INTERVIEW

ラブリーサマーちゃん「広い世界に触れてみたい」過去・現在・未来に迫る


ラブリーサマーちゃん

記者:村上順一

掲載:20年09月16日

読了時間:約12分

 ピチピチロックギャルのラブリーサマーちゃんが16日、ニューアルバム『THE THIRD SUMMER OF LOVE』をリリース。2015年に1stアルバム「#ラブリーミュージック」、2016年11月にメジャーデビューアルバム「LSC」をリリースして迎えた通算3枚目となるフルアルバム『THE THIRD SUMMER OF LOVE』は、ブリットポップテイストを感じさせる、彼女が今鳴らしたい音が詰まった1枚に仕上がった。インタビューでは、4年の構想を経て完成した今作の制作背景に触れるとともに、過去、現在、未来について彼女の思考に迫った。【取材=村上順一】

ラブリーサマーちゃんのターニングポイント

『THE THIRD SUMMER OF LOVE』通常盤ジャケ写

――レーベルも移籍され、新たなスタートを今作で切ったと思うのですが、どのような心境ですか。

 どの会社と契約したか、というよりもその会社の中の誰と組むのかが重要だと思っているので、あまり会社は気にしていないんです。でも、レーベルや会社のカラーや社風というのはあるなとは感じています。

――人ですね。今回、過去と現在、そして未来についてお話しを聞けたらと思っていまして、これまでの音楽人生でどのようなターニングポイントがありましたか。

 やっぱり最初に聴いたthe brilliant greenはターニングポイントでした。the brilliant greenを初めて聴いた当時も「これ(音楽)は私の人生のなかでかなり大切なものになっていくだろうな」とピンときていました。同時期にちょうど趣味が欲しかったので、ギターを始めたんですけど、その時にも同じような感覚があったのを覚えています。「ギター、生涯弾き続けていくだろうな」と、ギターを始めた初日に思いました。それで高校で軽音部に入ったんです。うちの高校は軽音部が2つあって、レベルが高い方はオリジナル曲とかをやって外のライブハウスでライブしていましたが、レベルの低い方は学外での活動はなく、演奏する曲もコピーでした。レベルが高い方の部にはthe peggiesがいて、私はレベルの低い方の軽音部に所属しました。私が入った方の軽音部だと私が一番ギターが上手かったんですよ。それで、井の中の蛙で「イケる!」と調子に乗ってました。でも、そうなると不満も出てきて。

――もっとレベルの高いところでやりたくなって。

 軽音部ではなかなかやりたいことが出来ないのが嫌になってきて。それで、外でバンドがやりたいと思って、mixiで募集を掛けていた男の子にコンタクトを取って一緒にバンドをやるようになりました。そこで初めて外の世界に触れた感覚があったんです。私が通っていた学校は中学、高校、大学とお嬢様学校で、肌に合わないなと感じていました。私が大切にしたい価値観と、同級生が大切にしたい価値観は違うんだろうな、というか。学外で友達を作るようになってからは、「コンサバな人生観以外の人生観が世の中に存在しているんだ!」と知って嬉しくなりました。

――大海に出たわけですね。

 はい。そのあと、ある男の子と出会うんですけど、その子からミックステープをもらったり、音楽のルーツの掘り方や、シーンについて教えてもらったのが大きくて、そこもターニングポイントになったところかなと思います。音楽を楽しく聴く方法みたいなものを知ることが出来たんです。

――ちなみにギターアンプから音を出した時は、衝撃的じゃなかったですか。

 最初に音を出したのはアコギだったので、エレキに変えた時は「スゴい!」とは思いました。でもそれはアンプの音に対しての「スゴい!」ではなくて、「エレキギターってアコギよりも簡単だな!」っていう衝撃ですね。セーハのコード、Fコードがキレイに鳴らせたことが印象的でした。アコギだと弦が硬くて、上手くならせたことがなかったので、Fコードが弾けてすごく嬉しくて感動したのを覚えています。エレキギターの音自体は、the brilliant greenを聴いた時に既に衝撃を受けていましたから。あとはミックステープに入っていたスマッシング・パンプキンズ(米・ロックバンド)のサウンドにも「おおっ!」って思いましたね。

