西村智彦「料理人の包丁のような感覚」自身とギターの関係性に迫る
INTERVIEW

西村智彦


記者:村上順一

撮影:

掲載:20年09月03日

読了時間:約10分

 SING LIKE TALKINGのギタリスト西村智彦が8月26日、2015年『WONDERLAND』より5年ぶりとなるソロアルバム『combine』をリリースした。今作は「Horizon Drive」や「Waltz♯4」などSING LIKE TALKINGのシングルのカップリングとして収録された曲に加え、新曲「spill」と98年にリリースされたソロアルバム『Graffiti』から「Streaming Cloud」をセルフカバーした全8曲を収録。インタビューでは今作の制作背景からインスト作品が好きな理由、2016年に逝去した松原正樹さんとの思い出、音作りやアレンジについてなど多岐にわたり話を聞いた。【取材=村上順一】

カッコいいタイトルが苦手

『combine』ジャケ写

――今作はどのようなコンセプトで制作されたのでしょうか

 全く構想はなかったです。というのもSING LIKE TALKINGのシングルにカップリングとしてインストを入れていたんですけど、それらが沢山あったので、「アルバムにしませんか?」とレコード会社からオファーをもらったんです。なので、コンピレーションのようなアルバムになるんだろうな、と思ってました。でも、曲を並べてみたら、あたかもこのアルバムのために作ったかのような感じになっていて、自分でもびっくりしました。

――アルバムのタイトルを『combine』と名付けたのは何故ですか。

 僕はカッコいい系のタイトルとか苦手な方なんです。最初はシンプルにインストのアルバムなので『インスト』にしようと提案したんですけど、それは流石に通らなかった(笑)。それで何か良いのがないかなと考えていたら、このアルバムの曲はSING LIKE TALKINGのシングルのカップリングとして収録され、それぞれ違う役割を持っている曲たちがひとつに集まっているなと思い、融合や統合という意味のタイトルが良いんじゃないかと思いました。

 それで色々調べたんですけど、その中に『combine』と出まして。農機具のコンバインは刈り取りから脱穀、選別までの3工程を出来るというもので、それはタイトルとしてもいいなと思いました。その時にアルバムジャケットのアイデアも一緒に出てきて、知り合いのイラストレーターと飲みながら詰めて行ったんです。

――今回、新曲「spill」とニューレコーディングされた「Streaming Cloud」が収録されています。

 今回ニューレコーディングさせていただいた経緯として、5年くらい前に青森の方でイベントがありまして、そこで僕がソロとして演奏する依頼が来たんです。それで、ソロとしてできるようにカラオケを作ったんですけど、その時に過去の曲を焼き直ししたオケを作りました。それが思いの外、自分でも気に入ってしまって、これを世に広める方法はないものかと考えていたんです。それで、アルバム制作の話があったので、今回収録させていただきました。

――「Streaming Cloud」は98年にリリースされた曲ですが、現代にもピッタリで、当時つけたタイトルとは思えませんでした。

 なるほどね。それは全然関係なくて、そのまま流れる雲という意味でつけたタイトルでした。僕が小学生の時に遠足に行った高原がありまして、その芝生に寝転がって空を見上げた時に、高原なので雲が近くて、ものすごい勢いで流れていたんです。でも地上は穏やかな風だったんですけど、それがすごく印象に残っていて。

――アルバムは新曲の「spill」からスタートしますが、この曲は変拍子で独特の雰囲気があります。

 6/8拍子と7/8拍子で構成されています。この曲は最初のリフしかなくて、そこから作りながら最後にサウンドまで出来てしまった感じです。流れとしてはとりあえずアコギを入れようかなと思って、SING LIKE TALKINGのサポートで参加してもらっているギタリストの金澤(健太)くんにウチに来てもらって、アコギを弾いてもらって、それを聴いて僕がコードとか構成を色々考えるんです。他の人に弾いてもらうことによって、意外と俯瞰で考えることが出来たりするんで。

――タイトルとの関連性はどんなものですか。

 最後にバシャっとパーカッションの音が入っているんですけど、その音が僕には机の上のコップが倒れて水がこぼれたように聞こえたので、spill=こぼれるからきたタイトルなんです。

