松室政哉「曲を映像的に広げる」映画フリークが作る新たなポップスの形
INTERVIEW

松室政哉

「曲を映像的に広げる」映画フリークが作る新たなポップスの形


記者:村上順一

撮影:

掲載:21年04月01日

読了時間:約11分

 シンガーソングライターの松室政哉が3月31日、コンセプト・ミニアルバム『Touch』をリリース。2017 年11月に1st EP「毎秒、君に恋してる」でメジャーデビュー。昨年は3rd EP「ハジマリノ鐘」をリリースし、『Touch』は約1年ぶりとなる作品。「Musicalize Project」 Vol.1と銘打たれた今作は、無類の映画フリークである松室が楽曲世界を視覚的にも更に広げるために制作した作品。先行配信された「ai」、「PUZZLE」、「Eternal」に加え、よりストーリーを鮮明にする3曲を追加した全6曲を収録。インタビューでは、このプロジェクトが立ち上げられた経緯から、ミニアルバムとしてのこだわり、自身が音楽を続けていく意味など多岐に亘り話を聞いた。【取材=村上順一】

ミニアルバムは枠というものが必要だと思った

――小学生の時に聴いたサザンオールスターズに衝撃を受けて、音楽の道に入られたとのことですが、プロフィールを拝見させていただいてサザンを聴いて「身体中の全細胞が騒いだ」と表現されていますが、具体的にはどんな感じだったんですか。

 小学校4年生ぐらいの時に家族でキャンプに行ったんです。その時に父が車で掛けた音楽がサザンの『KAMAKURA』というアルバムで「愛する女性とのすれ違い」という曲でした。もちろん家でも流れていた曲だったんですけど、キャンプへ行くという高揚感があったのか、感覚的には鳥肌に近い感覚がありました。その瞬間、その曲を集中して聴いていたのを覚えています。それと同時に曲を作ってみたいと思って。僕は好きになると「作ってみたい」と思う性格なんです。それで、普段はそんなにわがままを言わないんですけど、キャンプの帰りにおもちゃのピアノを買ってもらって、そこから曲作りを見様見真似で始めました。

――今作は松室さんが「映画好き」というところから生まれたとのことですが、映画を好きになったきっかけは?

 小さい頃から海外の映画を観ることが多くて、ロビン・ウィリアムズ、エディ・マーフィ、ジム・キャリーとか90年代アメリカのコメディ映画好きでした。15歳ぐらいの時に『リトルミスサンシャイン』という作品をDVDで観たんですけど、それがすごく衝撃的で。いわゆる低予算映画なんですけど、脚本や演技の良さでここまで面白く出来るんだと。それで自分も映画を作りたいと思いましたから。

――映画は作られたんですか。

 まだ、ちゃんとしたのは作ったことがなくて、芸大に通っていたので、それっぽいものは作ったりはしたことはあるんですけど、いずれ長編映画を作るというのはやりたいことの一つです。

――今回、このプロジェクトを立ち上げたのも自然なことだと思うのですが、このタイミングだったのはなぜですか。

 ミニアルバムというのが大きかったです。僕、ミニアルバムのリリースは初めてで、EPは1曲1曲の集合体でも成り立つイメージがあるんですけど、ミニアルバムは枠というものが必要だと思いました。僕は頭に映像を浮かべて曲にしていくんですけど、それをもっと深くやっていくやり方をしたらどうなるのか、一本の映画を観たようなアルバムにするにはどうしたら良いのか、逆に出来た曲を映像的に広げて行ったらどうなるのか、というのを考えてみようというのがテーマとしてありました。敢えてルールを設けた感じです。

――そのルールが良い方向に向かっていって。

 はい。掘っていく場所が明確になるので、より深く掘ることが出来るんです。僕は枠を作っていく作業というのは好きなんです。2020年の頭にはこのプロジェクトの話はしていて、1年掛けて具現化していった感じです。

――コロナ禍と同時に制作されていた感覚もありますが、心境面はいかがでしたか。

 基本、制作は部屋に篭ってやるのでさほど変化はなかったんですけど、今作の『Touch』というテーマはコロナ禍の影響を受けていると思います。映画と一口に言ってもどんなジャンルにしようか、というところでラブストーリーというのは決まっていました。そこから「ai」という曲が生まれたんです。2人が出会って恋をしている曲で、どこか不安を抱いているという設定なんですけど、それはコロナ禍じゃなかったら自分には思い付かなかったかもしれないです。この曲が出来たことでどういうアルバムにしようかが決まりました。

――「ai」は歌詞を見ると色んなaiがあることがわかりますね。なぜローマ字にしたのかが歌詞を見てわかりましたから。

 このaiは意味よりも発音記号ですね。色んなaiがあるので特定してしまうのは意味がないなと思いました。調べていく中でこんなにあるんだと思いましたし、もし言葉のバリエーションがなかったらこの曲は生まれていなかったかもしれないです。

