坂本真綾「悪い時は永遠に続く訳じゃない」いま届けたい希望の光
INTERVIEW

坂本真綾

「悪い時は永遠に続く訳じゃない」いま届けたい希望の光


記者:榑林史章

撮影:

掲載:20年12月08日

読了時間:約13分

 歌手・声優・女優の坂本真綾が9日、シングル「独白⇔躍動」(正しくは「→」型の双方向矢印)をリリース。「今までで一番救いの無い歌詞」と自ら評する「独白」、4人組ロックバンドのユアネスを作曲・編曲・演奏に迎えた「躍動」、そして2018年のヒットナンバーのアコースティックバージョン「逆光 -unplugged session-」と、書き下ろしの新曲「いつか旅に出る日」を収録。「逆光 -unplugged session-」は自粛期間の直前にレコーディング、「いつか旅に出る日」は自粛期間中に作曲した楽曲で、今の時代だからこそ生まれた未来に託す願いが込められ、包み込むような歌声を聴かせている。今年歌手デビュー25周年イヤーを迎えた坂本がこのシングルに込めた想いや、コロナ禍で感じたことなどを聞いた。【取材=榑林史章】

今までで一番救いの無い歌詞

「独白⇔躍動」MAAYA盤ジャケ写

――まず「独白」は、映画『劇場版 Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット- 前編Wandering; Agateram』の主題歌でもありますね。

 とても難しいと感じたのは、物語が結末まで行かずに前編で終わるというところです。前編は、すごく残酷なところで一旦終わるんです。

――ああ、それでこういった何とも救いのない感じに。

 後編のネタバレになってはいけないし、観客の心情として、「こんなに絶望的状況で、この人は一体どうなるの?」という、続きを楽しみにしつつも、余韻としてザワザワした気持ちでエンディングテロップを見つめているところで流れるんです。監督からのオーダーも「主人公の睨み付けるような険しい表情の部分にそっと入ってきて、曲の後半は映画の後編が早く見たくなるような煽りが欲しい」という、とても難しいものでした。それをすべて叶えるミッションに挑んだ曲、という感じです。

――その難しいミッションを完遂してくれたのが、作曲・編曲の内澤崇仁(androp)さんですね。

 はい。以前ご一緒にした「レプリカ」も素晴らしく、その時は内澤さんがandropで普段やられている音楽の延長線上に近いような楽曲でしたが、今回は作品とオーダーにすごく寄り添ってくださって。いつもの内澤さんのテイストともちょっと違った、プロの作家としての技をいっぱい見せてくださったものになって、すごさを感じました。

――どんどん曲の雰囲気が変わって、最後はクラシックとロックが融合したような混沌とした世界になっていきます。こういう音を入れたいとか、サウンド感に関して坂本さんからも提案を?

 やっぱり映画の主題歌ということで、派手さも欲しいし、物語的にいわゆる現代劇ではなく、中世の香りもする作品なのでクラシカルな雰囲気と言うか、弦のアレンジもスケールの大きなアレンジが良いですねというお話をしました。

――坂本さんが書かれた歌詞は、非常に哲学的な雰囲気を感じました。

坂本真綾

 いつもの自分の楽曲であれば、余韻が暗いものにはならないようにとか、どこかに救いがあったり、それでも前に進むみたいなところに結論を持っていきたくなるタイプなんですけど…。今回はそれを一切やめて、ただただ胸の内を吐露して、きれいにまとめたり格好つけたり、良いこと言おうと思わないようにしよう、と。

 それで「独白」というタイトルで、何かに悲しんだり苦しんだりしている時は胸の中が嵐のようになっていて、そういうことって人間誰でもあるから、吐き出すということそのものが、言葉にしなくてもある種の救いになるかもしれない。吐き出すことが救いになるのなら、今回それをやっても良いんじゃないかと思いました。

