平間壮一が、来年2月上演のミュージカル『The View Upstairs - 君が見た、あの日-』に出演する。1973年に米ニューオリンズで実際に起きた同性愛者に対する事件の一つ“アップステアーズ・ラウンジ放火事件”を題材に、ブロードウェイの若手作家、マックス・ヴァーノンが作・作詞・作曲を手がけたミュージカル。平間は現代から1973年にタイムスリップしてしまう若きデザイナーの主人公、ウェス役を演じる。様々な作品で経験を積んだいまだからこそ向き合える作品と意気込む平間に思いを聞いた。【取材=木村武雄】
内面をどう作るか
――出演が決まった心境と役柄をどう捉えましたか。
同性愛者という役柄は『RENT』でエンジェルを演じた以来なので、その差をどう出そうかと。相当難しいだろうなというのが最初の印象でした。出演が決まったという嬉しさは一瞬で、その後には緊張と恐怖が出てきて気を引き締めなければという思いになりました。今回のキャストを見た時に、先輩方が多くて、後輩は(小関)裕太と(阪本)奨悟ぐらいなので、先輩に身を任せるというか、助けが必要だなと思っています。
――役作りの構想は?
いま想像しているものだと、ドラァグクイーンとも違うのかなって。外見だけでは同性愛者かどうか分からないので、それをどう表現しようかと。その見えない内面のところをどう作り上げていくか、そこが難しいと感じています。台本に無い部分を深めるのが大変そうだなと思います。
――物語は1973年ですが、それを現代に描く意義みたいなものは?
当時から比べたら、わりと受け入れられている時代に変わってきていると思います。たぶん、若い子たちは当時何が起きていたのかは分からないと思うんです。最近思うのは、ルールって分からないよな、ということで、時代によってものの見方が変わる。今まで悪かったとされていたこともルールが変われば良くなったり。大きな枠として冷静に物事を考えた時に人間って考え方ひとつでここまで変わるんだという事を感じるというか。だから何が大事なのかということをしっかり考えていかなければいけない、そんなことが今回の作品で伝わればいいなって思います。
みんなで作り上げたい
――善悪がその時代の価値観やルールによって変わるという話の流れ、ご自身が大事にしている核、ルールみたいなものはありますか。
自分のルールというか、こういう人になりたいと思っていることがあって。この業界は自分を持っていないとダメだと思っているんですけど、その中で他の人との違いを考えた時に、自分は一回置いて人に合わせてみる事も大事だと思っているんです。お芝居を一緒に作っている時、自分のプランがあったとしても、この人がやりたいという事をまず優先して、それでも違うと思ったら自分の意見も出しつつ、人がやりたいということに付き合ってもいいんじゃないかと。それが僕のルールかもしれないです。
――個性は大事だけど、協調性も必要だということですね。
自分自分になりがちだけど、舞台をやる上では一人一人が積み上げていかないといい舞台にならないと思っているので、すごく人のことを見るようにしています。
――その考え方になったきっかけみたいなものは?
アンサンブル(メインキャスト以外の役者やダンサー)で「いつかは役に付きたい」と思っていた時に、名前ではなく「アンサンブル!」と呼ばれてすごく傷付いた事がありました。「俺らは役付きで、お前らはアンサンブルだから」みたいなその扱い自体が良くないというか。だから自分に役が付いた時には「みんな同じ」というふうにしたいと思いました。誰一人欠けることなくやらないと舞台の意味がないと思っていて、アンサンブルで「ケガしたら変わりがいるからいいよ」っていうのも寂しくて。人をちゃんと大事にしたいなって。わりと舞台をやり始めた時から思っていたかもしれないです。舞台に出会って変わりました。
音楽で新たな挑戦
――演出の市川洋二郎さんとは出演が決まってからどういった話しを?
