INTERVIEW

土岐麻子「本当にやりたいことに気付けた」コロナ禍でアップデートした想い


土岐麻子

記者:小池直也

掲載:20年08月01日

読了時間:約8分

 シンガーの土岐麻子が7月7日、配信シングル「HOME」をリリースした。昨年10月にリリースした内省的なシティポップ作品『PASSION BLUE』で確かな手応えを得た彼女の新曲は、前作と同じくサウンドプロデューサーのトオミヨウとの共作でTVアニメ『フルーツバスケット』2nd season 第2クール のオープニング曲にも抜擢された話題曲。楽曲の完成は昨年10月だが「コロナ禍を経て、計らずも今の自分と同期した」と「HOME」が示唆的な意味を持つことになったと土岐本人も語る。新曲について自粛期間中の出来事を交えながら話を聞いた。【取材=小池直也】

生き方を考え直す時間になった

「HOME」ジャケ写

――全国ツアー『TOKI ASAKO LIVE 2020 SS「264 Keys ~三鍵盤ツアー、再び。~」』が中止になってしまいましたが、現在の活動はいかがですか。

 緊急事態宣言が出る少し前から、すべての仕事を家でできる様に環境を整え始めました。以前はラジオのレギュラー番組『TOKI CHIC RADIO』のために2週間に1度のペースで収録に行っていたんですけど、4月のはじめくらいからは家で素材を録り、ディレクターさんに編集だけをお願いすることも増えました。

 なるべく集まらないために自分はもちろん、人を外で稼働させるということも減らさなきゃと考えていました。あと、しっかり歌を録音できるように歌のレコーディング用の機材も買ったんです。だから、この期間は外に出ませんでしたが、結構お金を使いましたね(笑)。

――ずっと家にいて、気持ちがふさぎ込んだりはしませんでしたか?

 基本的に家は好きですし、ダラダラするのも好きです。でも生活リズムの変化や人と会わないことで刺激が減って、理由もなく落ち込んだり自律神経が乱れたりはしました。「ウイルスの感染がどこまで広がって、日常がいつ戻ってくるのか?」という漠然とした不安もあったり。

 ただ、外に出なくなって自分が本当にやりたいことに気付けた部分もあったんですよ。多くの人にとっても「やりたくてやっていたこと」と「必要があるからやっていたこと」が明らかになって、生き方を考え直す時間になったのではないかと思います。私自身もそのひとりですね。

――具体的にはどういったことでしょうか。

 人と会わなくなると本当に会いたいと思う人とか心の近くにあるもの、話したいこととかがやっと分かった気がしたんですよ。忙しく過ごしていると活気づいて、どんどん転がっていけるけど、見失っていたものもあったかなと。自分の心の素というか中心みたいなものが見えてくるんですね。

 あとは対面して話すと空気の流れの様なものがあって、それで良くも悪くも生まれる感情があるなと。何となく人と会って楽しかったり、何となく同調したりとかはポジティブな場面では人間らしくて良かったなと今は感じています。そういう話を周りでもすることが多くて、コロナ禍のなかで人々は価値観のアップデート中なのかなと思います。

2020年にリリースされるべき曲だった

――では今作「HOME」の制作について、まずは経緯から教えてください。

 「HOME」はちょうど1年前にTVアニメ『フルーツバスケット』のオープニングに、というお話を頂いて、10月には完成していたんです。その時に思い描いていたメッセージが1年後の今になって余計に響いています。こういう状況になると思っていなかったから、1年前の自分に励まされている様な不思議な感覚ですね。

 作詞は『フルーツバスケット』の内容を知るところから始まりました。原作マンガを1巻から読んでみると、登場キャラクターたちが求めているものとして「帰る場所」とか「迎え入れてくれる人」があって、そこから「家族」や「家」という概念を感じたんです。血のつながりがあっても無くても、人と人が近づいてお互いの大事な場所が生まれる、それが素晴らしいと思わせてくれる印象的なエピソードもいくつかあって。

 あとは先方から「希望が見える様な楽曲にしてほしい」というオファーもあって、主人公たちの真っすぐなところや純粋さ、人を想う気持ち、帰る場所を探す姿勢を前向きに描こうと思って仕上げていきました。

――今回もアルバムと同様にトオミヨウさんと共同で制作されていますが、作詞は音に言葉を乗せていく形で?

 曲自体は前々作『SAFARI』を作っている時からあったんです。その時は最初に私が詞を書いて、そこにトオミさんが曲を付けてくれました。でも、その後でもっと納得のいく歌詞が書けるような気がしてきて収録を保留にしていたんですよ。メロディやサウンドはすごく良いから歌詞を書き直して発表したいと考えていて、それで今回のタイミングになりました。作ってから1年ほど経っていたので、前の詞にとらわれずに新鮮な気持ちで書けたなと思います。

――トオミさんとのやりとりはどの様に?

