きみコ(Vo&Gt)とササキジュン(Gt)によるロックバンドのnano.RIPEが4月22日、シングル「ラストチャプター」をリリース。同曲は放送中のTVアニメ『食戟のソーマ 豪ノ皿』のOP主題歌として注目の楽曲で、ストリングスやピアノを前面に押し出したポップでキャッチーに仕上がった。きみコはアニメ『食戟のソーマ』のストーリーにバンドや自分自身のことを重ねながら作詞したと話す。きみコに制作エピソードやメジャーデビュー10年目を迎えての心境などを聞いた。【取材・撮影=榑林史章】

“ザ・nano.RIPE”という曲にしたくて

「ラストチャプター」ジャケ写

――「ラストチャプター」はTVアニメ『食戟のソーマ 豪ノ皿』のOP主題歌で、これまでアニメ『ソーマ』のシリーズでは3曲のED主題歌を手がけてきましたが、4曲目にして初めてのOP主題歌になりましたね。

 シリーズを通して繰り返し楽曲を頼んでいただけることだけでも嬉しいのに、今回は初めてのOP主題歌ですから純粋に嬉しいです!

――「ラストチャプター」は、すごくポップな楽曲という印象でした。

 これまでに作った『ソーマ』のED主題歌「スノードロップ」(2016年)や「虚虚実実」(2017年)などは、ストーリー展開的に(主人公の)ソーマたちがピンチだったりバチバチとしたバトルがメインだったので、ED主題歌だけれども激しい曲でとてもストーリーに合ったものになりました。今回は物語全体が終盤に向かって進むので、バチバチのシーンももちろんあるんですけど、それよりも未来が見える抱擁力がある感じの曲にしたいなと思って。

――物語的にはTHE BLUEという食戟バトルが開催されて、ヒロインの薙切えりなを巡る闘いもおこなわれますね。きみコさんは作詞の上で、どんなところがキーだと思いましたか?

 漫画の連載も終わって一つの答えが出たので、そこはちゃんと曲に落とし込みたいなと思って、そこで欠かせなかったのがえりなの危うさとその先にあるものです。えりなを救うためにはどうするか、そこでソーマが出した一つの答えをちゃんと歌おうと思って作詞をしました。

――ひとつの思いをずっと持ち続けたソーマですが、それはnano.RIPEがライブというものにこだわって結成から20年以上やってきたことと通じますね。

 だからまるで自分たちのことのようだなと思いながら、原作コミックを読ませていただいたんです。そこでソーマが最後に出してくれた答えは全然きれいごとじゃないものだったんですけど、それでも私にとって救いだと思えるものだったし、それは音楽にもすごく繋がると思って。ソーマからは本当にたくさんのことを教わったなと改めて思いました。

――歌詞では、これまでの歩みを肯定しながら先に進むことの強さを歌っています。<不細工な日々>や<何ひとつ掴めずに>という歌詞があって、これまでの歩みは決して平坦ではなかったことが伝わってきます。

 ソーマたちに感情移入できるのは、ソーマがとっても強い主人公じゃないからなんだと思います。ソーマも負けるし不味いご飯も作るし、ソーマの仲間たちもみんなどこかに危ういところや儚さを持っているのがリアルで、それが『食戟のソーマ』という作品の魅力になっていると感じます。負けた日もあったから今があるのは事実で、それなら否定する必要はないんだなって。外から見ると成功しているように見える人でも、きっとその何倍も苦しい思いをしている。本当に成功だけしてきた人はいないと思うので。

――バンドで勝ち負けを判断するのは難しいとは思いますが、nano.RIPEも負けた日がありましたか?

 いっぱいあります。今でも負けながら進んでいます。曲を作るという点では、毎回前の自分より成長できている実感があるんですけど、バンドとして常に昨日より良いライブができているかと言うと、悔しい思いをしたライブもあるし。

――作曲はギターのササキジュンさんで、nano.RIPEらしいと思えるキャッチーなサビメロが印象的でした。あえてそういう曲を意識したんでしょうか?

 今回は“ザ・nano.RIPE”という曲にしたくて。アニメ『食戟のソーマ』のOPテーマとしてもそのほうが合っていると思ったし、去年からの流れもあって。「ヨルガオ」をNHK『みんなのうた』に書き下ろして、「ローリエ」を高校野球関連のいくつかの番組でテーマソングとして使っていただいたのもあって、従来のファンやアニメファン以外の方にも聴いていただく機会がとても増えたんです。

 いろんな方に聴いていただくには、よりシンプルなほうが良いと思いました。あと私が思う良い曲は1回聴いて、鼻歌で歌えちゃうようなメロディがサビにある曲だと思っていて。例えばラジオからたまたま流れてきたり街中で流れてきて、耳に残るメロディは絶対に良いメロディだと思うんです。そういうキャッチーさが、この先nano.RIPEがもっと高いところに登りたいと思ったときに絶対必要だと思ってキャッチーさを意識しました。

――キャッチーさは大事ですよね。

nano.RIPE

 それに今の音楽シーンには難しいメロディの曲が増えていて、早口だったり高かったりボカロじゃなきゃ歌えないんじゃないかと思うような曲がいっぱいあるじゃないですか。それもすごく格好いいんですけど、nano.RIPEはアコギ一本でも美しいと思えるメロディの曲を作っていきたいので、その部分では原点回帰と言えると思います。

――アレンジの面ではストリングスが全面的に入っていて、それはキャッチーなメロディを引き立たせるためのものなんでしょうね。それにストリングスのボリュームが大きい気がしました。

 大きいと思います。『ソーマ』も最終章なので、それに合わせてよりドラマチックに仕上げていただきました。実はメロトロンとかいろいろな楽器の音も隠されていて、自分でもまだ気づけていない楽器がたくさんあるみたいです。

――アレンジャーの山下洋介さんとは今までも?

