INTERVIEW

伊東歌詞太郎「もっと音楽が好きになりたい」孤高のシンガーが目指す高み


伊東歌詞太郎

記者:村上順一

掲載:20年07月29日

読了時間:約12分

 シンガーソングライターの伊東歌詞太郎が29日、自身初となるシングル「記憶の箱舟」をリリース。7月からスタートしたテレビアニメ『デカダンス』のEDテーマで、アニメの退廃的な世界観の中から日常をテーマに自身の想いと重ねた一曲。カップリングには22日に発売された初のエッセイと同タイトルの「僕たちに似合う世界」、ボカロPの40mPが作曲した「TOKYO-STATION」を収録。インタビューでは、このコロナ禍の中で感じたこと、今作の制作背景、自分自身の使命など多岐に渡り話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】

エッセイで気づいたこととは

「僕たちに似合う世界」

――自粛期間中に、価値観や考え方がかわったところはありましたか。

 考え方、価値観というのは変わらなかったです。お客さんがいなくなってしまうとか、仕事がなくなる、そういったことはコロナ禍に関わらず、僕らミュージシャンは常にありえる、不安定な生き様であるということは思っています。それが骨の髄まで染みていると言いますか。なので、僕自身はそんなに慌ててはいないんです。

――常に危機感を持たれていたと。

 今回は全世界が同時に危機に陥っていますが、自分だけそういうことに陥ることも考えられるわけで。その考え方があったから、自粛期間も変わらずに過ごせていたと思います。昨年の10月頃にエッセイを書くことが決まって、当初は音楽の活動と両立して執筆作業も出来ると思っていました。でも、これは自分の認識が甘かったんですけど(笑)。音楽活動が止まっていたので、何とか発売日に間に合わせることが出来ました。音楽と執筆が50:50だったら、難しかったなと。

――エッセイのお話しが来た時はどのように思われました?

 出版社の方に推されてスタートしたんですけど、「僕のエッセイなんて読みたい人がいるのかな?」と思っていました。僕は音楽で支持を集めている、集めたいと思っているので、僕のエッセイに価値なんてないと思っていて…。それで編集者の方に、「僕の人生って面白いですか」と尋ねたら「すごく面白い。ライブでのMCを聞いて面白いものになるとしか思えない」と言ってくれて。

――拝読させていただきましたが、面白かったです。歌詞太郎さんは自分自身のことなので、また見方は変わると思いますし、思い出したくない過去もあるかと思うんですけど…。

 思い出したくない過去というより、あまり後ろを振り返らない性格だと自覚している部分もあるんです。それもあって面白い、面白くないの判断が出来なくて。今は音楽に支持が集まっているので、僕の人生に需要はないと勝手に決めつけていて。

――すごく赤裸々に書かれていたので、興味深かったです。

 何かを隠したりするのは良くないなと、常に思っています。隠し事はやっぱり後々辛くなっていくので。基本、人生を振り返らない僕が、エッセイを書くと言うことは強制的に振り返らないといけないわけで、初めて知る自分みたいなのが見えて、僕自身もすごく新鮮でした。その中で気づいたことがあって、自分って頭が悪いんだな、ということなんです(笑)。

――そうなんですか?

 それは発言とか行動に出ていました。バカな事を沢山やっているから、途中から「笑える」というところに価値を見出してしまって。だんだん書いていて、「こいつファニーだな」って(笑)。エッセイというのは、人生を挫折したから今がある、といった切り口で紹介されることが多いと思うんです。でも僕は「人を救いたい」なんて、音楽でも文学作品でも思ってはいけないなと思っていて。

――それはなぜですか。

 芸術というのはもともと価値がないものに、周りの人たちが価値をつけてくれるものだと思っているので、それで人を救いたいとは、僕は言えないんです。でも、面白いものというのは、今挫折している人も、上手くいっている人も、バカな人間の話は笑えるから、読んでもらえれば、少しはプラスになると思うのでオススメ出来るなと。それに、自分のこともわかってきたので、以前よりは少し賢くなりました(笑)。

――タイトルはシングルにも同名曲がありますが、「僕たちに似合う世界」となったのは、どんな経緯があったんですか。

 エッセイの方が先に上がって、曲がその後にできた流れなんですけど、エッセイのテーマ曲という感じにしたくて、書いた曲なんです。歌の内容としてはエッセイと同じことを言っているんです。タイトルの通り、似合う世界を探し続けているというのを伝えたかった。音楽業界に入る前、バンドをやっていた頃は業界のことを何にもしらなくて、僕は音楽が大好きで、みんなも同じ気持ちで音楽をやっていると、ずっと思っていたんです。その業界にいる人たちも自分と同じ気持ちで働いている人たちしかいないんだ、と僕は100%思っていて。

