HEAVENESE座長・石井希尚氏

 緊急事態宣言が発令された4月から半年になる。しかしコロナ禍が収束する気配はまだなく、人々の間には不安が続いている状況だ。世界では規制や自粛に反対するデモも起きており、現状に対する懐疑が広がる現実もある。日本でも先日とある動画がSNSで話題になった。その映像は「これは現実?」と始まり、今の社会を風刺する。

 リリースしたのは、和楽器と洋楽器を組み合わせた編成で活動する音楽一座・HEAVENESE(ヘヴニーズ)。音楽と教育を融合させた「大和魂エデュテイメント」を打ち出し、外務省後援のライブをアメリカやイスラエル、アフリカなど国内外でおこなってきた実績あるグループだ。現在はコロナ問題に関する情報番組の配信をYouTubeで毎週日曜日に続けている。

 コロナ以後の音楽をレポートする当企画、第7回目に話を聞いたのはHEAVENESE(ヘヴニーズ)の座長・Marre(マレ)こと石井希尚氏(マレヒサ)。牧師やカウンセラーとしても活動する彼が考える、今の活動や社会、アーティストの役割について聞いた。【取材=小池直也】

緊急事態宣言中も発信し続けた理由

――約2時間の配信番組を4月から毎週続けられていますが、まずはこちらについて教えてください。

 配信を始めた4月5日は、もともと外務省後援のライブを予定していました。会場だった日本橋三井ホールのスケジュール表を見ると、僕ら以外に唯一キャンセルしてなかったバンドの企画も延期になっていて(笑)。ホール側からも「できれば控えて頂きたい」と。それでも非常事態宣言が出る前でしたし、最後までやるつもりでいたんです。

 しかしディレクターや後援会長と話して「この機運だと不安で来れない人もいるかもしれない。それでは思いやりがないし、安心して来れる時期にやった方がよいのでは?」と直前での延期を決定しました。しかし、ただ延期にするのではなく「我々はこう思ってますよ」ということは伝えなきゃ、と考えていましたね。

――いきなり配信をされるのは、技術的にも難しかったのではないかと思います。

 すでに3月、大阪市立泉尾北小学校の視聴覚授業としてのステージを、東京のスタジオからライブ配信で行っていたんです。これはコロナ禍における校長先生の英断で実現した、公立小学校初の出来事でしたね。この時にプロの配信業者さんに入ってもらったことで、うちのスタッフがノウハウを学ぶことができたんですよ。

 それによって4月5日の延期に際した配信もできました。僕は「予算もないけどいけるの?」と念押ししたんですが、映像チームは「できますよ」と言うんです。「じゃあ、やろう」と(笑)。

8月16日の日本橋三井ホール公演のもよう

――なるほど。

 本当は1度で止めるつもりでした。僕らはリリース音源が多いわけでもなくライブバンドで、YouTubeチャンネルもほとんど更新してなかったですから。でも今まで関わってくれたプロデューサーの方が「絶対やらなきゃいけない」と言ってくれたんですよ。

 もちろん、これまでもライブやMCで日本の歴史にまつわるメッセージを発信してきて、それを動画でアップしてほしいという声はあったんです。でも歴史認識の違う人からクレームがあったり、色付けされて勝手にカテゴライズされるのが嫌でした。

 ただでさえ靖国神社での奉納演奏などでイメージがひとり歩きして、いわゆる右寄りのメディアに取り上げられることが多かったですから。YouTubeを始めたら色がもっと強くなる懸念があったの僕は絶対やりたくなかったんです。

――では、なぜ27週に渡って配信することに?

