富田美憂「声で人の心を動かしたい」体験から紡がれる歌への想い
INTERVIEW

富田美憂

「声で人の心を動かしたい」体験から紡がれる歌への想い


記者:村上順一

撮影:

掲載:20年11月09日

読了時間:約11分

 声優でシンガーの富田美憂が11月11日、3rdシングル「Broken Sky」をリリース。表題曲は自身も佐々木ユウカ役として参加する現在O.A.中のアニメ『無能なナナ』のOP主題歌で、これまでの富田の楽曲の中でもエッジの効いたロックサウンドが特徴的な1曲に仕上がった。カップリングには念願だったというバラードナンバー「インソムニア・マーメイド」を収録し、富田の新たな一面を見せた。インタビューでは「Broken Sky」をどのような気持ちで歌い上げたのかを聞くとともに、音楽の原体験、人生を変えた1曲や印象的だったライブなど、彼女の音楽観に迫った。【取材=村上順一】

人生を変えた1曲

「Broken Sky」初回限定盤

――富田さんが音楽を好きになったきっかけは?

 父が凄く音楽が好きで、学生の頃からバンドをやっていてギターを演奏をしているのを近くで見ていたので、生まれた時から音楽が凄く身近にあったと感じていました。アニメ『うたの プリンスさまっ』が好きだったんですけど、作中に歌が出てくるアニメが凄く好きでした。歌を通して人の気持ちを動かすということが『うたの プリンスさまっ』では全話でそれが描かれていたので、「歌うことによって人の気持ち動かせるってなんてカッコいいんだ、私もこういう人になりたい」と思ったのがきっかけかなと思います。

――心を動かす感動というところに共鳴したんですね。

 そうなんです。私は小さい頃から絵を描いたりとか、自分を表現することが趣味ということもあって、そういう風に感じたのかなと思います。

――歌は小さい頃から得意だったのでしょうか。

 昔から歌うことは好きで、小学校高学年の時にカラオケが流行っていたのでクラスの友達と放課後によく行っていました。勉強も運動も特別できる方ではなかったから、あまり褒められることはなかったんですけど、歌だけは褒めてもらえたので、それで余計に歌が好きになったのかなと思います。

――ちなみにカラオケでは当時どんな曲を歌っていたのでしょうか。

 アニメの曲から当時流行っていたドラマの主題歌まで幅広く音楽を聴いていました。あと、父がヘビーメタルが好きで、聖飢魔IIの「蝋人形の館」とかをカラオケで歌っていたので、父とカラオケに行くと私も「蝋人形の館」をたまに歌います(笑)。

――あのイントロの名セリフも?

 <お前も蝋人形にしてやろうか>って言います(笑)。

――富田さんが言っているのを聴いてみたいですね(笑)。ちなみに人生を変えた1曲はありますか。

 たくさんあるんですけど、ClariSさんの「コネクト」です。色んなオーディションで歌わせて頂いて、自分の中でも大切な1曲になっていると思います。落ち込んだ時とか、初心を思い出したい時とかにもいまだに聴きます。

――富田さんはすごくポジティブなイメージがあるのですが、実際はいかがですか。

 私は全然ポジティブじゃなくて。自分と他人を比べて落ち込んだり、凄く引きずりやすい性格だと感じています。「今日のお仕事上手くいかなかったな」と思うとそれが一週間くらい頭の中をぐるぐるしちゃうんです。そういう性格を直さなきゃと自粛期間で自分と向き合ってよく考えていました。結局自分のいるステージに立っているのは自分一人だけだから、そこに誰かと比べたりしても何も成長しないなって。ネガティブな気持ちって声に乗っちゃうからいいお芝居もできないし、いい歌も歌えないと思っているので、ネガティブな自分に勝たなきゃいけない、と凄く思っています。

――さて、シンガーとしてソロデビューされて1年が経ちますが今の心境は?

 自分の中で凄く大きな1年でした。声優業だけでは気づかなかった自分の好きなこと、こうしてインタビューをして頂いたり、自分の考えを発信することとかも、私はお芝居と歌以外も好きなことなんだなとアーティストデビューしてから気づいたことでもあります。自分がアニメ作品を背負っていない状態でライブをした時に「はたしてお客さんは来てくれるのだろうか?」という不安もあったんですけど、富田美憂という一人の人間が好きでイベントに来てくださる人もたくさんいるということに気づいたので自信もつきました。

――音楽、歌詞との向き合い方もこの1年でも変わりましたか。

 はい。もともと声優としてキャラクターを演じる時も、アフレコ当日に実際にみんなと合わせる時も凄く楽しい瞬間ではあるんですけど、私は役を演じる時も楽曲を作る時もレコーディングの場に持って行くまで自分一人で準備をする時間が凄く好きで。例えば楽曲1曲頂いたら電車の中の移動中でもその楽曲をどう表現しようかなと考えたりしますし、1曲をいいものにして、その1曲について深く考えている時間が凄く楽しいです。

自分のやったことのない歌に挑戦できるんだ

――今回の表題曲「Broken Sky」はアニメ『無能なナナ』のオープニングテーマで、富田さんも声優として参加されていますが、この曲を最初に聴いた時の印象は?

