遠藤真澄氏(写真:Nonoko Kameyama)

 コロナ禍の影響により、普段とは異なる2020年の夏が過ぎた。感染防止の観点から推奨されたリモートワークと同じく、音楽業界では軒並み中止となった大型のフェスやアーティストによるライブの多くがオンライン開催となっている。それに伴って需要を増しているのが映像の分野である。実際にビデオを作るクリエイターだけでなく、ダンサーもオンラインでの振付けの仕事やコラボレーションが増えているのだという。

 コロナ以後の音楽をレポートする当企画、第7回目となる今回はダンサーの遠藤真澄氏にインタビュー。「UKジャズダンス」で人々を魅了する彼女は、本場のロンドンに3月から5月まで滞在。そこでロックダウンに巻き込まれながら、何とか拠点の福岡に帰還したという。その彼女に当時のロンドンの状況やそこで感じたこと、現地アーティストの様子、ブラック・ライブズ・マターなどについて話を聞いた。【小池直也】

遠藤真澄氏(写真:Nonoko Kameyama)

遠藤真澄氏(写真:Nonoko Kameyama)

――いまだに続くコロナ禍を経て、現在の活動はいかがですか。

 福岡で主に1対1の個人レッスンの仕事をしています。集団だとスタジオで密になってしまいますから。あとは日曜日に無料のセッションをやっています。カルチャーを広げるためには大人が本気でやってないとダメなんです。だから「とりあえず輪になって動いてみよう」、「何でもいいから鳴らしてみよう」というところから、ジャズやヒップホップに流れていったり。

 やっぱり私たちは密が好きなんですよ(笑)。音楽は見えないけど、何かエネルギーを循環させて対話しているんです。もちろんオンラインでも頑張るけど、集まれるようになったら少人数で広い場所に集まるし、その方が心が健やかですね。学校でも給食の時間に喋れないとか、必要以上のルールで縛りすぎだと思うんです。せめて月1回くらい遊んだ方がいい。気を付けるのは大事ですけど、ニュースの情報ばかりではなく目の前のことを信じて、やれることをやっていこうと思ってます。

――遠藤さんは、3月1日から5月までロンドンに行かれていたとのことですが、その時のことについて聞かせてください。

 2月末は韓国でパンデミックが起きていて、ちょうど私が乗った便も韓国経由だったんです。心配で機内は10時間以上も寝れず、ひたすら除菌していました(笑)。到着した時のロンドンは福岡よりも感染者が少なくて、新型コロナは「アジアの病気」と言われたんです。それから中国人旅行者が差別的な言動をされたというニュースがありましたが、私にはありませんでした。 

 到着後はまず『Open Art Surgery』という演劇・ダンス・イベントそれぞれのディレクターが常在するスタジオで1週間、6組のアーティストが作品を作るプロジェクトに参加しました。最後の日は歴史のあるサドラーズ・ウェルズ・シアターで発表もできてよかったです。予定されていたUKジャズダンスのワークショップも無事に開催できましたが、ピアニストのロバート・ミッチェルのライブへの参加はロックダウンの影響でキャンセル。ロックダウンは3日前に噂で知りました。シアターが全て閉まって、いよいよだなと。これによって外出が厳しく禁止されたんです。

<発表した作品>

――ロックダウン中の過ごし方はいかがでした?

 今お付き合いしている方がイギリスの「Jazz re:freshed」というレーベルに所属しているビデオグラファーで。彼のおかげでロックダウン後、ロンドンのアンダーグラウンドなレーベルとBBCがコラボレーションした、YouTubeの配信を見学できたのは良かったです。でも、その夜に私と彼でそろって新型コロナに感染する夢を見ました(笑)。