 初めての配信ライブの直後に緊急事態宣言が発令されました。戦後初の事態に何も言わない、ということは有り得ないと思い、とりあえず宣言が開けるまでやろとなって、数回続けました。でも宣言が解除されると、今度は「新しい生活様式」、「ニューノーマル」と騒がれ始めた。またもや、この時代の変化に何も意思表示しないという選択はないと思い…。そんな形で続けていく内に27回を超えました(笑)。

 やはり反応が大きいんですよ。僕たちの現状では、ホールを一杯にしても1000人位と考えると、その10倍以上の人が見てくれる。もう今はやり続ける前提で、番組タイトルがSeason4からSeason4everになっています。結論として、これは押し出される様にして始まったんですよ。YouTuberになろうとか、配信ライブをやろうと思ったことは一度もありません。

――配信番組の内容は世界で起きている<時事/ゲストコーナー/オンラインカウンセリング/日本の先人の紹介>といった構成が多いですね。

 オンラインカウンセリングは、僕がカウンセラーとして普段やっていることです。特に新しいことではないんですが、観た方の反響が大きい。お世話になっている美容師さんまで「めちゃくちゃ良いですね」と言ってくれますから。あと演奏だけではなくコントを入れて、笑いも大事にしています。それはアメリカでのデビュー時にレーベルオーナーのシーラ・Eからも言われたことでした。

 全部を一度に見ると長いですが、テレビ番組ではないので細切れで楽しめるのが便利ですよね。このコンテンツをひとつのグループで網羅できるというのは、僕たちが唯一無二なんじゃないかと思います。

コロナラプソディの誕生秘話

<コロナラプソディ feat.大橋眞 (徳島大学名誉教授)/ HEAVENESE(ヘヴニーズ)>

――笑いと言えば、QUEENの「ボヘミアン・ラプソディ」をパロディにした、「コロナラプソディ feat.大橋眞 (徳島大学名誉教授)」が7万回再生されるなど話題になりました。こちらについても教えてください。

 オンラインカウンセリングに相談を送ってくれた子たちへの励ましの曲として、有名な洋楽を週代わりにカバーしています。そこで「ボヘミアン・ラプソディ」をやることになり、調べていたら英語版の「コロナラプソディ」を見つけたんですよ。

 面白いのですが、これはWHOの方針を宣伝するような内容でした。それに英語だと日本人には伝わらない。でも、それを見た瞬間から妻のKUMIKO(ボーカル)が「やるしかない!」と構想が湧いたみたいでした(笑)。その段階で放送の3日前ですから、時間的に無理かなと思いましたが、妻は「できるよ」と。最初に披露したのはオペラのところだけ作ったもので、翌週に短い時間で映像を撮り、完全版ができました。

――翻訳はオリジナルの歌詞の内容ともリンクしていて興味深かったです。

 「ボヘミアン・ラプソディ」のカバーはグッチ裕三さんの「犬のおまわりさん」の様な前例もありますが、今回は元の英詞のサウンドと意味をなるべく踏襲してパロディに、とこだわりました。この曲はフレディ・マーキュリーにとって「同性愛者であることを隠さない」という決意の歌なんです。それをコロナとかけて「世の中に合わせず、俺は自由に生きるぞ」と。

 さらに言うと、メンバーのTenryu(太鼓)が似てるということで、今まで何度もライブの中のコントでフレディ役を演じていたんですよ。それがなかったら、このカバーを思い付かなかったし、短期間での完成はなかったと思います。

<Coronavirus Rhapsody(英語版のコロナラプソディ)>

――コロナにまつわる諸問題への懐疑は他にも色々な動きがあります。先日はノーマスクによる集会「クラスターフェス」がSNSで話題になっていましたが、それについて思うことはありますか?

 僕は、その主催の方を知りませんが、まずネーミングが適切ではないかもしれません。それから聖書を読むと、神は秩序を重んじるので、反社会的な無秩序は望まれません。だからといって「権力に従え」ということではなく、むしろ「権力者のために祈れ」と。健全に支えあうという気持ちを持ちつつ、はっきりノーを言うということが大事。僕たちは社会不安を煽り、秩序を乱すということではない方法で声を上げていきます。

――では先ほどの4月5日の公演が数回の延期の末に、8月16日に開催されました。久々の優観客のライブだったと思いますが、この感想を教えてください。

 配信は当日の朝にバンドとカメラのチェックや諸々の準備をして本番に臨みます。構成や内容を考えるのも毎回大変なので、それに比べたらライブの準備は大丈夫かなと思いましたが、結局バタバタでしたね(笑)。ライブは配信とは全く違う、というのが大きな感想です。

 あと配信はお客さんの体温を感じられないので、カメラの向こうにいる見えない人々を見る感じ。ライブでは目の前の人々のバイブスが空気を変えます。それは圧倒的で「これをやらなきゃダメだよな」と。人と人が空間を共有していることのパワーを改めて感じました。

――オーディエンスの反応はいかがでした?

