INTERVIEW

谷垣健治

挑戦に終わりはない。
世界で活躍するアクション監督


記者:木村武雄

写真:木村武雄

掲載:20年12月29日

読了時間:約9分

 映画『るろうに剣心』のアクションは邦画に大きな影響を与えたと言われている。そのアクション演出を手掛けたのが谷垣健治氏(50)だ。ジャッキー・チェンに憧れ、22歳で単身香港に渡り、多くの作品に携わった。今やアクション監督として世界で活躍する。その谷垣氏が監督を務め、師匠と仰ぐドニー・イェンが主演する映画『燃えよデブゴン/TOKYO MISSION』が来年1月1日に公開される。東京を舞台にドニー演じる刑事・フクロンが巨大な陰謀に立ち向かう。『ポリス・ストーリー/香港国際警察』を連想させる作風だが、そこには狙いがあった。【取材・撮影=木村武雄】

ザ・香港映画を現代に

――本作を製作に至った経緯は何でしょうか。

 6年前に、太ったドニーと痩せたドニーで追いかけっ子をするCMの監督をしました。その時に太ったドニーのキャラが意外と好評だったので「映画にしよう」と言われて出来たのがこの作品です。太ったドニーで東京を舞台にアクションを撮る、って何かワクワクしません?中国のタイトルも『燃えよデブゴン』を使った方がキャッチーだと思い、タイトルに採用しました。

――『ポリス・ストーリー/香港国際警察』などを連想させる作風ですね。昔の香港映画という印象です。

 僕らの世代が観て育った香港映画は、カンフーものが淘汰されて、現代劇のアクションコメディがすごく多かった時代ですね。アクションコメディって香港映画を代表する1つのジャンルですよね。子供の頃に見たものは、すごいアクションとゆるいコメディいうのが同居して成立しているものでした。そういうのが香港映画の代表的なものだったにも関わらず、ここ数年は香港でもなくなってきて、撮れる人もアクションをやれる人もいなくなっている。やがて滅びゆくジャンルですね。ですので、そのあたりはかなり意識しました。サモ・ハンの『燃えよデブゴン』は1978年に制作されてまして、そこからタイトルをもらったのもそういった経緯になります。

――サモ・ハンさんには話をされた?

 サモ・ハンはこの映画にゲストで出る予定だったんですけど、撮っている間に設定が変わってしまって。

――子供の頃の感覚を思い出しました。その頃のようにゲラゲラ笑い、食い入るようにアクションを見て。

 僕らの世代は、『燃えよデブゴン』や『酔拳』、『蛇拳』などを面白く感じていましたが、今の子供たちに『燃えよデブゴン』を見せてもまた違うと思うんです。フィルムのざらつき感であったり、昔の香港の街の感じとかが「怖い」と感じるかもしれない。全員がそうではないと思いますが、僕らが子供の頃にブルース・リーの映画を観て、「ちょっと物騒なところのおっかない人たち」と感じたのと同じ感覚があるかもしれない。僕らがその頃に観て楽しんだようには今の子供たちには楽しめないと思うんですよ。そういう意味では『燃えよデブゴン/TOKYO MISSION』から入ってもらった方がいいかもしれないですね。

――ところで、監督は若い頃から香港で映画制作に携わっていましたが、当時のアクションは、事前に説明もなければ絵コンテもほぼなくて、現場で言われて即興でやることが多かったそうですね。現場で決めたり、あるいは変わるといったことは本作にもあったのですか。

 全部そうなんですけど(笑)、特にエンディングの東京タワーのシーンはそうです。場所の設定が東京タワーからテレビ局に変わり、そして元に戻ったんですよ。架空のテレビ局を作るのも大変ですし、テレビ局のスタジオセットで戦っても、ただのセットワークにしか見えないですからね。それだったら外で戦わせた方が良いと。

――東京タワーもそうですが、新宿を模倣したセットも規模が大きいですね。

 実在する歌舞伎町で撮れたらいいですけどね。でも、ああいうアクションシーンとなると、すごく頑張ってもちゃんとした画は撮れない。やっぱり制限が出てきますから。それなら発想を変えて中国に架空の歌舞伎町をセットで作る。東京タワーも同じで中国に一部分を再現するほうが現実性はがあると思い、実際に巨大セットを作って撮影をしました。

