INTERVIEW

恒松祐里

原動力、新たな自分を発見したい。
感情を吐き出した『タイトル、拒絶』


記者:鴇田 崇

撮影:桃

掲載:20年11月15日

読了時間:約9分

 『散歩する侵略者』(17)や『酔うと化け物になる父がつらい』(20)、『スパイの妻』(20)など出演作で鮮烈な印象を残している女優の恒松祐里が、映画『タイトル、拒絶』(11月13日公開予定)に出演を果たした。数々のキャラクターを演じた恒松だが、本作では一番人気のデリヘル嬢・マヒル役を、女性の痛みを伴う表現で熱演している。

 本作は、『第32回東京国際映画祭』日本映画スプラッシュ部門へ正式出品され、主演の伊藤沙莉が東京ジェムストーン賞を受賞したことでも注目を集めた。とある雑居ビルのデリヘルを舞台に、さまざまな人生背景を持っているセックスワーカーの女性たちの強い生き様を描いた群像劇は、現代を生きるさまざまな女性たちの本音に耳を傾けた秀作ドラマだ。役を演じることでさまざまな気づきがあったという恒松は、「男女それぞれで捉え方が違う、心の痛みを汲み取れる作品なのかなって思います」と本作について語ってくれた。【取材=鴇田崇/撮影=桃】

『タイトル、拒絶』場面写真(提供)

大変だった、解放された日を覚えている

――さまざまな人生背景を持っているセックスワーカーの女性たちの強い生き様を描いた群像劇ですが、完成した映画の感想はいかがでしたか?

 ラストに向けて鳥肌が立つ瞬間が何度もあって、途中までは女の子たちの痛みが見えてこないのですが、それが続いた後に最後の最後で見えてくるものがあるので、自分でも衝撃を受けました。最初は彼女たちの日常の光景だと思うのですが、後半は日常では誰も出していなかった心の内側が出てくるので、そういう部分を観ると女性ならば共感できる部分はたくさんあると思いますし、男性だったら女性ってこういうことを考えているのかと想像を手助けする作品になるのかなって思います。男女それぞれで捉え方が違う、心の痛みを汲み取れる作品なのかなって思います。

――このタイトルは、もちろん監督の込めた意味があるかと思いますが、観る側が意味づけもできますよね。ご自身ではどういう意味だと思いましたか?

 それはわたしも考えました。誰目線の『タイトル、拒絶』なのか。わたしの理解だと、マヒルちゃんはウサギと言われている。カノウ(伊藤沙莉)はタヌキと言われている。タヌキとウサギがタイトルだとするならば、それを拒絶して、その枠に囚われるな、入るなって言っているような気もしますね。そのウサギという枠に位置付けられたマヒルちゃんも、最後はどうなるかわからないのですが、自分の枠を少しは打ち破れたのではないかなって思います。だとすると、これは女性の物語だっていうこともありますが、女性を女性という枠で捉えるなっていうメッセージかもしれない。女性というものを拒絶、という意味かもしれない、とも思いました。正解は監督のみぞ知る、なのかもしれないです(笑)。

――そのマヒルを演じるうえで、一番多変だったシーンはどこでしょうか?

 ずっと大変でした(笑)。だから、解放された日を覚えています。撮影中、本当に黒いもの溜め込んでいたんです。ただ、すごく印象的に覚えている撮影は、部屋がごちゃごちゃになったシーンで佐津川愛美さんが出てきて、みんな殴られて蹴られて部屋がボロボロになった時にマヒルがすっと現れるシーンですね。みんな怒りや悲しみという自分の感情を出しているのに対して、「わたしはこうやって笑っているのに、みんなどうして悲しめるの?」と怒る。今までの感情が爆発するシーンがあるのですが、そこまで自分の感情を溜め込み、そこで全部吐き出したんですよね。そのシーンでは泣き笑いと台本に書いてあって、初めてのお芝居でしたが、本当に悪いものを吐き出しているような感じで解放感がありました。

――あれは一度観たら忘れないほどのインパクトでした。

 笑っているのに泣いているから、ヘンな声なんですよね。カエルみたいな(笑)。それは自分の耳にも残っているし、そのお芝居の瞬間は今でもフラッシュバックするような感覚で、今でもすごく覚えています。あのシーンは本当に印象的ですよね。終わった後に片岡礼子さんから、「すごく気持ち悪い声が出ていたよ」と言われましたが(笑)、でもそのお芝居がすごくよかったと言ってくださいました。伊藤沙莉ちゃんにも「すごく気持ち悪い声!」って(笑)、みんなに同じことを言われたのですが、泣き笑いをするとこうなるのかって気づかされるシーンでもあって、あのシーンは一番集中していて印象的でした。

念願だった伊藤沙莉との共演

恒松祐里

――その伊藤さんとは、念願の共演が実現したそうですね。

 はい。ずっとご一緒したかったので、今回ようやく実現して本当にうれしかったです。現場での印象は自然体にお芝居をされていて、ちょっと変わっているけれども普通の子なんですよね。でも沙莉ちゃんが演じると、その自然体の中でも芯が生まれるというか、今回で言うとわたしやほかの女の子たちがカチカチ山のウサギの部分を背負わなくてはいけなくて、沙莉ちゃんがタヌキの普通の部分を背負っている。その普通の中に芯があるからこそ、彼女はひとりでも存在感があって、とても素敵だなって思っていました。

 そうかと思ったら般若さんが部屋を出て行ったか何かで怒られる前くらいに、沙莉ちゃんは手持無沙汰になったのか、小道具をきれいに並べていたんですよ。全部真っすぐ正面になるように(笑)。それがものすごく面白かったです。よくよく観ると、ビフォー&アフターできれいになっているんですよね。そういうことをしてくるので、本当に面白いなって思いました。

――こういう役を演じると、女優としての引き出しが増えていく感じですか?