――面白いですね。この楽曲にはシタールの音色も入っていますが、インド系の音楽もよく聴かれるんですか。

 これも思いつきで入れた音なんです。僕はシタールが入ってくるセクションの入り口が門が開くようなイメージがありました。そこに怪しいシタールの音色が入ってきたら面白いかなと。「Streaming Cloud」ではパーカッションとか民族系の音を使っていたりします。インドの音楽はまだよくわからないですけど、エスニックな異国情緒あふれる音は以前から好きでした。

――さて、西村さんはギターインストのどんなところに魅力を感じていますか。

 ギターだけではなくインストは子どもの頃から好きでした。パーシー・フェイス・オーケストラなどのイージーリスニングとか。僕が幼稚園の頃、実家は商売をやっていて両親が店に出ていていなかったので、まだ高校生だった叔母が、僕の面倒を見てくれていたんです。高校生なので音楽を色々聴いていて、叔母はインストが好きでよく聴かせてもらっていているうちに、僕も好きになってしまって。

 テーマがあって、ソロにいってまたテーマに戻るジャズ要素があるインストよりも、楽曲として最後まで聴かせる、歌ものに近いインストが特に好きでした。なので僕も演奏するならそういう方がいいなと。なので、ソロがいらない曲に無理やりソロパートを入れるとかはしたくないんです。だから僕の場合、短い曲は極端に短いんです。今作でも「Howl!」は、普通ソロとか入れたくなると思うんですけど、それは違うと感じたのでいれなかったんです。けどそうした結果、超短い曲になってしまったと(笑)。

松原正樹との思い出

――前作『WONDERLAND』は松原正樹さんと一緒に制作されましたが、その松原さんが4年前に他界されてしまいました。今作では松原さんとの作業が活きているところもありますか。

 色々思い出しちゃうんですけど、『WONDERLAND』の時の“まっつぁん”(松原正樹)との作業はミックスダウンとギターソロぐらいだったんです。スケジュール的にも厳しかったので、すでにアレンジしたものを持って行ったら、「ミックスだけでいいよね」という流れになってしまって。

 それでアルバムが完成するぐらいの時に、「今度作る時は曲作りから一緒にやりませんか」と、まっつぁんに話していて、まっつぁんも「いいね」と言ってくれていたんです。そこからしばらくして具合が悪くなってしまい、亡くなってしまって…。そこから僕は何もやる気が出なくなってしまったんです。僕は2人でアルバムを作れるのをすごく楽しみにしていたので、その時の喪失感はすごかったです。

――松原さんとの思い出で印象的なことは?

 僕とまっつぁんは2人とも料理が好きで、その中でもまっつぁんは本当に料理が好きなんですよ。那須にまっつぁんの別荘があって、そこに遊びに行った時に料理対決をしたのが印象的でした。(松原さんの)奥さんにジャッジしてもらったんですけど、両方とも美味しいから、と引き分けになって(笑)。自分で作った料理は忘れてしまったんですけど、まっつぁんはその時、煮物を作ってました。けっこうお袋の味系が得意みたいで。

――和食とは意外でした。松原さんに向けて楽曲は書かれなかったのでしょうか。

 今回収録されている「Horizon Drive」は、まっつぁんを意識した曲です。まっつぁんに捧げる曲という文章も添えさせていただいています。

隙間があるギターが好き

――さて、今作でいままでとサウンド面で変化した部分は?

 2年くらい前に新しいマルチエフェクターLine 6のHelix LTを導入しました。これまでは1997年くらいからBOSSのGT-5をずっと使っていたんです。壊れた時の予備の機種も買って持っていたんですけど、さすがに誤動作を起こすようになったので代わりになる機材を探していました。なかなか見つからなかったんですけど、Helixを使っている人の動画を観て「いい音するな」と思いまして、楽器屋さんに行って試したらすごく良くて。そこからのサウンドの変化は大きかったです。

――20年以上使っていたBOSSのGT-5は名機だったんですね。

 あれは名機でした。それこそまっつぁんもずっとGT-5を使っていたんです。飲んでいた時にも「GT-5いい音だよね」、という話もしていましたから。それからも新しい機種はたくさん出ましたけど、どれも自分にはピンとこなかった。でもここに来て好みのものが出てきて、今はHelixで全て完結していて、今回のアルバムのエレキの8割はHelixです。レコーディングもライブもこれでいけちゃいます。