――音源から衝撃的だったんですね。そういえばCDとかフィジカルなものが好きなんですよね。

 最高です。配信とかありますけど、いつ配信が停止して聴けなくなってしまうかわからないじゃないですか。手に持てる、所有できるというのが大きいです。音楽は本来形がないものだけど、C Dやレコードはそれに形を与えてくれますよね。ジャケットデザインやブックレット、どういう風に印刷しようかなども含め、アーティストやデザイナーさんのこだわりだったり、“意図の塊”だなと思うんです。

 そうすると色んな事を注視するようになると思います。手触りなど含めて、自分の感覚をCDに向けているというのは、私にとってすごく贅沢な時間なんです。レコードはその最たるもので、大きいし、かさばるし、聴くまでは面倒くさいんですけど、棚から出してスリーブから出して、台にセットして針を落として……という、その一連の儀式をすることで、「今自分は音楽を聴いている!」という実感がすごい、没入体験になっていて。そうすると音楽をもっと楽しめる気がします。

 今回、マスタリングの時に、ストリーミングになるとどのように音が変化するのかを、マスタリングエンジニアの山崎翼さんに教えていただきました。なんでも私のやっているような音像は、サブスクとかではラウドネスノーマライゼーション(一定以上は自動で音量を下げ、イコライジングを調整する仕組み)という規定があって、CDとは違う音になってしまうことがあるみたいで...。

――音圧を稼いだ音源は特に影響を受けてしまうと聞いたことがあります。

 そうなんです。でも私はこの音が好きなので、虐めないでって感じなんですけど(笑)。「心ない人」でファズを10台繋いでファズサウンドの壁みたいなものを作ったら、すごく好きになってしまって。それと整合性をとるために他の曲もそういう風にレコーディングしました。「心ない人」、「サンタクロースにお願い」、「どうしたいの?」、「LSC2000」は以前から録ってあった曲で、すごく良かったので今作の軸になった曲ですね。

――今作のミックスダウンは時間が掛かったみたいですね。

 時間を掛けました。あと、レコーディングも大変でしたね。私は歌も楽器もそんなに上手くないんですけど、たまに神がかったテイクもあるんです。それで、テイク選びや、録り直したりすることもすごく多くて。本当に2、3回録ってオッケーが出せる人に憧れますが、私はその対極にいて、下手くそなんですけど完璧主義者なんです(笑)。

目に見えるもの、聞こえるものが全て

――今作収録の「心ない人」は、ご自身の経験から書かれていますよね。

 そうです。私は想像で曲を書くことは少なくて、9割は自分に起こった話なんです。その中でも自分と他者との関わり合いの中で思うことが一番多いですし、あとは自分の内面にある、自己との話し合いみたいなものも多いです。

――実際に起きた話だと共感は得られやすいですよね?

 私は起こった出来事を書き写す手法で曲を作りがちですけど、共感を得られやすいか否かは、フィクションかノンフィクションかとは、あまり関係ない気がしていて。そもそも“共感”こそが音楽にとって重要であるという意見でも無いですし。曲を聴いて心が揺さぶられるなら、それは固有名詞の使い方などの歌詞の出来やボーカルのニュアンスとか、テクニカルな面だと思います。お客さんに届くのは音楽と、ミュージシャンの言葉だけじゃないですか。私は目に見えるもの、聞こえるものが全てだと思っているので、そこにしかリアリティは生まれないと思っています。

――興味深いですね。

 ノンフィクションがフィクションに劣るとは全然思っていなくて。例えば渋谷系と呼ばれる人たちの音楽が、実際にアーティストがハイソな暮らしをしていなくても“キラキラした街”の情景を感じさせるのは、憧れや希望から生まれたものなんじゃないかなと思います。こういう暮らしって素敵だなと思っているから生まれるわけで、本当にハイソな暮らしをしていなくても、それらをイメージすることや望む気持ち自体はノンフィクションだと思います。フィクションもノンフィクションも、どちらも人が考えて描くことで、そのどれもが真実だと思っています。

