T字路s「これから自分達にできることがある」結成10周年を機に見えた可能性
INTERVIEW

T字路s

「これから自分達にできることがある」結成10周年を機に見えた可能性


記者:平吉賢治

撮影:

掲載:20年11月04日

読了時間:約12分

 伊東妙子(Gt/Vo)と篠田智仁(Ba/COOL WISE MAN)によるデュオT字路sが4日、アルバム『BRAND NEW CARAVAN』をリリース。本作は2ndアルバム『PIT VIPER BLUES』から約2年ぶり、今年結成10周年の節目で制作された3rdアルバム。メンバー2人きりで約3カ月半プライベートスタジオに籠り制作されたという今作は、“T字路s節”全開の「夜明けの唄」やガレージロックナンバー「宇宙遊泳」、ミッドテンポでキャッチーなメロディのR&Bナンバー「とけない魔法」、ロマンチックで昭和ムード満載な「幕が上がれば」、メンフィスソウル感の「震えるたましい」などバラエティに富んだ12曲を収録。インタビューでは本作制作エピソードを中心に結成から10年を振り返ってもらいつつ2人に語ってもらった。【取材=平吉賢治】

前作までのスタイルと打って変わった制作

『BRAND NEW CARAVAN』ジャケ写

――本作の制作で意識した点は?

篠田智仁 基本的には「どういうアルバムにしよう」などは考えられないタイプなんです。やり始めてから曲が出来てきて。妙ちゃんがギターで弾き語りのデモを作って、それを僕がアレンジしていきます。

伊東妙子 それと同時進行で歌詞をつけていきます。

篠田智仁 そこにベースを入れたりして構成を作って、歌詞ができればそれを本チャン録りに差し替えてと。出来てみないとわからないんです(笑)。

伊東妙子 閃いたままを積み重ねていくような。今作はより向き合う時間が長かったので、自分自身を掘っていく感覚ではあったと思います。

――録音はゲストも入れずに楽器のダビングも2人で?

伊東妙子 録音まで全部です。パーカッションも私です。

――篠田さんはエンジニアも務めたそうですが、このスタイルは初?

篠田智仁 そうです。振り返ると、T字路sを組んだ時のデモ制作の時、10年前くらいに僕が初めて宅録をやったんです。

伊東妙子 電源の入れ方、落とし方もわからない状態でMacを買ってね。

篠田智仁 そこでPro Tools(PC上での音楽制作ソフト)を初めて触ってデモCDを作ったんです。T字路sは今年で10年目なので、10年前にやった宅録を今回もやってみようという意味もあったんです。いつものようにスタジオ一発録りか家で作るかどうしようかと案を出していた時にコロナ禍になって「じゃあこれはそういうことだな」と思い、家のスタジオに機材を買い足して本格的にやってみようと。

――発想の方が先だったのですね。録音方法は一発録りではない?

伊東妙子 今回は違います。

――一発録りに聴こえるのですが…。

篠田智仁 けっこうそこはこだわりました(笑)。Pro Toolsでわりと自由に編集して綺麗にできるんですけど、僕らの個性として演奏感は絶対に出したかったし、前のアルバムとの繋がりもあるし別々のパート録音にしてもパンチイン(曲の途中から録音する)などは極力せず、最初から最後まで演奏しきってOKかどうか決めるやり方にしました。

伊東妙子 ミスをしたら最初からという感じで。1曲通して演奏をして録音するんです。

篠田智仁 ある意味Pro Toolsっぽくない録り方というか(笑)。どうしても演奏感を出したかったので。今までずっと一発録りでやってきたのに急に人工的になっちゃうのが嫌だったんです。

少しズレていてもグッとくるもの

――個人的に、なかなか説明が難しいような音楽的魅力は大切ではないかと思っているのですが、今作はそれがとても強く心に響き、制作面でのこだわりも音で伝わってきたと思いました。

篠田智仁 そう言って頂けると凄く嬉しいです。今まではスタジオで一発録りしたものをアナログテープに取り込んでいたんです。アナログの音が好きなので、Pro Toolsでテープの真似をすると、それはちょっと違うと思って録り方をアナログにしたというか。結局は真空管のマイクプリ(アンプの一種)などを実際に通してPro Toolsに入れていけばアナログな音にはなるのでそっちだなと。僕らのような音楽だとそれでも十分いけるというか。

伊東妙子 その方が似合うというかね。

――音に血が通っていると感じます。それは人の魂を震わせるという点に繋がると思うのですが、そうだとしたらその源流は?