――松室さんにとって歌詞とはどんな意味を持っていますか。

 映像を思い浮かべて詞を書いていくんですけど、そのイメージを伝えるものです。心の叫びというより、ストーリーテラーでいたいんです。

――今回、ストーリーのプロットを作られたりしたんですか。

 収録されている1曲1曲がプロットみたいな感覚があります。それを聴いてくれた方たちがこのプロットを補完する映像が出てくると思っていて、それがシナリオになっていくんじゃないかなと。なので、どんな聴き方をして頂いても大丈夫なんですけど、ミニアルバムとして順番に聴いていただいた方が僕の意図は伝わると思います。

映画はハッピーエンドが好き

――コンセプチュアルだけど、しっかりポップスとして昇華されていますが、松室さんにとってポップスというのはどう捉えていますか。

 ポップスというのは何でも出来る、ジャズやソウル、ロックなど全てを包括したものがポップスだと思っています。その中でもシンガーソングライターというのは、本当に何でも出来るなと思っていて、こういったプロジェクトも出来るのは強いなと思います。

――4曲目の「Cube」という曲は松室さん一人で完結されていて、その強みを感じる部分でもあるのですが、すごく今の時代にマッチしたサウンドですよね。

 「PUZZLE」のテンションを「Cube」でもう一つ落としたいと思いました。なので音数も少なくして、冷たさのあるサウンドにしようと思い、それなら打ち込みがいいなと思って。世の中の流行りはオケも音数が少なくて、歌のコーラスでコード感を出していくようなものが主流になっているので、それを自分もやってみたかったというのもありました。

――「PUZZLE」はAメロのアレンジも印象的でした。

 こういうリフみたいなのは僕は初めてやったので新鮮でした。ちょっとIQ高めのアレンジになっています(笑)。僕の中では初期のマルーン5みたいなイメージがあって、リフだけどベタじゃない感じ、というのは意識してました。それはレコーディングメンバーにも伝えました。

――そのイメージというところで曲となにかしらの映画作品がリンクされている部分も?

 特定の映画というのはないんですけど、フランス映画ではなく、起伏があるアメリカ、ヨーロッパというイメージはありました。日本は起・承・転・結とストーリーがあるんですけど、他の国は割と起・承・転結と3つで分かれる感じで、転が起こることが結末みたいな。それも踏まえた上でどう流れを作るか、というのは考えました。

――例えば、大どんでん返しで有名な映画「ミスト」はその“転結”が当てはまりそうですよね。

 まさしくそうだと思います。昔、この映画を家族に勧めて「なんて映画を見せるんだ!」と怒られた記憶が蘇りました(笑)。

――5曲目の「Eternal」は壮大なバラードですけど、この曲が最後、締めの曲になるんだと思ってました。すごくエンディングっぽいなと。

 おっしゃる通りこの曲が『Touch』という映画のクライマックスです。最後の「Touch」という曲の位置付けはエンドロールなんです。「Eternal」で感動的なピークを持ってくるというのは最初から決めていたことです。僕はハッピーエンドが好きなんですけど、例えば別れて寄りを戻すところまで描くことがハッピーエンドだと思わないんです。このストーリーの2人は別れてしまうんですけど、2人が描いている景色があって、そこにちゃんと進んでいくハッピーエンドを歌詞にしたいなと思いました。余韻をしっかり感じさせることが出来たんじゃないかなと思います。

――ストリングスが盛り上げてくれますよね。

 いつも弾いていただいている須原杏さんにお願いしました。もうゴリゴリのアレンジにして下さいとお話しして(笑)。こうやって生のストリングスでレコーディング出来るのもすごく贅沢なことで、今までもストリングスは入った曲はあるんですけど、これまでで人数も一番多かったんです。14人をダブルで重ねているので、28人分います。

――松室さんにとっての最高のハッピーエンドだった映画は?

 僕のオールタイムベストに入る映画作品なんですけど、「トイ・ストーリー3」のエンディングは最高でした。あと、「エターナルサンシャイン」という映画があるんですけど、この「Eternal」で伝えたいことに近い感じがあります。全然意識していなかったんですけど、タイトルも近いものがあって、今びっくりしています(笑)。

「Touch」は全ての根源

――エンドロールの「Touch」に繋がるわけですが、アルバムの表題曲となっていますが、タイトルはどちらが先だったんですか。

 このプロジェクトが始まった時、映画をコンセプトにラブストーリーにしようということは決まっていたのですが、ずっとタイトルは決まっていなくて。「Touch」は最後の方に出来た曲で、そこからアルバムのタイトルになりました。

 このTouchという言葉は2020年から今にかけて凄く重要な意味を持っているなと思っていて、触れ合うことでお互いを愛し合うことが出来たり、触れることで分かり合える。逆に傷つけてしまうこともあるけど、許すことができる、全ての根源だなと思いました。物理的な触れ合いもそうですし、心と心の触れ合いも余裕がなくなって来ている、どこか分断されているような感覚があるんです。その根源を曲に出来たことですごくアルバムが締まりました。聴いた人が色んな情景を『Touch』という作品から思い浮かべると思うんですけど、それら全てを肯定してくれる曲になったと思います。

――ちなみにエンドロールが最高だったのは?

