INTERVIEW

萩原みのり

その先の未来のために。私の原動力。
念願共演『佐々木、イン、マイマイン』


記者:木村武雄

写真:冨田味我

掲載:20年11月27日

読了時間:約10分

 萩原みのり(23)が、映画『佐々木、イン、マイマイン』(11月27日公開、内山拓也監督)に出演する。細川岳の高校時代の同級生とのエピソードが原案。脚本は内山監督が手掛けた。俳優志望の悠二と圧倒的存在感を放つ同級生の佐々木、その仲間たちの過去と現在を通して、青春時代特有のきらめきと戻らない日々への哀愁を描き出す。萩原は『ハローグッバイ』(17年)や『13月の女の子』(20年)などで高く評価され、20年は6本の映画作品に出演、21年春には今泉力哉監督の最新作『街の上で』を控える。本作では、悠二(演・藤原季節)と別れた恋人・ユキを、絶妙な感情表現で好演している。もともと親交のあった藤原とは念願の初共演で、自然体で臨むことができたという。コロナ禍で考えも変わったという彼女が本作にどのような思いを重ねたのか。女優・萩原みのりの今に迫る。

どこかで繋がっている、距離感の秘密

萩原みのり

これまで、学生の役柄が多かった萩原が本作で挑んだのは26歳のユキ役。実年齢よりも年上を演じること自体が初めてで当初は不安もあった。

 「できるかなという不安はかなりありました。今までは実年齢より下に見られることが多くて学生役が多かったので、まだできないんじゃないかと思いました。若い子が背伸びしたように映ってしまうのではないか、説得力を持たせることができるのか、大丈夫かなと」

そのようななかで、どう説得力を持たせようと思ったのか。鍵となったのは悠二を演じた藤原季節。

 「季節さんは、10代の頃からお世話になっているお兄ちゃんのような存在です。5年の仲ですが、今までお仕事を一緒にしたことがなくて今回やっとそれが叶いました。そうした今まで積み重ねてきた1日1日を信じて変に背伸びせず、悠二とユキとしてそこに存在することが出来たら説得力が出るのはないか、それを信じて挑みました」

悠二とユキは、元恋人ながら依存し合っている関係性だ。つかず離れずの微妙な距離感や空気感を2人は見事に表現している。

 「季節さんへは普段からすごく頼りにしていて、お互いにかっこ悪いところも知っているからこそ、受け止め合っている感じがちゃんと映っているかなと完成した作品を観て思いました。ただ、撮影に入る前にどう演じるかは話し合っていないです。私の方が、クランクインが遅かったというのもあります。そのなかで毎日、2、3言はLINEでやり取りをしていました」

既に出来上がった信頼関係があったものの、撮影に向けてコミュニケーションを密に設けるのではなく、LINE程度で収めたところにも、あの距離感が出た要因なのかもしれない。

 「確かに繋がっている感じみたいなものはありました」

藤原季節は「頼れる一番心配な人」

萩原みのり

そんな藤原との出会いは16年公開の映画『何者』。最終オーディションのワークショップだった。

 「その親睦会で初めて話して、同世代の4、5人の仲間と仲良くして頂きました。そのなかでも特に季節さんは、私の負の部分や「次はこういう作品をやるんだけど…」と不安を話せるお兄ちゃんです。今回の内山監督も私たちが仲良いということを知らずにオファーされたみたいです。私たちにすれば「めちゃくちゃ嬉しいキャスティング! このために今まで共演がなかったのかもね」と。不思議な感覚です(笑)」

これまでに逃げたいと思ったことが「たくさんある」という萩原。役とどう向き合えばいいか、プレッシャーになることも多いそうだ。藤原はそんな「弱さ」も受け入れてくれる存在だという。

 「お互いに否定しないんです。『変わるよね、変わっていくに決まってるよね』って。実は『あの頃の方がよかった』と言われるのは傷つくんです。私たちは、今を必死に戦って、今が一番だと思って進んでいる。でもその評価も変わる。もしかしたら明日は、昨日と違う自分をいいと思っているかも知れない。身一つで戦う仕事だから、出せるのはその時の自分自身でしかないんです。そのなかで季節さんとは、お互いの不安を共有できている感じがして、変わっていくことを肯定し合えているので安心できるんです。私だけじゃないんだって。彼のような素敵な役者になりたいです。でも頼りになるけど一番心配している人でもあります(笑)」