――想像力が重要ですね。

 自分が考えて心が動くというのが、私が一番大事にしている事で。みんなが想像力を持って曲を聴いたり、接したりしていけば、もっと優しくなれたり楽しくなれるんじゃないかなって思います。「More Light」という曲は、もう少しみんな想像力を持とうよ、といった曲なので、そこに通じるところもあるんじゃないかな。

――優しさというのは、キーワードだったりしますか。

 よく考えることの一つです。小学生の頃、自分でも私ってすごく優しいなと思ってました(笑)。内気なだけだったのかも知れないですけど、人が嫌がることは絶対にしなかったですし、きっと人に優しくすることで自分が安心していたんだと思います。“優しい自分”というのが当時の自分のアイデンティティでしたし。でも大学生の時にこの仕事を始めて自分で生計を立てるようになったんですけど、色んなものを背負い込んでしまって、どんどん気持ちが殺伐としていって...…。それで、自分は本当に優しいのかな、と思いだして。

――さて、「I Told You A Lie」はイギリスに行って出来た曲とのことですが、渡英したことで、何か価値観は変わりましたか。

 憧れだった人や文化が本当にそこにはあるんだろうか、実際に行って幻滅したらどうしようと、行く前には危惧していました。そういうことってたまにあるし、かといって行かずに永遠に目を瞑っているのも嫌で。でも行ってみたら、より一層イギリスが好きになりましたし、グッと自分の中でイギリスとの距離が縮まりました。

――アルバムのブックレットに掲載されている旅行記を見れば、充実した旅だったことが伺えます。アルバムのお話に戻りますが、5曲目の「豆台風」は、イントロのドラムから雰囲気があって、こだわった部分なのではと思いました。

 この曲はレーナード・スキナード(米・バンド)とか、サザンロックのようにしたかったんですけど、そういう風に全然なりませんでした(笑)。ドラムに関してはこだわれたのかどうかよくわかっていなくて…...。色々とこだわりは強いのに、音楽用語や理論に詳しくないんです。つい最近まで音の「ドライ」と「ウェット」の違いもわからなくて。ドラムの音も私の中にイメージは強くあるんですけど、なかなか説明出来なくて。なのでエンジニアさんやドラマーさんに私の希望を説明して音作りしていく時も、「今のドラム、可愛い女の子なんだけど指の毛も抜いてなくて、着ているニットも毛玉だらけで芋くさい感じだから、垢抜けた女の子にしてほしいです」とか、意味わからないですよね(笑)?

――わからないです(笑)。

 ですよね。今の説明には「モダンな音にしてほしい」という意味もあって、最初はエンジニアさんやバンドメンバーも「ラブサマちゃんの言う”垢抜け”って何!?」と戸惑ってましたが、作業を重ねていく中でだんだん「ラブサマちゃんが”垢抜けてほしい”って言う時は、こういう音を望んでる時なんだろうな」ってわかってもらえてきたので助かっています。私はどうしても抽象的になっちゃうんです。例えばキラキラしている感じは「アルプスの風」と表現したり。

――ラストに収録されている「ヒーローズをうたって」はそのようなイメージだとライナーノーツに書かれていましたね。この例えはわかりやすい感じがしますけど。

 でも、それぞれ感じているアルプスのイメージが同じではないので、難しいんです。なので、私が考えている音に近い楽曲を聴いてもらうんですけど。

どういう作品を作ったら納得できるのか

――さて、8曲目の「アトレーユ」なのですが、このタイトルは映画『ネバーエンディング・ストーリー』に登場するキャラクターですよね? この歌詞の背景と『ネバーエンディング・ストーリー』との関係性は?

