THE PINBALLS「時の流れを超えて対バン」ロックの歴史に立ち向かう気概
INTERVIEW

THE PINBALLS

「時の流れを超えて対バン」ロックの歴史に立ち向かう気概


記者:平吉賢治

撮影:

掲載:20年09月15日

読了時間:約12分

 ロックバンドのTHE PINBALLSが16日、アコースティックセルフカバーアルバム『Dress up』をリリース。本作は、2006年の結成時からTHE PINBALLSの隠れた名曲や代表曲に自ら新たなアレンジを施した全11曲を収録。パーカッション、バイオリン、サックス、オルガン、ストリングスなど様々な楽器が織り成すアコースティックアレンジで、より美しく繊細に楽曲が“ドレスアップ”されている新たなスタイルの一枚。古川貴之(Vo)に、本作の話を中心にロックという音楽の存在や魅力についてなど話を聞いた。【取材=平吉賢治】

「絶対これはやるべきだ」と思った新たなスタイル

『Dress up』ジャケ写

――新型コロナウイルス感染症拡大という特殊な期間中、新たに始めたことはありますか。

 これを機に今までやってなかったことをやりたいという思いから、DAW(デジタル音楽制作システム)を始めました。今まではメンバーに弾き語りすれば理解してもらえるのでDAWはいじらなかったんですけど、そういう部分でメンバーに負担をかけているというのもあったので、自分のイメージをちょっとでも正確に伝えられるようにと。実際にやってみたら面白かったんです(笑)。

――DAWでビートを打ち込んだりギターを重ね録りしたり?

 そうです。それで必要な機材のオーディオインターフェース買おうと思ったけど、間違えて似た形の別の機材買っちゃって「ダメだ!」って返品したり(笑)。そういうのも楽しかったりしました。

――Twitterでは弾き語り動画をアップされていましたね。

 それもこれを機にやりたいなと思って。「そういうのはあまりやらない方がいいかな」とも思っていたんですけど、やってみたら楽しくて。これからもずっとやろうかと思っています。

――色々と新たなことを始めた時期だったのですね。さて、今作はセルフカバーのアコースティックアレンジアルバムですが、このスタイルをとった意図や着想は?

 自分達もマネージャーさん達も「まだまだできる」という意識をずっと持っていたんです。自分達にとってプラスになることは、やったことがないことでもやった方がいいという共通認識がありまして。毎年CDを出させて頂いていますけど、「ちょっと新しいことをやってみたいよね」というのが元々あった中でアコースティックアレンジという案があったんです。新しい発想や自分達にとってのスキルアップをしたいという話もしていたので、コロナの影響でリリース期間が延びたこともあって「このスケジュール感なら1枚アルバムができる」と。だったらまるまる1枚セルフカバーで全部録り直そうという感じでした。

――THE PINBALLS初のアコースティックアレンジアルバムですが、着手する時の感触はどのような心境でしたか。

 最初はそんなに自信はなくて。アコースティックは演奏の技量が求められると思うので。

――比較的、演奏の音がダイレクト気味という点で?

 アコースティックでは、音の歪みやサスティーン(響き、余韻)でのある種のごまかしみたいなのができないと思うので。やっぱりバンドの中でもちょっとビビッてたりとか「果たしてできるのか」という思いもあったんですけど、絶対これはやるべきだなと思いました。楽しいですし、色んな発見がありました。

――本作ではサックスやストリングスにパーカッションなども含んだ様々なアンサンブルが楽しめます。さきほど仰った「ごまかしがきかない」という生演奏ならではの空気感がアルバムから伝わってきました。

 パーカッションなんかも一打ずれると本当に凄くずれて聴こえたりするので、めちゃめちゃ勉強になりました。

――ロックの歪んだ音やタイトな打拍が混じると、正確なリズムとは少しずれていた方が格好良かったりしますよね。アコースティックだとそうではない?

 そうですよね。ロックバンドスタイルだとずれていたほうが格好良かったりするんですけど、アコースティックだとずれると気持ち悪くて。自分のギターもそうですし、ストロークひとつとっても難しいなと感じました。「こんな弾けないの?」みたいに感じたりすることもあったりして(笑)。やっぱり定期的にやりたいなというくらい、いいことだと思いました。

――メンバーもそういった雰囲気だった?

 そうですね、僕もけっこう激しく言いましたし。アコースティックになると求めるものも高くなって「何年やってんだよ」みたいな話とかも(笑)。セルフカバーなので「自分の曲だろ!」みたいな激しいやりとりも多少はあったんですけど、やっぱり普段からそれくらい真剣にやりとりをするくらいでいいんだろうなって思いました。

“ドレスアップ”アレンジ

――様々な楽曲がある中で11曲の選曲は難しかったのでは?

