INTERVIEW

小野みゆき、銀幕復帰作で「初めての等身大」 人生に影響を与えたクイーン


『クシナ』小野みゆきが演じる鬼熊<オニクマ>。「初めての等身大だった」という役からは強さだけでなく弱さも滲み出ている

記者:木村武雄

掲載:20年07月23日

読了時間:約7分

 女優の小野みゆきが、映画『クシナ』(24日公開、速水萌巴監督)で約20年ぶりに映画出演する。男子禁制の女性だけが暮らす山奥の村を舞台に母娘の愛を描く。小野が演じるのは、14歳で子供を出産した娘の母親であり、その村の村長でもある鬼熊<オニクマ>。「初めての等身大の役だった」と語る小野は自身の子育てに重ね「演じやすかった」と振り返る。芸歴40余年で新たな発見もあった本作。一方、長い役者生活の中で忘れられない存在は、夏目雅子さんと松田優作さん。世界的ロックバンド・クイーンのある曲を聴くと今でも思い起こされるという。その思い、そして本作の印象を聞いた。【取材=木村武雄】

初めての等身大

 1979年に資生堂化粧品のキャンペーンガールとしてデビュー。同年、映画『トラック野郎・熱風5000キロ』にマドンナ・西沢夏役で出演。数々の名作に出演してきた。近年は育児に専念するためセーブ。本格的に映画に出演したのは20年ぶりとなる。

 もともと作品を観るタイプではなく、観てもハリウッド映画が多かったという20代、30代。しかし、育児期間中に邦画を観て、「素晴らしい作品が沢山あることに気づきました」。本作の出演オファーを受けたときも「こういう素晴らしい邦画を支えている若い監督やスタッフと仕事ができることが嬉しかった」と快諾した。

 本作の舞台が、深い山奥に人知れず存在する女だけの男子禁制の村ともあって大自然に囲まれての撮影。閉鎖的なコミュニティによって形成された独自文化などを描くという観点からか、セリフは決して多くなくその雰囲気で心情を伝えるような作りだ。

 「心の機微を言葉で伝えるセリフ劇の様な作品よりも、多くをしゃべらず情景や雰囲気などの『画(え)で語る』という映画は好きですし、これまでもそういう作品にも出せて頂きました。ですので、今回の様な作りに対して違和感はありませんでした」

 小野が演じる鬼熊<オニクマ>は女たちを守る村長であり、28歳となった鹿宮<カグウ>(廣田朋菜)の母親でもある。その鹿宮<カグウ>には14歳の奇稲<クシナ>(郁美カデール)がいる。自身にも大学生の息子がいることから「これまでかけ離れた役が多かったのですが、今回は初めて等身大。演じやすかった」。

郁美カデールが演じる稲<クシナ>

廣田朋菜が演じる鹿宮<カグウ>

 実際に撮影から公開までの4年の間に、自身の息子も精神性として奇稲<クシナ>から鹿宮<カグウ>へと成長する姿を目の当たりにし、撮影中には気づかなかった気づきが作品を観てあったという。

 「この4年で息子は成長したことで自我が芽生えて、それまでなかった母と子の間に良い意味での葛藤が生まれました。もちろん、撮影当時は監督の描きたいものを理解しているつもりでしたが、完成した作品を観たときに実感として鬼熊<オニクマ>の心情やその世界観が理解できて、そんなことは初めての経験でしたから面白かったです」

 子育て期間中の想いが、鬼熊<オニクマ>にも自然と表れたとも語った。そんな鬼熊<オニクマ>は、奇稲<クシナ>を守るため決断を迫られる。

 「子どもを守らないといけない感覚は、子供が生まれる前と生まれた後では180度違うと思います。母親が子供を守るというのは、身を挺して子供の前に立ちはだかるイメージもありますが、そうじゃない守り方もたくさんあるということをこの作品では伝えています」

 一方、身を挺する愛ではなく、多様性のある親の愛の描き方ができるようになったのは、映画界の変化が影響しているとも語る。

 「子育てをしている人は皆そう思っているんだろうなと思います。皆が分かっていることを逆にこれまで日本の映画では男性目線で描かれることが多かったので描ききれなかった。この映画はファンタジーっぽく思われるかもしれませんが、実は地に足が着いている作品。私自身も完成した作品を観て分かりました。綺麗な景色だけに頼らず、ちゃんとした世界観が描かれていることは嬉しく感じました」

 また、映画公開が決まった際のコメントで小野は、奇稲<クシナ>の印象を「一見か弱く見えるけれども、そんな繊細さの中に一本のキリッとした強さが見える」と語っている。一方、鬼熊<オニクマ>は一見、強そうに見えるが弱さも滲み出ていた。

