れるりり、活動10周年 人気ボカロPが語るシーンと未来
INTERVIEW

れるりり


記者:榑林史章

撮影:

掲載:20年08月26日

読了時間:約10分

 ボカロPのれるりりが26日、活動10周年記念ベストアルバム『羞恥心に殺される』をリリース。2009年にニコニコ動画を中心にクリエイターとして活動を開始。2012年に発表した楽曲「脳漿炸裂ガール」が話題となりシーンを担う存在となった。現在までの累計総動画再生数は1億再生を突破している。また、「脳漿炸裂ガール」は同曲を原作にした実写映画が2015年7月にアベユーイチ監督、私立恵比寿中学の柏木ひなたと竹富聖花のW主演で公開された。自身の音楽活動について「僕の音楽でみんなに楽しんでもらうことが目的」と話すれるりり。れるりりのルーツや楽曲制作の裏側、今後の目標などを聞くとともにシーンの現状と未来について語ってもらった。【取材=榑林史章】

ボカロPの数だけ自由があります

『羞恥心に殺される』ジャケ写

――最初にボカロで曲を作るようになったきっかけは?

 最初はニコニコ動画を視聴者として楽しんでいて。よく覚えていないですけど、たしか友達の家でみんなと見たのが最初だったと思います。そんな中で僕よりも早くからボカロで曲を作っている人の曲を聴いて、すごく自由に作っていると感じたので、僕もそこに参加してみたいと思ったのがきっかけです。

――ボカロPとして活動する前に、何か音楽活動をやっていたんですか?

 高校を卒業してから、バンドでギターをやっていました。ソウル/ファンク寄りのJ-POPみたいな音楽性で。もともと家族がそういう音楽を聴いていて、スガシカオさんや山崎まさよしさんなどをすごく聴いていたんです。それから洋楽のソウルなども聴くようになっていった形です。LaBluzuというバンドで、当時代々木にあったソウル/ファンク系のバンドが多く集まるライブハウスで、よくライブをやっていて。そのバンドでは、ミニアルバムを出しました。

――バンドからボカロPになったのは、バンドにはない魅力がボカロにあったということですよね。

 そうですね。自分が歌って欲しい曲を他人に歌ってもらうことって、すごく難しいんです。本人に「歌いたくない」と思われたら、どんなに自分が歌って欲しくても、歌ってもらえない。バンドをやっていて、そういうことが何度もあって。でもボーカロイドは文句も言わず素直に歌ってくれるので、初音ミクが出てからは曲を作ることがすごく楽しくなりました。

――最初からすぐにできましたか?

 最初は時間がかかりましたよ。何度も「もう二度とやるか!」と思って諦めようとするんですけど、数日経つともうちょっとやってみようかなという気持ちになって。それで少しやっては、また「無理だ!」となって。そういう繰り返しで少しずつ慣れていって、僕の慣れに比例してボーカロイドもイメージ通りに歌ってくれるようになって。すると次はパラメーターをイジるようになったりしていって、そういう過程がすごく楽しかったです。

――「れるりり」という名の由来は?

 名前の意味は何もなくて。名前を何にしようか悩んで、目をつむって適当にキーを打ったら「れるりり」になっていたので、これで良いやと(笑)。だから名前と音楽性との関連性は全くないです。

――投稿を始めたのは2009年だそうですが、当時はsupercellやDECO*27など人気Pが活躍し、「炉心融解」など殿堂入り楽曲が多く生まれました。当時のインターネットやボカロのシーンはどんなふうに感じていましたか?

 ボカロが一番盛り上がっていた時代だと思います。僕の曲の中でも有名な「脳漿炸裂ガール」をアップしたのは2012年ですが、そのころになると、毎週のように何かしらのミリオンが生まれていて。

――ボカロPで生計が成り立つようになったのはいつくらいからですか?

 2010年にアルバム『MUGIC』を自主制作してコミケで販売したり、ボカロのコンピレーションアルバムに参加したりしていました。でも自分でちゃんと青色申告をし始めたのが7~8年前だから、そこから逆算すると2012年くらいからかな。まだアルバイトも少しやっていたかもしれないけど、そのころから何となく音楽で食えるようになっていたと思います。

――この10年でボカロのシーンはどのように変わったと思いますか?

