INTERVIEW

廣瀬智紀、30歳過ぎて明確になった「道」 経験を重ねた今だから出来た役


廣瀬智紀

記者:木村武雄

掲載:20年06月18日

読了時間:約8分

 廣瀬智紀が、6月19日(金)公開の映画『HERO~2020~』で主演を務める。12年に作・演出の西条みつとし氏主宰の劇団太陽マジックの旗揚げ公演として初演され、昨年再演された舞台の映画化。2年間限定で交際する秘密を抱えた男とその彼女の姿を描く。再演舞台から引き続き、廣瀬は主人公の飯塚広樹、恋人・木崎浅美役を北原里英が演じる。初演では松島竜司役を演じた廣瀬は再び同作に携われることを喜びつつも、心に深い傷を負った役柄は、歳を重ね様々な経験を積んだ今でなければ演じられなかったと語る。30歳を越えてから自分の進むべき道が明確になったとも述べる廣瀬にとって本作はどのようなものになったのか。【取材・撮影=木村武雄】

意識した「広樹」の過去

――声が良いですよね。哀愁もありますし、安心感が得られると言うか。ご自身ではどう思っていますか。

 お芝居や自主練習で声を録音することもあるんですけど、自分の声はあまり好きじゃないなって思う瞬間が多いですね。でも意外に周りには「声が良いね」と言って下さる方もいるので、それは素直に嬉しいなと思います。だけど改めて自分の感覚と他人の感覚って違うんだなって思いますね(笑)。

――広樹の包容力を声で表しているような気がしました。役作りという点ではどのようになさったのですか。

 西条監督からは「作るとかではなく、その人を生きて欲しい」と言われ、それはどういう事だろうかと考えに考えました。

 2年間限定での交際を提案するほどの人生を抱えた広樹という役を想像するだけではだめで、考えて自分のものにして演じないとダメだと思いました。

 考えれば考えるほどその色に染まることができたので「作った」というよりも、彼の心理を考え込んでいったらいつの間にか到達していた感じです。

――演じる上でどう表現しようと思ったのですか。

 北原さんが演じる浅美と僕が演じる広樹との間にどこか不思議な空気感というか、「この2人に何かあったのかな?」と思わせるようなことは意識しました。ちょっとした間や目線など、そうしたやりとりで作れる空気感というのを最初のベースとしてたくさん稽古しましたので、それが映像にも反映されていると思います。

舞台、映像それぞれの見どころ

――そうした「しかけ」が細かく入れ込まれていて面白いと思いました。舞台からの映画ということでその違いはどうですか。

 観る側という視点では、舞台では、物語をずっと俯瞰して観ている感覚だと思いますので、見えているものを追うというところがあると思います。でもそれが映像となると、カット割りやアップなど作り手が見せたい所をはっきりクローズアップする。なので、より一層強く色濃くその人の心情を追えることが出来ると思います。

 芝居は広い範囲でその世界観に入れますし、演じる側も生のリアクションやその空気感によって、より一層その役や世界に乗れて、自分でも知らなかったお芝居が生まれたりすることもあるんです。

 映像は、よりクローズアップされるからこそ、舞台で表せられなかった一瞬の繊細な芝居ができて、瞬きや目線の動きで心情を表せられる強みがあります。飯塚広樹という役は繊細な心情作りでしたので、映像になった方がより一層表せられるものが増えるんじゃないかなと思っていました。

廣瀬智紀

30歳を過ぎて知った「自分」

――役作りでは、広樹というバックボーンを考え抜いたという話がありましたが、細かな表現ができる映像でその役作りはどのように変わるものなのか、もう少し詳しく教えて下さい。

 西条監督が常に言っていたのは、その人を本気で生きて欲しい、その人生を全うして欲しいということでした。

 監督とは7、8年の仲になりますが、『HERO』の初演にも出させて頂きました。その時は違う役でしたが、その時の自分にはこの役は絶対出来なかった。西条監督の気持ちには、今の歳まで積み重ねてきた人間としての経験値に期待を寄せる部分もあったと思います。人間として酸いも甘いもではないですが、色んな経験をしてきた人でしか表わせられないようなものもあるからと言っていましたから。

 僕自身、歳を重ねていろいろ経験値もあがり、考えることや、抱えていることみたいなものが表せられやすくなったのかもしれないです。

――その転換で変わった考えた方はどういったものですか。

 大きい話で言うと、生きている意味は何だろう、生きている目的は何か。10代、20代は特に考えずにただがむしゃらに生きてきてその日暮らしだったなと。でもこれからは違う。生きている意味や目的をもって行動したいですし、俳優は色々な方に影響を与える職業でもあるので、しっかりしたいなと思いました。

 根本として人の笑顔が好きですし、笑顔を作れる仕事でもあるから、人のためになれたらという気持ちはどこかあって。それまでもざっくりと人の笑顔好きだな、この仕事天職だなと思っていたんですけど、それを深く考えていったら改めて好きだなって思えて。そういうふうに考える時間が増えましたね。