篠田智仁 たぶん、最初にあるのは妙ちゃんから出てくるオーラというか…やはり嘘がないというか、生活をしている中から出てくる視線、温度、目線が独特というか格好つけてない、そこがまず前提にあると思います。それを活かせる楽曲にどうしていくかが僕の仕事だと思います。血が通った感じというのはもともとのポテンシャルというか。

伊東妙子 そんな大層なものかな(笑)。

篠田智仁 出てくるものがそういうものなんです。

――それを出すことは難しいと思うんです。普通は生身の想いを出すことを躊躇するかと。

伊東妙子 「震えるたましい」の2番の歌詞、<あまりにも無力で だからこそ恐れを知らず>というところが自分の哲学というか、源かなと思います。飾るものもないし、ちっぽけな自分が全力で裸ん坊でぶつかるみたいなイメージです。基本的に自信のない人間なので、余計にそれがプラスに働いているんじゃないでしょうか(笑)。無力さを逆にパワーに変えて、それを原動力にしているのかなという気がします。

篠田智仁 自信がないと言っても曲のテーマが「立ち上がって一歩前へ進む」など、そういうことに繋がっているから勇気をもらえる感じになっていると思うんです。

伊東妙子 自信のある人なんてそうそういなくて。みんな一緒に気持ちを重ねて地べたを転がりながら、それでも光が見えるようにしたいという歌詞の内容が多いんです。

――「とけない魔法」の<おお 繰り返す日々が知らせる 心はとうに 満たされていたことを>という歌詞の部分はどういった想いで書いたのでしょう。

伊東妙子 この曲は私小説というか、自分の半生を綴った歌なんです。<繰り返す日々が知らせる>というのは、もちろん大きな夢や目標があるけど、それに向かって突き進んでいられる時点で夢が叶っていることなんじゃないかと思うんです。「それに向かって心を燃やす日々」が一番ほしかったものではないのかという意味です。そういう日々が繰り返せることが「こんな幸せはないな」と思うわけです。

――その想いは、なるべくエディットをしないという制作面にも表れていると感じます。

篠田智仁 そうですね。綺麗にエディットすること自体がよくないというわけではありませんが、自分達はそっちの方がいいからそうしているということです。そのバンドなどによって理想の音の作り方などがあるかと。少しでも上手く聴かせたい、なるべく綺麗に仕上げていくことが多いと思うんですけど、僕はどちらかというと少しズレていてもグッとくるものがいいとか。

伊東妙子 そういう音楽ばかり聴いてきたというのもあります。

篠田智仁 時代的にも一発録りの曲などが多かったりして、その影響はあると思います。

――確かに、少しズレていてもグルーヴのある音楽は格好良いです。

伊東妙子 先ほど仰った、血の通った温度を感じる音楽が好きなので。

篠田智仁 それが出たか出ないかで判断するというか。あと「本当に気持ちが入っていたか」というのは聴き手はわからないじゃないですか? うまくいっているのに「ちょっと気が抜けている気がするからなしにするか」というのはあります。

伊東妙子 どこをミスっているわけではないのに「何かが…」と。

篠田智仁 「気合が感じられない」など、そういうことで決めたりするんです。

伊東妙子 絶対理由があると思うんです。ゼロコンマ1秒の差だったりと。

篠田智仁 僕らもクリックから作ったりもしますが、「クリックにどう乗るか」は教科書がないというか。例えば60年代などの「グルーヴがある」と言われていた音楽はドラムに対して意図的あるいは自然にリズムを揺らがせるじゃないですか? だからクリックを使ってもそこを求めちゃう自分がいるんです。音数が少ない中でもクリック通りではない格好良いノリを出すのは実は凄く難しいなと実感しています。実験じゃないですけど、自分達なりのやり方をしてみたという感じはあります。

生活から生えてきたような気持ちを曲に

――改めて結成10周年を迎えた心境はいかがですか?