 SNSでは日本の友人が感染者数について色々な投稿をしていましたが、そんな頃に彼のシェアメイトが新型コロナに感染したんですよ。怖くてSNSも見れませんでしたね。毎日帰ってきてからすぐシャワーを浴びてもらってから、リビングに入ってもらうようにして。あとはマスク不要論が流行っていて、彼もシェアメイトもしないんですよ。でも私はマスクをしてほしくて、文化や価値観の違いを強く感じました。最終的にはこちらの言い分も聞いてくれて、買い物に行く時はゴム手袋、帰宅したらアルコール消毒を徹底してくれていましたね。

 結局シェアメイトは1日で熱が引いて、私たちも感染することはありませんでした。今ロンドンは結構ゆるいみたいで普通に集まれるみたいですよ。経済活動を促すために政府があえて感染者をニュースで発表していないと聞きました。毎日そんな情報ばかり聞いていると洗脳される様に感じますから。

<遠藤さんがロックダウン直後に見学した配信ライブ>

ロンドンのアーティストは楽しむ達人

――現地のミュージシャンたちの様子も気になります。

 一緒に演奏する予定だったロバートはかなり怖がってて、早い時期からお茶でうがいする動画などを送ってきてくれました。彼の奥さんが医療従事者だから余計に心配もあったと思います。3月31日が本番の予定でしたが、3月中旬くらいから「やめておいた方がいいと思う。様子を見てみる」と連絡があって、そこから1週間後にロックダウンで中止。

 ライブは彼が作ったジャズピアニストのマッコイ・タイナーに捧げた詩とピアノとダンスでパフォーマンスする予定でした。その詩がとても良かったので、勝手に森でミュージックビデオを撮ったら、ロバートが気に入って「次回のオンラインライブで使いたい」と言ってくれましたね。自粛期間は予期せずですが、以前もご一緒したことのあるDa LataというバンドのMVにリモート参加もできました。踊る場所もないので家の階段でやりましたが(笑)。あとは日本のBLU-SWINGともリモートセッションしたり。

 到着直後は暇すぎて餃子や日本料理をたくさん作っていて「イギリスに何しに行ったんだろう?」と考えたこともありましたが(笑)、違う形で仕事につながってオンラインの可能性を感じました。オンラインフェスのクオリティもNetflix並みになっていて、高いお金を払わないと観れないダンスカンパニーとかバレエ団も劇場公演を1週間配信していましたね。アーティストは基本みんな前向きだったと思います。

<階段で踊ったDa Lataの動画>

――5月にはロンドンのレジェンド・ラッパーのTyさんが新型コロナで亡くなり、大きなニュースになりました。

 以前、彼の楽曲で福岡の子どもたちとセッションしている映像をSNSに上げたら、彼から「最高だ!」とコメントが来たこともあったんです。彼を偲ぶ会は明るくて、ゆかりの建物の壁にグラフィティを描いたり、集まって音楽を流したりしていましたね。その楽しそうな集合写真がSNSに上がって「ソーシャルディスタンスはどうしたんだ!」という批判はあったみたいですが、私はそこでアートやダンス、音楽は世の中に必要だなと感じましたね。やっぱり実際に集まれないオンラインの葬儀だと悲しいですが。

――5月25日、アメリカでジョージ・フロイド殺人事件が起こり、ブラック・ライブズ・マターが世界中で盛り上がりました。ロンドンで何か感じたことはありましたか?

 彼氏はデモに行かず「様子を見る」と言って冷静に一歩退いて見ていました。政治や社会のシステムを変えて解決に導く方法を探し、情報を集めながら自分がどうアクションするかを模索していたんです。彼氏の友人の会社では白人社長に「新入社員に有色人種が少ないのはなぜ?」と手紙を書いた人がいたり、何かを変えるきっかけにした人もいました。ロンドンはアメリカほど暴力的な抗議が多くはなかった印象ですね。

 あとBLM以前からグラフィックや音楽、アートなどの分野で「ロンドンのブラックカルチャーはヤバいよ」と文化に価値を付ける動きがあって、黒人の生きづらさを訴えていた様な気もしました。ブームではなく、10年と続けることが大事だなと感じます。

 ロンドンではアートが身近にあって、彼らは楽しむ達人です。クラブに行けないダンサーたちはローラースケートにハマり出したり、日常の遊びとして表現に親しんでいる印象でした。オンラインにも「対応しなきゃ」という様子ではなく「もっと楽しもう!」と。

大事なのはリアル

海外のビッグバンドと共演する遠藤氏

――それからの帰国はどの様な流れでしたか?

