INTERVIEW

Hilcrhymeは終わらない、“最高到達点”で見せた決意と覚悟


Hilcrhyme

記者:村上順一

掲載:20年09月13日

読了時間:約10分

 Hilcrhymeが9月2日に、9枚目のオリジナルアルバム『THE MC』をリリースした。2019年1月にリリースされた前作『Hilcrhyme』から約1年7カ月ぶりとなる今作はデビュー11年目に突入したMC TOCの決意表明とも言えるアルバムに仕上がった。今作を“最高到達点”と話すTOC。なぜ、最高傑作ではなく到達点なのか、本当の意味での1人になってのアルバムだと語るその真意に迫った。【取材=村上順一】

“最高到達点”の意図

『THE MC』通常盤ジャケ写

――久しぶりのアルバムリリースとなりました。SNSでサブスクやダウンロードでもなくCDを手に取って欲しい、と発信していたのが印象的でした。

 アートワークも含めて、クリエイティビティにこだわって創った作品なので、モノとして持っていて欲しいなというのがあります。

――昨年は2枚のリメイクベストアルバム『SUN』と『MOON』を出されましたが、リリースから約1年が経っていかがですか。

 リリースしてみて、サブスクでも聴けるようになって、リスナーの中には聴いたことがなかった人たちも沢山いた事がわかったので、結果的に出して良かったと思いました。

――それが今作にも繋がったところはありますか?

 あります。10代の子たちはサブスクがメインストリームなんですよね。Hilcrhymeは着うたとかそういったところで売れた部分はあるので、時代にあったプラットフォーム、コンテンツに沿っていくのは、音楽の本質が変わらなければありなんじゃないかなと。自分の中で消化出来たと感じています。

――ソロのツアーも組まれていましたが、ファイナルがまだ出来ていない状況ですよね。

 5本中、4本は出来たんですけどね。ファイナルを飾れていないジレンマはいまだにあります。でも、ファイナルを飾れなかったのは、この『立国宣言』という作品の運命なのかなと。作品とごとに運命があると思っているので、それに従ってやっていくしかないかなと思っています。

――達観されてますね。

 僕は何か起きても冷静に対処できる方だとは思います。死ななければやり直せるじゃないか、というのが常にあるんです。

――そうやってポジティブに物事を捉えて、前に進んでいく姿はファンの方からしたら心強いです。さて、アルバム『THE MC』がリリースされましたが、今回11曲収録されていますが、11年目というのに掛かってます?

 それは全然考えてなかった(笑)。ただ、11曲というボリュームにしようとは、スタッフと考えていました。今度からそう言おうかな(笑)。

――偶然なんですね。今作を“最高到達点”と仰っていたのも、凄く良いなと思いました。

 ありがとうございます。最高傑作という言葉を使いたくなかったんです。そう言ってしまうと、過去作に申し訳ないという気持ちがあって。とは言いつつも、一番新しいものが最高という思いはあるので、何か良い表現はないかと探していました。Hilcrhymeには丘を登るという意味もあるので、その丘を登った最高到達点に着いた、という表現だったらHilcrhymeらしいかなと。あと、最高傑作というのは自分が決めるものではないと思っていて、それは人が決める事だなと。

ポップさのクリエイティビティを高める

――確かにその通りです。今作を聴かせて頂いて、Hilcrhymeの持っているポップさがより研ぎ澄まされた感覚がありました。

 まさにそのポップさのクリエイティビティを高める事が今作でこだわったところでした。前菜からデザートまであるようなフルコースをイメージするのがアルバム制作には適していると思っていて。なので、スパイスが効いた曲や浮かれている曲など、とても良いバランスが取れた11曲になったと思います。

――「邪魔」という曲はスパイスが効いてますよね。

 辛めのスパイスですね(笑)。

――<また私が私の邪魔をする>という歌詞が印象的です。

 誰もが持っている感覚だと思うんですけど、本音と建前みたいなところです。それを演じている自分に葛藤している時が、僕にはあるんですよ。本当はこうしたいのにプライドが邪魔をするみたいな。体裁を気にしてしまう、でもそれもまた自分で。それで出てきた言葉なんです。僕の場合は欲望との戦いの場面でそういったことがよく起きます。

――TOCさん、最近車を購入されましたが、それも欲望?