 「終戦記念日スぺシャル」と題して行いましたが、反応はびっくりするほど良かったです。終戦については、徹底的な当時の軍部批判か「あの戦争は大義名分があり、悪いものではなかった」という論調に分かれてしまうと思うんですよ。そこで今回、僕らが照準を合わせたのは「その時代の文化がどうだったのか?」ということでした。

 例えば敵性言語。サックスを「金属製先曲がり尺八」と呼ばせたり、「当時の日本はおかしい」というステレオタイプな印象があります。でも陸軍が作った映画『野戦軍楽隊』(1944年)では普通に横文字が使われていたりして緩いんです。さらに洋楽が禁止されたことにより「黒田節」などの伝統音楽をジャズアレンジで演奏する、つまり僕らみたいなスタイルの音楽が生まれました。だから戦争が新しいものを生み出した側面もある。

 そういう庶民の強さを基本的に出して、反英米や反日本という軸ではないところでエンタテインメントにしていきました。だからゼロ戦や原爆の映像に加え、「鈴木貫太郎内閣がどの様に戦争を終わらせたか」という結論も偏らずに「平和を求めた」という視点で受け取ってもらえたんじゃないかなと。これも僕らならではの切り口だと思っています。

押しつけには同意できない

8月16日の日本橋三井ホール公演のもよう

――話は変わりますが、もともとMarreさんは学生運動をしていたそうですね。それについて教えていただけますか?

 70年代の安保問題以降で初の学生デモを行ったのは僕たちです。まず僕が小学校から通っていた明星学園は点数序列主義を排除し、教育の理想を目指していた学校でした。そこで「理想を持って生きるべきだ」と教わり、今の僕の精神があると言ってもいいくらいです。

 でも高等部は、中学までとは敷地も先生も、気風もまるで違いました。そして11年生(高校2年生)に上がる時に同級生が退学になったんです。「教育は可能性を引き出すこと」だと教えられてきたのに、それはおかしいだろと。そこで処分撤回を求めるデモやハンガーストライキを行い、「なんなんだ会」を結成しました。週刊新潮さんや日本中の新聞が取材してくれたし、ワイドショーにも出ましたよ。

 それから「生徒が作った、生徒のための、生徒の学校」というスローガンのもと「寺子屋学園」という日本初のフリースクールを作りました。16歳で教育運動家みたいでしたね。でも結局、処分は撤回されずに僕は高校を辞めて、音楽と寺子屋学園に没頭していきました。だから当時の僕の音楽は社会に対する復讐。「矛盾だらけの世の中を見返すぞ」と。マイナスのエネルギーって強いですからね、16歳から20歳までの4年間は戦いの人生でした。

<参考リンク:大学生時代に寺子屋学園を支援した壁画家・松井エイコ氏の記事>
http://www.gei-shin.co.jp/comunity/09/04.html

――その経験から現代のデモに関して感じることは?

 数年前、安保問題についてのデモに大学生が参加して話題になりました。でも僕はその様子を聞いて「これはいけないな」と感じたんです。安保反対を訴えることがいけないんじゃない。ただ、どんなにそれに反対でも、実際に首相の立場になったこともない学生が、公で首相を呼び捨てにしたり「死ね」などと、品性のない言葉を並べるのは市民運動として最低です。

 それをキング牧師の公民権運動のデモとなぞらえて語る人もいました。しかし全く違う。キング牧師は、大統領に向かって暴力的な言葉はかけてはいませんし、むしろ交渉したのです。特定の思想を持つ人や政党に利用されるという意味で、現代における本当の市民運動は起こりえないんじゃないですか。

