ミュージシャンが生み出す数々の作品。そこには主役級のパートであるメロディや歌詞などではない部分にも、音楽を楽しめる夢が詰まっている。そんな、音楽の「ある部分」にフォーカスしてより深く音楽の聴き方を広げて楽しんでいきたい。今回は、ドラムの「キック」に注目だ。

 ご存知かもしれないが、キックは基本的には、ドラムのバスドラム(ベースドラム)いわゆるバスドラを打つことをいう。打楽器低音域を担う、ドラムセットの中央下にあるデカいあれである。これをドラマーはペダルを踏んでキック、アタックする。

 X JAPANのYOSHIKIのようにツーバスと呼ばれる2つのバスドラを、ツインペダルを用いてパワフルに鳴らすこともある。そして、それ以上の数でプレイすることもある。2019年12月にさいたまスーパーアリーナでLUNA SEAの真矢がバスドラ3つセットのプレイを観せたのは記憶に新しい。

 キックはライブで聴くとズドンと胸を揺らす豪快なパートだ。うちで楽しむなら、ヘッドフォンだとよりキックの音が明瞭に聴き取れて楽しめる。そんなキックを深く楽しめるジャンルやテンポの特性を、楽曲を絡めて掘っていきたい。

星野源作品のキックのさりげない心地よさ

 キックが際立つビートの一つに「4つ打ち」がある。これは「4発の拍」のことで、「ドッドッドッドッ」というリズムを打つ。心地よい4つ打ちビートの例として、まず星野源の「SUN」を挙げたい。

【星野源 - SUN】

 軽快でポップな曲調、ブラックミュージックのテイストがJ-POPに見事に昇華されているこの楽曲。ビートは4つ打ちメインだが、それ自体が全面に出ている感じではないかもしれない。しかし、キックに注目すると星野源の音への深い追求心が垣間見られる。

 キックの優しいアタック感、柔らかく包み込むような音圧感が楽曲の雰囲気にマッチして体がハッピーに動く。歌、ギターなどのアンサンブルにまず耳が反応するかもしれないが、キックにフォーカスするとよりこの楽曲の楽しみが広がる。

ガツンとくるキック、テンポ感別の味わい

 「SUN」のようなさりげなくも深いキックの気持ちよさもあれば、強烈なキックで心地よさを演出するものもある。そうした楽曲に注目しても面白い。今年グラミー賞を受賞したビリー・アイリッシュの「bad guy」のビートが特にわかりやすいかも。

【Billie Eilish - bad guy】

 この楽曲のキックは、力強いがどこか静けさを感じる低音で、耳に脳にズンズンとキックとベースが侵入してくるような味わいだ。大音量で聴けば重低音に圧倒されるし、小さな音量で聴いてもキックの存在感がクッキリ。この曲に関してはキックが“主役級のパート”と言っても過言ではないだろう。

 これくらいキックが前面に出ている楽曲のほかにも、キックが主役級のジャンルはたくさんある。例えば、ハウスやテクノ、HIP HOPやEDMなどが挙げられる。

 これらの音楽では特にキックの音へのこだわりがうかがえる。キックの音作りに何時間もかけることは珍しくないという。録音時に大きめの音で鳴るキックにイコライザーやコンプレッサー等をかけ、時にはレイヤー(別トラックで複数のキックを重ねる)など、様々な調整やエディットを施す。キックがいかに重要なパートだということを物語っている。

 先述の2曲は4つ打ちなので、このビート自体の詳細にも少し触れたい。4つ打ちは、70年代のディスコやソウルを起源としているという。そしてハウスやテクノなどのエレクトロミュージックで発達し、並行してロックやポップスでも使用され、EDMやベッドミュージックなど、現在でも世界中で幅広く活用されている。それくらい汎用性のあるビートだ。

 4つ打ちのテンポ(BPM)は、人間の平常時の心拍数の倍程度のBPM120〜130あたりが多く、速い拍を感じることで平常時より気分が高揚する“踊りやすいテンポ”といった感じだ。このへんに4つ打ちの気持ちよさの秘訣がありそうだ。トランスやロックの4つ打ちの場合はBPM140以上というのもある。これ以上のBPMの4つ打ちは“踊れる”を通り越してもう興奮してくる。そして、まったりと落ち着いたグルーヴを醸すBPMの4つ打ちもあったりと、幅広く使われている。ちなみに、DJ KOOは「最近のダンスミュージックはBPM128が多い」と、インタビューで語っていた。

 4つ打ち以外のビートでも、一度キック音にフォーカスしてその音自体の虜になると、どんな音楽のキックでも「ただのドンッという音」ではなく、多種多様なキックの味わい深さに浸れてとにかく楽しいのだ。

 最後に、個人的にチョイスした楽曲をプレイリストで紹介したい。キックが気持ちいい楽曲を洋楽邦楽、ジャンル、年代問わず10曲並べてみた。うちで過ごすことが増えた昨今、キックの音がカッコいい曲を探すというのもワクワク感が増して楽しみが広がるかもしれない。【平吉賢治】

【ブラウザで聴く】

【spotifyアプリで聴く】
spotify:playlist:63WPUGztLHumA4wrk62FQR

・「SUN」星野源
・「Pool」SIRUP
・「HEROISM」WONK
・「tell me」FPM, Benjamin Diamond
・「Revolution 909」ダフト・パンク(Daft Punk)
・「bad guy」ビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)
・「Mysterons」ポーティスヘッド(Portishead)
・「Idioteque」レディオヘッド(Radiohead)
・「Meeker Warm Energy」ローン(Lone)
・「T69 Collapse」エイフェックス・ツイン(Aphex Twin)

平吉賢治 東京都在住のライター。音楽専門学校卒業後、楽曲制作に携わる。5年前にライターとしての活動を始める。これまでに執筆したコラムのなかには、ヤフーのトピックスに掲出されたこともある。得意分野はロックやエレクトロミュージックなど。普段はギターや鍵盤を弾いていることもあって歌詞よりも音にフォーカスしがち。エレカシ宮本浩次氏や上杉昇氏をリスペクト。洋楽では90年代の作品が特に好き。

記事タグ