――新たな作詞の手法にチャレンジしたみたいなところがあったんですね。

 そうですね。今までで一番救いの無い歌詞ですが、不思議と暗いのか明るいのかひと言では言えない雰囲気を持っていて、いろんな心情がない交ぜになっているものが合う曲だったので、歌ってみると妙にスッキリする感覚があるんです。歌い終わった時に、全部出し切って空っぽになれるような壮快感が不思議とあります。決して暗いだけの後味にならないのは、曲の力なのだろうと思います。

――MVもすごくシンプルで。

 曲としての情報量や音の圧が大きいので、映像では逆に引き算の手法で心の中のいろいろな部分を、いろいろな色で表現しています。こういう曲はつい眉間に力が入ってしまうので、なるべく眉間に気をつけながら映るように心がけました(笑)。

難しく考えずに楽しんでくれたら

坂本真綾

――もう1曲の「躍動」は、スマートフォン向けゲーム『Fate/Grand Order』第2部後期主題歌です。ロックバンドのユアネス・古閑翔平(Gt)さんが作曲、ユアネスが編曲・演奏。ユアネスはバンドシーンで注目されている若手で、面白いところに目を付けたなと思いました。

 彼らのアルバムを聴いた時は、曲の中に語りみたいなものが入っていたり、映像もアニメーションのものがあったり、ストーリー性のある曲やアルバムの作り方をしていて、そういうところに共感できました。文学青年的な繊細な部分とロックバンドの強い部分の両方があって、すごく知的な感じのする世界観が好みで、若いのにすごく様々な引き出しを持っていそうな、これからもっともっと注目されていくだろうなという感じがありましたね。接点は無かったんですけど、ディレクターから薦められて突然門を叩いてみたら、すごく喜んで受け入れてくださって。

――それは喜びますよね。ユアネスは、黒川侑司さんのボーカルも独特です。

 声が本当に魅力的ですね。ギターの古閑さんが作曲をしてくれているんですけど、すごく気合いを入れて作ってくれました。ゲーム『Fate/Grand Order』の主題歌を担当する第三弾で、これまでの「色彩」と「逆光」がとても好評だったので、それを越えていかなければというプレッシャーもあったようですが、非常に自由で、ユアネスらしさも出してくれて、すごく良い曲になりました。

――ユアネスのメンバーには、どういったオーダーを出したのですか?

 一つお願いしたのは、とにかく楽しんで欲しいということ。楽曲提供は初めてということもあってか、初対面の時からすごく緊張されていたので、あまり難しく考えずに楽しんでくれたらそれが一番だとお話をさせていただきました。あと、攻撃的で切羽詰まったシリアスな激しさよりも、どこか明るさとヌケ感がある曲が良いなというお話をして。その結果すごく面白い構成の曲を上げてくれて、2番でまったく新しいメロディが出てきたりというのも、彼らが考えてくれたアイデアです。そのぶん歌詞の書きがいがあって楽しかったですね。メロディ自体もつぶやきのような、セリフのようなメロディで、歌うのも楽しかったです。

――ユアネスらしさもありながら、坂本さんらしさや『Fate/Grand Order』らしさもある。

 はい。できればいつか、ユアネスのみんながこの曲をセルフカバーしてくれたら嬉しいです。作詞をする時も「ボーカルの黒川さんの声でもこの曲を聴いてみたい」と思いながら書いたので。もともと彼らの曲は女性的な視点の曲が多いので、主人公が私であったとしても違和感なく歌ってくれるだろうと思うんですけど、あえてジェンダーには縛られないように歌詞を書きました。ユアネスバージョンも絶対聴いてみたいです!

