INTERVIEW

佐藤二朗、俳優は「裸一貫の仕事」 歳を重ね実感した芝居の醍醐味


佐藤二朗

記者:木村武雄

掲載:20年09月16日

読了時間:約5分

 佐藤二朗が登場すると空気が和らいで安心感が生まれる。作品にもよるが、その存在感は観るものを穏やかにさせる。20代の頃は「売れたい」と自分の芝居をやることに躍起になっていた。その当時演出家・鈴木裕美氏に言われた「相手役とのセッションは芝居の醍醐味」という言葉は40歳の頃になって実感した。「その方が楽ですし、楽しい」。それが良く表れた作品の一つに今回のAmazon Originalドラマシリーズ『誰かが、見ている』(9月18日配信開始)が入るだろう。「緊張感はありましたが、楽しかった」。それは画面越しに伝わってくる。

舎人真一(演・香取慎吾)の部屋を覗く粕谷次郎(娘・佐藤二朗)

舎人真一(演・香取慎吾)の部屋を覗く粕谷次郎(娘・佐藤二朗)

緊張と楽しさ、そしてチームワーク

 三谷幸喜氏からオファーを受けたのは、同氏が作・演出を手掛けた舞台『愛と哀しみのシャーロック・ホームズ』の時だった。「三谷さんが書く本への信頼はありますので嬉しかったです」。心待ちにしていたのは『幽かな彼女』でも共演経験がある香取慎吾との“セッション”。「素晴らしい俳優だと思っていますので、お客さんの前でがっつりと絡める芝居ができることが一番の楽しみでした」

 失敗ばかりなのに何故か憎めない舎人真一(演・香取慎吾)を、書斎の壁に偶然発見した“穴”からのぞき見て楽しむ隣人・粕谷次郎を演じる。同じ舞台で主要キャストが繰り広げるシチュエーションコメディ(シットコム)で、120人ほどの観客を前にほぼワンシチュエーション、カメラを止めずに撮影する。

 「三谷さんからは、セリフを忘れようとも段取りを間違えようともカメラは止めずにやります、と言われました。それをやけに僕に言うんですよ(笑)。僕もこの座組で最年長の部類に入るものですから『俺についてこい』という気持ちで臨みましたが、1話の開始7秒でセリフが飛んでしまいまして、挙句の果てに『誰かセリフを!』と叫びまして。でも周りが言ってくれたのは『二朗さんが早々にセリフを忘れてくれてお客さんも笑ってくれたから気が楽になりました』ということでした。もちろん、わざとではないですよ。途中で止められないので緊張感はありますが、それが故の楽しさもありました」

 そう語り、記者も和ませる。

佐藤二朗

佐藤二朗

 シーンごとに撮り分けているわけではないため、舎人がメインになるシーンでも粕谷側は演技を続ける必要がある。難しいのは互いの掛け合い。のぞき見する穴が必ずしも舎人の部屋全体が見られるわけではない。死角も生まれる。頼りになったのは助監督によるキュー出しだ。

 「舎人が部屋の奥で何かをやっていると穴からは覗き見ることができない。ですので、ずっと見えているつもりで演じなければなりません。例えば舎人が水をこぼした時、その合図を助監督のキューで知らせてくれて。そうしたケースが多いですから助監督は大変だったと思います」

 キャストだけでなく、スタッフを含めてのチームワークが求められる現場だった。

 「稽古も舞台と比べたら短いです。各話だいたい半日ぐらいで、リハーサルを何回かやる程度。それはキャストのためだけではなくて、助監督のキュー出し確認や、動きを把握するためのカメラポジションも。そういう所は時間かけて確認しました。でも毎回ドタバタで。そういうのも含めて楽しかったです。きっとお客さんも楽しんで頂けたと思います」

俳優は自分をさらけ出す仕事

 大切にしているのは「リアルの奥にあるもの」。過去にも「現実世界にも存在しうるリアルさは常に意識しています」と語っていたことがあった。

 「僕は意外と良識のある社会人の役が多いんですよ。『浦安鉄筋家族』も実は僕の役が一番まとも。その時々で、その役の、その台詞の「気持ち」に誠実になる。当たり前のことですが、そこを怠けないのが大事だと思う。粕谷次郎は良識ある社会人だからのぞき見をやってはいけないという気持ちがある。その気持ちにしっかりとなることが大事。その軸さえしっかりしていれば後は何とかなると思いました」

佐藤二朗

佐藤二朗

 佐藤の役者としての原体験は小学校4年生の時の学習発表会。役者への想いを抱えたまま大学卒業後は一般企業に就職した。しかし諦めきれずに退社。養成所に入るが2年で諦めた。2度目の挫折だ。再び一般企業に入った。それでも夢は消えなかった。仲間と劇団『ちからわざ』を旗揚げ。やがて劇団『自転車キンクリート』に入る。そして会社を退社した。

 当時、演出家の鈴木裕美氏に言われたことがあった。「共演者やスタッフとのセッションが芝居の醍醐味だ」

 「20代の頃は世に出たい、芝居で食っていきたいと強く思っていたので、自分の芝居をすることに躍起になっていました。裕美さんは僕の芝居を認めてくれた上で『でも今のままじゃダメになるよ』と。でも僕は認めてもらいたかったし、裕美さんが怖かったので『ハイハイ』と生返事してた。それで40歳の頃かな。自分でゴールを決めないといけない役、作品もありますが、基本、共演者や演出、スタッフと皆でセッションしてやった方が楽だし、楽しいと思えるようになって。裕美さんが言っていたのはこれか、と。なんでもそうですが、自分で実感しないとだめですね」

 まさに本作『誰かが、見ている』はその典型例だという。

 「共演者を愛して、信じる。いかにセッションするかが楽しいですし、相手がこうくるからこう返そうとか、相手によって知らない自分も出てくることもある。それがまた面白い」

粕谷次郎を演じる佐藤二朗

 佐藤の芝居にはリアルさがある。本作で言えば、現場のチームワークや楽しそうにしている空気感が画面を通して伝わって来る。

 「そういうのはあるかもしれないですね。僕らが思っている以上に、俳優というのは自分をさらけ出す仕事。先ほどその役の気持ちになることが大事と言いましたが、その気持ち次第でセリフのトーンはいかようにも自然と変わる。群像劇で共演者が仲良くなっていたらそれが画(え)として表れてくる。決められたセリフをしゃべっているのに。俳優というのは裸一貫の仕事なのでそういうのは出てくるかもしれません。とは言っても僕自身はまだはっきりとは答えは見つかっていません」

 二度就職し、二度の挫折。そうした経験も俳優・佐藤二朗を形成している。安心感が得られるのはそうした経験によるところの余裕と、本気でその役の気持ちになっていることのリアルさからだろう。真の強い人は自分をさらけ出せる人、という言葉を聞いたことがある。まさに佐藤二朗はそういう役者と言える。嘘なき芝居。そして芝居に誠実。

佐藤二朗

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(おわり)

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舎人真一(演・香取慎吾)の部屋を覗く粕谷次郎(娘・佐藤二朗)

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