INTERVIEW

松井玲奈

そこで起きたものを素直に。女優としての心構え。
『ゾッキ』で“難役”、挑戦と重圧


記者:鴇田 崇

写真:提供

掲載:21年04月08日

読了時間:約6分

 映画『今日も嫌がらせ弁当』(19)、アニメ『魔女見習いをさがして』(20)、『半径1メートルの君 上を向いて歩こう』(21)など、近年女優として幅広い作品で活躍を続ける松井玲奈が、孤高の天才と称される人気漫画家・大橋裕之の幻の初期作品集を再構築して実写映画化した『ゾッキ』(公開中)に出演した。演じるキャラクターは“幽霊のような女”で、およそ正解がなさそうな難しい役柄を、確かな表現力で演じ切っている。

 映画『ゾッキ』は、日本を代表する俳優であり、クリエイターとしても異能を示す、竹中直人×山田孝之×齊藤工という三人が共同監督を務め、一本の長編映画としてまとめ上げた異色のプロジェクトによる注目作で、「いろいろな秘密がテーマになっている映画なんです」と松井は説明する。異能だらけのスタッフ&キャスト陣で贈る人間模様は、いったい何を観る者に投げかけてくるのか。話を聞いた。【取材=鴇田崇】

映画化のきっかけとなった役

――“幽霊のような女”役ということで、演じる上での手がかりも含めて大変な作業だとは思いましたが、作品や演技の目指す方向性について、どう説明がありましたか?

 竹中さんが、原作のわたしが演じた役と物語をご覧になって、「これは絶対に撮りたい!」と思ったところから、『ゾッキ』の映画化が始まっているとうかがいました。かなり重要なキャラクターを自分が担当するということになったので、とても責任重大だなと思いました。

――それは重圧ですね。撮影時の監督の反応はいかがでしたか?

 「“幽霊のような女”を撮りたいと思った」とおっしゃっていたので、竹中さんがイメージしているキャラクターの表現だったり、セリフをその通りに言えるのかというプレッシャーはありました。ただ、竹中さんはすごく優しいので、何をしても「すごくいいよ」とほめてくださったんです。感情があるようなキャラクターではなかったので、自分の中ではすごく難しいなと思いながら演じましたね。

――演じる上で工夫したことはありますか?

 無機質な感じをいかに出せるかみたいなところは考えました。しゃべっている時も、感情がどこにあるかわからないけれども、何か伝えたいからそこに出てきているわけで、それが伝わるようにお芝居ができればいいなと思って演じていました。それと不思議な文脈でセリフが出てくるので、それは一番大変だったかなと思います。

――難しそうですよね。“ような女”というあいまいなところも含めて。

 人が言葉を発する時には意味や文脈があって言っていることが多いものだと思いますが、それが度外視されているような感じなんです。急にパン!と出てくるようなキャラクターだったので。突然その言葉を言うことに物語としての意味がある、ということだったのですが、それがどういう意味なのだろうと理解することが難しかったです。ただ、撮り終わった時「とてもよかった」と言ってくださったので安心はしました。

『ゾッキ』より松井玲奈

そこで起きていることを素直に

――正解がなさそうな役でも演じなければならない仕事でもあるわけですが、女優としての心構えについて教えてください。

 今回、いろいろと考えたとは言いましたが、カメラの前に立っている時は、あまり考えないようにしています。その時に起きていること、感じたことを、できるだけ表現していく。それが上手くいく時もあれば、上手くいかない時もありますが、できるだけそこで起きていることを素直に受け止めて、ちゃんと自分の中から出せるようにということを心がけています。

 特に今回はひとりでの撮影だったので、セリフのやり取りみたいなこともなくて。学校の窓から出てきてセリフを言って終わり、みたいな感じでした。撮影時間はそこまで長くなかったですし、現場では竹原さんたちともお会いしていないので、出来上がった時にシーンとしてすべてを理解しました。なんだか、すごく不思議な空気感になっているなと思いました。

――この仕事は、どういうところにやりがいを感じていますか?

 演じている時に思ってもいなかった感情であったり、動作が湧き上がってくるので、そこが面白いなと思います。自分自身で日常生活を生きていても、そうは感じなかっただろうなという場面が突然シーンとして現れたりするので、そこやりがいですね。人生経験としても人の人生を借りながら、今まで出会ったことがない場所を見せてもらっている感覚があります。

――また、どういう瞬間に続けていてよかったと思いますか?

 作品を観に来てくださる方たちが楽しかったとか、お仕事の現場で会った方たちが、映画・舞台・ドラマの感想を言ってくださるのがうれしいです。いつも応援してくださるファンの方、その作品で初めてわたしを知ってくださった方、みなさんの記憶に残るような作品に出られていたり、そういう役を演じられた時にやっていてよかったと思います。

――今現在の演技の課題について、ご自身ではどう思われますか?

 自分ではまったくそういうつもりはないのですが、真面目だと、いろいろな人に言われるんです。できるだけフラットな状態でその場で起こっていることをしっかり受け止めたい、返そうという気持ちでつねにやっているのですが、もっと気楽にやったほうがいいと。

 それは緻密に頑張って計算した100点よりも、その場の空気でなんとなく振ってホームランを出しちゃう人のほうが絶対強い、そのほうが長くお芝居も続けて行けると思うという意味だったのですが、いい意味でもっと不真面目になることが課題かと思います。

――それは適正もありそうですよね。

 良し悪しだなとは思います。しっかりやらなきゃいけないところは必ずあるので、それはやるべきだと思うのですが、たぶんお芝居をするときに潜在意識のどこかで自分で決めつけているものが出てきてしまうのだろうなと。そういうものを全部取っ払って、もっと自由にできるようになれればいいと思っています。

――今後はできそうでしょうか?

 実は最近やっている役が真面目だったり、ダウナーな感じのキャラクターが多いので、いずれ明るい役柄と出会った時に、そこを自分の中で上手く出せるようになればいいなと思っています。

年に1回は舞台に立ちたい

――さて、数十年ではなく、当面の目標はいかがでしょうか?

 わたしは舞台がとても好きなので、年に1回は舞台に立ちたいと思っています。あとは少人数のワンシチュエーションの作品に出てみたいですね。舞台でも映像でも。ワンシチュエーションは演じる側の力がないと観ているほうが退屈してしまい、ライブ感も必要なので、そこで生まれてくるものが舞台に近い気がしているんです。人数が少なければ少ないほどセリフ量が増えるので、そういうところでキャッチボールをしたいです。

――今回の『ゾッキ』、どういう人たちにどう観てほしいでしょうか?

 いろいろな秘密がテーマになっている映画なんです。

 秘密は人に話したほうがいいこともあれば、墓場まで絶対に持って行ったほうがいいこともありますよね。たぶんそれは誰にでもあることなので、何か今、自分の秘密を抱えてモヤモヤしている人たちに観てほしいなと思います。

 わたしも自分の秘密って何だろうなって思うようになりました。映画を観に行くと、秘密に対する価値観を話せるようになるのかなと思います。わたしも言わなくてよさそうなものは、墓場まで持っていこうと思いました(笑)。言わないことが優しさになるなと思ったので、みなさんも何か感じることがあるかもしれません。

(おわり)

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