INTERVIEW

MORISAKI WIN「僕らは人という中で生きている」世界を見据えた新たな旅立ち


MORISAKI WIN

記者:村上順一

掲載:20年08月20日

読了時間:約11分

 シンガーで俳優の森崎ウィンが8月19日、1stEP『PARADE』をリリース。アーティストMORISAKI WINとして新たな道を歩き出した。今作はアシッドジャズを感じさせる「WonderLand」や、7月1日に先行配信された「パレード - PARADE」、アンニュイな雰囲気が漂う、MORISAK WINの新境地の歌声が味わえる「Blind Mind」などワールドワイドに活躍する自身を体現するような全5曲を収録。インタビューでは『PARADE』の制作背景から音楽の原体験、アーティストとしての課題など多岐にわたり話を聞いた。【取材=村上順一/撮影=木村武雄】

過去は捨てるわけではなく、ここまでの経験をどう活かしていくか

MORISAKI WIN

――音楽に初めて触れた、原体験というのはどんなものだったのでしょうか。

 ミャンマーで10歳の時まで、祖母と一緒に暮らしていたのですが、英語塾を祖母がやっていまして、そこでの教え方が歌を使って英語を教えるというものだったんです。「ABCの歌」やカーペンターズなどポップな曲を歌っていました。それもあって洋楽には小さい頃から触れる機会が多かったんです。

 そのときに僕も歌わされたことがあって、ブライアン・アダムスの「Please For-give Me」という曲なんですけど、歌詞を見ないで耳コピで全部歌えていたみたいでした。それが人前で初めて歌ったのはこの曲でした。

――その歌が褒められたり?

 子どもがマイクを持って歌っているだけでも可愛いじゃないですか。褒められたことが特別なことに感じていたかと言えば、そうでもなかったと思います。実は途中から人前で歌うのが嫌になるんです。それは、もう遊びたかったので歌に時間を取られるのが嫌で、「歌うよ」と誘われても、泣きながら机の下に隠れたりして逃げ回っていたのを覚えています。

 それを経て10歳の時に日本に来て、中学2年生の時に今の事務所にスカウトされました。その時に「歌ってみて」と事務所の方に言われて、確かコブクロさんの曲を歌ったと思うんですけど、自分が歌えることを知ってもらって、2008年にグループに加入することになりました。

 そこから音楽に触れる機会が増えて、どんどん音楽が好きになっていきました。ブルーノ・マーズがフィーチャリングで参加していたTravie Mccoyの「Billionaire」という曲に出会って、ブルーノ・マーズに一目惚れし、自分のアイドルを見つけました。そこからルーツを辿ってジェームス・ブラウンやマイケル・ジャクソンなども聴き直してみたりして。

――それが今回の作品にも感じられますね。今現在はどのような想いがありますか。(※取材日は6月下旬)

 今、ドラマも撮りながら、メジャーデビューに向けて色々なことをやっていく中で、気持ちはしっかり踏み出しています。過去は捨てるわけではなく、ここまでの経験をどう活かしていこうかと考えています。

――以前に脱皮だと仰っていましたよね。

 そうなんです。生まれ変わるというのは、ちょっと違うなと感じていて。それは前世のものが引き継がれていないようなイメージがあったんです。過去があったから今があるということを表現したくて、脱皮という言葉を使わせていただきました。

――世界に音楽を届けたいと伺いました。

 ありがたいことにミャンマーでもお仕事をさせていただく機会が増えまして、母国に仕事で帰れるというのはすごく嬉しかった。その時に自分はアジアにルーツを持っていることを再認識することが出来たんです。そこから映画『レディ・プレイヤー1』(スティーヴン・スピルバーグ監督、2018年公開)でハリウッドにも行かせていただいて、そこへの思いもあるし、でも自分はアジア出身だから、アジアツアーをまずはやりたいというのは当時からありました。

 今は世界というのはすごく身近にあると思うんです。でも、僕の地元はアジアで、そこを起点に出来上がった音を世界に届けていく役割を担いたいと思っています。その夢は変わらないから、それは持っていきたいものの一つです。

――アジアというのがひとつのキーワードですね。そのアジア人としてハリウッドに臨んだと思うのですが、大きな学びは何でしたか。

 たくさんあるんですけど、俳優視点だとハリウッドで主演を張る方は違うと思いました。プロとしての佇まい、エンタメの最先端に立つ人の凄みというのは、勉強になりました。それを肌で感じた時に、自分ってすごくちっぽけだなと思いました。ハリウッド映画に出たからといって自分では「俺はハリウッド俳優だ」なんて言えないですから。言い方は悪いんですけど、もう一回あの人たちとハリウッドで戦いたい、そのレベルに行きたいなと思いました。