「頼りになるけど一番心配している」その関係性は悠二とユキに重なる。悠二を演じた藤原は萩原の目にどう映ったのか。

 「普段の季節さんとは別人でした。こんな顔は見たことないですし。一緒に写っているスチールで私と季節さんの2ショットがありましたが、面白いくらいに萩原みのりと藤原季節でもない顔をしていて『役者って面白いね』って(笑)。季節さんは会うたび顔が違うんです。その時の役柄が影響されていると思いますが、オーラや喋るリズムも変わります」

「萩原みのり」という人物像、芸能入りを押した友人

萩原みのり

それでは、ユキを演じた萩原自身はどうだったのか。「自分の事は分からない」と避けたが、スクリーンに映る萩原からは「強さ」を感じる。

 「それはよく言われます。ですが、私自身はメンタルの弱さがコンプレックスでした。この世界に入ってから突然『強い女の人』って言われるようになって、まったく分からないんです(笑)。でも、そう言われることによって『萩原みのり』という人物像を強い女性にしていっている部分があると思います。自分がなれないからこそ、表に出る『萩原みのり』はかっこ良くいたいと思うのは若干あるかもしれません」

そんな彼女は、ユキという人物をどう捉えたのか。

 「自立しているようでしていない感じ、悠二に甘えているからこそあの生活を続けていると思っていて、どこかでずっと甘えてしまうところは共感できると思いました。変に背伸びをしないで演じようと思えたもう一つの理由はそれだったかもしれないです。女性から見て嫌な感じに映らない甘えになったらいいなと思って演じました」

他方、劇中に登場する佐々木は、周囲を盛り上げるムードメーカーであり、俳優志望の悠二の背中を押す。萩原には芸能界入りを後押された友人がいる。

 「中高女子校でしたが、佐々木みたいな必ず問題を起こす子がいました。中学受験して最初に喋ったのがその子で、突然足を踏まれて『私、〇〇。宜しくね』って。当時の同級生で今でも連絡を取る子はかなり少ないですが、その子とは繋がっていて。未だにその性格は変わっていなくて、どうやって社会で生きているのか想像はつかないんですけど(笑)、でもその子に憧れを持っていました。この作品を撮ってからその子をちょくちょく思い出すようになって。スカウトされた時も一緒にいたその子が後押ししてくれなかったらこの業界には入っていないです。芸能人を目指しているわけじゃなかったけど、あのノリで言ってくれたからこそ入れたと思います。その子のお陰で今があります」

そうした萩原だからこそ、本作には特別な思いがある。

 「この作品が心にあるだけで、違う角度から物事を見ることができると思います。やろうと思っていたけど何となくやっていなかったことに踏み出せると思いますし、すごく悔しくて逃げたいと思ったときに悠二の走っている顔を思い出したら一緒に走れる気がします。背中を押す、そんな分かりやすいことではなくて、映画一本がちゃんと心に残る作品になっている気がします」

コロナ禍で変わった意識

萩原みのり

今、世界はコロナ禍で未曽有の危機下にある。先行きが見えない閉塞感が漂う。エンタメの力を問う人もいる。萩原自身も外出自粛期間中に「無力」を痛感した一人だった。

 「笑えないくらい落ち込みました。役者は『0』を『1』にする、何かを生み出す事ができないということに気づかされて。頂いた役がコロナで中止になって全部取り上げられた気分になりました。ご飯のこと以外何を考えて過ごしたらいいのみたいな、めちゃめちゃ苦しくて。映画を見ても解消されないのは結構きつくて…。ただ、周りの役者が同じ苦しみを持っていたことが救いでした。ファンの方のコメントのお陰で何とか保っていた部分はあります」