 「私、弱いって見られないですよ。顔が濃いから濃いって言われる。渡辺謙さんと共演した時も撮影の初日に恋に落ちそうなシーンがあったんですが、その時に私は普通なのに、監督が『顔が怖い』と言って」と笑顔で振り返るが、本作では「弱いところが出せて嬉しかった」と笑んだ。

鬼熊<オニクマ>(小野みゆき)と稲<クシナ>(郁美カデール)のシーン

無念さ、クイーンの曲

 俳優生活40余年で新たな発見もあったという本作。小野自身はこれまでに数々の名作に出演している。そのなかで影響を受けたのは夏目雅子さんと松田優作さん。

 「雅子ちゃんは『トラック野郎』にも出られていてその演技は素晴らしかった。私が初めて出演した民放ドラマ(TBS系『野々村病院物語』81年放送)で共演させて頂いて撮影の半年間一緒にいました。その半年後『野々村病院物語II』でも一緒になって。歳も1つ違いで役としても関わることが多かったのでお互い女子高生みたいにベラベラとしゃべって楽しかったですね」

 夏目さんは85年に白血病で27歳という若さで他界した。「糸がプツンと切れたようにショックでした」。

 周囲から「演技が下手」と言われたデビュー当時だったが、その後は演技力と存在感が高く評価され、89年にはハリウッド映画『ブラック・レイン』に出演。松田優作さんが演じる佐藤浩史の愛人、クラブ・ミヤコのホステスを熱演した。松田さんはガンに侵されながらも撮影に臨み、映画公開直後に急死。この作品は遺作となった。その頃、小野の父も他界した。

 「才能のある2人が亡くなってショックでした。雅子ちゃんが亡くなった時も『なんで雅子ちゃんなの…』と。ようやく気持ちの整理がついた時に今度は優作さんが…。代われるものなら代わってあげたかった」。今でもそんな想いに駆られている。

 その思いをクイーンの「I Want It All」に重ねている。89年にリリースされたアルバム『The Miracle』に収録された曲で「私の人生に影響を与えています」。クイーンが自身を客観的に書いた曲ではないかと言われている。

 「雅子ちゃんも優作さんもそう。これからもっと活躍するという絶頂期に若くして天国に旅立たれて…。この曲は、フレディ・マーキュリー(91年没)が『全て欲しい』と言って亡くなったというイメージが私にはあります。それが2人に重なって…。無念さという呪縛を解いてくれるものではないけど、今でも聴くと雅子ちゃんと優作さんの事が思い浮かびます」

 『クシナ』では、愛が描かれていると話した。無念さが離れないと言う小野だが、2人が志した芝居という世界に40年と身を置く。こうして20年ぶりに銀幕にも帰ってきた。言葉で語らずともその姿勢から愛、そして本音が伝わってくる。

 ちなみに、「I Want It All」の冒頭にこんな歌詞が出てくる。

<Adventure seekers on an empty street>
<Just an alley creeper, light on his feet>

和訳
<空っぽの道の冒険者>
<いわば路地を這う者 フットワーク軽く>

 この曲には新たな挑戦を示唆するメッセージが込められていると語る人もいる。まだまだこれからだ。

 ◆鬼熊<オニクマ>役:小野みゆき 1959年11月17日生まれ。静岡県出身。1979年、資生堂サマーキャンペーン「ナツコの夏」でデビュー。主な出演作に『トラック野郎 熱風5000キロ』(監督:鈴木則文)、『戦国自衛隊』(監督:斉藤耕正)、『あぶない刑事』(監督:長谷部安春)、『ブラック・レイン』(監督:リドリー・スコット)、『ハサミ男』(監督:池田敏春)などがある。

公開情報

郁美カデール
廣田朋菜 稲本弥生 小沼傑
小野みゆき

監督・脚本・編集・衣装・美術:速水萌巴
配給宣伝:アルミード
ATELIER KUSHINA 2018
/日本/カラー/70分/アメリカンビスタ/stereo
公式HP:kushinawhatwillyoube.com
Twitter:@kushina_cinema facebook: kushina.cinema

あらすじ

深い山奥に人知れず存在する、女だけの"男子禁制"の村。村長である鬼熊<オニクマ>(小野みゆき)のみが、山を下りて、収穫した大麻を売り、村の女達が必要な品々を買って来ることで、28歳となった娘の鹿宮<カグウ>(廣田朋菜)と14歳のその娘・奇稲<クシナ>(郁美カデール)ら女達を守っていた。

閉鎖的なコミュニティにはそこに根付いた強さや信仰があり、その元で暮らす人々を記録することで人間が美しいと証明したいと何度も山を探索してきた人類学者の風野蒼子(稲本弥生)と後輩・原田恵太(小沼傑)が、ある日、村を探し当てる。

鬼熊<オニクマ>が、下山するための食糧の準備が整うまで2人の滞在を許したことで、それぞれが決断を迫られていく。

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