――今作は「独白」と「躍動」で、それぞれで歌っている願いみたいなものが、表裏一体のように感じました。それでタイトルも「独白⇔躍動」と、両方を向いた矢印になっているのかと。

 同じ作品なので、どうしても歌詞のテイストとしては似てしまいがちですけど、今回は同じ作品ではあるけど、ぜんぜん違う時間軸のお話なので、両矢印はどっちから入っていただいても良いという意味で、受け取ってもらっても良いと思います。

――あと『Fate/Grand Order』シリーズのタイトルは、漢字二文字縛りで踏襲されていて。

 これまで「色彩」「逆光」「空白」と、どちらかと言うと無機質的なものや現象を示す単語だったんですけど、「躍動」という二文字になると、そこに振動が伝わる何かが感じられて、日本語は面白いなと思います。たった二文字でいろんなものが表現出来るので、毎回タイトルを考えるのが楽しいです。光を感じる言葉もあれば振動を感じる言葉もあって。今後も五感を刺激するタイトルを付けられたら良いなと思っています。

ネットで見た景色に満足しないで

「独白⇔躍動」FGO盤ジャケ写

――FGO盤のカップリングには「逆光~unplugged session~」を収録しています。

 レコーディングは自粛期間に入る直前に、スタジオでせーので録りました。振り返るとああいう感じでみんなが集まってレコーディングしたのは、それが最後でした。レコーディングが再開してからも、一人ずつミュージシャンを呼んで録ってもらうやり方になっているので。そう考えると、とても貴重な体験であの時に出来て良かったなと思う音源になりました。11月に開催したツアー『坂本真綾 IDS! presents Acoustic Live & Talk 2020』でも、同じメンバーで「逆光~unplugged session~」を演奏したのですが、また一緒に音楽が出来て良かったなって感慨深かったですね。

――そしてMAAYA盤には、新曲「いつか旅に出る日」を収録。歌とピアノとコーラスのみのシンプルな曲で、坂本さん自身が作詞・作曲、河野伸さんが編曲です。地球規模の広い視点で、今の状況に対する憂いも感じるし、次の世代に託す希望も感じられました。この曲を作ったきっかけは?

 4月の緊急事態宣言の時の、おうち時間に作った曲です。いろんな思いがあるんですけど、自分の好きな時に自由にどこかに行ったり、会いたい人に会えるのが普通だと思っていたことが、とても懐かしいことのように思えて。それがいつまた自分の手に戻って来るのか分からない寂しい気持ちもありましたし、仕事的にもこの後の舞台やツアーがちゃんと出来るのか、先々のことが分からないことが不安でした。そんな時に自分でどんな音楽が聴きたいかと言うと、ただ頑張れという応援ソングでも寂しい曲でもなく、「悪い時は永遠に続く訳じゃないよね」って、何となく一緒に励まし合ってくれるような曲が良いなという感じがして。自分が聴きたいと思う曲を書いたつもりです。

 そこでたまたま思い浮かんだのが、2年くらい前に一人旅で行ったクロアチアの景色です。まさしく歌詞の通り、城壁の上から朝日が昇るのを見たんです。戦争とか内紛が多い地域だったけど、今はすっかり観光地になっていて、いろんな歴史を乗り越えて、こんなに美しい朝日が平和に昇ってくる街になっているのは、すごく素敵なことだなと思いながら朝日を見たことを思い出しました。今は大変な時だけどいつか振り返ってみたら、ちゃんと乗り越えてきたって言える日がきっと来るはずだという希望。また、今は小さい子どもたちが、遠くへ行ったり人と抱き合ったりすることが怖いと思ってしまうような、価値観が根付いてしまわないうちに、世界が元に戻って欲しいという気持ち。そして子どもたちに向けて、何にでもなれて行きたいところに行ける、本当はそういう世界なんだよと言うことを、歌いたいという気持ちで作りました。

――間違った価値観が植え付けられることで、子どもの感性に対する弊害も出てきますよね。

 今は配信がとても便利で、どこにいても世界中のすてきな景色やライブが見られるので、外に出かけなくても良いと思うようになってしまうかもしれないですから。でも私自身は旅が好きで、いろんなところに行って実際に見た景色って、どんなに写真に撮っても、その時の感動までは残せないくらい、自分の眼で見たものは鮮烈に残っているんです。ネットで見た景色で満足しないで、出来ればどんどん外に出かけて実際に見て欲しい。せっかくこんなにきれいな星に生まれたのだから、それが出来る日が早く来るようにと願いを込めています。

――旅行はけっこう頻繁に行かれるんですか?

