坂本真綾が3月20日・21日の2日間、横浜アリーナで『25周年記念LIVE「約束はいらない」』が開催された。今回の公演は新型コロナウイルス感染拡大防止のためのガイドラインに沿った形で行われ、イレギュラーなことがいくつかあったが、2日間共に混雑なく開演時間を迎えていたのが、まず素晴らしかった。人数制限(上限5,000人以下)のため座席は余裕を持って配置されており、その間を埋める空席にはフライヤーが貼られ、坂本真綾の自筆で「来てくれてありがとう。私は今日あなたを幸せにするためここに来ました。一緒に楽しもう。」というメッセージが可愛らしいイラストと共に書かれていた。アリーナにはセンターステージが設置され、それを8面LEDと呼ばれる鳥かごのような装置が覆い、左右には長い花道が伸びている。LEDにはライブやCDジャケットなど過去の写真が次々と映し出されて気持ちが高鳴る中、2日間だけの特別なライブが、いよいよ幕を開ける。

 1曲目はライブのタイトルにも冠されているデビュー曲「約束はいらない」。今回のバンドメンバー、北川勝利(Band master&G)、佐野康夫(Dr)、千ヶ崎学(B)、奥田健介(G)、扇谷研人(Key)、毛利泰士(Percussion&Manipulator)、稲泉りん(Cho)、高橋あずみ(Cho)が丸いステージを中心に向かって取り囲むように演奏し、その中心で坂本が伸びやかな声で歌う。25周年の歩み、その始まりを祝福するようなオープニングだが、まだ全貌は見えない。2曲目の「CLEAR」でセンターステージを覆っていた8面LEDが天井に登っていくと、ショートカットにパープルのドレスを纏った彼女が現れ、キラキラとした表情で歌う姿を頭上のスクリーンが映し出した。その瞬間、会場中に広がった華やかで夢のような景色に胸がいっぱいになる。この日のために切った髪、スタイリストと用意したドレス。彼女がこのステージにかけた「みんなを楽しませたい!」というシンプルな気持ちが伝わって来た。私たちは長い間、この楽しさを待ちわびていたんだと強く感じて、ライブはまだ始まったばかりなのに涙が止まらなかった。

坂本真綾

 「みんな、よく来たね!会えて本当に嬉しいです。今日は最高の1日にするから最後まで宜しく!」と挨拶。そこからタイトなリズムとノイジーなギターが交差するカオティックな「スクラップ〜別れの詩」を、モノクロの映像と赤いレーザーが印象的な演出で披露。続く「ユーランゴブレット」ではセンターステージの内側から彼女の動きを追うカメラワークとカメラ目線のパフォーマンスが抜群のカッコ良さ。昨年からのコロナ禍でオンラインライブも新たな主流となった中、リアルタイムで届ける映像美は格段に進化しており、それがこうして有観客でのライブでも生かされるという新たなエンタメの在り方にワクワクさせられた。他にも「独白」ではエモーショナルな曲調に合わせてセンターステージに大迫力の火の玉が何度も上がったり、「躍動」では左右に伸びた花道上にブルーのLEDがゆらゆらと揺れていたりと、演出面でも見逃せない場面が次々と繰り広げられていく。

坂本真綾

 ライブの序盤から「みんなこの1年間、すごく気を張っていた日々を過ごしていたと思います。この時間は心置きなく楽しんで行ってください」と話していた。この日、久しぶりにコンサート会場に足を運んだという人も多かったことだろう。そして「2020年、家にいる時間が長かった時に心に思い浮かんだことを曲にしました」と「いつか旅に出る日」を披露。自身が過去に訪れたクロアチアの景色を思い浮かべながら、今はまだ制約の多い生活を送っている私たちの「いつか」に希望を灯すような優しいメロディが、旅先での写真と共に届けられる。今回の2日間のライブの中で「どんな悪いことも永遠には続かないよ」と話してくれたことも、心に残った。