 米国で加熱する人権問題「ブラック・ライブズ・マター」のデモもそう。たまたま我々夫婦はアメリカに住んでいましたし、色々な人種、色々な思想のアメリカ人と付き合いがあります。ですから客観的に見て学べば、あの問題が今年の大統領選挙と無関係でないことが分かる。ですから心あるアメリカ南部の黒人ではなく、同じ土俵で語れない日本人は関わらない方がいい。勉強せずに運動に乗ってしまうのは、本当に心を痛める方に失礼ですから。

――ではMarreさんが思う、アーティストの役割とは何でしょうか。

 高校を辞める時に親父から「まず俺を説得しろ」と言われたんです。そこで提出した論文に書いたのは「若者の精神革命を起こす」ということでした。親父は鼻で笑ってましたが(笑)。その夢が少しでも叶うなら、僕は世の中の出来事について「これは本当なの?」と投げかけたり、方向づけたり、啓蒙していくことで若者に問いかけていきたい。それがアートや音楽の役割で、その力を知っていたからこそ、為政者がアーティストを抱え込んだりしてきたわけです。

 だからマスク着用の同調圧力についても「これとは違う生き方があるんじゃない?」ということを表現するのが、ミュージシャンのあるべき姿だと思うんですよ。猫も杓子も「ソーシャルディスタンスを守ったライブ」となるのは、軍国主義に傾いた時代と同じですから。

――違う可能性を提示する、という役目ですね。

 1965年頃、アメリカを変革した「イエス革命」という運動がありました。反ベトナム戦争/反政府/反教会だったヒッピーが牧師になり、音楽と共に大きな働きを成したんです。日本の学生運動におけるフォークもそうでした。ロックも反抗の精神があるじゃないですか。僕はそのスピリットを忘れたくない。

 もちろんニューノーマルの全部がダメとは思いません。クリエイティブにやればいい。でも押しつけには同意できません。「そうでなければいけない」という全体主義的な考えにノーです。僕は集団圧力ではない、日本人の「和を持って尊しと為す」という徳を受け継ぎたい。だから道を示したり、火を灯すことを続けていきたい。それはミュージシャンでなかったとしても、生き様としてそうでありたいですね。

――では、最後に11月2日に予定されている次回の公演についての意気込みをお願いします。

 当日に世の中がどうなっているかは分かりませんが、その時に一番必要なメッセージをギリギリまで考えて、演目として共有できれば。決して政治運動ではないし、楽しく教育的に学べて、違う考えを持つ人でも楽しめるものになるはずです。

(おわり)

公演情報

11月2日[月]祝前日
『2020 HEAVENESE BRIDGE@日本橋三井ホール「FAKE WORLD」』

開催日:2020年11月2日(月)祝前日
時間:18時開場/19時開演
場所:日本橋三井ホール
出演:HEAVENESE
特別出演:大倉正之助
(能楽師/大倉流大鼓方/重要無形文化財総合指定保持者/文化庁日本遺産大使)

プロフィール

 Marre/石井希尚 HEAVENESE座長。作家、カウンセラー、牧師。10代の頃、画一的教育体制に疑問を抱き、日本初のフリースクール「寺子屋学園」を設立し注目を集める。1991年ポリドール系のレーベルよりデビュー。2000年に出版した処女作「この人と結婚していいの?」(新潮社)は20万部を超えるロングセラーに。2012年秋、音楽外交使節団HEAVENESE(ヘヴニーズ)として米Stiletto Plats Musicよりデビュー。外務省後援イベントを主宰する等、国内外で活動。妻・久美子と共に経営する複合的価値創造空間キックバックカフェを拠点に、夫婦二人三脚で多方面にわたり精力的に活躍中。著書多数。

筆者紹介

小池直也 ゆとり第一世代の音楽家/記者。山梨県出身。サキソフォン奏者として活動しながら、音楽に関する執筆や取材をおこなっている。
ツイッター:@naoyakoike

記事タグ

コメントを書く(ユーザー登録不要)