 1stシングル「Present Moment」をリリースさせて頂いた直後に『無能なナナ』のオープニングを担当させて頂くことが決まったんです。デビューの2曲とはまた全然タイプの違う曲を頂いたという嬉しさもありつつ、一人のアーティストとしてまた新しい、自分のやったことのない歌に挑戦できるんだ、というワクワクが凄く大きかったのを覚えています。

――今作はどんな意識でレコーディングに臨みましたか。

 アニメのオープニングはその作品を代表するもの、作品の顔にもなると思っていたので、作品を背負うということに対して恥ずかしくないような歌を歌いたいと思いました。いいものにしないといけないというプレッシャーもあったんですけど、それよりもまず自分がこの曲を誰よりも好きになって楽しんでレコーディングしないと、みなさんにこの楽曲の良さは伝わらないと思ったので、丁寧に今回の1曲を作り上げようと意識しました。レコーディング前に原作を繰り返し読ませて頂いて、楽曲と作品の似ているところを見つけたりする作業も凄く慎重にしました。1話の完パケを頂いて、流れで全部観させて頂いたんですけど、1話から鳥肌でした。

――歌詞についてですが「Broken Sky」で重要だと思うワンフレーズは?

 ラスサビ前の<ムノウ ナ ボクハ ザンコク?>がこの曲の重要ポイントだと思っています。レコーディングする時にいつも楽曲全体を通して惹きつけられるワンフレーズ、聴いていてゾワっとするような鳥肌ポイントを毎回一つは作りたいと思いながらレコーディングしています。楽曲を聴いた時からそこのフレーズが凄く耳に残る印象的なフレーズだなと思っていたので、じゃあここをどうやって私が歌った時に味付けしていくかということを凄く考えました。セリフっぽくやってみたりとか、めちゃくちゃ熱く歌ってみたり、逆に凄く無機質に歌ってみたり、色んなパターンを何テイクも録って頂いて、スタッフさんと私含め繰り返し流れで聴いて一番しっくりきたものを採用して頂きました。

――MVも撮影されています。廃墟のような場所で歌われていますが、撮影は大変だったのでは?

 真夏に撮っていたので暑さとの戦いでした。みんなで汗をかきながら一日中頑張って撮りました。カメラには決め決めの顔をしているんですけど(笑)。初回限定盤についてくるメイキングのDVDでは撮影の裏側も観られるんじゃないかなと思います。

――真夏の撮影となると、鏡の上で座って歌っているのは暑かったのでは?

 はい。建物の屋上で撮っていて、照り返しで焼けるかと思いました(笑)。風が強かったんですけど、おさまったタイミングでカメラをまわして、天候と日差し加減と全部があわさった時に「今だ!」という感じで。時間をかけて屋上で鏡のシーンを撮って頂いた甲斐があって凄く綺麗なカットになったなと思います。

――椅子に座っているシーンでは「学校にああいう椅子あったな」と懐かしかったです。

 私も思いました! アニメが学園ものなので、そこにあわせて学校の椅子を使ったみたいなんです。

――アニメとリンクさせているんですね。

 今回のMVはもともとファンの方でMVを観て「好きだな」と思って頂けたら嬉しいですし、まだ私の存在を知らなかったけど、「Broken Sky」で知ってくださった方が観ても楽しめるようなMVになったんじゃないかなって思います。MVの世界観も今までとは真逆で、表情作りも今までと全然違うのでファンの皆さんの反応が今から楽しみです。

――鋭い目をするシーンはクールで、唇のアップのシーンはセクシーですよね。

 20歳から21歳になるという成長過程もあわせて、大人っぽさも今回出せたらいいなと思ったのでそう思って頂けて凄く嬉しいです。

新しい趣味を見つけることが課題

「Broken Sky」通常盤

――さて、カップリングの「インソムニア・マーメイド」はミディアムバラードです。この曲を聴いた時の印象は?

 もともとデビュー当時からバラードに挑戦したい、これまでのインタビューでも「今後どんな楽曲を歌いたいですか?」と聞かれた時に「バラードをやってみたいです」とお話をしていました。バラードってテンポがゆっくりなぶん細かい表現まで良く聴こえるので、より一層歌を頑張らなきゃなという気持ちは凄くはありました。

――凄くエモーショナルと感じました。レコーディングはどのような意識で臨みましたか。

 やっぱりラブソング、失恋ソングということもあって、今までチャレンジしたことのない楽曲でしたね。歌詞を見て初恋の失恋ソングではなく、何度か恋を経験したマーメイドの楽曲なんだろうなと。作編曲の園田健太郎さんと直接やりとりしながらレコーディングを進めさせて頂きました。大人っぽい女性らしさが前面に出せる曲だなと思ったので、聴いている人がちょっとドキッとしてくれたらいいなと思いながら歌いました。

――この曲を体現しているワンフレーズは?