 撮影とかお仕事にかこつけて、自分が行きたいところに行かせていただいたことも含めて、一時期は年に1度は海外に行っていた時期がありました。プライベートでも1カ月くらい長期で休んでヨーロッパに行ったり。日本は島国なので海外に行くのは大変で、だからこそ憧れもあるし、それによって発想が沸いて音楽に戻ってくる部分もあるので、すごく大事な時間です。

――人があまり行かないようなところにも?

 クロアチアに行った時に、お隣のスロベニアにも行きました。たまたま日本人の3%しか行かない国だと聞いて、じゃあ私もその3%の一人になりたいと思って(笑)。すごく小さい国なんですけど、歴史があってすごく風景が美しくて。

――次に行くならウユニ湖とか砂漠ですか?

坂本真綾

 歌詞は完全にウユニ湖です(笑)。行ってみたいですね。砂漠は…一度エジプトに行ったんですけど、中東の暑さと乾燥、何よりラクダの匂いが…(笑)。モロッコは一度行ってみたいです。

――さて、今年も残りわずかですが2020年はどんな年でしたか?

 昨年の大晦日はカウントダウンライブを開催して、今年はライブとともに賑やかに始まって、その時はこんなに大変な年になるとは思いもしませんでした。ただ私個人としては25周年という節目の年で、ありがたいことに『シングルコレクション+アチコチ』や今回のシングルもリリースし、ツアーもできました。ミュージカルで久しぶりにお客様の前に立った時は、「帰って来たぞ」という気持ちで最高の瞬間でした。こうした状況でもいろいろやらせてもらえたことは幸運で、たくさんの人に支えてもらっていることを改めて感じて、感謝の気持ちが自然と湧いてくる1年だったと思います。「いつか旅に出る日」はすごく気に入っていて、こういう曲が書けたのだから、大変な出来事も良い影響ということで形に残せたのは、私にとっては良かったなと思っています。

――カウントダウンライブでいただいたおみくじクッキーを開いたら、「ジワジワくる」と書いてあったんですけど。

 あははは。適当なことを書いてすみません(笑)。でも、その時は本当に良い気配がしていて「良い年になるぞ」と思っていたので。あと1カ月あるので、きっとこれからですよ。私自身も25周年イヤーは来年4月までで、あと少し節目を感じてもらえるような楽しい予定も考えています。今は来年の楽しみなことを準備していて、準備は大変ですけどすごく良い予感がジワジワときています!

(おわり)

作品情報

坂本真綾
「独白⇔躍動」
<FGO盤>初回限定盤(CD+BD)3000円+税/VTZL-180
     通常盤(CD)1400円+税/VTCL-35324
<MAAYA盤>(CD)1400円+税/VTCL-35323

CD収録内容

01. 独白 (「劇場版 Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット- 前編 Wandering; Agateram」主題歌)
02. 躍動 (スマートフォン向けゲーム「Fate/Grand Order」第2部後期主題歌)
03. 逆光~unplugged session~(FGO盤のみ収録)
03. いつか旅に出る日(MAAYA盤のみ収録)
 他、01、02のインストルメンタル収録
※FGO盤とMAAYA盤で、01、02の曲順が異なります。

BD収録内容
坂本真綾×Fate/Grand Order 5th Anniversary Special Live
01.オープニング
02.色彩
03.逆光
04.MC
05.躍動

公演情報

坂本真綾 25周年記念LIVE
2021年3月20日 神奈川・横浜アリーナ
2021年3月21日 神奈川・横浜アリーナ

プレゼント情報

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坂本真綾サイン色紙

【応募方法】

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・12月9日〜12月16日23時59分まで。

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