 サウンドはトオミさんに安心して任せています。むしろ私は何かを言わない方が良いこともあるので(笑)、送られてくる音源を楽しみに待っていました。最初の方向性やイメージのすり合わせでは話すこともありますが、そこが決まったら後は彼のアイデア。逆にトオミさんも「どんな言葉を付けるのか想像できない方が面白い」と言っていて「バラードだから言葉はこう」とか「サビは英語がいい」などの指定はなく、自由にやらせてもらうことが多いです

――ここまでは制作当時のお話でしたが、コロナ禍を経た今考える「HOME」とはどんなものでしょう。

 原作に影響されて心の拠りどころや心のなかの家をタイトルにしたつもりが、今となっては自分にとってよりリアルなこととなり「心が帰っていく場所こそが本当の家だな」と、ぼんやり考えていました。そんな時に「そういえば、あの曲がリリースされるな」と(笑)。もう1回聴いてみたら今の自分の気持ちにすごく同期するな、と。普通は制作したら、すぐリリースじゃないですか。今回は出すまでにタイムラグがあったので、自分自身で新鮮に作品を捉え直すことができた気持ちです。2020年にリリースされるべき曲だったのかもしれませんね。

――この曲をライブで早く聞きたい気持ちがありますが、オーディエンスを前にしたライブを堂々とできない現状もあります。そんな中で、ライブについて考えることなどは?

 ライブでこそ自分の曲が生き続ける、という感覚があります。リリースするものが完成形ではあるけど、演奏することで反応を受けて再度返して、という微細なやりとりで音楽が変化していく。ライブをやっていると「曲の完成形って無いな」と。だから実際に演奏できないのは残念なことではありますが、これに関しては仕方ないとも思っています。新しいやり方を考えていくしかないのかなと。

――揃えた機材で配信ライブとかをしていくとかは考えたりします?

 どうでしょう、それならもっと投資しないとダメかもしれません(笑)。でも先日レーベルでおこなったオンラインフェス『LIVE HUMAN 2020』は楽しかったです。ライブとは違って、スタジオで音に向き合いながら歌っている感じ。レコーディングとライブの中間みたいなイメージでぐっと音楽に入って行く様に集中できました。

 人々の反応をもちろんダイレクトには感じられませんが、後からSNSでハッシュタグ付きの感想を見たり、コメントを後から確認するのも面白いですね。ライブの余韻がずっと続いている様な気持ちになりました。実際のフェスみたいにタイムテーブルが被って見れない、ということが無いですし、後から何度でも見られるということもあります。別物として楽しんで、新しいことをどんどん考えていくのもアリかなと。やることは尽きないですね。

海外が近くなった

土岐麻子

――土岐さんはInstagramのみSNSをやられていますがインスタライブに興味は?

 どうやったらいいか、まだアイデアが無いんですよね。あと一度仲良しのアーティストのインスタライブを何気なく覗いたら「あ、土岐さんが見てる!」となって、一緒にやろうと誘われてしまったんです。すっぴんだし、何も準備もしてないから「絶対に嫌だ!」って(笑)。気軽に見たつもりだったのに、急に表舞台に駆り出された感じでした。オンとオフの境目が限りなくない感じは怖いですね(笑)。

 あと最近CADEJOという韓国のバンドがインストアライブの中継をやっていたので見たのですが、海外の人も積極的にライブやセッションをインスタやYouTubeに載せてくれたりして、コロナによって海外が近くなったようにも感じています。これまで知りえなかった、海外のインディーズバンドやリリースもしてないミュージシャンをフォローしたりすることが増えましたね。今回のアニメの主題歌をきっかけに私の作品やライブの様子をさらに知ってもらえたらいいですね。色々な国の言語で歌詞を書いてリリースしたい(笑)。

――海外アーティストの楽曲にフィーチャリング土岐さん、みたいなコラボレーションにつながるかもしれません。ハングルのテキストでインスタライブに誘われる可能性もありますが。

 最近も韓国のRICHARD PARKERSさんにDMで「今どこで活動してるですか?」とファンレターを送ったら、私の曲も聴いてくれて「ファンになりました」と言ってくれたので、何かやれたらいいなあと思ったりしています。

――コラボといえば、最近DJ HASEBEさんの「Welcome to my room」にはRyohuさんと一緒に客演されてましたね。

 曲のタイトルが決まっていたので、そのコンセプトに向かって全員がリモートで進んでいった感じです。HASEBEさんとは面識があり、Ryohuさんとはお会いしたことがないなか、電話さえせずに文字だけの打ち合わせで出来上がりましたね。私は家で録音したのでラップと歌の質感が違いすぎたんですけど、ミックスのおかげで統一感が出せたと思います。
 
 やっぱり他の方の作品に関わることで必ず発見があるんですよ。この曲も私が歌ってこなかったタイプのサウンドだし、がっつりしたラップと一緒に歌うのもはじめて。昔から客演は新しい扉を開いてくれるから楽しいし、有意義ですね。

――最後に今後の活動や展望などあれば教えてください。

 自粛期間中に作品を作らずにはいられない気持ちになって、今はリリースと関係なく曲を作っています。Netflixを見たり、音楽を聴いたり、本を読んだり、インプットが増えた分だけアウトプット欲があるんですね。恐らく次回作は狙って作ったものではなく「この時間のこういう天気の時に聴きたい音楽」とか日常のふとした瞬間に生まれる楽曲が集まったアルバムになるかと思います。だからシティポップではなく「外を眺めている部屋の中ポップ」(笑)。まさか2020年のシティがこうなるとは思っていませんでしたが「この期間でアップデートした気持ちと新しいアイデアでやっていくぞ!」と気が引き締まる思いです。

(おわり)

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