 「自分の結婚式でもこんなドレス着てないわよ!」とか「歩くとルンバみたいでしょ?」と笑いながら言っていた豪華な衣装から、いつの間にかピンクのパンツスタイルがキュートな衣装にチェンジしたら、お楽しみのゲストコーナーへ。そう、今回の25周年記念LIVEではリリースしたばかりのアルバム『Duets』で共演したアーティストがゲストでお目見え。まずは内村友美(la la larks)が登場すると、一緒に「色彩」を歌う。言わずもがな「色彩」はla la larksが提供した楽曲なので、ふたりで歌うと更に最強。センターステージの中央部分はせり上がるようになっていて、背中合わせになって歌う姿にはユニット感が漂う。デュエット曲「sync」は難しい旋律をふたりで軽やかに駆け上がる美しさ。MCではふたりで向き合い坂本が「あなた綺麗ね」としみじみ言うと、内村が「そんなディズニープリンセスみたいな真綾さんに言われても!」と返したシーンが面白かった。1日目、2日目の共通ゲストとしてもう一人、とびきりのエンターテイナーぶりを発揮して会場を盛り上げたのがポップの貴公子、堂島孝平。花道の端っこから「真綾さんもうちょっとです〜!」とか言いながら走ったり転んだりしながら登場するだけで何でこんなに面白いのだ、この人は。デュエット曲「あなたじゃなければ」では、喧嘩しながらじゃれあうようなカップルをコミカルに、時にアドリブも交えて披露すると坂本のパフォーマンスもいつも以上にハイテンション。その後で堂島がアコースティックギターを奏でながら、彼が作曲を手がけた「レコード」を一緒に歌う場面も。インタビューでも坂本が堂島のことを「本当に何でもできるんですよ!」と絶賛していたが、それを目の当たりにするような客演だった。

坂本真綾

 ここからは「今日だけのあの人が来ますよー!」と、日替わりのゲストを招く。1日目は原昌和(the band apart)がにこやかに登場し、そのままセンターステージで一人せり上がり「Be mine!」で華麗にベースを弾き倒す。デュエット曲「でも」では、原いわく「高級すぎるスナックに来てる気分」と心底楽しそうにふたりで歌ったが、アルバム『Duets』の制作を通じて「原さんと私の声の相性が本当に良いんですよ!」と言っていた通り、抜群のハーモニーを生で聴かせてもらった。2日目に登場したのは土岐麻子。デュエット曲「ひとくちいかが?」を、誰もが一聴して「素敵!」と心踊るような声で披露すると、お洒落でポップなムードが会場いっぱいに広がる。坂本も「幸せだな〜!」とうっとり。土岐に対し「私、見つめ合うと何だか女性の方が緊張します」と高揚した表情で言っていたが、1日目に汗だくの原にお水やタオルを手渡すサービスをしながら「使ったタオルは自分で何とかして!」と最後に雑にあしらっていた姿を思い出して笑ってしまった。2曲目は土岐もカバーしている「DOWN TOWN」をふたりでチャーミングに披露すると華やかなサウンドと共に幸せいっぱいのハイライトとなった。

ライブの模様

 まるでお祭りのようなひと時が終わると、再び8面LEDがセンターステージに降りてきて25周年の軌跡をランダムに辿るように「gravity」、「序曲」、「birds」と続けて披露し、じっくり聴かせた。「気付けばこの25年の間に200曲以上リリースしてきました。ライブで全てを網羅することはできなくてもみんなが好きな曲がひとつでも入っていたら嬉しいです。限られた時間の中で1曲でも多く聴いてもらいたくて、この日のためにメドレーを作ってきました」と始まった25周年メドレーでは自身のキャリアの中でも節目の一歩を踏み出した「ループ」や、数々のライブを彩ってきた「Private Sky」や「マジックナンバー」、「ヘミソフィア」や「トライアングラー」などの人気曲まで聴かせた。オーディエンスは、時に懐かしくなって心がキュンとすることもあったのではないだろうか。坂本真綾の25周年は、彼女を応援してきたみんなの25周年でもある。ファンとしての歴史がいつ始まったとしても、大好きな曲と思い出を共有しながら、みんなが2日間ここに集まったことが意義深い。メドレー最後の「光あれ」では彼女の、歌手としての風格すら感じさせる神々しさだった。〈もしも今この声が誰かに届いてるなら/手を振ってくれないか〉のフレーズで観客が手にしたLEDバンドが白く光り、みんなで彼女に手を振った。音と光のコール&レスポンスはひときわ美しい名場面だった。声を出せなくても、拍手をして、手を振って、拳を振り上げて、みんなでステージに想いを伝えた。それはステージから坂本真綾が溢れんばかりのたくさんの想いを伝えてくれたからだ。