 それもただ、再現させるのではなく、アクションしやすいように美術スタッフが作ってくれます。例えば、僕らは絶対に瓦の上を走りたいと言い出すだろうと見越して瓦をウレタンで作ってくれて。そういうところも香港のスタッフはアクションに慣れていると思います。

――香港にはアクションを撮りやすい土壌が出来上がっているんですね。

 その通りです。武器も当たっても大丈夫なものを用意して、その代わり当てる時は本気で当てます(笑)。オープニングのバンの中でのアクションも実際の車内では小さすぎるので、アクション用に一回り大きな車両を作ってもらいました。

谷垣健治氏

ラスボス・丞威の起用理由、シャープさ

――さて、ドニーさんが演じるフクロンの好敵手・島倉を、『HiGH&LOW THE MOVIE 2/END OF SKY』や『孤狼の血』にも出演された丞威さんが演じています。起用の理由は?

 日本のスタントマンに「日本の俳優でアクション上手いのって最近だと誰がいる?」と聞いたら、結構な割合で彼の名前ができてきたんですよね。プロのスタントマンが認めるアクション俳優。ダンスもできるし何でもできる。丞威はとてもアグレッシブなアクションをするんですよ。段取りっぽくないアクション、本気でやっている感じが出せるのがいいですね。

 最初はこういう映画だから、最後はどっしりとした風格のある人をキャスティングで考えていました。そんな時に、韓国映画『ベテラン』のリュ・スンワン監督と対談したときのことを思い出して。『ベテラン』を観たら主人公は40代の刑事なんですが、相手が20代のスマートなヤングエグゼクティブなキャラクターで。ユ・アインさんが演じていましたが、今回はそのパターンでいけるな、って。つまり、ドニーが巨漢という設定だから相手はスマートで若い方がいいと。

 丞威は日本語よりも英語の方が得意というぐらいだから現場でも普通に馴染んでいましたし、ドニーも丞威のいい所を出そうとしましたし、やりやすかったようです。アクションシーンを作るセオリー的なことになりますが、「活かして殺す」ってよくいうんですね。相手の良い所を引き出して上げつつ最後は自分が勝つ。そうすることで更に強く見える。ブルース・リーの場合は「殺して殺す」になってしまいますけど(笑)。ジャッキーとかは一回ちゃんと相手を受け止める。アントニオ猪木氏の「風車の理論」と一緒です(笑)。活かして殺すということなので、丞威がシャープに見えれば見えるほどドニーは最後の肉弾戦で活きてくる。そういうのが実際に功を奏したので、今回のコラボレーションとしては彼を選択して良かったと思います。

――ジャッキー・チェンさんやドニーさんにはそれぞれのアクションのスタイルがあると思います。では丞威さんは?

 現場ではシャープにと言いました。ドニーはすばしっこくて重みがあるので、丞威はカミソリみたいな感じでと。蹴りもそうです。最近の映画は軍事格闘技系のアクションが多い印象ですが、あれは少し練習したら、みんなそれなりにうまく見えるんですよね。でも蹴り技は、そうはいかない。柔軟性、距離感、タイミングなど相当練習が必要ですから。その点、丞威はいろんな流派の空手も経験していて脚のラインもシャープなので良かったと思います。十手はプロデューサーで脚本も担当したウォン・ジンが、日本が舞台だし最近十手アクションを見ていないので、見てみたいということだったので、丞威にやってもらいました。

谷垣健治氏

活躍の場を広げるアクション

――さて、監督は過去のインタビューで中国語も分からないまま香港に飛び込んで、最初は戸惑いもあったけど、だんだんそういう困難な壁も楽しくなってきたと言っていました。

 本音は、楽しくはないけど、楽しむしかないですね(笑)。

――当時から話していたアクション監督をやりたいということを叶えて、今のご自身の立ち位置をどう感じていますか。

 アクション映画を作り続けるしかないので、立ち位置は変わっても根本は同じです。アクション映画をずっと作って、さらに色んな国に呼ばれ、そこで望まれるアクション映画を作るということに尽きます。