 車に関してはちょっと違って、逆に欲望を開放してくれるものなんです。車との出会いは縁だと思っているので。ちょうど、このモデルが日本で発表されて、これは自分が日本で一番最初に買わなければダメだという使命感が出てしまいました。結果としては5番目だったんですけど。

 僕は買い物にはこだわりがあって、買い物は派手に楽しみたいんです。普段の自分はそうではないんですけど、HilcrhymeのTOCとしてそうありたいなって。それが<私が私>と2人いる「邪魔」の描写にもつながっています。

――車といえば、ドライブして夜空を眺めている景色が浮かぶ「グランシャリオ」は、MBS ドラマ特区「俺たちはあぶなくない ~クールにさぼる刑事たち」のエンディング主題歌になっていますが、書き下ろしですか。

 いえ、これはタイアップのお話をあとからいただいたんです。曲も8割ぐらいできていたものを、聴いていただいて、それを気に入っていただけて、そこからドラマに合わせて手直しをしていった感じです。

――曲はBr'zさんとの共作となっていますが、どのような制作スタイルだったのでしょうか。

 最初のトラックの叩き上げは歌も含めて自分が作って、それをパラデータでBr'z君に渡してアレンジをしてもらう流れです。今回の大枠を自分で全てやったのがこのアルバムの持ち味になります。その中で「グランシャリオ」は4つ打ちをやりたいと思って作りました。でも、僕は4つ打ち系のトラック作りは苦手だったんです。というのも「Lost love song」のようなゆっくりした曲しか作ったことがなかったので、できるかどうかチャレンジだったんですけど、すごくいいのが出来まして。自信がついた1曲になりました。

――4つ打ち自体に抵抗はなかった?

 抵抗はないです。過去作の「トラヴェルマシン」も4つ打ちでしたし、ファンのみんなにも、またそういった楽曲を聴いてもらいたかったというのも、この曲を作った動機です。

MC TOCのHilcrhymeということを前面に打ち出したかった

――続いての「ヨリドコロ」は、ファンの皆さんに写真を送ってもらってMVを作っていたのも印象的でした。

 すごく幸せなMVができました。MVは自分で提案して、みんなから送ってもらった写真を僕が編集しました。今までだったら映像監督にお願いしていたと思います。でも、今回は自分でやることに意味があると思って。作品の芯として自分が作ったというもの、MC TOCのHilcrhymeである、ということを前面に打ち出したかったアルバムだったので。

――編集は大変ですよね?

 画像を切り貼りするシンプルなものだったんですけど、大変でした。改めてMVの監督ってすごいなと思いましたから。それがわかっただけでも収穫かなと。完成したMVを観てもらって、「初めて作ったにしては良かった」と制作ディレクターに言ってもらえたので、自信を持ってもいいかなと。大変でしたけどまたやってみたいです。

――曲を作った方が映像を制作すると、また趣が変わってくるなと思いました。「ヨリドコロ」はテレビアニメ『ピーター・グリルと賢者の時間』EDテーマになっています。しっとりと聞かせてくれる曲調で。

 YouTubeで海外の方からのコメントが多いのはアニメのおかげです。改めてジャパニーズアニメーションってすごいなと思いました。『ピーター・グリルと賢者の時間』はHilcrhymeがこれまでタイアップしてきたアニメと比べると異色だと感じています。でも、新しいところに届けたいという思いは常にあるので、とてもいいタイアップになったと思います。

 楽曲は純愛の部分を切り取りました。Hilcrhymeに求められているのはこういう曲だと思うし、そこに応えることができたと思うし、エンディングでこういう曲が流れるといいなと思いました。あと、エンドクレジットで自分の名前が出るんですけど、そのバックの絵が女の子の太ももで…、それも初めてで新鮮でした(笑)。

――初めてが詰まった曲になりましたね。さて、4曲目の「Jealous」は嫉妬を描いた曲ですが、TOCさんは嫉妬されたりするのでしょうか。

 嫉妬しますよ。「Jealous」はまさに自分のことを書いていますね。好きな人が他の人と喋っているだけでも嫉妬しますから(笑)。「邪魔」という曲にも通じている部分があって、その嫉妬した本音を出すか出さないかはまた別なんです。