 やっぱり大変でした。今まである曲をもう一度録音するので、同じように録っても多分つまんないだろうし、作った側としてはこだわってそうした部分もあるので、アレンジを変えられ過ぎても嫌ですし…。ギターの中屋が音楽的にリーダーシップをとっているので、アレンジを新しく書き直してくれるんですけど、コードやリズムもあまり変えすぎると歌詞の微妙な切なさがなくなっちゃったりするので「ちょっと変え過ぎだよ」とか。逆に、僕がアレンジしたものに対しては、中屋もやはり凄くこだわりがあるので「それじゃ同じじゃん。録り直す意味ねえよ」みたいなこともありましたし。

――かなり意見がぶつかり合ったのですね。

 そうです。でも凄くいいことだなと思いました! 今までも真剣にやってたんですけど、今までにない白熱があったかなと。選曲でも、やってみてダメだったものもあったし。

――ちなみに選曲されなかった曲は?

 「(baby I'm sorry) what you want」です。これは中屋の頭の中では凄くよいイメージがあったみたいなんですけど、自分の中ではちょっとリズムのパターンが少し歌詞と合わないように感じて、「申し訳ないけどやめさせてくれないかな」と話しました。実際録り始めていたりしたので、僕としてはこういうのは嬉しいんです。

――やりかけたけど除外するという判断が?

 それって、全然無駄じゃないと思うんです。そういうことを積み重ねるほど本当に届くところがあるんじゃないかと。ちょっとオカルトめいてますけど(笑)。

――取捨選択による作品の質の高さへの追求心と感じます。「せっかくここまでやったから収録しよう」というよりも、少しでも違うと感じたら思い切った判断をすることの重要性と言いますか。

 確かに洗練されるというか。200曲作って10曲に絞るのと、9曲作ってもう1曲頑張って10曲の作品にするのとでは違うと思うんです。

――作り手にしか見えない部分が深みを出すという部分で正に、と思います。さて、本作1曲目「欠ける月ワンダーランド」はジャジーなアレンジですね。これはコードを変えている?

 コードはそんなに変えていないですけど、前奏をちょっとカットしたりとかしました。だから僕もコード感があまり感じられなくてド頭は難しかったです(笑)。

――この曲のみならず本作はスウィングビートやコード感などジャズの要素が感じられますが、THE PINBALLSの音楽性の背景にジャズもある?

 背景というほどではないかもしれないですが、僕と中屋が中学生か高校生の頃にMTR(マルチトラックレコーダー)をいじっていた頃、「ルパン三世のテーマ」の楽譜がギター雑誌に載っていて、彼の家でそれを一緒に弾いていたりして「バンドを組むならマイナーコードで速いテンポで、こういう匂いがするやつが一番カッコいいよな!」という話をよくしていたのを覚えています。2人ともブランキー・ジェット・シティさんが好きなのでそういったマイナーコードやジャズのコードを使ってテンポが速いのがいいよねって。

――「毒蛇のロックンロール」の今回のアレンジからはそのルーツも垣間見える印象です。「299792458」はボーカルが胸に沁みるアレンジと感じましたが、そこは意識した?

 実はそんなに変えていない印象でした。特に歌い方も原曲と同じくらいのテンション感で。ただ、別の楽器が色々入ったのでそう感じられたのかもしれません。もともと頭の中でイメージしていた「299792458」は、もしかしたら今回のアレンジの方が実像に近いくらい腑に落ちた感覚でした。

――逆に、原曲とガラッと変わったアレンジの曲は?

 「沈んだ塔」です。これは中屋がアコースティックの音とかを頑張って作ってきてくれて。自分の頭の中に全然ない発想でした。だから最初は心配していたんですけど始まってみるといい感じで、歌を入れてみたら凄く気持ちよかったんです。

――この曲だけではなく、歌もアレンジもとても耳馴染みのよいアルバムだと感じました。普通のアコースティックアレンジというより『Dress up』というタイトルが正にという感じで、新しいアコースティックアレンジという印象です。

 実を言うと、“アコースティック”というキーワードがあったんですけど、“ジャズアレンジ”とかそういう方が合いそうですよね?

――確かにそうも思います。アコースティックアレンジであり、ジャズアレンジでもあると。

 そうですよね。僕らもアコギとかでどうこうというよりは、エリック・クラプトン(英ミュージシャン・ギタリスト)とかのアンプラグドをイメージしていた感じで、ちょっと大人っぽくやろうぜという感じなんです。ただ、“アンプラグド”というフレーズは商標みたいで使えなかったものですから(笑)。今まで入っていなかった音を入れるわけだから、どっちかと言ったらラグジュアリーにドレスアップだよなと。

――確かにアンプラグドを彷彿とさせつつも、そこに大人でゴージャスな雰囲気がプラスされたアレンジですね。

 僕らもそういう感じを意識しました!

――「悪魔は隣のテーブルに」はスウィングビートが前面に出ていて、個人的には原曲と比べると最も別種の表情を感じましたが、古川さんはどう感じますか。

 実際そうだと思います。アダルトなアレンジというか。僕らの少し上の世代が聴いてきたものを時代的に繰り返す中で、AORとかソフィスティケイテッドされたものに対して、「パンクの方がカッコいい」とか「音が荒れてたりMIXがグチャグチャの方がカッコいい」という時代の中を育ってきたというのもありまして。例えばランシド(米・ロックバンド)とか、よい意味で音が汚ければ汚いほどいい、みたいな。だから僕も「ちょっとこれはギリギリかな」と思いました。

――際どく歪んでいたり演奏が荒かったりするロックが格好良いという感覚?

