INTERVIEW

香取慎吾「たとえ辛くても」笑顔であり続ける理由


香取慎吾

記者:木村武雄

掲載:20年09月15日

読了時間:約6分

 「喜劇俳優・香取慎吾の本領発揮です」タッグを組む三谷幸喜氏がそう称えた。Amazon Originalドラマシリーズ『誰かが、見ている』(9月18日配信開始)では何をやっても失敗ばかりで予想もしないハプニングを巻き起こす主人公・舎人真一を演じる。香取を象徴する笑顔がこのドラマには溢れている。「笑顔は幸せを運んでくれると思うんです。たとえ辛くても笑顔になった方がいい」

『誰かが、見ている』舎人真一

『誰かが、見ている』舎人真一

信頼関係

 奇想天外な行動を取る舎人真一を、壁穴から覗く。ひっそりと楽しむ隣人・粕谷次郎を演じるのは佐藤二朗。その娘・あかねは山本千尋。

 「二朗さんは面白い方ですし、一緒にいて飽きない。撮影の時も『緊張もあるけど気楽に頑張ろうよ』と言っていた二朗さんが最初のところでセリフが飛んで。絵に描いたように頭が真っ白になって。それが千尋さんにも連鎖して。あっちのファミリーがボロボロになっていくなか舎人君は芝居を続けていました」

 そう語り笑む。仲睦まじい関係性がのぞく。

 視聴者を入れてのワンカット撮影。セリフが飛んでもカメラは止められない。舞台のようだが、稽古は1カ月もない。前日に数時間稽古し、当日は1回通しを行って客入れだ。現場の緊張感が計り知れないが、それが視聴者のドキドキ感を誘う。

 シットコムに挑戦するのは三谷幸喜氏が手掛けたフジテレビ系ドラマ『HR』(02年~03年)以来だ。「自分が参加しなくてももっと見たいと思いましたし、参加できるのであれば参加したいという思いがありましたので嬉しかったです」。三谷氏がシットコムに挑むことを告げたのは舞台『日本の歴史』を終えた時。「その時の香取さんの嬉しそうな顔が印象的でした」と回顧している。

 念願のシットコムだが「難しいところだらけでした」。舎人の部屋と粕谷の部屋は壁で仕切られ、壁に空いた穴以外は互いの様子は伺い知れない。声も聴こえづらい。しかし両者の掛け合いが成立していなければならない。そのためスタッフの合図(キュー出し)は重要だったという。

 「究極はキッチンの奥。四方壁に囲まれていて、キューが出せなくて。でも周りが見えないのでよりキューは必要。それで天井にスタッフさんが登って出してくれました。そうした見えないところにも面白みがあって、楽しかったです」

 プロフェッショナル達が集まった現場だったことがわかる。

『誰かが、見ている』粕谷次郎、舎人真一

『誰かが、見ている』粕谷次郎、舎人真一

 三谷氏とはこれまでに多くの作品でタッグを組んできた。緻密に計算された演出で有名だ。「セリフだけでなく、表情一つとってもその先に起こることに繋がる、ということをすごく意識されています。例えば無意識のうちに目線を動かしたことが後の演出で邪魔になったり。指の動き一つで変わる緻密さだからこそ面白いと思います」

 一つの所作に意味を持たせる。しかし三谷氏はその要望を具体的には提示しない。「自分自身で答えを見つけなきゃいけない」

 演じる上で大切にしているのは「その役としてその時間を生きる」こと。それが故に三谷氏の要求に応えられない時もある。「彼として生きていた今の時間のなかでそうは動けませんと伝える時もあります。三谷さんはそうしたことを受け入れながらも自分で考えた方向で動いてほしいから『ではこういう動きであれば彼は動けますか』と言われ、『それだったら動きやすいです』と伝えます。こうしたやりとりは結構あります」

 良い作品を作るという上での共通認識、そして互いに信頼があってこそのエピソードだ。

 そんな香取を三谷氏は過去に「やりたいことを演じてくれる俳優さんです」と語っていた。香取も三谷氏の考えを「理解している方だと思う」とする。そうした2人の信頼が大きく築かれたのは2009年、米ニューヨークで上演した香取慎吾主演のコメディ・ミュージカル『TALK LIKE SINGING』。

