兼﨑涼介監督

 1999年の放送開始より20年以上にわたって愛され続けるテレビ朝日人気ドラマの初の映画化、『科捜研の女 -劇場版-』が満を持して完成した。沢口靖子が演じる京都府警科学捜査研究所(通称・科捜研)の法医研究員・榊マリコが、シリーズ史上最難関の事件に挑戦する一大スケールの事件がスクリーン上で展開する。そのメガホンを握った兼﨑涼介監督にインタビュー。監督として約10年、シリーズ全体には約20年携わり、誰よりも科捜研、そしてマリコを知り尽くした人物が贈る劇場版は、新たな発見にも満ちている。SNSで話題になったサブタイトルの真相にも迫った。【取材=鴇田崇】

(c)2021「科捜研の女 -劇場版-」製作委員会

サブタイの妙

――待望の劇場版の公開を迎え、今の心境はいかがでしょうか?

 うれしいです。こういう時期ではありますが、みんなで(科捜研を)盛り上げていけることはいいことだなと思っています。

――すでにプロモーションでは「過去のサブタイトルが面白すぎる!」と話題になっていました。

 僕自身もサブタイ、面白いなと思って見ていたんですよ。ラテ欄とかで。

――監督が決めているわけではないんですね。

 あれはプロデューサーが決めてくれています。最近はヒキのいいものやキャッチーなものが多いと思うのですが、中には正直、本編の内容と違うものもありますよね(笑)。でもいいなあと。個人的には好きなので「おいおい」と笑いながらいつも見ています。

――「幕末から来た 殺人犯 マリコVSダンダラ模様の羽織の謎」など、非凡なセンスを感じます。

 そうですよね。平成初期みたいな感じで(笑)。昭和を経験したあとの平成みたいなノリ、爆笑感はありますよね。

(c)2021「科捜研の女 -劇場版-」製作委員会

目指した科捜研アベンジャーズ

――ところで、キャストのみなさんも今回の映画化を喜ばれていたのでしょうか?

 そう思います。みんなのテンションは高かったと思います。

――マリコ役の沢口靖子さんは、役柄にどう向き合っているのでしょうか?

 この20年の間にマリコというキャラクターは変わってはいるのですが、基本的にはマリコが疑問に思うことと、沢口靖子さんが疑問に思うことは近いと僕の感覚では思うんです。撮影前に台本について話し合うこともあるのですが、マリコとしての考えを読めることもありますし、逆の考え方を出されることもあるんです。

――その役柄との一体感が人気の秘密でもありそうですよね。

 いい意味でまわりをバタバタさせてしまうところが、マリコであり靖子である、という感じがしていますね。

――映画化を進める際、どういう作品にしようと思いましたか?

 まずオファーをいただいた際、「科捜研アベンジャーズにしてください」との要望がありました。22年の番組の歴史の中で過去の人たちも登場して、知っている人たちが楽しめる作品ですよね。でも、それだけではもったいないと思ったので、初めて観てくださる方たちにもバックボーンがしっかりあるような表現はしたいなと思いました。

――その命題はクリアできましたか?

 一番「ぽい」なと思ったのは、いろいろな仲間がたくさんついてきてくれることと、ほどよい「抜け感」があるところ。科捜研の場合、みんながマリコに振り回されてしまうので、そこにほどよい「抜け感」があると思っていて。みんな振り回されているけれども、その一個一個の行動が何かの役に立っていくんです。つまり、(ハリウッド映画の)「アベンジャーズ」のアクションの部分が科捜研の場合は科学鑑定シーンなんだなと、自分でも納得したんですよね。

――まさにそのマリコらしさが、クライマックスで見事に炸裂しましたね。

 櫻井さんが書かれた台本に乗った時点で、ゴールは見えた感じでした。最後の演出はいつ決めたかと言われれば、台本を読みながらある程度の感じは決めていました。それが、手触りがいいものか悪いものか、準備期間中に探っていった感じです。

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あえてツッコミどころを入れる

――脚本には専門用語がたくさん出てきながらもテンポがよく、すべてのシーンに意味があると思いましたが、どう映像化するのでしょうか?

 まず難解な用語については科捜研の制作チームの中で、「これくらいを説明しておくといい」みたいな共通認識があるんです。なのでめちゃくちゃ難しい言葉が出てきても、あまり気にさせない術を知っている。テレビで、感覚で培ってきたんですよね。あとは1回目の段取りよりも、2回目のほうが慣れてきてテンポがよくなるんです。であれば3回目に本番にしようとか、いいテンポを作り出すタイミングを見極めてはいます。

――今回の劇場版は特に何分かに1回、笑いがあり、とても面白かったです。

 それは実は意識していて、最初のラテ欄の話とくっつけちゃうんですけど、マリコや土門が何度も東京と京都を往復していたら「距離感は!」って僕もツッコミを入れると思うんですよ。そもそも映画やドラマなので、僕たちはそういう常識はある程度どうでもいいじゃないかという捉え方もしているのですが、でもツッコミどころなんですよね。そのツッコミどころが面白くなるなと思ったら、あえてツッコミを入れるようにしています。

 確かに映画版では何分かに1回、小ネタを入れようと意識していたのですが、それもアベンジャーズ感なんでしょうね。アメリカンな抜け感は、この映画版に関してはちょっとずつ作ろうと思っていたので、それに反応していただけてうれしかったです。

――今後の科捜研はどうなっていくでしょうか?

 科捜研は3年周期くらいで、いろいろなことがちょっとずつ変わってきている番組だと思うんですね。それで今の形になってから実は長いと思っていて、新機軸はあってもいいのかなと勝手に思っています。もちろん今までのものを大切にしつつ、ちょうどいい新機軸もあればいいなと思っています。具体的には考えていないのですが、たとえばこの映画がそうであってほしいですかね。僕の中ではテレビの科捜研の延長戦上ではあるのですが、ところどころ新機軸にならないかなと思ってやっているところもあるので、いろいろなパターンが生まれればいいなと思っています。

(おわり)

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(c)2021「科捜研の女 -劇場版-」製作委員会

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