伊東妙子 やっぱりあっという間で「もう10年も経っちゃった」という感じです。ずっと休まず活動を盛んにやってきて、10年目で突然世界がコロナ禍という状況になってしまい、良くも悪くも見つめ直す、向き合いながらの作品作りの時間ができたという点については良かったと思っています。

――篠田さんはこの時期をどう捉えていますか。

篠田智仁 10年くらいはツアーとレコーディングと繰り返して、徐々にいい感じになってきた実感があって「さあ10年目で派手に花火を上げよう」と思ったら、こういうことになって最初は落ち込みました。「もう密な状態のライブはできないのか」と。でも、今はその状況に合わせてやっていくしかないと踏ん切りがついたので、期間が空いたからまた新しい気持ちになれたというか。

 考えてみたら10年前に始めた頃と同じ感じになったというか、最初はライブハウスでなくとも飲み屋など色んな所でやって「とりあえず音が出せる所でガンガンやっていってやろう」という風にやっていたらここまでこれたので、どういう状況になるのかまだわかりませんが「またかましてやろうぜ」くらいの思いでいます。

――そういった意味でも、原点回帰して2人で本作をレコーディングしたのは大きかった?

篠田智仁 大きかったです。最悪、仮に世の中がシャットアウトみたいになったとしても、別に2人でPCでもMTR(マルチトラックレコーダー)でも、録れる物があれば何か作れるぞという自信はできたし。予算をかけていいスタジオに入らなくても、僕達らしい熱いものは作れるんじゃないかなと。

伊東妙子 これだけ長い時間閉じこもって、ここまで曲に向き合って制作をしたことは今までなかったと思いました。曲とも、自分自身とも向き合う時間になったと思うので、そういう意味では貴重で充実していて「またこれから自分達にできることがあるな」というのを核にした時間だったと思います。

――その期間に想ったことが乗った曲も本作にはある?

伊東妙子 やはり今を生きる自分達が作っているからどうしても気持ちは出てきますし、普段から自分が意識していなかった色んな感情が、向き合うことや先が見えない不安な時期だからこそ浮き彫りになったというか、より自分に迫ってきた感覚はありました。それが曲にも出ていると思います。

――1曲目「夜明けの唄」は、タイトルからコロナ禍についての曲かと感じましたが、実際はいかがでしょうか。

伊東妙子 「そういう状況を歌った曲でしょ?」という風に、出来上がってから言われることが多いんですけど、作った時はそれを念頭に置いて作ったわけではなかったんです。

――自然に出てきた曲なのですね。2曲目「宇宙遊泳」はブルースの要素、情念のあるトラックと感じましたが、ブルースの原料となるようなものとは何でしょうか。

伊東妙子 日々の叫びたいような気持ちを歌っているのがブルースだと思うので、それはシャンソンもジャズも演歌もそうかもしれないと思います。大衆音楽という意味では繋がっていると思うんです。出てきた形が違うだけで。生活に根ざしたというか、生活から生えてきたような気持ちを曲にしたいなというのは常に思っていることです。

篠田智仁 僕達の音楽でブルースと思って頂けることもありますけど、正直僕達はそこまでブルースとは思っていないというか。ブルースは大好きで、そう言って頂けるのは嬉しいんです。ロバート・ジョンソンさん(米ミュージシャン)などの時代のブルースはそこにいたからこそ生まれた音楽であって、それを現代でやるのはちょっと違うというか真似になってしまうと言いますか。

 もっとリアルなところをやりたいというところで、もちろん妙ちゃんの歌にはブルースは入っていますが、当時のブルースという意味ではなく「人生そのものがブルース」というのであればそうだと思います。そこを追求しているところはあります。「あの人の生活、ブルースだね」という解釈もあるじゃないですか? 自分達が言われるのはそういう意味でのブルースだと思うんです。