 「緊張しなかったり経験も場数も踏んできた僕でさえ、ニューヨークの舞台ではなかなかの緊張感で。三谷さんも緊張していて。そのなかで一緒に立ち向かっていくという共通認識が生まれたと思います。『新選組!』の時にNHKのスタジオの前室で『ニューヨークでミュージカルやります』と。その後もずっと言われていたけどずっと断っていて。『舞台は苦手なので。ニューヨークならいいですよ』とジョークのつもりで言ったら本当に形にされてしまい。でもあの出来事が大きかったと思います」

笑顔

『誰かが、見ている』曽我そと子、舎人真一

『誰かが、見ている』曽我そと子、舎人真一

 ドラマでは、稲垣吾郎が日本を代表する演歌歌手・レッツ大納言としてゲスト出演する。2人の共演は意外にも少なく、2013年放送の三谷幸喜脚本・演出『「古畑VS SMAP」その後…』以来7年ぶりだ。

 「やりづらいというか、知った仲なのでお互いに気を遣う。お互い集中できるように稽古やリハーサル中も会話はなくて。困ったのは撮影が終わった後に、初共演の俳優さんには挨拶するけど、吾郎ちゃんにしないのはおかしいなと。結果、何も挨拶しないで帰るという。朝の挨拶もそう。本当に変。『あ、帰るんだ』と思いながら見て、でも最後に『写真撮ってもらえますか?』とSNS用に撮ってもらいました」

 そう語る表情も笑顔だ。

 舎人の役柄は、予想もしない失敗を繰り返すがどこか親しみがある。「三谷さんからは子供のような感じでと言われ、皆さんのイメージにもありそうな『慎吾ちゃんは、子供たちとずっと何時間でも遊んでいられる』という感じかなというのは考えました」

 物語の冒頭から笑いがこぼれる。物語を通して鍵となっているのは「笑顔」だ。新型コロナウイルス禍の閉塞感が漂うこのような時代だからこそ「笑顔」が求められる。「笑顔は幸せを運んでくれると思うんです」。香取を思う時、浮かんでくるのは「笑顔」だ。

 「笑顔は簡単に作れますが、簡単になくなってしまうものだと思う。笑顔なく生きて行こうと思えばいくらでも進められる。でもやっぱり笑顔の方が心を開いてくれると思う。笑顔になろうと思ってやれば笑顔は作れるものだから作った方がいいと思います」

 香取自身もコロナ禍で「笑顔」を強く思うことがあったという。

 「あえて笑顔を作ったら、『何やってんの?』と思ったとしても笑顔になってくれる。笑えない時は本当に笑えないけど、でも笑顔は大事。ステイホームでお家にいる時間が長かったりする今の状況で特に思いますが、そのなかで自分から動かないと変わらないことは沢山あるなと。『笑っていないな』とか、『気分が落ちているな』とか、そういう時こそ、舎人君じゃないけど急に前歯を出してみたらふわって明るい風が吹くと思う。やる気になってやらないと何も起きないから」。

香取慎吾

 特に、子供たちには見てほしいとも語る。

 これまでに多くの作品に出演し、様々な経験を積み重ねてきた。なかには壁もあっただろう。だが、やり遂げるという責任感の上で「笑顔」は自身の背中を押す力にもなったはずだ。その「笑顔」を子供たちにも届ける。香取らしい温かみを感じた。

 この日のインタビューは二十数本。疲れた様子もなく、笑顔を見せ「笑ってくれた」と記者の顔を画面越しにのぞき込んだ。インタビューを終え、手を振り、「有難うございました」。最後まで笑顔。太陽を浴びた草花になった気分だった。【木村武雄】

この記事の写真
『誰かが、見ている』曽我そと子、舎人真一
『誰かが、見ている』粕谷次郎、舎人真一
『誰かが、見ている』舎人真一

記事タグ

コメントを書く(ユーザー登録不要)

関連する記事