 技術というよりも、経験が増える感じです。その時演じる役に合わせて、新たに何か準備したり、役を作っていくことに意味があると思うので、毎回毎回ひとつひとつの作品で挑戦するという感じです。毎回新たに作る必要があるので、経験が増えたからといって油断していいことはなくて。毎回全部違う人なので、その役に合わせて努力をしたいと思います。

――役作りをきっちりするタイプ?

 自分ではわからないのですが、今回で言うとマヒルちゃんの感情を大切にしていて、特に感情が爆発するシーンだと、その場で作った感情では、その役の重みは表現できないので、いろいろなことを考えて準備しました。その役が持っている心の内側は、その職業ならではの悩みもあると思うので、常に表面的にならないように気を付けています。

ミュージカルからエネルギー

恒松祐里

恒松祐里

――ところで女優業は非常にエネルギーが要る仕事だと思いますが、たとえば音楽を聴いてリラックスしたりはしますか?

 そうですね。音楽を聴いてリフレッシュすることはよくあります。わたしはミュージカルがすごく好きなので、ミュージカル作品を観て元気を出したり、あとはいつも現場に行く時に聴いているプレイリストが昔からあります。アデル、エイミー・ワインハウス、コールドプレイなどが入ってるごちゃまぜのプレイリストで、それをいつも聴いています。いつも聴いているので、仕事モードに入りやすいということはあります。

――ルーティンなんですね。

 もう5年くらい同じプレイリストです。でも今年は自粛期間があったので、まったく聴いていなくて、久しぶりに聴いたら「こういう内容だっけ?」と驚いてしまいました(笑)。でも、実はロケバスではよく眠れるプレイリストに変わるので、気分も上がりますし、よく眠れてリラックスもできるんです。でも特に気合いを入れたい時は、Queenの「Under Pressure」を聴くこともあります。一歩ずつ韻を踏んで居る感じがいいんですよね。

――音楽以外に趣味はありますか?

 実家で猫を飼っているのですが、一緒に寝るのが本当のリラックスですね。もう何もしないで猫と寝る。これが一番です!でもいつか趣味じゃなくてもいいのですが、乗馬をやってみたいんです。どんな感じか想像もつかない。あとは魚釣り。アクティブなことをやったことがほぼないので、やってみたいですね。歩くことも好きなので、いつかは山登りも。今はオフに何もしないことでバランスを取っています。

原動力、新たな自分を発見したい

恒松祐里

――今現在、仕事へのモチベーションは何でしょうか?

 子役の頃はなんとしてもオーディションを勝ち取ってやるというか、獲った役は全力でやるという、わりと一直線な想いでしたが、今はどこまで役を深められるか、どこまで自分が演じられるのかがモチベーションになっています。それまでのお芝居よりも新たな自分を発見したいという気持ちが強くなって、今回の『タイトル、拒絶』であれば、泣き笑いの表現の凄さを見つけたり、そういう瞬間がたまにあることが発見で、新しい価値観が蓄積されていくような感じがします。快感まではいかないけれど喜びでもあるので、そういう場面がたくさん見つけられるように、自分がいいお芝居ができるレベルにまで持って行けるようにしたい、それがモチベーションですね。

――『散歩する侵略者』の時も思いましたが、どうやったらあのようなお芝居が?

 役との距離感は適度に保っていますかね。保つようにしています。わたしB型だからじゃないですけど、ある程度適当なところはあるんですよね。大さじ何杯かよく確認しないタイプなんです(笑)。もちろん準備期間はきっちり取るのですが、現場に入ったらそれは全部手放します。悪い言い方だと適当、いい言い方だと自由にお芝居をしている。どういう風にと言われると自分でもよくわからなくて、現場ではあまり頭で固めすぎずに、手放すようにしています。言われた時に言われたことを対応する能力を大事にしています。

――そうなると、いい俳優の条件とは何でしょうか?

 それこそ伊藤沙莉ちゃんじゃないですが、自然体で役に入っていく俳優さんがすごくいい俳優さんだなって思います。すごく考え抜いた結果だと思うんですけど、頭で考えすぎるとよくないというか、みんな日頃考え抜いて水を飲んだりしていないじゃないですか。だからそういうものをその場で、スタートからカットまでで思ったことを行動に出している俳優さんはいい俳優さんなのかなって思います。舞台であれば、計算が重要だと思うんです。タイミングも毎回同じなので、計算を計算に見せない能力も大切だと思いますが、映像作品はアップが多くて近いからより難しいんですよね。どっちも大切な能力だと思うので、そのバランスが取れている人がいい俳優さんなのかなって思います。

恒松祐里

(おわり)

11月13日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー
(C) DirectorsBox
ヘアメイク
横山雷志郎(Yolken)
スタイリスト
武久真理江

プレゼント情報

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