 作る人も聴く人も若干減ったかな、という気はしています。全盛期が凄すぎたというのもあるでしょうけど。今はボカロが世の中に浸透して市民権を得て、そのぶん落ち着いているのかもしれません。

――れるりりさんは初音ミクだけでなく、VOCALOID FukaseやGUMI、鏡音リン&レンなど複数のボカロを曲によって使い分けていますが、自分の中で使い分けのルールみたいなものはありますか?

 いえ、頭の中で鳴っている歌が男性キーか女性キーかで変わりますし、その中でより曲のイメージに近いものを使う感じです。ざっくり言うと、その時の気分ですね。

――男女とか声域に制限されずに作れるのは、ボカロならではの自由さですね。

 そうかもしれないです。それにボカロで曲を上げるのはすべてセルフプロデュースですし、どうやったら面白い曲ができるか、どうやったら聴いてもらえるか、どうやったら売れるかということまで自分で考えるんです。だから、ボカロPの数だけ自由があります。

 面白いと思うのは、最終的にはひとつの音楽データとして、ポップスなどいろんな音楽シーンのアーティストの曲と同じ次元で聴いてもらえるということ。生のボーカリストが歌っているものと比べてもらえたりするのは、とっても面白いし楽しいです。僕の名前も顔も知らないから、「この人は何のためにやっているんだろう。何を訴えようとしているんだろう」って、より真剣に耳を傾けてくれるんです。

――平等に聴いて評価してもらえると。

 そうです。何かしらリスナーに刺さった回数が多い人は、その中の何かが優れているわけで、その優れている部分を、ちゃんと見てくれるという感じがありますね。

――ボカロのヒットの仕方とか研究しましたか?

 そうですね。全盛期のころはとにかく盛り上がっていたので、そういう曲をいっぱい聴いて自分なりに分析していましたね。再生回数も最初から気にしていて、今もそれは気にしています。

未知のイベントは、いち早く味わいたい

――「脳漿炸裂ガール」や「厨病激発ボーイ」、「乱躁滅裂ガール」など、れるりりさんの楽曲を元に、小説化や実写映画化、舞台化、TVアニメ化など、メディアミックスで広がっている作品があります。それはご自身としてどんな風に受け止めていますか?

 僕としては、「歌ってみた」や「踊ってみた」といった、ニコニコ動画の二次創作の一環という感じで見ています。小説化も「ライトノベル書いてみた」という二次派生ジャンルのひとつという感覚です。だから自由にどんどんやって欲しいです。

 僕の中には「僕の音楽でみんなに楽しんでもらいたい」というのがあって。僕の曲を自由に使ってそこから別の何かを生み出してもらうことが、なかば目的でもあるんですね。どれも誰かが「やってみたい」と思ってくれた人がいたから実現したことで、それって単純にうれしいじゃないですか。それに僕から「映画を作りたい」と言って作るよりも、曲を聴いて「作りたい」と思ってくれた人のほうが、絶対に良いものが作れると思うんですよね。

――曲を作る時に、そういう二次的な広がりのことも考えていたりするんですか?

 考えながら作る曲もあるし、ない曲もあります。でも、ニコニコ動画は動画サイトなので、映像を付けないといけないじゃないですか。曲をあげる時にどういう映像を付けるかは考えていて。クリエイターさんに細かく指示をする場合もあるし、そこにはかなりの労力をさいています。

――また「脳漿炸裂」や「厨病激発」、「乱藻滅裂ガール」「聖槍爆裂ボーイ」など、難しい漢字四文字を使ったタイトルも、れるりりさんの特徴です。そういうタイトルを思いつく発想の源は?

 発想の源は何かと言われたら、それは人気ボカロ曲を研究した成果でしょうね(笑)。いろいろ情報を集めて知識を付けて。世の中で需要のあるものは何かをしっかりと意識して。目に飛び込みやすいものとか、人の目に触れやすいものということで、最初は漢字四文字のうち一文字は読みづらい漢字を入れようと意識していました。そうすると、「何て読むんだろう?」ってみんな気になって目に留めてくれるんです。今も言葉を思いついたら、すぐアプリのメモに残すようにしています。

――今のボカロやネットのシーンについて思うことは?

 音楽に限らず、ネットの力で、みんな自由に何でもできるようになった。自分の生きたいように生きやすくなった。それはすごく良いなと思います。自分もなるべく自由に生きて、「こんなに自由な人でも、ちゃんと生きられますよ」ということを、音楽に落とし込んで伝えることができたら良いなと思います。

――そんなれるりりさんも、10周年を迎えました。それについては、率直にどんな気持ちですか?