 ジョージ・クルーニー主演の「マイレージ・マイライフ」のエンドロールは印象的でした。「アップ・イン・ジ・エア」という曲が流れるんですけど、それは監督がたまたま受け取ったテープに入っていた曲で、その曲から映画が出来て、その曲をテープから抜き出してエンドロールで使用しているというもので。その経緯を知った時にすごい素敵だなと思いました。

――あと「hanbunko」は普通なら平仮名とかで表しそうですけど、あえてローマ字にしたのは他の曲とのバランスですか。

 それもありますけど、チャプター感が欲しかったんです。先程、曲がプロットになっているとお話ししましたが、小説のように話が進んでいくのに、ローマ字、英語の方がわかりやすいなと思ったんです。

――見せ方という点では、ジャケ写も美しいですね。

『Touch』ジャケ写

 これはデザイナーの方にTouchという言葉だけを伝えて、その言葉のイメージから描いていただきました。絵の比率が16:9になっているのも映像的なところを意識しています。CDのブックレットには曲によってその曲に合った絵が入っているんですけど、それを見た時すごく感動しました。是非、CDを手に取っていただいた方は、そこも楽しんでもらえたら嬉しいです。

――フィジカルとしての楽しみ方もありますね。

 ストリーミングやダウンロードで楽しんでいただくのと違った楽しみ方がフィジカルでは出来たらいいなと思っていて。

――さて、松室さんにとっての音楽とは?

 僕が音楽をやる意味というのは、曲を作ることなんです。それは小学校4年生の時からずっと続いていて、もちろん歌うのも楽しいですけど、大前提には自分の曲を聴いてもらえる喜びがあるんです。

――ご自身の歌というのはどのように見えているんですか。

 もともとバンドをやっていて、その時にボーカルになったんですけど、自分で作って来た曲を説明する時に歌っていたので、そのまま歌う流れになっていって。なので、一般的なボーカリストとは意識は違うかも知れないのですが、今はどんどん歌と向き合うようになって来ました。世の中にすごいシンガーは沢山いるので、そことはまた違うベクトルなんですけど。

――松室さんが最近すごいなと思ったシンガーは?

 Mellow Youthというバンドがいるんですけど、SNSで流れてきた歌に感動しました。そこから僕のライブに出てもらったりしたんですけど、カラオケとかで歌うような感じで気軽に歌っても鳥肌が立つくらい凄かったです。

――ありがとうございます。最後にここからの活動の意気込みをお願いします。

 2020年は改めて自分にとって音楽を作っていくことはめちゃくちゃ必要なことだと思いました。ライブができない、人と会えないとなった時に曲を作るということが、自分のためにも必要だと思いました。楽曲提供ももっとやっていきたいですし、1曲でも多く世の中に僕の曲を届けて行きたいと思っていて、めちゃくちゃモチベーションは高いです!

(おわり)

ライブ情報

■Matsumuro Seiya Live 2021 “Cafe de MURO” -ムロの日Special-

出演:松室政哉

サポート:外園一馬(Gt)/半田彬倫(Key)

日程:6月6日(日)
会場:東京・duo MUSIC EXCHANGE
OPEN/START:13:00/14:00
席種:全自由4,000円(税込、整理番号付、ドリンク代別)
HP先行:3月31日(水)18:00〜4月18日(日) 23:59
一般発売:5月8日(土)10:00〜
問合せ:ソーゴー東京(03-3405-9999)

※未就学児入場不可

■Matsumuro Seiya Tour 2021 “Touch”

出演:松室政哉

サポート:伊吹文裕(Dr)/植松慎之介(Bs)/外園一馬(Gt)/半田彬倫(Key)/須原 杏(Vn)

日程:7月5日(月)

会場:大阪・Music Club JANUS
OPEN/START:18:00/19:00
席種:全自由4,950円(税込、整理番号付、ドリンク代別)
HP先行:3月31日(水)18:00〜4月18日(日)23:59

一般発売:5月1日(土)10:00〜
問合せ:GREENS(06-6882-1224)
※未就学児入場不可

日程:7月6日(火)
会場:愛知・APOLLO BASE 
OPEN/START:18:00/19:00
席種:全自由4,950円(税込、整理番号付、ドリンク代別)
HP先行:3月31日(水)18:00〜4月18日(日)23:59
一般発売:5月8日(土)10:00〜
問合せ:JAILHOUSE(052-936-6041)

※未就学児入場不可

日程:7月12日(月)
会場:東京・duo MUSIC EXCHANGE
OPEN/START:18:00/19:00
席種:全自由4,950円(税込、整理番号付、ドリンク代別)
HP先行:3月31日(水)18:00〜4月18日(日)23:59
一般発売:5月8日(土)10:00〜

問合せ:ソーゴー東京(03-3405-9999)
※未就学児入場不可
http://matsumuroseiya.com/live.html

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