3年ぶり、6回目の開催となるはずだった赤坂大歌舞伎。今回は『怪談 牡丹燈籠』を上演する予定だったが新型コロナウイルス感染症拡大の影響で全公演中止となった。18代目中村勘三郎の遺志を継いで本シリーズを続けてきた中村勘九郎、中村七之助兄弟。中止決定前、七之助はインタビューで本作や歌舞伎への思いを語っていた。※取材は2月実施。【取材・撮影=木村武雄】

良いカンパニー

 三遊亭圓朝の傑作落語。昨年放送されたドラマ版『令和元年版 怪談牡丹燈籠 Beauty&Fear』(NHK BSプレミアム)では萩原新三郎役を務めたが、本作ではお露、お国、お峰の3役を演じる予定だった。

 「お国は闇があり妖艶な女性、お露は真っすぐな娘、お峰は人間くさい女性と全く異なります。演じて面白そうなのはお国とお峰でしょう。立場は違いますが、2人とも生きることに一生懸命で手段を選ばないところは演じていて面白いと思います。一方でお露は異質かもしれませんね。一本気の性格もあり説得力が大事だと思います。何もしないでお嬢様ということを表現しなければなりませんから大変だと思います」

 脚本・演出はドラマ版でも手掛けた源孝志。「ドラマの方は因果因縁の深さが出ていて面白いと思いました。男女関係だけでなく、親子や師弟関係などが入り乱れているところにエンターテインメント性を感じました」

 現代作品を手掛ける源との“作品づくり”は楽しみでもあった。「僕たちが無意識にやっている歌舞伎の手法が当たり前ではないこともあると思います。改めてそうしたところを見つける機会になると思います」

 その象徴として劇中にある、恋するあまりに病になり亡くなる「焦がれ死に」がある。ドラマではお露役の上白石萌音が芝居をもって表現してみせたが、歌舞伎ではもともと文章のみ。「それをどう見せるかが楽しみです。表現するなら舞踊なのかどうか」。歌舞伎には感情を表現する踊りが多くあるという。「表現方法としては幅があります。嘘だろと思う所も納得させることができます。それは歌舞伎のすごいところです」

 本作では7年ぶりに中村獅童が参加する予定だった。

 「TBS赤坂ACTシアターはいろんなチャレンジをできる、父が残した宝物です。古典もできますし新作もできます。3年前には新作『夢幻恋双紙~赤目の転生~』もやらせて頂きました。そういう所もありまして『怪談 牡丹燈籠』がいつもとは違うものとして楽しんで頂けるのではないかと楽しみ。獅童さんと兄・勘九郎とは長年いろんなものを作ってきたツーカーの仲。それに、源監督と獅童さんは『スローな武士にしてくれ〜京都 撮影所ラプソディー〜』でもご一緒になさっていて慕っている。ともて良いカンパニーだと思います」

中村七之助

歌舞伎役者の本懐

 父・中村勘三郎は生前、古典だけでなく斬新な演出を取り入れ、新しい歌舞伎にも挑戦。1994年には、東京・渋谷のシアターコクーンで『コクーン歌舞伎』を成功させるなど、その功績は大きい。その遺志を継ぐ中村勘九郎、中村七之助兄弟。新作を行う意義は何か。

 「古典を大事にすることはもちろんですが、新しいことをやるのは本来の歌舞伎役者だと思います。月日が経って古典芸能になりましたが、江戸時代は全部新作だったわけです。面白いものがあったら脚本にして歌舞伎となって生まれて、それが面白いから文化になって、良いモノが残っていつしか古典になり、それでも歌舞伎役者は新作をどんどん世に出し、止まらなかった。それがもとにあると思います」

 ただ、時代は移り変わり様々な文化が入ってきた結果、歌舞伎は「高尚なものに祭り上げられてしまいました。何か新しいことをしようとすると『歌舞伎だからそんなことはするな』と」。『コクーン歌舞伎』も当初は反対の意見もあったという。その時代を「苦しい時代だったと思います」と表現する七之助はこうも語った。

 「僕らの世代は、この時代に生まれてラッキーです。歌舞伎役者がテレビに出ただけでも怒られていた時代もありました。でも今は、素晴らしい先輩方が継承して下さったダイヤモンドのような古典があり、新作も受け入れてくれる土壌も生まれて、素晴らしい時代です」。だからこそ「新作をやり続けるべきです」と主張する。

 そうした環境の中でより一層、役者の力量が問われる時代になっているとも。

 「一つのものに特化する役者がいなくなりつつあるという悲しい現実があります。オールマイティになってきているように感じます。見る側としては深く考えることなく楽しめる、いろんなジャンルが見られるという良い点もありますが、ずっと見てきている歌舞伎ファンからしたら物足りない時代になっているかもしれません。僕らがそうならないようにしないといけないと思います」

 そして、しっかり前をみつめる。

 「葛藤はありません。自分がやるべきことをやるだけです。今の時代、鎖国して文化を入れるなといっても無理なこと。いろんなものがあるなかで僕が何をやるべきなのか、それを探してやっていくことが大事だと思っています。世の中を変えようと思っても変わりません。新作をやらせて頂き、そこで興味を持った方が歌舞伎を見て『これは面白い』と思ってくれないと何もできませんから」

 そんな七之助のパーソナルな部分に踏み込んでみた。

――普段は音楽を聴かれますか?

 それがあまり聴かないんですよ。音楽を聴かない家庭だったのでうとくて…(笑)。聴いているとしたら知人でもある星野源さんの曲などです。

――人として魅力を感じるのは?

 父のようなエネルギッシュな人かな。父は有言実行の人でした。面白いものを探して行動していく人に魅力を感じるかもしれません。

――今の時代、閉塞感もあります。メッセージを送るとしたら…。

 言えるような立場ではありませんよ(笑)。そもそも僕はラッキー中のラッキー。このご時世に自分の好きな職業に就けていることだけでも恵まれていますから…。あえて言うなら? 人とコミュニケーションをとった方がいいと思います。それといろんなことで悩んでいたり、自分が好きでもないことをやっていたとしてもそこに楽しみを一つ見つけられたらいいと思います。それだけでも変わってくると思います。

中村七之助

(おわり)

ヘアメイク:中村優希子(Feliz Hair)
スタイリスト:寺田邦子

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