豊川悦司が主演、中村倫也が共演するAmazon Original連続ドラマ『No Activity/本日も異状なし』が12月17日からプライム会員向けに独占配信される。豊川が演じる出世を諦めた万年ヒラ刑事の時田信吾と、中村演じる人たらしな新米刑事・椎名遊のバディが麻薬捜査の張り込み中に巻き起こすコメディ刑事ドラマ。シソンヌのじろうが脚本を手掛け、英勉監督がメガホンを握る。これまでダンディな印象が強い豊川は本作では茶目っ気たっぷりの刑事、一方の中村はそれをあしらう飄々とした新米刑事を好演する。犯罪捜査そっちのけで盛り上がる時田と椎名のやりとりはどこまでが台本なのか、アドリブなのかその境が分からないほどの自然体だ。中村自身も「役者としての境地に達した」と自信をみせる。取材中も軽妙にトークを弾ませる2人、まるで劇中からそのまま飛び出してきたかのようだ。そんなバディのインタビューをお届けする。【取材=木村武雄】
豊川悦司、中村倫也に絶大な信頼
豊川悦司「僕の想像を軽々と越えていく役者さんで、ご一緒できてすごく楽しかったです」
中村倫也「いまの絶対に書いてくださいね!」
記者「以前、中村さんを家に置いておきたいとコメントされていましたが」
豊川悦司「某警備システムみたいな事ですよ。すべてから僕を守ってくれそうな信頼感、頼り甲斐があるというか」
中村倫也「アハハ! 警備していますか!(笑)」
豊川悦司「時田がだんだんと椎名に頼っていくように、僕自身も彼に身を預けるような芝居が出来たし、それが気持ち良くて、本当に家に置いておきたいなと思いますね」
中村倫也「もうただただ嬉しいんですよ。小さい頃から憧れがありますし、素敵だなという思いをずっと持っているので。そんな方とお仕事をさせていただいて、今回の作品という仕事での出会いがあったからこそ、こうやっておっしゃっていただけて。また、某警備システムだなんて言われてね。全部ひっくるめて嬉しいですよ」
その横で中村の言葉を聞く豊川は優しそうな表情を浮かべ、そしてほほ笑んだ。時田と椎名がそこにいるかのような、そうした軽妙なやりとりが取材中も続いた。
芝居の印象
豊川と中村は、NHK連続テレビ小説『半分、青い。』(2018年)で共演経験がある。
豊川悦司「当時は、すごく素敵な俳優さんだなという印象があって、実際にご一緒したシーンはすごく少ないんですけど、芝居を傍で見ていてすごいなと。立ち話をすることもあったんですけど、その時の印象がすごくあったので、この企画を頂いた時に相手役が中村君だと知って、これはやりたいなと。むしろ彼じゃなかったら、果してこの企画に飛び込んでいたのか分からないくらい僕が作品を受ける要素として、彼が椎名を演じるということはとても大きな事でした」
中村倫也「嬉しくてしょうがないですよね。ご一緒出来ることも嬉しかったですし、芝居も毎シーン楽しかったですし、終わったら終わったで一緒に取材させて頂くのも嬉しいですし、褒めてくれるし、幸せでしかないです。チャーミングな時田役をやっている豊川さんは、横にいて本当に楽しいので『いつ続編やるの?』っていう気持ちで僕はいます」
豊川の代表作はいくつもあるが、その一つに1995年に放送されたドラマ『愛していると言ってくれ』(TBS)がある。
中村倫也「小学校2、3年生の時にオカンとそのドラマを観ていて。その自分が役者になって、その後も豊川さんの芝居や作品を観ていて、今も変わらずに憧れていますし、当時の自分に言ったらびっくりしますよ。たまにあるんですよね。フワフワ浮き足立っちゃうような方とお仕事させて頂くことが。そのフワフワの状態でいるとお芝居がなかなか出来ないので、全部撮り終わった今、取材させてもらったり、お話しを聞けて、タイミングが良かったなって。現場でこういう感じだったらフワフワしてましたよ(笑)」
豊川は、憧れの眼差しを受ける中村の芝居をどう見ているのか。
豊川悦司「柔らかいんですよね。彼のお芝居と言っていいのか、彼そのものと言っていいのか分からないんですが柔らかくて、どんな形にもすぐなれる、そういう芝居っていうのかな。もちろん球も受け止めてくれるし、弾き返してくれる時もあるし。どんな芝居だったかと言われた時に、一言で形容出来ない懐の深い芝居、そういうお芝居をする俳優さんだと思います」
その言葉を聞く中村の表情が緩む。幸せに浸かっているような雰囲気さえ感じる。
中村倫也「豊川さんとは定期的にお会いしたいです。ちょこちょこご一緒させてもらいたいなと素直に思う先輩です。豊川さんといると幸せを感じます。例えるなら、クリスマスみたいなものですかね。ちょくちょく来てもらいたい」
セキュリティのプロ・中村倫也なら、豊川悦司はサンタクロース…!?
