折坂悠太「春を添えたいと思った」映画「泣く子はいねぇが」主題歌に込めたメッセージ
INTERVIEW

折坂悠太

「春を添えたいと思った」映画「泣く子はいねぇが」主題歌に込めたメッセージ


記者:村上順一

撮影:村上順一

掲載:20年11月20日

読了時間:約7分

 シンガーソングライターの折坂悠太が、20日より全国の劇場で公開される、仲野太賀 、吉岡里帆らが出演する映画『泣く子はいねぇが』の主題歌と劇伴を担当した。折坂は、幼少期をロシアやイランで過ごし、帰国後は千葉県に移る。2013年よりギター弾き語りでライブ活動を開始。2018年10月にリリースした2ndアルバム『平成』がCDショップ大賞を受賞した。

 映画『泣く子はいねぇが』は秋田県男鹿市を舞台に、大人になることからも逃げ出した主人公が、過去の過ちと向き合いながら、手放してしまった家族と故郷を取り戻そうと奮闘する、青春グラフィティ。その主題歌である「春」は民謡とジャズが融合したかのような1曲で、物語のその後の希望へと繋がっていくかのような、折坂らしさのある楽曲に仕上がった。インタビューでは初めて劇伴にチャレンジした制作背景、「春」に込めた想いなど話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】

波の音と風の音、そして街の音が似合う映画だと思った

折坂悠太

――この映画のお話が来た時はどのようなお気持ちでしたか。

 シンプルにすごくやってみたいという思いと、自分にできるのかなという不安もありました。ただ、このお話をもらった後に主演の仲野太賀さんからメッセージをいただきまして、背中を押していただいたような感覚がありました。

――どのようなメッセージだったのでしょうか。

 「この映画は観る人に委ねる部分が多いので、その先まで広げるような曲がエンドロールで流れたらいいなと思っています」というメッセージでした。あとは「こんなにも愛されている監督はいないと思います」と、佐藤(快磨)監督がどれほど愛されているかということがわかるものでした。現場の熱がすごく伝わってきて、一緒に良いものを作って行けたらいいなと思いました。

――劇伴のサウンドは主題歌の「春」とリンクしているような音もありますよね。

 主題歌の「春」はお話をいただいてからすぐにイメージはできていました。劇伴に関しては仮編集した映像を最初にいただいて、それを観ながら音を当てていったのですが、「春」をモチーフとして使用した曲もあります。この場面で使ったら合いそうだなと思ったシーンで使ってみました。

――ベースラインだったりそのパーツが最後「春」に組み込まれていくような感覚があって面白かったです。

 全体を包み込むようなものにしたかったので、本編とエンドロールの繋がりとなるような音は、できるだけで入れたいなと思いました。

――佐藤監督からリクエストみたいなものはあったのでしょうか。

 どのような思いでこのシーンが存在しているのか、そういったことはお聞きしましたけど、具体的な音については全くなくて自由に曲を書かせていただきました。シーンに対するすり合わせはしましたけど、本当にこんなに好きに作らせていただいていいのかな? と思いましたから。お題があって音を嵌めていく作業は自分に合ってるなと思いました。

――折坂さんはこの映画『泣く子はいねぇが』を見てどのようなことを感じ取られましたか。

 すごく色んな感情がありました。大きなテーマとしてナマハゲ、秋田の伝統行事というものが根幹にありつつ、後藤たすくという主人公像を考えた時に、僕と同世代ということもあり自分を見ているような感覚もありました。その人柄に時代性を感じました。伝統行事がありながらも今のお話だなと。彼の精神のよりどころのなさや、地域性や世間体みたいなものに当てはめなければ生きていけないというジレンマは、至る所で起きていることなんだろうなと思いました。こうすれば良かったとか、こうだったから悲劇だったみたいなことではない視点で、ありのまま描いているところが映画的で、この2時間を通してでしかできない表現だなと思いました。

――折坂さんは過去にシナリオライターになりたいという夢もあったと聞いていますが、今回映画制作に携わって、その思いが再燃したのでは?