 そういうものを聴いていた世代的に、上手いミュージシャンをちょっと嫌う傾向があったかなとも思うんです。時代のサイクルでもあると思うんですけど。それで、「悪魔は隣のテーブルに」は凄く洗練された空気が出ていてギリギリだと思ったんですけど、「それをやるために新しいことをするんだよな」と思ったんです。

――レコーディングは特殊な進行だったのではないかと想像したのですが、実際はいかがでしたか。

 まず、時期的にリハができなくて。音源のやりとりがあって、現地で練習ができなかったのでレコーディングでバッとやる感じでした。リハに入らずに録音するのは初めてでみんな凄いナーバスになっていたと思います。俺だけかな(笑)。

ロックの源流を見据えながらも新たなアプローチを

――ところで、最近海外のヒットチャートや人気曲などをチェックすると「ちょっとロックが少ないな」と感じます。それこそ古川さんの仰るように時代の流れと繰り返しや転換のようなものもあると思うのですが、これからロックという音楽がどのようになっていくと思いますか。

 仰るように、今若い人達にとって一番おしゃれだったり真似したいというものではないのかもしれません。自分がロックが好きだからかもしれないんですけど、やっぱり当時が凄かったというのがあって。例えばクイーンとか今聴いても「なんだこれは!」というくらい凄すぎるじゃないですか。そういう時の流れとかを超えてナンバーワンとかにならないと、というか。新しい音楽が出てきている今、それこそ歌い手さんとかボーカロイドとかも超格好良いのあるじゃないですか。

 そういうのも含めて「当時のロックなんてザコだぜ」というくらいにならないと、やっぱり振り向いてくれないんだろうなというのはあって。今まで俺が好きだったものにもなんか失礼だし。テクニックとかでクイーンとかに勝てなくても、「時の流れとかを超えて当時のバンドと対バンするぜ」みたいな気持ちを、僕らも含めて考えないといけないんですよね。

――そういう想いもあるのですね。でも、昨年の『Return to The Magic Kingdom Tour』ファイナル公演を拝見した時は、日本のロックバンドらしさを生々しく感じました。「THE PINBALLS」というロックだなと。

 自分ではまだまだと思うんですけど、例えば若いバンドをたまたま観た時凄く格好良くて気合い入った演奏していたんです。僕も同じような感覚で、そういうのを観ると「やっぱりこういうのがいいよな」って思います。現役でやらせて頂いているからには「こういうのが一番カッコいいよな」という想いで頑張りたいと思っています!

――ちなみにロック以外で注目している音楽は?

 歌い手とかボカロとかが面白いのを作っていると思います。あとクラブ系も凄い歌手の方が多いというのを感じます。

――それでもたまに振り返って60、70年代あたりの時代のレッド・ツェッペリンなどのサウンドを聴くとロックの格好良さにしびれたりする?

 たまたまなんですけど、最近その時代のロックバンドがたくさん出ているDVDを観ていたんです(笑)。正にレッド・ツェッペリンとか、60、70年代の大御所のバンドがいっぱい観られるんです。ジミ・ヘンドリックスやT. Rexとかも。これ観てて「やっぱこれだよ」と思って!

――今と比べるとかなり音が荒かったりするけどそこがカッコよかったりしますよね。

 演奏もかなり荒かったりするんですけど好きなんですよね(笑)。

――そういった歪みや揺らぎのロックの源流のパワーがありつつも、今作では自曲をドレスアップするという新たなアプローチに挑んだと。

 はい。それで今、新しい音源も作っているんですけど、みんな凄く歪みを喜んでいます。やっぱり気持ちいいみたいです(笑)。

――ロックの歪みやリズムの揺らぎには魔法のようなパワーがあるように思います。

 なんか格好良いんですよね。そういう感じで今気持ちよく作っているんです。ロックのパワーを感じています。ずれているのが格好良いし気持ちいいんです。

――リズム面のずれ、揺らぎで言うと、恐らく当時はクリックを使っていないレコーディングをしていたのではないかと感じます。

 やっぱりそれ、ありますよね。自分もフリーテンポでやっている時、気持ちよかったりするんです。ちょうど明日レコーディングでクリックの速さとかを考えていたところだったんです。

――ロックの魅力は幅広くも奥深いですよね。それでは最後に、今作をみなさんにどのようにして届けるかというビジョンについてお伺いします。

 今回、音を入れてくれたミュージシャンの方々もライブに来てくれるんです。作っている時は音数が増えれば増えるほど難しいなと思っていたんですけど、例えばやっぱり7人くらいでやって音が合った時の気持ちよさの方が上じゃないですか? だからそこは頑張って合わせて、ゲストで来て頂けるミュージシャンの方々には「やっぱロックバンドっていいな!」って、この4人の音の塊に合わせていこうというイメージにできるくらいやりたいです。そういうのを演者にも思って頂きたいですし、それを作ってお客さんにその感じを受けて頂けると嬉しいです!

(おわり)

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