 関わる人が増えてきて、自分の考えが間違っていると気がついた時に、結構ショックを受けました。今もショックを受け続けながら生きているんですけど、自分に似合う世界は探すだけではダメなんだなと思いました。自分がいても良いなと思う世界はどこにあるんだろう、と探し続けるのと同時に、自分で作っていかなければいけないなと、2年ぐらい前に思ったんです。

 伊東歌詞太郎という存在を信じて、僕の音楽を聴いてくれる人たちがいるじゃないですか。自分は音楽と一体になりたい、という思いを持ってやっているんですけど、自分を支えてくれている方たちも、その一体になりたいものの一つになっていて。その世界に内包されていると言いますか。3年前だったら「僕に似合う世界」にしたかもしれないですけど、それだと今の僕の意識とズレると思いました。

――2年前に考え方が変わったきっかけみたいなものはあったんですか。

 いろんな人を知ったというのが一番大きいです。意外とトゲのある言葉を発する人が多いこともわかりました。自分の価値観だけで人を判断してはいけないなとか…。例えば、僕に近づいてきた人の意図がわかったり。僕はその瞬間には気づかなくて、世間からしたらWIN-WINの関係でやっていくことはあたり前のことなんですけど、僕はなかなかそれが理解できないと思っていて。

――歌詞太郎さんはすごく真っ直ぐな人だと思うので、人を疑わない、信じてあげたいというのがあるんじゃないかなと思いました。

 今回のエッセイを書く前までは、その言葉が合っていたかもしれません(笑)。本当に今回のエッセイを書き上げて、自分を知ることができたんです。いままでも歌詞を書く時は、自分が思っていないことは書いてきていませんが、それゆえ後になって、このとき自分はなんでこんなことを書いてしまったんだろう、となることがありました。そしてその答えも早くて1週間、遅ければ2年後ぐらいに気づくんです(笑)。あ、感覚で捉えていたことを勝手に言語化できていたんだ、みたいな。そうやって自分を知っていく、成長して行っていたところがありました。

記憶の中から今を見ている「記憶の箱舟」

「記憶の箱舟」ジャケ写

――「記憶の箱舟」はアニメ『デカダンス』のエンディングテーマですが、作品のどんなところからインスパイアを受けましたか。

 今回すごく書きやすかったんです。それは、題材をいただいてから曲を作るとなると、共感できる部分を探していく作業から始まります。ありがたいことに僕はそんなことはこれまでなかったんですけど、共感できる部分が少ない作品は苦労すると思うんです。

 伊東歌詞太郎という世界観はあるわけで、『デカダンス』の世界観に寄せすぎてもダメだし、自分に寄せすぎてもダメ、真ん中というのはどちらに対しても失礼だと思っていて。なので、例えば『デカダンス』がなくても歌って納得できるもの、その逆パターンでも成立するものを見つけていく。それには完全に一致しているところ見つけなくてはいけないんです。

 主人公のナツメは目標があって頑張っている。2話目以降から『デカダンス』の世界観もわかってくるんですけど、そんな世界で生きているのか、と驚きがあります。ナツメはまだ気付いていないんですけど、とにかく目標に向けて邁進していくんです。俯瞰して見ているこちらとしては、その目標に対しての難しさを感じるんですけど、そのナツメの頑張りが少しずつ周りに影響を与えていく、それが今自分が置かれている状況とか、共感というか一致しているんじゃないかと思いました。なので、自分が考えていることを曲にするだけで、切り取る場所を選ぶだけで良かったんです。

――作詞は物語を描いていくように、頭から順番に出来上がっていく感じですか。

 僕の場合、サビから作っていくことがほとんどで、今回も例に漏れずサビからでした。

――「記憶の箱舟」というタイトルになった経緯は?

 曲のタイトルをつけるのが一番、僕は迷うんです。歌詞にめちゃくちゃ時間がかかったとしても、2時間以内に書けますし、大体30分以内に歌詞は出来てしまうんです。それは言いたいことというのは常に自分の中にあるからで、それ以外のことを書かなければいけない時は迷うと思うんですけど。でも、最近気づいたんですけど、この書き方だと一つデメリットがあって、歌詞で言いたいことを言い切ってしまうと、どこをチョイスしたらいいかわからなくなるんです。

 なので、どこも削れない、要約できないということが起きて、2日間ぐらい悩むこともあって。今回も1日以上悩んで…。記憶というのは僕とナツメの気持ちの部分を表していて、描いている時間軸は現在なんですけど、現在を過去の自分が見ている、記憶の中から今を見ている、という描き方をしたので記憶という言葉は入れたかったんです。

 箱舟というのは、今自分が置かれている環境というものは、どのくらい強固なものなんだろう、それを壊していかなければいけないという気持ちと、ナツメにとっては『デカダンス』そのものが箱舟になりますし、示唆するものとして表現した言葉なんです。