――この曲中の女性が最後どこにいるのか、SNSでクイズっぽく聞いてましたね。

 スタッフからどういうシチュエーションにいるのかわからないと言われたので、クイズ形式でみんなに投げてみたという経緯があります。意外と正解率が高くてびっくりしました。

 この曲は悪い男に引っ掛かっている女性を描いていて、色々リサーチしたことを曲に落とし込んでいます。気に入っている男性とデートできることになった女性はお姫様のような感覚なんです。でも相手の男性は、スマホを見ていたりして、なかなか自分を見てくれない。最後はお城のようなところで愛し合うんですけど、起きたらそこに男性はいなくて…僕が思い描いていた場所はモーテルのイメージです。

覚悟を一言で表したのが「THE MC」

『THE MC』初回盤ジャケ写

――表題曲の「THE MC」のMCはマイクロフォン・コンダクターとのことですが、マスターオブセレモニーではないんですね。

 マスターオブセレモニーが正式名称だと思うんですが、マイクロフォン・コンダクターは僕が作った造語です。これまでもこの言葉をリリックに使ったりしていました。MCというのはその場を回す人たちのことを言うんですけど、それには空間支配能力が必要で。僕一人になって、自分がHilcrhymeを支配、コントロールする覚悟を持ってやっていくことが大事なので、その覚悟を一言で表したのがアルバムタイトルであり表題曲の「THE MC」なんです。この10年の関係値で、ファンの方たちはきっとこの言葉で、僕の覚悟がわかってくれると思っています。

――今このタイミングというのは、きっかけがあったのでしょうか。

 2019年に『Hilcrhyme』というセルフタイトルのアルバムを出して一区切りしました。その次の作品となる今作が全てを一人で作り上げる最初の1枚になるので、新たに決意を表明して、自分が指揮者となって奏でていこうという意味。自分一人だけどHilcrhymeは終わらない、止まらない、ということです。

――重い意味のある曲なのですが、それとは裏腹にリズムが3拍子なのですが、これにも意図したところが?

 3拍子はラップを乗せ辛いんですけど、ラッパーで3拍子でやっている人はそんなにいないんです。僕は誰もやってないことが好きなので。

――それがオリジナリティに繋がっているんですね。この曲の歌詞で特に気に入っているところは?

 Verse(ヴァース)のところは全体的にすごく気に入っています。実はこの歌詞、ディレクターに一回全部ボツにされているんです。最初は自分を誇示する歌詞でした。でもこれはデビュー曲ではなく11年目の決意表明なんだ、というところで書き直しました。あと、<入れ替わり立ち替わり だが俺にゃいない代わり 尽きてくれるな魂 我 生涯 MC>と最後締めているんですけど、いい終わり方が出来たと思っています。

――TOCさんの年齢も30代後半、そのあたりも今作には影響していますか。

 それはあると思います。考え方も昔と比べると変わってきたと思いますから。周りに気を配ることを覚えたんじゃないかな。昔はやっぱりわがままだったと思うんです。そのわがままを活かしつつも、こちらから歩み寄れる人になろうとしています。自分からコンタクトを取ったり、面白いことができるような自分でありたいなと。

――最後の「By Everyone」に通じるところもありそうですね。

 確かにこの曲は中学生の頃とか、ツンツンしていた時代の自分に言っている言葉かもしれないです。ツアーの大団円になりそうな曲はアルバムに1曲は入れるんですけど、いつもはファンへのメッセージだったりするのですが、それに加え今回は孤独を抱えている人に対してBy Everyoneというメッセージを投げています。

 歌詞にある<窓際にいる君へ>とか、自分が実際そうだったというのもあるんですけど、同じ趣味、考えを持った人が集まればいい。その小さなコミュニティが徐々に惹きつけていって、気づけば大きな輪になっている意味でのみんなになる。だから怖くない、それまで僕が指揮棒を振っているから、というメッセージを伝えた曲なんです。

――「THE MC」から繋がる曲でもあるわけですね。

 うん。「THE MC」が究極の“個”ならば、「By Everyone」は“輪”ですね。

――最後にファンの方へメッセージをお願いします。

 今作は最高到達点と位置付けています。ぜひ新しいHilcrhymeを感じて欲しいので、ぜひ皆さん聴いてみてください。

(おわり)

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