 『ネバーエンディング・ストーリー』のエンディングでファルコンと一緒に空を飛ぶシーンが印象的なので、多くの人はファンタジーとして楽しく見れる映画という認識があるんじゃないかなと思うんです。でも、私はこの映画を観ていると、なんでこんなに理不尽なことをアトレーユが負わなければならないんだと悲しくなってくるんです。アトレーユは幼い子供なのに、旅の中で厳しい状況に立たされているのがかわいそうで……。

 この映画の中で「悲しみの沼」という沼があるんですけど、悲しいことを考えるほどどんどん沈んでいってしまうというものなんです。そこで、一緒に旅をしていた馬が沈んでしまうんですけど、アトレーユは強い気持ちを持って渡ろうと思っていたところにファルコンが助けに来てくれるんです。

――そういうシーンありましたね。

 この物語は好奇心で手に取った一冊の本から始まっているじゃないですか。何となくでその世界に入ってしまったことによって、絶望を感じてしまうことってあると思うんです。ポピュラーなところだと恋愛もそうだと思っていて。何となくデートしたら好きになってしまって、その後上手くいかないことも沢山あって、“悲しみの沼”に足を取られていることもあると思います。

 一昨年ぐらいに私、好きな男の子がいたんですけど、それはもう『ネバーエンディング・ストーリー』状態でした。好奇心で会ってみたら好きになってしまって、自分の気持ちを伝えていいのかもわからないし、向こうが何を考えているのかもわからない。ちゃんと喋れないし、もう意味がわからないといった感じで悲しみの沼に足を取られてしまって……。

 映画でアトレーユはファルコンがもし助けに来なかったら沈んでいたのか、自力で渡りきったのか、これは映画だからファルコンが助けに来るのは決まっているんですけど、私にファルコンみたいな人っているのかなと、考えていた中で生まれた曲です。

――映画と自身の心境を重ね合わせたんですね。ところで、アルバムにはシークレットトラックが入ってますが、20分20秒で終わる、2020年と掛けているのはオシャレですね。

 ありがとうございます。過去にもクリスマスソングのCDを出した時には、1225になるようにしたり、こだわっているところなんです。色んなところにクスッと笑えるポイントを置いておきたいと思っていて。それは今後も続けていきたいです。
 
――最後にラブリーサマーちゃんの未来の展望を聞かせてください。

 未来のことは最近よく考えていて、ミュージシャンにとってアルバムを作ることはすごく大事だと思っています。これまでは今作をリリースするために色々やっていたし、このアルバムについて3、4年間ぐらいやりたいことを考えていて、当時からジャケットをオレンジと白にすることも決めていました。でも、それが終わると思うとやることがなくなってしまう、次の作品はどうしようとなってしまうんです。

 私も気づいたら25歳になっていて…。例えば、2年後の自分が27歳としてどう過ごして、どういう作品を作ったら納得できるのか、というのをしっかり考えたいなと思いました。

――そう考えたきっかけはあったんですか。

 サポートメンバーから「相談したいことがある」とのことで話を聞いたら「俺、良いミュージシャンになるから。そういう決意をしたことを伝えたくて」と言われて。それって相談じゃないじゃんって思いましたけど(笑)。大学も卒業していよいよ社会人という状況の二十代半ば、「ミュージシャンとしてどういうふうに人生を進めたいか」について私も周りも考えてるんだなと思いました。

 それでサポートメンバーの彼に「良いミュージシャンになるために、具体的にどんなことをする予定とか、目標や将来のビジョンはあるの?」と尋ねたら「ビジョンはない。自分が面白いと思ったことや、やりたいと思ったことを一生懸命にやっていれば理想像とかなくても良いミュージシャンになっていると思う」と話してくれて。彼のそういう、自由でありつつ実直なところいいなと思ったので、私も今まで通りやりたいことを一生懸命やっていこうと思いました。

――一生懸命というのが大事ですね。

 そうです。あと、英語を勉強して、日本ではないところでも私の音楽を聴いてほしいという思いもあります。今より広い世界に触れてみたいです。

(おわり)

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