか。

シエル レコーディングの時に曲の内容の話は陛下としなくて、全部出来上がってこういった取材などで答え合わせをしているみたいになっています。それは「自分で試行錯誤してみなさい」ということなのかなと思って、自分で頑張ってやって出来上がって、こういう機会でお話しして「間違ってなかったんだな」って。

ダミアン陛下 シエルのことを凄く信頼している。出来上がったものに関して気になるところがあればそれは言うが、そういうのは本当に数えるくらいだな。

――ちなみに「嵐が丘」はレコーディングの段階からリード曲と決まっていたのでしょうか。「魔界美術館」がタイトル同じなので、その可能性もあったのではと思いました。

ダミアン陛下 リード曲は途中で決まった。確かに聖典のタイトル同じ「魔界美術館」がリード曲として最初に挙がっていた候補なのだが、尺が長すぎるのと、スローな三拍子で乗れないなと。まあ、そもそもこれは人を死に至らしめる曲だから、乗れなくても良いのだが。

――そのテーマは陛下が得意なところですよね(笑)。

ダミアン陛下 そのとおり。しかし、私の得意分野になるとなかなか世の中に受け入れられないところもある(笑)。

影響を受けないように心がけている

ダミアン浜田陛下

――本作で特にこだわった部分はどこでしょうか。

ダミアン陛下 例えば、クワイアが何箇所か入っているのだが、悪魔らしさ、魔界らしさをより出すためにどうしたらよいかというのを色々考えながらクワイアのメロディを練り上げた。バンドの総指揮を担当するケン“アレイスター”宮嶋(Ba&Key)とはメールや音源のやりとりを頻繁に行い細部にこだわった。アレイスターも色々アイディアを出してくるので、そこでNGを出す時もあるが、自分でも気づかなかったようなアプローチを提案をしてくることもあって、色々なアイディアの整理が大変だったというのはあるな。

 なんでもかんでも取り入れて「ゴージャスな」と言ったら聞こえはいいのだが、「それってただ繁雑なだけじゃないの?」と、聴く側に受け取られても困るわけだ。アイディアを盛り込みすぎると逆に「何が言いたいのか」「一番訴えたいメロディは一体何なのか」「ストーリーにどういう風に絡んでいくのか」というのが曖昧になる。私のなかでは、音の流れ、楽器構成もストーリーに関係していて「これは歌詞のなかのこういう気持ちをメロディで表している」というのがあるのだ。それを壊さないようにしなければいけない。

――メタルを追求してきたことで発見した新たな魅力や気づきはありましたか。

ダミアン陛下 もしかしたらそういうのはないかもしれない。なぜかと言うと、自分のなかで曲作りは聖飢魔IIの頃、さらにその前のRayというバンドで初めて自分がオリジナル曲を作りはじめたのだが、その時から曲の世界観やメタルのツボがここだ、というのが全然変わっていないのだ。では、何が変わったかというとメタルを通して発見したことではなくて、35年間務めた教員時代に吹奏楽部や合唱部など、音楽関係の部活動から得られた発見や魅力によって作曲の手法が少し変わったかもしれない。また、この35年間で楽器も色々進化して、昔は全然弾いたことがなかったシンセサイザーを少しだが弾くようになった。そして、合唱部でのピアノの伴奏を見て、自分でもシンセサイザーを使って色々と合唱曲の伴奏を作ったのだ。そういったスキルが今作でも活きている。例えば、「Tears in the Rainbow」は、Rayの時代はギターのアルペジオだったが、後にピアノの伴奏に変えた。

――違うものから得たエッセンスだと。

ダミアン陛下 そう。あと、魔暦紀元前4(1995)年以降はほとんど新しいメタルを開拓していなかったのだが、去年から取材を受けることがたくさんあり、「最近のメタルはどうですか?」という質問に対し、「私の中でのメタルは魔暦紀元前4(1995)年で止まっている」と答えていた。その頃から自分の趣味からどんどんかけ離れて行ったからな。しかし、地球デビューしたからには流石にこれではいかんと思った。なので最近はそれ以降のメタルも聴いていて、そのなかで自分の琴線に触れるのは自分と同じようなダークで仰々しい曲作りをしているバンドだった。まあ当然と言えば当然なのだが、そんな発見もある。

――そのバンドとは?

ダミアン陛下 今一番面白いと思っているのはビースト・イン・ブラックだな。ドリーム・シアターも最高だし、パワーウルフもよく聴いている。他にもラプソディー、ヘイルストーム、ザ・ダーク・エレメント、ダイナスティ、ナイトウィッシュ、キャメロットもいい。

――今後、そういうところからも何かのエッセンスを吸収したものも出てくる可能性も?

ダミアン陛下 いいや、逆に影響を受けないように心がけている。

――最後にシエルさんが思うメタルの魅力とは?

シエル やっぱりメタルは恰好いいなというのがずっとあります。例えば、自分が生まれる前の曲『魔界美術館』を歌っても全然古いと感じなくて、それがメタルの魅力の1つかなと思います。何年経っても古さを感じさせない格好よさがあるんです。私の中で一番テンションが上がるのがハードロック、ヘヴィメタルですから。一般的にメタルって怖いイメージや「うるさい音楽でしょ?」と思っている方もいるかもしれないのですが、そういう方にも、1回聴いたらメタルの魅力をわかってもらえるように歌えたらと思っています。

(おわり)

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