――ライン録音でこのクオリティはすごいです。あと、西村さんのリードギターのハモリがすごく心地良かったんですけど、ハモリのこだわりを教えてください。

 僕はクイーンのブライアン・メイが好きで、その影響が大きいです。他にもボストン(米・ロックバンド)やジェイ・グレイドン(米・ギタリスト)の影響を受けています。一時期、自分でハモリ方の研究したことがあって、ブライアン・メイのハモリ方とジェイ・グレイドンのハモリ方はまた違うんです。ブライアン・メイはトライアドでハモるんですけど、ジェイ・グレイドンはテンションでハモったりしているのが特徴で、僕はどちらかというとブライアン・メイのタイプです。

――クリーントーンも美しいですが、音作りのコツはありますか。

 クリーントーンは難しいですね。クリーン過ぎてしまうと音がいなくなってしまう、オケと混ざってしまって存在感が薄くなってしまうんです。その塩梅を決める難しさがあります。僕はもう自分のテンプレートを作ってあって、そこから曲に合わせて微調整していく感じです。

――最近のサウンドのマイブームみたいなものはありますか。

 僕はその都度変わって行ってしまうので、あまりブームはないかな。ただ、最近は改めてキング・クリムゾン聴き直したりしています。ロバート・フィリップが自分の奥さんとYouTubeの「Toyah&Robert Fripp's Sunday Lunch」という番組をやっているんですけど、ギターに合わせて踊っていたり、それがすごくバカっぽくて面白いんです。

――ある意味前衛的な感じの動画なんですね(笑)。さて、西村さんがギターを弾くにあたり一番大切にしているところはどこでしょうか。

 トーンとグルーヴ、あとは“間”ですね。隙間があるギターが好きなので、あまり音を詰め込まないようにしています。

――間というところで、アルバムの最後を締めくくる「夕凪」は心地よいです。最後の締めにぴったりでした。今後はこういった楽曲も増えていきそうですか。

 僕は狙って曲がなかなか書けないんですよ。SING LIKE TALKINGのカップリング用の楽曲を作る時に、「今回はファンキーな曲を作る!」と宣言したんですけど、全くファンキーな曲ができず(笑)。それで作曲作業が息切れしてきた時に出来たのがこの「夕凪」でした。なので、リラックスしたいという想いが出ていると思うんです(笑)。

――その時の心境がめちゃくちゃ反映されているんですね(笑)。

 カップリングで作る曲は基本自由に作らせてもらっているんですけど、それがなかなか出来ない時もあります。何を作っていいんだかよくわからないので、テーマを決めるのにまず試行錯誤するんです。逆にちょっとしたテーマがある方が良い時もあって、バンドの歌ものの曲を作る時に、A面の曲がブラスが入った曲だったので、自分もブラスを入れた曲にしようと、色々調べていてマリアッチのような曲が出来たこともあります。

――何か一つテーマがあることで広がることもあるんですね。ところで、昔はどんな練習をしていましたか。

 僕はあまり楽曲のコピーとかしたことはなくて、得意な方ではなかったんです。例えばTOTOのスティーブ・ルカサーのフレーズをちゃんとコピーしたことはないんですけど、こうするとルカサー風に聴こえるとか、こういうチョーキングするとラリー・カールトン風になるとか、僕はどちらかというとニュアンスをコピーするのが好きで、全く関係ないフレーズをルカサー風に弾いてみるとかしてました。あとはグルーヴを掴むために、ファンキーなリフはコピーしたりはしましたけど、1曲まるまるコピーした記憶はほとんどないんです。

――それは意外でした。スケール練習のようなものもあまりやらないですか。

 それは指ならし、準備運動程度にやるくらいですね。楽屋とかでも僕はずっとギターを弾いているんですけど、そうすると周りから「本当にギターが好きなんだね」と言われるんです。でもそれはちょっと違くて「指が動かなくなったらどうしよう」という不安からだったりします。

――ギターを弾いている時間は長いんですね?

 弾いている時間は長いんですけど、弾かない時は全く弾かない(笑)。ひどい時は1カ月くらい触らない時もあります。ギターがものすごく嫌になる瞬間が1年に1回くらい訪れるんです。さすがに下手になっていて慌てて練習をするという(笑)

――真剣に向き合っているからこそだと思います。そんな西村さんにとってギターとはどんな存在でしょうか。

 もうツールですね。オールド、ヴィンテージのギターも興味はそんなにないんです。メーカーのこだわりもなくて、あるとしたら自分にとって弾きやすい、触っていて気持ちいいかどうかだけで、料理人の包丁のような感覚です。僕にとって音楽を表現できるものはギターしかないですから。

(おわり)

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