――年を重ねて変わってきたと感じるところはありますか。

 当時はすごく恵まれた時代だったんだなと感じます。何も持たないで行ったというのはありますが、香港人はよそ者に対してすごく優しかった。よそ者を受け入れて面白がってくれた。だから僕も頑張れました。日本では、映画『修羅雪姫』(2001年公開)で帰って来た頃は、まだスタントマンの仕事だけで食べていけるようなイメージもありませんでしたが、今ではたくさんの人間が食べていけるようになったのは良いことだなと。

 アクション映画を撮り続けていますが、面白いのは砂漠にレールを敷く行為というか。邦画のアクションがまだ僕らのやり方が主流じゃなかった頃と比べて、いろんなアクションが生まれてきて、「るろ剣」や「HiGH&LOW」『キングダム』もそうですが、ああいうアクションが出てくることでスタントマンの活躍する場が増えているのは嬉しいことだと思いますし、面白い。

 去年だと、『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』の撮影をカナダでやりましたが、最初は普段の自分の体制に持っていこうとするけどできない、でも主張をしっかりして、相手のやり方を尊重しつつも肝心なところは強引に出て、最後には実力で認めさせる。その過程でお互いを深めていくというのは面白いですね。

――そう考えると今の邦画はかなり浸透されていますね。

 まだ全然ですけど、撮りやすい状況にはなっているんじゃないかなと思います。

――最初に『るろうの剣心』を観たときにすごく驚いて。漫画への敬意がアクションにも表れていると感じました。

 正しい実写の在り方というのはどういうことかという事を監督やスタッフと探りました。

――あれが成せたとき感動はありましたか。

 そりゃそうですよ。だって僕らみんな褒められたい病というか、「観て観て!」っていう人達だから。自分達がイケていると思ったものを世間がイケていると思ってくれたら嬉しい。その繰り返しでやっているようなものですよね。

谷垣健治氏

世界へ

――ご自身の人生で、香港に行った当時が第一ステージだとしたら、今はどのステージにいますか。

 また第一ステージに戻ってきたような気がします。20代は必死に頑張って冒険している。30代はやりたいことはあるんだけどそこに到達しないというか。やりたいことの枠が与えられない事もあります。その時期に蒔いたタネがいろいろ開花して40代は割と充実したことをやらせてもらいました。

 『るろ剣アクション』と呼ぶ人もいるようですが、でもそれ以降の邦画作品が全部『るろ剣』ぽくなってきて、逆につまらないと思い始めている自分もいます。それと去年初めてアメリカ映画をやって、いろんな人との出会いもあり、アメリカの監督協会にも入りました。また身一つで向こうの人たちを驚かせたいという思いも芽生えています。

 小学校から転校生だったのでよそ者というかよそ者の気楽さで香港にいるときは日本人の振りをして好きな事をやって、日本に戻ってきたときは香港人の振りをして好きな事をやって(笑)、逆に自分のやりたいことが望まれるようになると居心地悪くなって全く知らない所に行きたくなるというか。

 来年なんかはインドあたりでもやってるかもしれませんね。未知なところに行って、やりたいアクションをやれたら面白いかなと思います。

――インド映画のスタイルでやるのではなく、自分達のスタイルを?

 もちろんインドの方から呼んでくれるわけですから基本は尊重しつつも、迎合するだけだといく意味がないですから。そこで彼らのスタイルと自分達のスタイルが混ざるとまた新しい化学反応が生まれるかもしれない。知らない人と仕事をしたいですね。知っている人とやる面白さはもちろんありますが、知らない人とガシガシやりたい。

――可能性がどんどん自分の枠を超えていきますね。

 それはアクションの分野ならやりやすいと思うんです。役者さんだったら言葉の壁はありますが、アクションはアクションなので飛び込みやすい。だからそうした言葉の壁を越えて世界へどんどん行きたいですね。

谷垣健治氏

(おわり)

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