 あの時は監督がその足りない自分も含めて、ピッタリの役だと感じて選んでくださったと思うんですけど、そこへの信頼はあります。でもまたハリウッドに戻って成長した姿を見てもらいたいんです。

――ちなみにスピルバーグ監督の雰囲気はどんな感じでしょうか。

 これが良い意味で普通なんです。それはたぶん現場では僕らと同じ目線で接してくださって、緊張を解いて良い演技を引き出すということをやってくださっていたんじゃないかなと思いました。本当に変なプレッシャーとかないんです。舞台挨拶の時に監督が仰っていたことがあって、「ここからはショウビジネス、エンターテインメントだ」とお話ししていて、それは製作が終わって、次に人前に立ってやらなければいけないことに対してのスタンスで、その姿勢からも大きく学びがありました。

――その姿勢を音楽をやる上でも持っているんですね。

 もちろんです。でも、まだ自分のものに出来ているわけではないのですが、生で経験したものというのは大きいから、それは体に染みついていると思います。

――アーティスト、俳優のバランス感覚はどんな感じなのでしょうか。

 自分の性格上、100か0ということが多いんです。レコーディングの日はそれに向けて妥協はしないですし、とことん出し切ります。限られた時間の中で妥協をしないというのは、僕のモットーなんです。

「パレード - PARADE」に込められた想い

MORISAKI WIN

――さて、30歳という節目に今作はリリースされますが、意識した部分はあったのでしょうか。

 そこよりもMORISAKI WINの色とは何なのか、というのをスタッフと一緒に考えて制作しました。すごくわがままなんですけど、僕が楽しんでやれる環境を作りたいなと思いました。もちろんいままでも楽しんでやっていたんですけど、今回はそれを自分から出さなくてはいけない、その作品を歌う理由だったり明確にしないといけないなと。何十曲という曲数の中から選ばせて頂いたんですけど、ファーストインスピレーションで僕の心が動いた5曲で、自分が楽しめる曲が収録されています。なので、30歳だからというよりも1stEPだから、というのは意識しました。

――タイトルはその収録曲の中から「パレード - PARADE」が選ばれたわけですが、なぜこの曲をアルバムタイトルに?

「WonderLand」も候補に上がっていました。2曲目の「パレード - PARADE」は曲名がギリギリまで決まらなかったんです。歌詞の中からどの言葉をチョイスしようか迷った中でPARADEという言葉を選びました。楽曲のコンセプトに新しい世界、というのがあって、エンタメの業界も変わっていくし、僕自身も新しいフェーズに突入するので、それに対して不安や恐怖、今まで通りに行かない戸惑いなどたくさんあると思います。でも、“パレード”のようにそれを全部受け入れて、楽しんで行進して行こうって。MORISAKI WINは止まらずに一歩一歩前に行くんだよ、というメッセージを込めてこのアルバムタイトルにしました。僕の意気込みです。

――ちなみに「パレード - PARADE」は他にはどんなタイトル候補があったんですか。

 この曲は歌詞が変わったところもあって、今は入っていないんですけど、歌詞にミントという言葉があったんです。それで「ミント」というタイトル案もありました。

――そんな決意表明、意気込みの「パレード-PARADE」を1曲目に持ってこなかったのにも意図があるんですか。

 曲順はもちろん理由があります。イントロからキャッチーだし「パレード -PARADE」が1曲目に来るのはすごく良かったんです。でも、プロデューサーが「それって普通じゃない? それをMORISAKI WINでやる必要があるのか」と。聴いてくださる皆さんに対して「WonderLand」が1曲目、「これで行くの?」という疑問符を出したいとのことでした。あと、世界に発信していく、それも踏まえた上でオープニングを飾る1曲目が「WonderLand」と「パレード - PARADE」では大きな違いが出ると。驚きと僕の覚悟を示すために「WonderLand」を1曲目にしました。

――覚悟ですか?