――経験を積んだからこそ演じられるのが今回の役なら、廣瀬さんにとってこの作品はどういうものになりそうですか。

 何年経ってもきっと色あせないでしょうし、ずっと心に残る作品です。また10年、20年経った後に見返したいなと。人間臭いコメディな部分も多く、心が温まって笑えるお話だと思うので、自分自身としては、繊細な人間臭い感情を出せるようなお芝居というのはこの先も経験したいですし、役者としては楽しいと思えるお芝居なので、そういった面でもこれからやっていく上で成長につながるものを頂いた気がします。やれて良かったです。7、8年前の西条さんとの出会いがなかったらこの作品はやれていないですし、そうしたことにも感謝しています。

安心できるパートナー、北原里英

――北原さんとは2度目の共演となります。どういう印象ですか。

 安心できるパートナーでした。

――北原さんに廣瀬さんの印象を聞いたら、ふわふわしていると。

 そうでしょうね(笑)。普段はそうですよ。基本的にはオフになっちゃっているのかも。今はオンという気持ちですけど(笑)。

――今現在のふわふわ感はどれくらいですか。

 自分自身では0です(笑)。

――私からしたら、今もふわふわ感を感じていますが、もしかしたら包容力みたいなものがそうさせているのかもしれないですね。北原さんとのコミュニケーションはどのようにとっていきましたか。

 安心するというのは、自分の話を「うんうん」と聞いてくれるというか。北原さんはすごく興味を持って話しを聞いてくれるので、人に対して誠実に向き合ってくれる方だなと感じました。そういった面でも安心できて信頼できるパートナーだなと思います。

――映像では舞台を見ている感じでもありました。現場はどんな感じだったのでしょうか。

 オーソドックスな映画の撮り方で進んでいきました。ただ、病室でのシーンが多くて、空間的にはずっと同じところにいましたので、そういう見え方もあるかもしれないです。

――映像なのにテンポ感があるのはすごいですね。

 映像は何テイクもするので、それぞれ苦労するところがあったと思いますが、ベースが出来上がっている中でのお芝居だったので、安心して臨める環境だったのかなと思います。

廣瀬智紀

僕の「HERO」

――物語にちなんで廣瀬さんにとっての「HERO」を聞きたいと思いますが、過去に三浦知良さんと言っていました。今はどうですか。

 自分自身にとっての「HERO」と聞かれてパッと思い浮かぶのは、ベタですけど親なんです。でも、世の中の「HERO」で考えたら、人間って誰かが助けてくれたからこそずっと生きてこられている。病気やケガを手術をして治してくれるお医者さんも「HERO」ですし、色々な場面で「HERO」がいると思います。助けてくれるという面ではお医者さんがHEROだと今は思っています。当たり前のように病気になったら、手術して命を繋いでくれる。そこにはお医者さんが助けてくれたからこそ命が繋がっているって。

――自分に無いものを持っている人が「HERO」になるかもしれないですね。

 それもありますし、色々な場面で助けられているなという時に、自分を求めて下さる方も自分にとっては「HERO」ですし、自分を求めて下さる方にとっても自分が「HERO」でありたいとも思いますね。世の中が「HERO」で溢れている、そんな気持ちでいるのもいいと思います。

――ではファンの方も?

 僕にとってのヒロインです!

音楽は寄り添ってくれるもの

――俳優人生のなかで音楽に助けられたことは?

 音楽は人生の一部でずっと寄り添ってくれているもので、当たり前のような存在です。昔は舞台本番前に聴く曲もあって、オーケストラでの第九「歓喜の歌」を大音量で聴いて士気を上げていた時期もありました。今は頼るというよりかは、自分自身で上げるという事を覚えたりもしました。

――役から抜け出せない時に聴いたり、役に入る時に聴いたりとかは?

 染まりたくない自分もいて、失恋した時に失恋ソングを聴くというのは得意ではなくて…。それは引っ張られちゃうような気がするからなんです。その時その時で聴きたい曲はありますけど、性格上バラードやクラシックのような落ち着いた曲が多いです。

 街を歩きたくなる曲が最近あって、大学の時に学ばせていただいた映画の主題歌で、フェイ・ウォンさんが歌う「夢中人」(恋する惑星の主題歌)がすごく好きで、今日来るときも聴いてきました。なぜかその曲を聴きながら街を歩きたくなるんです。なんでだろうと考えたら、映画を観ていた時に主人公の子が香港の街を歩いている映像と音楽とが合わさったものが記憶に残っていて。そういった瞬間が多いですね。

廣瀬智紀

(おわり)

『HERO~2020~』
6月19日(金)よりシネ・リーブル池袋ほか全国順次公開
<公式HP>
www.mmj-pro.co.jp/hero2020/

<キャスト>
廣瀬智紀 北原里英
小松準弥 前島亜美 小早川俊輔
小築舞衣 中村涼子 米千晴 小槙まこ 加藤玲大 後藤拓斗 双松桃子
飛鳥凛 伊藤裕一 根本正勝 今立進
松尾諭 斎藤工(友情出演)

<スタッフ>
原作:TAIYO MAGIC FILM 第一回公演「HERO」
エグゼクティブプロデューサー:石田誠 中西研二 プロデューサー:村田泰介
脚本・脚本:西条みつとし
配給:ベストブレーン 企画:MMJ 製作:「HERO」~2020~製作委員会

スタイリスト:伊藤省吾(sitor)
ヘアメイク:FUJIU JIMI

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