まだ、一度だけボイストレーニングでお会いしただけなのですが、不思議な方でしたね。優しいんですけど、思っている事を何のためらいもなくズバッと言ってくださる方で。。持っている空気感は柔らかくて、忙しくても大変でもストレスをあまり溜めずに楽しんでいるような、そんな印象でした。話はあまり出来ていなくて、声の出し方とか、日本ではあまりやった事がないようなツボを押されながら発声してみるとか。指一本分くらいのピンポイントで「ここに力が入っている」とか指導して下さって、力を抜くことが大事なんだと思いました。
――劇中で使用される音楽についてはいかがですか。
ポップでキャッチーで楽しめそうなドキドキワクワクした要素があると思いました。ミュージカル『ヘアスプレー』みたいなイメージが湧いていて、ただ内容は本当にあった出来事ですし、伝えなきゃいけないメッセージ性がいっぱいあると感じました。
――歌われる楽曲に対しては?
『The Last 5 Years』や『IN THE HEIGHTS』とかの経験がなかった状態で、今回の作品が来たら心が持たなかったと思います。『IN THE HEIGHTS』という大きなミュージカルで主演という大変さを乗り越え、そして、『The Last 5 Years』で難しい音楽に挑戦するという。『The Last 5 Years』の音楽はキーが高くて限界だと思ったことが何度もありました。でもそれを乗り越えて少し音域も広がって、それを経ての今回の『The View Upstairs-君が見た、あの日-』があるので、主演に臆さずにやっていきたいという気合が入っています。今回の音楽も、『The Last 5 Years』の経験無しでは挑めないような、それだけ難しい音楽だなと思っています(笑)。
――キーの高さやリズム感が独特などいろいろとあると思いますが、その中で一番難しいと思う所は?
まだ日本語の歌詞を見ていないんですが、最近思うのは、海外の戯曲なので当然ですが外国語に合うように音楽が作られているんです。テンポ感や曲の構成とか、英語で作られているのを日本語に訳した時に、リズム感やスピード感が出ないというのがよくあると思っていて、今回もそれがあるような気がしています。日本語を曲に馴染ませるのが難しいというか。
――それを馴染ませるカギとなるのは?
ちょっと活舌悪く歌うという事も必要だと思っています。ミュージカルの音楽はセリフに近いので、観客の皆さんにその言葉が伝わらないと意味がないと思うので、わりとはっきり歌うんですけど、癖のある感じでちょっと活舌悪く歌った方が柔らかさは出るんじゃないかと。なかにはそれを意識的にやっている方もいるそうです。そういうのを入れたらリズム感も出てくるのではないかなと。それを今回挑戦したいです。
――英語っぽく歌うという感じですか?
英語発音ではなくて、昔にボイトレでやったのは「たちつてと」じゃなくて「たぁっちぃっつぅってぇっとぉっ」みたいな、力が入るような。そのアクセントをポイントでいれると、ドラムの音みたいな感じに聞こえるらしいです。
――それがあることによって、グルーヴが生まれる感じですね。
そういう感じです。ちゃんと言葉にしてしまうと、音が平面というか棒になってしまうことがあるなと思っています。
役者として真の大人に
――劇中の「アップステアーズ・ラウンジ」では、ウェスやパトリックたちの居場所だと思いますが、平間さんにとっての居場所、ホームと感じる場所は?
それが無いから役者ってしんどいんだなと感じました。色んな居場所を探し求めている人達の事を演じるのが僕らの仕事だと最近は思っていて、ふと「平間壮一」に戻った時に、「平間壮一」っていう自分自身はあまり積み上がっていないんじゃないかという不安に陥ったりするんです。役は積み上がっていくけど、それが1、2カ月で終わっていって、ふと我に戻った時に「平間壮一」としては2カ月間何もしていなかったんじゃないかって。なので舞台に立っていない状態で「良かったよ」とか、「変わったね」と言ってくれた時に「居場所があった」って思うかもしれないです。
――この作品で楽しみだと思っている所は?
年齢としては大人ですけど、真の大人ということを自覚する舞台になるじゃないかと思っています。僕が芝居をやる前から知っている、SHUNさん(大村俊介)がいてくれたり、昔作品に出演した『DIAMOND☆DOGS』のリーダー(東山義久)とも初めて共演する機会を頂いて、当時青年だった僕が、年月を経て大人になったという、そういう節目となる舞台になると思っています。でもあまり大人ぶって、すかしてやろうとかは思っていないですけど、先輩にビビらず、やりたいです(笑)
――ある意味、役者としての成人式みたいな?
そんな感じがします。役者として、この作品で晴れて大人の仲間入りです(笑)
(おわり)