 僕を応援してくださっている方々、J-POPを聴いている皆さんが、僕が「WonderLand」のような楽曲を聴いたら驚くと思うんです。僕もこの曲を最初に聴いた時に歌える気がしていなくて…。それはアシッドジャズ系のアレンジでリズムの取り方も難しいんです。それもあってライブではまたCDとは違う感じになる気がしています。

――歌詞にある<いつかのままのPrizm ココロに抱いてTonight あの日夢見たSky>という言葉が印象的でした。

 作詞をしていただいたEIGOさんは、僕とコミュニケーションをとりながら、MORISAKI WINを引き出していただいたんです。僕も好きな歌詞です。

MORISAKI WINの課題とは

MORISAKI WIN

――「Blind Mind」は全て英詞ですが、どんなことを歌っているのでしょうか。

 最初は日本語の部分もあったんです。でも、自宅で歌を試している時に、いまいちハマりが良くなかったので、全編英語で行こうとなりました。1番と2番は同じ歌詞で、サビだけ少し変化しています。このタイトルは直訳すると盲目、暗闇の中で苦しかったことだったりを思い出す、彷徨いながら暗闇の中を掻き分けて進んでいる楽曲で、心の叫びみたいなものが入っています。でも、恋愛モノとしても捉えられますし、夜を一緒に過ごした時間から逃げだすことって苦しかったり、それを思い出すと胸がキュッとなる瞬間はすごく沢山あると思うんです。

――いろんな捉え方が出来ますよね。

 僕にとっては恋愛モノではなかった。<It breaks me down when I see you You are not the person I know>という歌詞はけっこう重い部分で、崩れ落ちていくような心中を描いていたり、振り返りたくない過去などを乗り越えようとしている、そんな楽曲になっていると思います。

 この歌詞は解読はすごく難しくて、僕はこの曲を歌っていると、怒りに近い感情が生まれてくるんです。それはなぜかはわからないんですが…もしかしたらこの曲をレコーディングするのにすごく苦労したことが、そうさせているのかなと思うんですけど(笑)。

 自分にとってもすごく面白い曲で、ファルセット(裏声)で歌っていることもあり、どこか女々しさも感じ取れるような曲なんじゃないかと、思いながら歌っていました。全曲がチャレンジだったんですけど、この曲は特にチャレンジの曲でした。

――ラストは「What U Wanna Do?」で締め括られるわけなんですが、なぜこの曲を最後に持ってきたのでしょうか。

 いろんなジャンルが混在していて、サビはJ-POPっぽいし、かと思えばAメロはR&Bのようで、Dメロはミュージカル調になっていたり。僕がこれまでに培ってきたものが1曲に集約されていると、制作している時から見えたんです。Dメロは最初普通に歌うつもりだったんですけど、ミュージカル調にしたいと思ってどんどんハモを重ねていったり、自分も提案させていただく中で面白い曲が出来たなと思いました。

 そういう風に制作が出来たのも、ディレクションをしてくださったSweepさんのおかげです。Sweepさんが導いてくれて、僕の意見を噛み砕いて実行させてくれたり。それもあって、録りながら色んなアイデアを試せたのはすごく楽しかったです。

――今作のティザー映像を拝見させていただいたんですけど、レコーディング風景も映っていて、すごく楽しそうでした。

 レコーディングはスタジオに入って、1時間半ぐらいスタッフと世間話をしたりしてました(笑)。コーヒーを飲んでリラックスして、「そろそろ歌ってみますか」みたいな感じで。そこから、僕らはマップと呼んでいるんですけど、全体像を把握するため、一回全部ツルッと軽く録ってみます。そこからみんなで聴いて、細かいところを考えながらレコーディングしていくんですけど、すごく楽しいです。

――最後に新たな1歩を踏み出したMORISAKI WINの今の目標、そこに到達するための課題はなんでしょうか。

 細かい課題で言ったら、もっと歌を上手くなるとか、勉強しなきゃいけないことも沢山あります。僕には夢があって、それは先ほどもお話ししたアジアツアーなんです。アジアを拠点に世界へ羽ばたいていきたい、役者だったらオスカー賞にノミネートされるような役者になりたい、というのもあります。その夢を叶えることが一つのゴールです。

 シンガーと役者の軸には僕がいて、その2つを抱える僕の課題は感謝を忘れないことです。それは普通に現場にいることが当たり前だった自分が、改めて現場に入れることの大切さ、というのを今回のコロナ禍で思い知らされたことでもあります。人が繋いで、何かを作り出し、それを提供している。結局僕らは人という中で生きていて、人に恵まれて自分が見たことがない世界を見させていただいている、とつくづく思います。一つひとつの感謝を忘れなければ、落ちていくことはないんじゃないかと思うんです。それらを噛みしめながら、活動していくことが大事だと思っています。

(おわり)

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