 自分への自信に繋がります。「俺もちゃんとやればできる」っていう、自尊心が叶えられたと言うか。

――『羞恥心に殺される』のタイトルは、どんなイメージで付けましたか?

 表題曲のタイトルをそのまま付けたんですけど、その曲はフッと浮かんで、今思っていることをそのまま、裏の意味もなく書いた感じです。でも悩んでいる人がこれを聴いて、少しでも気持ちが楽になってもらえたらうれしいです。YouTubeなど動画共有サイトで盛り上がってくれて、みんながカラオケで歌ってくれたらうれしいですね。

――Disc1がオリジナルアルバム、Disc2がボーカルベストアルバムになっていますね。Disc1は、何かテーマを考えましたか?

 アルバムは記録みたいなものなので、そろそろ曲が溜まってきたから、アルバムにまとめよう、と。それに昨今はCDを買う人が減っていて、それは「CDはいらない」と思っている人が多いということだと思うんです。そういう人に、何とかして買ってもらえるように頑張るよりも、「CDが欲しいです」と言ってくれる人たちの要望に応えて、そういう人たちがよろこんでくれるものを作りたいと思いました。

――Disc1に収録の「僥倖ダンス」は、昨年の『ちゃんげろソニック2019』のテーマソングのボカロバージョン。原曲には、Disc2にも参加した+α/あるふぁきゅん。やウォルピスカーターも参加。同じ時代を一緒に駆け抜けてきたニコニコ動画の仲間の存在は、どんな風に感じていますか?

 同じ時間を共有した人は、すごく大事だなって思いますね。その話で盛り上がれるのは、この人たちしかいないみたいな。だから時々「あの時はああだったよね」っていう懐かしいをしたくなって、たまに会ったりもするんです。Geroくんは同い年なんですけど、いろんな人と一緒にいろんなことをやっていて尊敬します。僕は人と一緒にやることが苦手だけど、彼はちゃんとできている。すごいなっていつも思っています。

――今後の目標などはありますか?

 そういうのは正直なくて、健康で自由に生きていければな、と。ただ科学やテクノロジーの進化には興味があって。2045年にシンギュラリティが起きるって言われていて、すごくワクワクします。人間が進化した先には、本当に世界が分かり合える時代がくるんじゃないかと。意識の共有とか、そういうことができるようになる時代がくるなら、絶対に自分も体験してみたいと思うので、それまでは生きていたいですね。そういう未知のイベントは、いち早く味わいたいです。

(おわり)

作品情報

れるりり
10th Anniversary Original & Best ALBUM『羞恥心に殺される』
8月26日発売
CD2枚組 LACA-9749~9750 3200円(税抜)
ランティス

〈Disc1(Original ALBUM) Lyrics & Music:れるりり〉
01. 羞恥心に殺される
02. Q 極進化論
03. 生前戦葬
04. 知らない君
05. 瑪瑙の月
06. うさぎのバラッド
07. 天の神様の言うとおり
08. 僥倖ダンス
09. スペシャルガール
10. 愛のかたまり

〈Disc2(Vocal Best ALBUM) Lyrics & Music:れるりり〉
01.脳漿炸裂ガール(編曲:白戸佑輔 歌:緒方恵美)
02.聖槍爆裂ボーイ(作詞・作曲:れるりり・もじゃ 編曲:小松一也 歌:ウォルピスカーター)
03.神のまにまに(編曲:EFFY 歌:樋口 楓)
04.乱躁滅裂ガール(編曲:高田 暁 歌:乱躁滅裂ガールズ (天音みほ・安齋由香里・星咲花那・堀越せな・美波わかな))
05.厨病激発ボーイ(編曲:本多友紀 歌:nero)
06.僕がモンスターになった日(編曲:菊地 創 歌:+α/ あるふぁきゅん。)
07.一触即発☆禅ガール(編曲:KanadeYUK、Tom-H@ck 歌:高槻かなこ)
08.愛してる(作詞・作曲・編曲:れるりり 歌:MindaRyn)
09.Q 極進化論(編曲:中土智博 歌:伊東歌詞太郎)
10.羞恥心に殺される(編曲:日比野裕史 歌:うみくん)

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