坂本真綾

 「今回のライブは満席というわけにはいかない形で開催しましたが、みなさんがここに来てくれたことが本当に嬉しいです。ステージがせり上がったり、火が出たり(笑)、私自身お祭りだと思って準備してきました。空席に貼ってあるメッセージは、実は2日ぶんの枚数を印刷したんですが、1日目のお客さんはほとんど持って帰らなかったそうです。きっと2日目も使うだろうからとみなさんが気を遣ってくださったんだと思います。いつも人を想いやる方達に支えられているなとあらためて感じました。よろしかったら今日は持って帰ってください」。そんなエピソードにも坂本とファンの関係性をしみじみと感じた。そして今回のライブは映像収録されて後にリリースすることを発表し、「少し先の未来でこの映像を見る人へ」向けたメッセージをライブ中に話してくれたので、参加できなかった人も楽しみに受け取ってもらいたい。そんな風に坂本真綾自身がいつだってファンへの思いやりを忘れずに活動してきたからこそ、人を思いやり、マナーを守るファンばかりなんだと思う。25年という長い歳月の中でそうやってひとつひとつ、築き上げてきたからこそ、観客全員がマスクをして歓声を上げられなくても楽しい祝祭空間を生み出すことができるのだ。

 いよいよ終わりが近づいてくる。たくさんのシャボン玉の中で熱唱した「誓い」は、「10年前に世の中が大変だった時に作った曲です」と紹介された。<何を失っても 僕は生きていくだろう>という歌詞に、また新たな今とこれからへの想いを込めて歌われている気がした。そして最後は活動初期から愛され続けてきた人気曲「プラチナ」を披露して幸せ最高潮の状態で締めくくる。「また会う日まで、元気でねー!」と笑顔で最後の挨拶をすると、会場内には「ポケットを空にして」のインスト・バージョンが流れ、バンドのメンバーとみんなでステージの周りや花道をゆっくりと歩きながら別れを惜しんだ。いくつものライブでアンコールを彩ってきた「ポケットを空にして」だが、今回は坂本も観客も全員が心の中で歌っていた。今は歌うことができなくても、私たちには記憶の中のピースフルな大合唱が胸に響いていた。

 2日間でそれぞれに2時間半強、途中でステージを去っての衣装チェンジも、アンコールもなしで、しかし曲数はたっぷり、という構成にも工夫が感じられた。坂本真綾のキャリアにおいて、これまでにもライブで様々な挑戦やコンセプトがあったが、今回はシンプルに「みんなを楽しませたい!」という気持ちが伝わってきて、それが25周年記念公演だったことも何だか感慨深い。様々な困難を乗り越えて実現した、この2日間のステージはいつか振り返った時にもきっと忘れられないものになるはず。そしてタイトルの「約束はいらない」は、ファンと坂本真綾の絶大なる信頼の上に成り立つ、「またいつか会おうね」を意味する合言葉なんだ。【上野三樹】

セットリスト

坂本真綾 25周年記念LIVE「約束はいらない」 SET LIST

M01.約束はいらない
M02.CLEAR
M03.スクラップ〜別れの詩
M04.ユーランゴブレット
M05.オールドファッション
M06.いつか旅に出る日
M07.独白
M08.躍動
M09.色彩(with 内村友美)
M10.sync(with 内村友美)
M11.あなたじゃなければ(with 堂島孝平)
M12.レコード(with 堂島孝平)

【Day 1】

M13.Be mine!(with 原 昌和)
M14.でも(with 原 昌和)

【Day 2】

M13.ひとくちいかが?(with 土岐麻子)
M14.DOWN TOWN(with 土岐麻子)

M15.gravity
M16.序曲
M17.birds
M18.25周年メドレー
・ループ
・ヘミソフィア
・逆光
・奇跡の海
・Private Sky
・トライアングラー
・マジックナンバー
・指輪
・光あれ
M19.誓い
M20.プラチナ

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