ゴスペラーズが3月10日にアルバム『アカペラ2』をリリースした。本作はアカペラのみで構成されたオリジナルアルバムとしては、8thアルバム『アカペラ』から約18年振りの新作。アカペラという普遍性のあるスタイルで、25周年を経たゴスペラーズだからこそ表現できる凄みが収められた本作を主体に、ゴスペラーズの“アカペラ力”について迫りたい。

アカペラという最もフィジカルな音楽

 コロナ禍という特殊な状況下になり約1年。室内で過ごす時間が多くなったこともあり、SNSやYouTube等のプラットフォームで様々な人がアウトプットした音楽コンテンツに触れる機会が増えたのではないだろうか。

 「弾き語り」や「カバー」など、様々な人達のあらゆるスタイルのパフォーマンスが気軽に楽しめる昨今、そういった場面で聴ける“声”にフォーカスすることが多くなったとも言えそうだ。

 例えば、歌の動画の場合は、「楽器1本と歌」あるいは「アカペラ」というスタイルなど、声が主役となる。また、複数のアカウントでコラボしてハモリを加えるなど、その多様性は広く、まだまだ新たなスタイルが生まれる可能性がありそうだ。

 そんな様々なスタイルがある中でも、普遍性と歴史のあるアカペラという最もフィジカルな手法を用いて出力されるゴスペラーズの音楽のバイブス、共振感覚とも言うだろうか、それは、聴き手の体と心と魂の最深部まで震わせてくれる。改めて、音楽においての“声”そのものの魅力について気付かさせてくれる。

 本作を1曲目の「INFINITY」から聴いていくと、楽曲そのものの美しさはさることながら、各アカペラパートの凄みは、細かく聴き分けるほどにいくつも挙げられる。

ゴスペラーズの“アカペラ力”とは?

 ゴスペラーズのアカペラは、聴き心地の良い声そのものはもちろんだが、“アカペラ力”として秀でている点を挙げると、「全体の音域のバランスの良さ」「心地良い各パートの旋律の交わり」「質の高いヒューマンビートボックス」という3点が特筆すべきポイントだろうか。(もちろん他にもあるだろうが)

 ゴスペラーズの楽曲をスピーカーで聴くと、「全体の音域のバランスの良さ」からか、アカペラの重なりが優しく空気を揺らして染み入るように体を振るわせる。ロックバンドや音圧豊かなエレクトロミュージックをスピーカーから聴いて体が振動を感じることはある種珍しくはないのだが、ゴスペラーズのようにアカペラのみで表現された音楽で体が揺さぶられるのを体験するのは新鮮に感じられる。

 そして、「各パートの旋律の交わり」であるハーモニーは、もちろんコーラスと聴こえることもあれば、楽器のアンサンブルにも聴こえることが大きなポイントではないだろうか。綺麗にサウンドメイクしたシンセサイザーのサウンドやオルガンの音、そのようにも聴こえる美しい各声の交わりは、その声の倍音成分の豊かさからか複数回聴いても違う印象が楽しめる。

 また、各パートが交わった「和音」という捉え方だと、「I Want You」などで聴けるコーラスとハーモニーで表されるコード感は、膨よかな厚さと清涼感を併せ持った珠玉のアプローチと言えよう。アカペラであるにも関わらず、フルバンドのゴージャスなアレンジへと自然に脳内変換できるような感覚すらおぼえるのは、ゴスペラーズの“アカペラ力”の凄みを物語っているように思える。

 そして、ビートを刻むパートのアタック感とリリース感(音の鳴り始めと減衰)に注目すると、あらゆる打楽器の役割の理想のリズム感が声で表現されていることを感じられる。本作では「INFINITY」や「Loving Out Loud」などで顕著に表れているだろうか、その鮮やかなヒューマンビートボックスの洗練されたアプローチに圧倒される。

 さらに、個人的に特にフォーカスしたい(単に好みの部分ではあるが)のは、バスの帯域の低音の声だ。アンサンブルの生命線とも言えようベースラインは、ピッチ(音程)が甘いと全てが台無しになりかねない。

 しかし、ゴスペラーズにおいてのこの帯域は、安定感と表現力、浮遊感のあるグルーヴ、声特有の血の通った低音域と、これら全てが揺るがない。もちろん表情豊かで心に訴えかけるメインメロディを主軸にリスニングする場合が多いかもしれないが、最も低い声に注目するだけでも、ゴスペラーズの音楽におけるアカペラの質の高さを深く味わうことができる。

 また、ピッチについて、聴いた感じは「正確」なのだが、例えば単音で言うところの「ドレミの“ド”」の音を出す際に、完全に正確なピッチよりもあえて揺らして「最もその音が他の楽曲のパートと重なった時に心地良く馴染むか」という声で歌っているようにうかがえる。ゴスペラーズは、そういった聴き手にとって心に深く残る、声の秀逸な美的基準を持っているのではないだろうかと考えられる。

声の芸術

 ゴスペラーズのアカペラは、ゴージャスでありながらも繊細で、数値化できない揺らぎを声で表現し、リスナーの心に深く響かせる。

 「ゴスペラーズのアカペラ力」について一部考察したが、もちろん聴き手によってさらなる点が挙げられるだろう。深みがありつつもポップで普遍的なゴスペラーズの“アカペラ力”は、2001年のシングル「ひとり」がアカペラ作品としては日本音楽史上初のベスト3入り、アルバム『Love Notes』がミリオンセールスを記録など、輝かしい実績がその凄みを証明している。

 そして本作では、さらに洗練されたアカペラの数々の楽曲が聴け、楽しめ、その歌唱スタイル、そしてゴスペラーズのポテンシャルの大きさ、深さ、凄みに触れることができる。ゴスペラーズの“アカペラ力”は、聴くほどに数々の魅力に気づかされる「声の芸術」とも言えるのではないだろうか。【平吉賢治】

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