――確かにブルースだけでは括ることはできないというのは、3拍子の「クレイジーワルツ」やカントリー調の「シャバダバ」など、様々なテイストの楽曲が本作に収録されていることからもうかがえます。

伊東妙子 本当にそうですよね(笑)。色々散りばめてみました。なにしろ2人しかいないので曲調が似ると同じように聴こえてしまうので、曲調を色々変えたというか20曲くらい作ったんです。そこから12曲まで減らしていきました。「これとこれは被るから今作ではやめておこう」と外したのもあるし。

――例えば「向かうは荒野」のようにソウルフルな楽曲で別のものがあったり?

伊東妙子 そうですね。あと、「この曲は『夜明けの唄』に似ているからやめよう」みたいなのもあったし…。

――それらで「Bサイド集」のような作品にしたものもお聴きしたいです。

篠田智仁 そうやってボツにした曲が「もしかしたら化けたんじゃないかな?」という気もけっこうするんです(笑)。

――それこそ、いちリスナーとしては他のアーティストのBサイド集を聴いた時などに「なんでこれがBサイドとして扱われたのかな」と思うくらい良曲が多かったりします。

篠田智仁 なにかが気に入らなくてやめちゃうんですけど、時間が経つと実はそんなに気にならなかったりすることがけっこうあるから…。

伊東妙子 きっとまた来てくれるよ(笑)。今作でも実は2012年に作った詞をあてた曲もあって、「シャバダバ」がそうなんです。もちろんメロディに合わせてアレンジしていますけど、骨格としてはどうしても捨てられなかったデータみたいなものが残っていて。それを今回メロディにあててみたらバッチリだったので仕上げたんです。メロディとアレンジと歌詞と歌い方、これはドスを効かせて歌うとお腹いっぱいになりすぎるから軽やかに歌うなど、その組み合わせを何通りも試すのが楽しかったです。この曲に限らず、どれくらいかと調整しながら向き合う時間があったので凄く楽しかったです。

――その調整というのはやはり心情、情念といった面などでしょうか。

伊東妙子 歌い方もそうですし、そういったところはこだわりました。

篠田智仁 声が強いので全部張っちゃう感じだと活きない曲があって。

伊東妙子 そういうのを試すのを前作まで以上に、曲によって向き合って考えられたので凄く充実しました。

――本作には制作面にも心情面にもあらゆる手法と想いの密度がありますね。さて、コロナ禍というこの時期、最も大切にした方がいいことは何だと思いますか。

篠田智仁 光と陰があって、陰の方に光をあてるのが自分達の仕事だと思っています。どうしてもみんな光の方に意識がいって陰が忘れ去られていくというか。

――人生を生きていく上で大事だと思うことは?

伊東妙子 やりたいことをやることです!

――やらないとどうなると思いますか。

伊東妙子 できない状況はたくさんあると思うからそれだけを言ってもいけないんですけど、「これがもったいないから」「今はやめておこう」としていたら何のために生きているのかわからなくなるじゃないですか? 今を全力で生きること、やりたいことを全力でやることだと思います。

(おわり)

作品情報

『BRAND NEW CARAVAN』
https://Caroline.lnk.to/bncaravan

ライブ情報

“BRAND NEW CARAVAN” Release tour

待望のサードアルバムと共に東名阪のワンマン・ツアーが決定

DATE / VENUE INFO
名古屋:12月5日(土)名古屋CLUB QUATTRO
開場17:30開演18:30 前売4,500円(自由席、入場整理番号付、1ドリンク別)
大阪:12月6日(日)梅田CLUB QUATTRO
開場17:30開演18:30 前売4,500円(自由席、入場整理番号付、1ドリンク別)
東京:12月10日(木)渋谷 O-EAST
開場18:30開演19:30 前売4,500円(指定席、1ドリンク別)

TICKET INFO
オフィシャル先行 10/27(火)17:00 ~ 11/1(日)23:00 受付URL:https://l-tike.com/tjiros
一般発売 11/7 (土)10:00~

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