中村倫也「大先輩に向かって語るのは本当におこがましいですし、当たり前かもしれないですけど、僕には豊川さんの “残す表現”は出来ないなって思います。だから憧れるし、ちょくちょく会いたいなって思います。照れくさくなっちゃう(笑)」
少年のような表情を見せる。
撮影の裏側
そんな意気投合している2人とあって、劇中でも軽妙なやりとりを見せている。ほぼワンシチュエーションでの撮影だが、どこまでがセリフか、それともアドリブなのか分からない。それぐらい自然の芝居を見せている。実際、撮影はどのように進められたのか。
豊川悦司「撮影自体は、言い回しとか語順とか、全部ひっくるめて自由にやらせていただけたので、自分達も楽しみながらシーンを成立させていった印象があります。セリフとかアドリブとか、そういうものからちょっと解き放たれて、楽しく撮影出来たなという感じが僕は体感としてあります」
中村倫也「シーンの頭からケツまで長回しして、それを3、4回戦みたいな感じで撮っていくのが多かったです。セリフはアドリブみたいにやっていましたかね。高等技術です(笑)。鮮度をもって会話をして、鮮度をもった空白の間が生まれてという、他の役者じゃなかなか出来ないです」
となると気になるのは、時田と椎名という人物像はどのように形作られていったのか。
豊川悦司「今回に関して言うと、自分でキャラクターをイメージはしないようにして、中村くんと初日会って、芝居を交わした瞬間に時田という人が見えてくるんじゃないかと思っていたので、そこまで決め込まずに、ボヤっとした時田でしたね。でも、彼に会って、やり取りした瞬間に時田が、フワっと僕の中に現れてきた感じでした」
そうして生まれた時田だが、ダメっぷりのなかに愛しさがある。その人間的な魅力はもともと豊川に備わっている人柄がそのまま表れたでのはないかと思うぐらいだが、豊川は「僕はもっと嫌な奴ですよ。それに比べたら時田は全然いい人ですよ」と照れ混じりに笑いながら答える。
対する椎名も中村の人柄が表れているように感じる。
中村倫也「役作りとかは何もしていないですし、僕も時田さんと会話して、椎名という人物像を作っていきました。自分が思っていた以上に時田さんのチャーミングさは遥か上でした。2話以降、時田さんはどんどん可哀そうになっていくんですけど、椎名的にはニヤニヤしながらセリフを言わなきゃいけないんですが、時田さんのちょっとした切ない顔が悲しくて。背中にそっと手を添えてあげたくなる。観ている人もきっと時田さんに対してそう思うだろうなって。だから最高でした」
そんな中村は「芝居というものの本質を掴めたんじゃないかなと思います」と自信を見せる。
中村倫也「改めて思ったのは、芝居ってするものじゃないんだなと。岩が転がって、どっちに落ちていくか分からないような心持ちで、ある種自由で、ある種リスキーにいることが大事なんだなって。見せるんじゃないんだなっていうか、芝居をしている時点で芝居ってダメなんだなって思いました。ある種達人の域の発想だと思うんですよ。それをバカバカしい作品でできた自分を褒めてあげたいです(笑)」
更にこう続ける。「今後の一つの指針を得ました。それはこの作品のお陰です」
芝居を超越した芝居、その先のリアル。数々の作品に出演する中村にしても改めて気づかされた「演じるということ」その本質に触れる機会になったと本作。それは豊川という存在がいなければ得られなかったものとも言えそうだ。
豊川もこう語る。
豊川悦司「自分と自分が演じる役との関係性みたいなものに、新しいバリエーションが加わったなという感じはしました。自分のやる役とまた違う付き合い方をこのドラマで経験出来た気がします」
新たなバディが新たな可能性を広げる。
(おわり)
豊川悦司
ヘアメイク:山崎聡(崎は”たつさき”)
スタイリスト:富田彩人
中村倫也
ヘアメイク:Emily
スタイリスト:小林新 (UM)