さかいゆう「どんどん根を張るような年に」12年目のストーリー
INTERVIEW

さかいゆう

「どんどん根を張るような年に」12年目のストーリー


記者:平吉賢治

撮影:

掲載:21年01月06日

読了時間:約8分

 さかいゆうが1月6日、アルバム『thanks to』をリリース。通算7枚目のアルバムとなる全8曲収録の本作は、フィジカルはCDをリリースせずアナログLP&デジタルという初の試み。新曲5曲、セルフカバー2曲、ライブ音源1曲で全て新録となっている。アルバムタイトルの『thanks to』は、「このような状況だけど、おかげさまで音楽活動が出来ています」という感謝の意を表している。本作の話題を中心に、さかいゆうの2020年を振り返っての心境、10周年を経た12年目のさかいゆうのストーリーについて話を聞いた。【取材=平吉賢治】

アナログレコードは興味を持って追求するに値するもの

『thanks to』ジャケ写

――前作『Touch The World』をリリースした2020年3月あたりからコロナ禍という時期になりましたが、どのような心境でお過ごしでしたか。

 音楽制作ができていたのであまり変わらずで、むしろ音楽だけできたという面もありました。あとはカレーを作りながらずっと音楽を聴いたり、YouTubeで他の方のライブを観たりする時間がありました。同じテンポで味わいながら色んな音楽が聴けてよかったです。

――これまで聴かなかった音楽などを聴いたりもしたのでしょうか。

 けっこうしましたね…クラシックのアナログをあまり聴いたことがなかったんですけど、わりと聴くようになったり、今までCDで聴いてきたジャズの名盤たちやソウルミュージックをアナログで聴いたり。そういうのをずっとしたかったので、僕にとっては有意義な時間でした。

――今までCDで聴いてきた曲をアナログで聴く体験をしたのですが、ものによってはかなりの違いがあることに驚きました。

 全然違いますよね。別に耳に才能がないと気づかないものじゃないからアナログとCDを聴き分ける必要もなくて。とりあえずアナログの方がいいということだけ覚えていればいいかと思いますよ(笑)。「どういいのか」というのは聴く人によって違うと思いますけど、生野菜と野菜ジュースくらい違う生の感動があるので。アナログはすり減ったり、音が細くなっちゃったりすることもあるけど、そういう生き物っぽい感じもいいと思います。パートナーみたいなものですから。アナログの魅力にとりつかれた人はアナログで聴けばいいし、そうでもなくて野菜ジュースがいいという人は配信で聴けばいいし。違うということは確かなんですけど、どう違うかというのは興味を持って追求するに値するものだと思います。別にそこにこだわる必要はなくて、本当にいい音なのでアナログで出そうと思いました。

――本作、アナログと配信でのリリースというのは初ですね。A面とB面でコンセプトが違ったりするのでしょうか。

 もちろんそれもありますけど、自分がこの順番で聴きたいという風にやっているだけですね。ひっくり返した時に最初の曲が「BACKSTAY」であってほしいなとか。「こっちがこう、こっちはこう」というようなのは、この盤に関してはないです。僕が聴きたい順番です。

――本作を聴くと音が洗練されていて、楽器のパートも少な目という印象を受けました。

 そうですね。アナログで立体的に聴こえるように楽器と楽器の空間を感じられるような、そこはアナログ盤では誇張されるというか、ちゃんと立体的に聴こえるので。立体的に聴こえてよい形、音像にMIXの段階からこだわりました。

――各曲で聴けるウーリッツァーと歌も同時に録音していたりするのでしょうか。

 「Hilarious」はそうです。スピーカーの音だから「本当にそこでさかいが歌っている」という感じのコンセプトでそうしました。「井の頭公園 (Alone Ver.)」もピアノと僕とあなた、“あなた”というのはマイクなんですけど、マイクとのエアー、距離を感じるようなものにしたくてこういう創りにしましたし。立体感というのを凄く意識しました。

――音の立体感はリスニングするスピーカーによってもだいぶ違ってくるのでしょうか。

 いいスピーカーで聴けば聴くほど、いい所も悪い所も出ると思います。ベースの帯域や空気感も、アナログだったらもっと強調されますし。そういうのに僕は一つ一つこだわりました。

――すると、よいリスニング環境であるほどアナログ音源の魅力が味わえそうですね。

 リスニング会を5、6回やっているんですけど、アナログを聴いた時に「もうちょっとこうだったら本当はいいんだろうな」と思っていた所が全部そうなっているから凄く感動して。いつも聴いている同じ曲、同じMIXなのに「これはCDとアナログ、かなり違うね」と。一緒に聴いている人とも「こんな感動しなかったかも。凄いね」と、なっていましたね。

――デジタル音源でも、スピーカーで聴くのとイヤホンで聴くのとではまた違いますよね。

 「イヤホンでどこでも聴ける」という良さもありますけど、イヤホンは耳でしか聴いていないから、スピーカーで聴くと体で感じられるLow(低音域)などがあるから別物ですよね。だから僕は耳を育てるためにも体で聴くようにしています。できるだけ大きな音で聴きたいから。