 私が感じたのはサビの<わたしを探さないで>というフレーズです。悲しい表情で歌うのではなく、あえて微笑んだ表情で歌うことによって、だからこそ切なくてもどかしいみたいな表情が伝わったらいいなと思いながら歌わせて頂いた大切なフレーズでもあります。

――ドキッとする表現ですよね。

 失恋ソングなんですけど、切ないだけではこの曲は表現できないだろうなと思っていたので、失恋したことによる切なさと、恋心という感情にある温かさみたいなポジティブな感情も盛り込めたらより深みのある曲になるんじゃないかなと思いました。ただ悲しい曲で終わらせないようにしたい、というのは常に頭の中にあった気がします。

――“インソムニア”は“不眠症”という意味ですよね。富田さんは忙しくて睡眠不足になる時もあるのでは?

 私、寝るのが大好きなんです。最近一人暮らしを始めたんですけど、ベッドと枕とマットレスはこだわりました(笑)。なので最近はとても快適に寝ています。学生時代から仕事をしていたということもあって、朝は強い方なんです。学校のテスト期間は仕事の関係で夜遅くに帰ってくることが多かったんですけど、一旦寝て朝の4、5時くらいに起きて勉強するという生活をしていました。いまだにその習慣が残っていて休日でも毎日規則正しく起きてます。

――1日が長く使えていいですよね。お休みの日は何をされているのでしょうか。

 私は仕事が趣味、趣味が仕事みたいなところがあります。仕事以外であまり趣味がないのが最近の悩みなんです。周りの方から「もうちょっと肩の荷が降りる時間を作ってもいいんじゃない?」と、よく言われます。なので、新しい趣味を見つけるという自分の中の課題がありました。ステイホーム期間中も色んな自分の出演した作品を観て自己分析したりとか、色んな歌番組を観てパフォーマンスの勉強をしたりとか…なので、休みの日はインプットする時間に使うかもしれないです。

――仕事以外で挑戦したいことは?

 キャンプはちょっとやってみたいです。最近TVとかで一人キャンプとかの特集を観るので。「これをやっている時は仕事のことを考えない」みたいなことをやりたいなと思っています。

――では、音楽、シンガーとしての課題は?

 もちろん技術を磨くということは大事だと思うんですけど、色んなアーティストさんのライブに行ったり音楽を聴いたりしているうちに、歌が上手いということ以上に気持ちが大事だなと思いました。例えばユニットだったら歌ももちろん素敵だけど仲のよさがパフォーマンスに出てるとか、内面的なところもシンガーとしてのパフォーマンスのよさに繋がってくると思うんです。目指すところは歌が上手いというだけではなくて、気持ちが伝わるようにというのを重要視しています。それこそ私が音楽を始めるきっかけになった「歌で人の心を動かす」ということを一番体現したいので、今はそれを目標に頑張っていきたいなと思っています。

――今作ではバラードやクールなロックテイストの楽曲を歌われましたが、次に歌ってみたいのは?

 本当にいっぱいあるんですけど、今はお客さんの前で直接音楽を届けたいという気持ちが一番強いので、ライブで一緒に手振りができたりとか、お客さんも一緒に曲に参加して盛り上がれる曲が歌いたいなと思っています。

――先ほど色々ライブも観てきたと仰っていましたが、今まで観たライブで一番感動したのは?

 嵐さんのライブです。母がジャニーズが凄く好きなので昔から母の趣味について行って自分もライブに行くという機会が多かったんです。嵐さんってさっき私が言っていたテクニック的なところだけじゃないというのを凄く体現しているグループだと思うので、本当にそのライブに行っている間は他のことを何も考えられなかったんです。気持ちだけが心にある状態という感じになれたライブだと思ったので、当時幼いながら「本当に凄いな」と思ったライブでもありました。

――では最後に、ソロシンガーとして大切にしていきたい信念は?

 2つあります。歌が上手いというだけではなく、私の声で人の心を動かしたい、そういうアーティストになりたいという夢と、毎回歌を1曲歌うごとに常に聴いてくださっている方に驚きや新しい発見をしてもらえるような歌をこれから歌っていきたいです。ここまでのシングル3枚で「こういう歌も歌えるんだ」と、ファンのみなさんも新しい発見をしてくださっているのが私は凄く嬉しいです。

 1曲歌うごとに自分の中で宝物が増えていっているような感覚が自分にもあって、その感覚をお客さんと共有できたら凄く素敵だなと思っているので、その気持ちはこれから楽曲が増えても忘れてはいけない気持ちだと思っています。常にその気持ちは頭の片隅に置いて、一つ一つのお仕事を頑張っていきたいなと思っています。

(おわり)

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