 音楽を担当させていただくとなった時も、音楽家の目線というよりはシナリオライター目線だったかもしれません。仮編集の時にあったシーンが、次の編集でなくなっていたりすることもあったんですけど、監督に「あのシーン好きだったんですけど…」みたいに生意気に言ってしまったり(笑)。一部ですけどその意見を汲んで考えてくださったシーンもあったんです。

 監督とは同い年ということもあって、単純に映画に音をつけたというよりは一緒にものを作っていったという感覚が強いです。それは本当にありがたいことだなと思いましたし、脚本家になりたかったけど叶わなかったことを、音楽というジャンルで携われたことは本当に感慨深いです。

――歌詞も端的といいますか、文字量はすごく少なくて。

 言葉で足すようなことは要らない映画だと感じました。それは言い尽くしているからというわけではないんです。なので、音楽でそれを説明したり、楽しい悲しいを補足することでもないなと思って。ただ波の音と風の音、そして街の音が似合う映画だと思ったので、音楽もそうあるべきだと思いました。目指したのは寄り添いつつ、でも寄り添い過ぎないようにと考えていたので、歌を作る時にも言葉を入れる事が難しいと感じて。それで、歌の一節が出来た時にこれだけで良いと思えました。

 聴く人によって色んな場面に変換できるような歌詞にしたいと思って。ちょっと前は自分の中で良くやっていた手法なんですけど、最近は言葉で色々表したいという気持ちがあったので、具体的な歌詞が多かったんです。今作はその手法は取っ払って一つの素材で勝負したかのような言葉選びになりました。

――言葉が少ないからこそ、想像力を掻き立ててくれる映画と曲だと思いました。

 それもあって、観る人によって解釈の分かれる作品だなと思いました。でも、そういう事が出来る芸術というのはすごいなと思いました。説明しなければいけない時もあるだろうし、しない方が良い時もあると思うので、難しいんですけど。

春を添えたい

折坂悠太

――タイトルの「春」にはどのような想いが込められているのでしょうか。

 映像から受ける印象というのは、寒そうだなと感じて。まだ真冬ではないとは思うんですけど、どこか寂しくて暗い感じがしました。その中で描かれるストーリー自体も報われる瞬間というのがほとんど出てこなくて。それが映画だけではなく、現代社会の拠り所のなさにも通じるところがあるし、そういう風景や人間模様を見ていた時に、いつか訪れるだろう春を待っている様子が全編通して感じたので、物語では出てこない春を添えたいと思ってこのタイトルにしました。

――アレンジはピアノが印象的でノラ・ジョーンズのようなジャズの要素も感じられました。

 特に近年のノラ・ジョーンズは好きで、よく聴いています。一音一音の素材の良さを、一番良いカタチでアウトプットしている感じがしていて、音作りの参考にすることも良くあります。僕はキース・ジャレットも好きなんですけど、歌のない音楽を作る上で『ザ・メロディ・アット・ナイト、ウィズ・ユー』というアルバムは僕の指針になっています。今作をピアノにしようと思いついたのは久石譲さんの影響なんです。北野武さんの『菊次郎の夏』がすごく印象的なピアノの旋律で始まるんですけど、それが頭のどこかにあったのかも知れません。

――歌も不思議なタイミングで入ってくるので、インパクトがありました。ポリリズム的なアプローチと言いますか。それがすごく心揺さぶるものがありまして。

 僕も良くはわかっていないんですけど、変わったタイミングでメロディが入るので難しいんです。メロディが生まれた時に「これは大変だぞ」と思いましたから(笑)。民謡や秋田の音頭とかも聞きながら作ったんですけど、リズムに沿わないものをやりたかったんだろうなと。風や波、自然の中で生まれる音、人の声も自然なのでそういったものを表現したかったのかなと思います。そういったところから感情を揺さぶる何かに繋がったのかも知れないです。

――ライブではまた違った「春」が聴けそうですね。

 たぶんライブで歌ったら結構変わると思うんです。R&Bやソウルシンガーはライブと音源では変わるじゃないですか。僕もそういうものを目指しているところがあって、フォーマットを作る、というのが楽曲を作るときの感覚に近いかもしれないです。自分はこういう事がやりたい、というのはある意味強いんですけど、その幅は大きく取ってあって曲調やジャンルは飛び越えやすいとは感じています。

――最後に折坂さんはアーティスト、ミュージシャンの前に表現者というのをお話されていたのですが、今“イチ”表現者としての意識はどんな感じですか。

 すごく強まっています。先が見えない世の中になってきて、その中で自分は何かモノを作る人間で良かったなと思うんです。生きていて何になるのか、そういったことを感じてしまったら終わりに向かってしまうと思うんですけど、その感情さえも何か形にして、残していく事が出来るというのは幸せな事です。今、それに誠実にあり続けようという心持ちです。

 最近は今まで以上に歌やギターを練習していて、ライブもないので誰に見せるわけでもないんですけど、そうしたいと思えていますし、積み重ねていくしかないと感じています。先を見据えるというよりかは、今日どうしていたのか、と考えるようになった2020年でした。

(おわり)

ヘアメイク 津嘉山南
スタイリング 永冨佳代子(NIGELLA)
コットンベロアシャツ(参考商品)、パンツ(13,200円) 2着共にNIGELLAその他、靴等本人私物

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村上順一
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