――大きい音で聴くと気持ちいいですよね。

 だいたい世の中でリズム感がいい人は大きい音で聴いていますね。これは間違いないです。小さい音で聴いている人は耳でリズムをとるので。黒人さんがそうで、MIXする時は大きいスピーカーで音が割れるギリギリで聴きますから。でもうるさくないんです。出してもいいHigh(高音域)とLow(低音域)があって、うるさくないHighとLowを出すんです。そこが日本人とアメリカ人のグルーヴの違いだと思います。小さい音でMIXすると、確かに歌は聴こえるんだけどグルーヴや空気感がだんだんなくなってきますね。だからどんどん真ん中に固まってきて、楽器と歌、ギターとピアノとシンセがグシャッとなって、下の音を上げるとマスタリングに引っかかるからどんどん下の音も削って、上のよい成分も削ってMid(中音域)がキャッチーだと感じる帯域を膨らませると、どんどん歌なのかギターなのか、同じような音になってきちゃいますからね。そういう音は立体感が出ないからアナログには向いていないと思います。

オーガニックな生果実のようにパッケージ

――本作では音の立体感が凄く感じられるし、ボーカルも染み入るように体と耳に入ってきます。

 ありがたいですね。僕もそういうのを狙ったので。

――「His Story」の楽器の音もボーカルもとても生々しいと感じます。ベースも凄くプレイ感があるという印象です。

 ドラムがいい音で録れました。ベースは僕が弾いています。

――「ダイヤの指輪」の楽器のクレジットも全てさかいさんですね。この曲のコンセプトは?

 「ダイヤの指輪」と聞いて思い浮かべるのは、おしゃれな、ラグジュアリーな感じがしますけど、でもそういうのではない歌詞が書きたくて、そのギャップがいいなと思って。言葉とメロディの立体感、いい意味で言うギャップが音楽を広げてくれる時もあるなと思いまして。「『ダイヤの指輪』だからおしゃれだろうな」と思って聴いたら、めちゃめちゃフォーキーなピアニカの入った曲で、そういう楽しみ方を僕はしています。

――「崇高な果実」を聴くとシリアスな情念を感じます。歌詞のテーマとしては?

 これは売野雅勇さん作詞で、テーマは「戦火」ですね。僕と売野さんによる魂の1曲、「このコロナ禍で今一番伝えたいことを書いてください。何でも歌いますから」と言って出来た曲です。

――コロナ禍という現状に向けて書かれた曲?

 そうです。これは本当に売野さんに「今何を感じますか、何を叫びたいですか?」みたいなディレクションだけしました。

――なるほど。Side Bの1曲目「BACKSTAY」についてですが、アンサンブルがシャープな編成ですね。

 これはウーリッツァーとドラムです。途中で僕がベースを弾いてますけどね。膨らます程度に。僕とドラマーの望月敬史君との背もたれ合い、支え合ってという感じのアレンジですね。彼にも「自分が感動するドラムでお願いします。何でも叩いていいから」と言ってこういうアレンジになりました。

――生々しい演奏感が感じられました。

 こういうオーガニックな、有機的な生野菜、生果実のようにパッケージできたらいいなと思いまして。

――ジャケットデザインからもそういったテイストを感じられます。「Magic Waltz (A Capella Ver.)」についてですが、ボーカルの多重録音は全てさかいさんの声で?

 そうです。30声くらいかな? 全て一人で録音しました。

――「井の頭公園 (Alone Ver.)」の“アローンバージョン”というのは?

 一人でやっているからです。原曲がわりとアコースティックなアレンジなので、一人でスタジオで練習しているような感じで録ったら凄くいい音になって、弾き語りも入れてみようと思って。「Hilarious」もそうですね。

――「ウシミツビト(molmol ReMix 2021)」はアナログ盤には収録されていない配信のみのトラックですね。

 これは、いわゆる切ったり貼ったりみたいなリミックスではなく、アコースティックな感じのまま2021年に聴けるような新しい音で、新しい機材を通したものです。今に応じた2021年の人達に聴き馴染みのよいアコースティックバージョンということで。

12年目の“さかいゆうのストーリー”とは

『さかいゆう DUO TOUR "Touch The World & More" at SHIBUYA CLUB QUATTRO on 2020.8.4』

――『さかいゆう Public Hall Solo Concert 2021 “thanks to”』はどのような公演の展望でしょうか。

 心を込めていい音のグランドピアノで弾き語りをさせて頂きます。久しぶりのアコースティックピアノの弾き語りのライブで凄く楽しみにしています。

――ところで、さかいさんがコロナ禍になってから芽生えた想いなどはあるのでしょうか。

 歴史的には今は嵐ですからね。しかも天気予報とは全然違う嵐という。やっぱり、嵐の時ほどじっくりと根を張って倒れないように、みんな手と手を取り合って、そういう風に生きればいいんじゃないかと思います。去年は“自粛警察”という言葉も出ましたけど、それはこう考えてもいいと思うんです。世の中には悪というものがあるというより、それぞれの思っている正義がぶつかっている時期で、それが嵐をつくっているのかなと。その人も延々とそうではないと思うし。分断ではなく、相手を理解することが大事だなと思います。

――なるほど。ラストトラックとしてアナログ盤には収録されていない配信のみの「ストーリー(Grand Street Ver.)」があり、ここでは<11年目のさかいゆうのストーリー>と歌われていましたが、どのようなストーリーになりそうでしょうか。

 僕もわからないです。わかっちゃうとつまらないし、どんな未来が来てもみんなで助け合って、音楽の力を借りて、落ち込んだりしてもいいから淡々とノーマルに生きていければ、こんなに素敵なことはないだろうと思います。高くは望まないですね。大きな夢より、上に行くより、どんどん下に根を張るような、そういう年にしたいですね。この「ストーリー(Grand Street Ver.)」は2019年に録音したので、実はもう12年目なんですけどね。(笑)

(おわり)

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