 アシアナ航空の帰国便がキャンセルになって、路頭に迷いました(笑)。ただJALが週3で動いていたので5月末に帰国できたんです。福岡着で交通機関を使わず帰れていたら、実家にそのまま行けたんですが、飛行機が東京行きだったのが大変で。公共交通機関は14日間使ってはいけない、その間の不必要な外出はしない、PCR検査は必須、と日本の水際対策は厳しいなと感じました。だってイギリスは6月まで特に水際対策をしていませんでしたし、今も緩いですから。

 日本に到着したら厚生労働省の方と自衛隊の方が防護服で帯同し、逃げ場がありませんでした。PCR検査の結果が出るまでの2日間は誰かに迎えに来てもらうか、空港で待つか、国が用意したホテルに泊まるかを選べるんです。私は国のホテルを選びまして、豪華な施設で待遇も良かったですね。ただ乗せてもらったバスはビニールに覆われていて犯罪者の護送の様で、行く場所も教えてもらえない。部屋のキーを渡されず、用が無ければ部屋から出ない様に言われていました。

 7時、12時、18時に「自衛隊がお弁当を置いて移動したら、それを速やかに手に取ってください」という様なアナウンスがあります。そのお弁当がとても高級なのは良かったですね。「コロナ禍で大変ななか、長旅お疲れ様でした。事態が収束した折には当店をご利用ください」と手紙が添えてあって。

――結果は陰性で、そこから残りの12日間を東京で過ごされたと聞きました。

 それからは帰国者や医療従事者を受け入れるホテルを自腹で取りました。満室で驚きましたね。外出禁止とまではいきませんでしたが、自販機やレンジとかの使用を控える様には言われいて。

 それを終えて、帰宅してからはオランダのストリートダンスフェス『Summer Dance Forever』に映像で参加しました。リモートでアーティストとコラボする機会が増えて、福岡にいても東京やロンドンにいるのと変わりなく活動できる環境になってきましたね。オンライン化が進んで映像の需要が高まっていると感じます。

――これからもリモートでの活動や作品作りに力を入れていく、ということですか?

 でも、やっぱりリアルが大事。人と会話したり、セッションする意義を考えていましたが、可能ならば実際の心のやりとりが必要ですね。ZOOMのレッスンやオンライン決済など選択肢が増えましたが、大切なところは見失いたくない。クリエイティブなものを作りたいし、心のやりとりを続けていく方法が今はたまたまオンラインというだけ。少人数であっても、対面のパフォーマンスや公演をオンラインと並行でやっていくつもりです。

 ◆遠藤真澄(えんどうますみ) インターナショナルダンス学院卒業後、プロダンサーに。UK JAZZ DANCEをメインにメディアから劇場、ワークショップまで幅広く活動する。2016年ロンドンに活動拠点を移し本場のレジェンドたちに師事。数々の舞台芸術祭へ出演し、ノルウェー・ベルゲン・ビッグバンドとも共演を果たす。さらにLondon Jazz Festivalなどのヨーロッパ屈指のジャズ・フェスティバルにも招聘された。現在は福岡県糸島市を拠点に日本国内外でパフォーマンスや演出、映像制作を行う。その傍らでダンスを通じ、多様性やあたたかい繋がりを地域と共有、一緒に感じられる活動を模索中。

筆者紹介

小池直也 ゆとり第一世代の音楽家/記者。山梨県出身。サキソフォン奏者として活動しながら、音楽に関する執筆や取材をおこなっている。
ツイッター:@naoyakoike

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