――すごく印象的なタイトルになりましたね。今回、初のCDシングルとしてのリリースなのですが、そこを意識した部分はありましたか。

 自分の音楽を止めるわけにはいかないと思っていたので、4曲入りの音源をライブ会場限定で発売し続けていたんです。でも、今回のようにたくさんの人が関わるリリースって、もうできないんじゃないか、こうやって取材を受けることもないんじゃないかなって…。初めてのシングルとか関係なく嬉しい気持ちはあります。人が動いてくれて作品を広めてくれている、そういう状況自体に感動している自分はいます。

――色んなことを経験したからこその感情ですね。さて、アレンジについてお聞きしたいのですが、イントロとかでメトロノームのような音が、さりげなく入っていたんですけど、これは何かを表現されているのでしょうか。

 アレンジをしてくださったakkinさんが入れてくれた音なので、確かなことはわからないんですけど、僕は「記憶の箱舟」はエッジの立った世界観ではない、日常の中で夜寝る前に過去を思い返すような、ゆったりした感じになるので、時計のような時を刻んでいるゆったりした世界観に一役買っているなと、僕は思いました。

――日常がキーワードにあるんですね。

 これはアニメ制作側からのリクエストもあったんです。オープニングテーマが『デカダンス』のバトルシーンなどをモチーフにした曲だと思うんです。でも、僕が担当させていただいたエンディングではナツメにも学校があって、友達もいて我々と変わらない日常もある、そこを描いて欲しいというものがあったんです。今回、リクエストがあってより作品としてのフォーカスが定まったので良かったです。

音楽というものに真摯に向き合っていきたい

伊東歌詞太郎

――さて、もう一曲「TOKYO-STATION」が収録されていますが、この曲はノンフィクションですか。

 これは、こういう小説を書きたかったんです。実はプロットも細かくあります。男女の登場人物がいて、叶えたい夢があって、女性は恋愛強者で、ルックスがいいとか、ご令嬢だったりステータスが高いという設定なんです。恋愛において挫折をしらない、自信満々なこの女性が、ある男性に恋をします。普通の男性だったらこの女性になびいてしまうんですけど、彼は夢に向かって一直線だから、全く女性に振り向かないんです。そのドラマを描きたいなと思いました。

――てっきり、この男性は歌詞太郎さんご本人かと思ってました。

 そう思う人もいると思うんですけど、小説に出てくる登場人物なんです。この小説のもっと細かい設定はクラッシュしたパソコンに入っているので、もう取り出せないんですけど。

――その小説のタイトルも「TOKYO-STATION」だったのでしょうか。

 いえ、タイトルすらも決まっていなくて、今回曲として制作するにあたりつけたタイトルです。

――作曲は40mPさんですね。以前にも一緒にやられていますが、40mPさんの楽曲を、歌詞太郎さんはどのように捉えていますか。

 過去にも書き下ろしの曲を提供していただいたこともあり、友人でもあるんです。おそらく僕のことを長く知ってくださっている方には、親和性の高い2人だと思っていただけていると思います。40mPさんは自分とは違う方向性の楽曲を作っていただけるんです。40mPさんは、立体感をあえて引き算できる方だと思っています。自分はバンド出身というのもあって、音は立体感があった方が良い、という価値観で生きてきたから、そこを引き算するのは自分には勇気がいることなんです。でも、それをできてしまうのが40mPさんなんです。だから一緒にやりたいと思えますし、意味のあることなんです。

――情景が目の前に広がる、世界観のある楽曲で聴きごたえがあります。さて、最後に今の歌詞太郎さんの課題、アーティストとしての使命はなんでしょうか。

 課題ではないんですけど、使命というところで、もっと音楽が好きになりたい、と思っています。

――今でも相当音楽は好きですよね?

 好きなんですけど時折、フレディ・マーキュリーやマイケル・ジャクソンより好きじゃないんじゃないか、と思ってしまう瞬間もあるんです。でも、今誰よりも音楽が好き、歌を愛しているんだ、と思える瞬間もあるんですけど。日々それを繰り返していて、歌というのは歌えば歌うほど新しい感情がでますし、曲も作れば作るほど幸せを感じることができたり、そういうものをたくさん経験していくと、好きという感情がどんどん深くなっていく気がしています。

 僕は「死ぬまで歌い続ける」というのを目標としているのですが、それは死ぬまで深く取り組んでいくことでもあるので、それ以外は脇目も振ってはいけないのかなと思っていて。その中で今、アレンジの勉強も始めたんです。そうしたら曲を作ることがより面白くなってきました。今は歌に加えて、より音楽というものに真摯に向き合っていきたいです。

(おわり)

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