2020年『第71回NHK紅白歌合戦』の大トリをかざったMISIAの「アイノカタチ」のパフォーマンスは圧巻だった。“日本の歌姫”と表現するにふさわしい圧倒的な歌唱で人々に愛のエールを送ったMISIAの魅力について、紅白のステージを振り返りつつ触れたい。【平吉賢治】

 歌唱という点にフォーカスすると、アーティストが人々を感動させるにはいくつかの要素があると考えられる。MISIAは紅白歌合戦の大トリという晴れ舞台で魅了し、文句なしの感動を日本中に波及させた。なぜ、あれほどまでに人を感動させることができるのか。その要素としては以下の点が挙げられる。

歌唱力

  “5オクターブの歌姫”とも呼ばれることのあるMISIAは周知の通り、天下一品の歌唱力の持ち主。デビュー曲「つつみ込むように…」(1998年)から、MISIAの実力は一気に世間に知れ渡った。イントロおよび後奏の“ホイッスルボイス”を聴き、楽器の音ではなく肉声と知り驚愕したリスナーは少なくないのではないだろうか。

 同楽曲で聴けるメロディアスな歌い回し、圧巻の声量、グルーヴ感、ハイトーンのボーカルフェイクに何種類も使い分けるビブラート、そしてMISIAだからこそ悠々と歌い上げるが、楽曲をアナライズすると見えてくる曲そのものの難しさがありながらも歌いこなすボーカルスキル。それは、MISIAの代表曲「Everything」(2000年)からも、紅白で披露された「アイノカタチ」(2018年)にも同様のことが言えるだろう。

 さらに、MISIAのボーカルは発声のアタック音が多種多様かつダイナミックだ。優しく歌い出す部分、鋭くリズミックに歌う節、弦楽器のボーイングのようにフェイドインする歌い方など、歌詞に寄り添い、サウンドやコード感に適した発声が何種類も聴け、全ての音楽の要素のポテンシャルを最大限まで引き出しつつ歌唱をしている。

表現力

 「表現力」は、ボーカリストにとって生命線と言えるかもしれない。ソウル、R&B、ゴスペルといった音楽の歌唱のテイストが膨よかに放たれるMISIAの表現力は、あまりにもレンジが広い。そして、唯一無二と言えよう声の倍音成分。さらに音程に着目すると、当然大きく外すようなことはないのだが、精密に分析しないと判別不能なほどの絶妙で心地よい“ゆらぎ”があり、人を恍惚とさせる“歌”として心に染み入る。

 例えば、同じ「C=ド」の音を歌う時でも、場面のアンサンブルや曲調、前後の繋がりを考慮し、実際の“ジャスト「C=ド」”よりも若干高かったり低かったりするボーカルで歌うこともあると思われ、結果、それがベストな“歌”として人の心に届くという高等技術を駆使していると感じられる。これは、例として他のボーカリストを挙げると、圧倒的な歌唱力で人の心を掴む美空ひばりさんや、スティーヴィー・ワンダーの歌からも、同じことを感じることができるのではないだろうか。

抑揚と、五感では感じられない要素

 MISIAの歌の「ダイナミズム」、抑揚は、まるで一編の映画を観ているかのような壮大さと起承転結がある。MISIAは紅白のステージ上で、アンサンブルを包み込むように、愛を手繰り寄せるように、全身と表情で音楽の力をフィジカルに表現しつつ、パーフェクトとも思える抑揚で、リスナーの心の琴線を撫でるように、揺さぶるように、慈愛の心で包んだ。

 そして、これは感覚的要素ではあるが、「誰もが『理由はわからないが、よい』と感じる不確定要素」である。歌唱のみならず、例えばギターのシンプルなフレーズを弾いて、「この人が弾くとなぜか格好いい」ということがある。言い換えると、人間の五感ではキャッチできない“フィーリング”だろうか。

 これは、訓練によって出せる場合もあればそうでない場合もある。えもいえぬ素晴らしい“味”を表現して、あるいは無意識に滲み出し、人に伝えることができるということは、生まれ持ってきた“ギフト”なのかもしれない。非常に感覚的な要素ではあるが、MISIAにはこの要素も大いに持っているように感じさせ、時に歌の一声で鳥肌を立てさせられる。

 「歌唱力」「表現力」「ダイナミズム」「不確定要素」、もちろん他にもあると思われるが、少なくともMISIAの歌唱からはこれらを多大に感じさせ、その全てを2020年の紅白歌合戦大トリという大舞台で出力したと感じさせてくれた。MISIAの底知れぬ音楽力と人間力、そして唯一無二の“歌姫の魂”が“アイノカタチ”として広がった。日本中に、世界中に愛のエールを送った。魂を震わせる圧倒的なMISIAの歌唱は、今を生きる我々の宝物と言えるのではないだろうか。

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