緊急事態宣言が解除され、仕事は再開。その時に「幸せ」を感じた。そして、その経験が女優としての考えを変えた。

 「何でも挑戦するようになりました。いつ無くなるか分からないですし、今までもそうだったけど、よりいっそうお仕事があるということがどれほど幸せなのかを感じるようになりました。1シーン1シーンちゃんと残しにいく。後悔しないようにやり切ることをより考えるようになりました」

経験は演技に深みを与える。前向きに考えれば、この経験で新たな「感情」にも気づいた。

 「毎日知らない感情でしかなくて…。ありえなかったことが当たり前になっていく違和感とか。スーパーでアルコール消毒に列が出来たり。買い物かごを持つのをやめようかなと思う感じとか。段々それが当たり前になってくる感覚も違和感。ずっと気持ち悪い感じがあって。外に出ると当たり前の世界なのに知らない世界に来ている感じでSFを体験しているみたい。家以外が落ち着かなくて。それと、リモートで飲み会を数回やりましたが、意外と友達の事をよく見ていなかったことにも気づいて。この期間中は、役者として引き出しを増やすことを意識していました。引き出しを持っていても開けられないと意味がないから、作品を観て言語化できない色々な表情を見て吸収できるように心掛けました」

銀杏BOYZの楽曲「DO YOU LIKE ME」のミュージックビデオに仲野太賀と出演した。アクリル板越しで向き合う芝居だった。

 「触れられないってすごい時代になったなと感じました。現場にアクリル板が立っているのを見た時に2020年すごい景色を見ている気がしていると。コロナがなければできなかったことだからすごいところに立たせてもらってるなって。今日記者さんとお会いしても顔の半分上しか見えないから次会った時に同じマスクしていないと分からない。なんだか人との関係性が薄くなっている気がして寂しいです」

それでも夜は明ける――。

向き合い方への変化、自分自身を大切にしようと

萩原みのり

コロナ禍以前から萩原には変化の兆しがあった。それは役者としての姿勢に表れている。

 「10代でこのお仕事を始めて、役者業がめちゃめちゃ楽しい。でも夢中になればなるほど私生活のほうが蔑ろ(ないがしろ)になっていきました。仕事が楽しい、そのためにと考えていました。でも生活がある上でのお仕事ですし、自分自身が丁寧に生きる事のほうが最優先。ここ1、2年は、生活の中にお芝居があるということにだんだん馴染んできた感じがあります。自分の身近にいる人を大切にできない人のお芝居で感動できるはずがないと思うようになって、自分の周りから大切にしていくことで素敵な役者になれるのかもと今は思います」

「生活を軸に」それを思ったきっかけはあったのか。

 「楽しい時の方がカメラに映る自分も楽しそうに芝居していることに気づきました。自分が不安定になればなるほどお芝居にも影響すると。それまではずっと、幸せになるとつまらなくなる気がしていました。もがいている時のほうが良く見えるのかもしれない、幸せになったらつまらない人間(役者)になっちゃうのかもしれないと。でも、幸せになっても良いじゃないかと急に思うようになって、それでつまらないお芝居になったら私自身の問題でそこまでだという事だから。幸せだってそうじゃないお芝居はできるし、引き出しを開ける力があれば絶対にやれるはずだから。お芝居の為だからとかっこつけて言い訳していただけだなと。自分自身を大切にしながらお仕事できるようになっています」

そして、今、萩原を動かすものは「未来」。

 「祖父母と連絡を取ることもそうですし、作品が公開されることによって友達もファンの方もすごく喜んでくださる。それがあるから頑張れますし、救われます。作品の中にも『お前は続けろよ』という言葉がありますが、それにも救われます。季節さんもそうですが、共演した皆さんとはまた一緒に仕事したいなと思いましたし、今回は岳さんと絡みがなかったのでいつかまたお仕事したいと思ったり、先に楽しみがあるから頑張れる。いつか来るその日のために少しずつ頑張ろうと思っています。それが私の原動力なのかもしれません」

萩原みのり

(おわり)

取材=木村武雄
撮影=冨田味我
ヘアメイク=石川奈緒記
スタイリング=早川すみれ

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冨田味我

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