 今回初めてでした。前回のシングル「エンブレム」のときは出羽良彰さんにアレンジをお願いしたのですが、そのときも山下さんのお名前が挙がっていて、山下さんのアレンジはポップな手触りになるとお話をうかがっていたんです。それで今回はOP主題歌だし、先ほどお話した通りポップでキャッチーな曲にしたかったので山下さんにお願いしたら、とてもポップに仕上げてくださいました。

――山下さんは他にはどんなアーティストを手がけている人なんですか?

 アニソンや声優さんの曲、アイドル、あとMrs.GREEN APPLEさんの楽曲もたくさん手がけていてとても幅広いです。そこからもポップでキャッチーな楽曲が得意であることが分かりますし、もともと鍵盤を弾かれる方なのでピアノもたくさん入っていて、ギターが中心だったこれまでのnano.RIPEのサウンドの印象とは違うものになったと思います。

メジャーデビュー10年で気づいたこと

きみコ(撮影=榑林史章)

――個人的にはボーカルがいつになく肩の力が抜けたように感じました。

 これは最近覚えた技なんです(笑)。

――技なんですか!

 去年はアコースティックライブをたくさんやったんですけど、アコースティックライブではジュンがアコギを弾いて私は歌だけというスタイルで。バンド形式のライブではいつもギターを弾きながら歌っているから歌にすごく集中できた反面、自分の歌の悪いところが目に付くようになって。それで試行錯誤した結果、力を抜けば良い歌が歌えるということに今さら気づいたんです。

――決して弱く歌っているわけではなくて声量もあって、でも余計な力が入っていない。

 そうですね。結局力を入れて歌うと、私の歌になっちゃうんです。力を抜くともっと遠くまで飛ばせると言うか、聴いた人がより感情移入できる歌になるんじゃないかと。メジャーデビュー10年でようやく気づきました(笑)。

――今まで誰かにそういうアドバイスをもらったことはなかったんですか?

 今までもずっとレコーディングのときにエンジニアさんから「もっと力を抜いたほうが良い」と言われていたんですけど、ガッと力を入れて歌うことが感情を入れることだと思い込んでいて、アドバイスを聞き流してしまっていたんです。

――歌い方が変わったことで、ライブのときの変化もありましたか?

 ライブでも、昔よりだいぶ力が抜けているなと思います。手抜きではなく身体を楽にして歌うことでいろんなところに余裕が生まれて、声がより出るようになったりキーが上がったりしていると感じますね。

――力を抜くことによって表現の幅が広がったということですね。そういうことは、ボイストレーニングなどでも教わらないのでしょうか?

 実は生まれてこのかたボイトレには一度も行ったことがないんです。「メジャーデビューするときに通わされるんじゃないの?」って聞かれますけど、誰もそんなことを求めていないのか、通うように言われたことがなかったので。同じレーベルで仲の良いアーティストのChouChoが「今からボイトレです」とツイートしているのを見て、「ChouChoは行ってるんだ!」と思って。ランティスのアーティストでも行ってる人は行ってるみたいです。バンドのボーカルでも、勉強のために一時期通っていたという人はけっこういます。

――じゃあ行っておけばもっと早く気づけたかもしれないですね。

 私が頑固だったんです。それが「ラストチャプター」の<間違い続けた不細工な日々>という歌詞によく表れています(笑)。

――アニメ『ソーマ』の内容にもnano.RIPEというバンドにも当てはまると同時に、きみコさんの歌に対する向き合い方とも通じた歌詞になっているわけですね。

 そうですね。とくに最近は、今まではあまり言葉にできなかったこともしっかり歌にしようと思っていて、去年からライブでずっと歌っている「声鳴文」(未音源化)という曲では、初めて「君のために歌っている」ということを言葉にしたんです。

 今まではずっとライブのMCでも「自分のために歌っている」と言ってきたので、そうじゃないなと気づいても今まで言い続けてきたことと違ってしまうし、言葉にするのはどうなんだろう? と葛藤したんですが「声鳴文」で言葉にしたことで少し気持ちが楽になってよりちゃんと言葉で伝えたいと思うようになりました。そういう気持ちの葛藤や変化が、この歌詞には表れています。

――「声鳴文」は、ライブのときに「みんなと一緒に歌うために作った」と紹介していました。「ラストチャプター」の歌詞に出てくる<さよならひとりで歌うぼくよ>という歌詞はそういう歌うことの意味の広がりから出てきた言葉なんですね。

 過去の自分を否定するようになることは、怖かったしなかなか勇気が出ませんでした。でも、それを間違いだったと受け入れて歌詞にしたことで、気持ちがずっと楽になったし昔よりもひとりでやっているんじゃないということをより感じることができています。例えばnano.RIPEを続けるか終わらせるかで言うと、ジュンと二人で始めたことだから二人が終わらせたいと思えば終わらせて良いと思っていたけど、今はそうじゃないなと思っていて。これまでに携わってくれたメンバーを始め今のサポートメンバーを含め、たくさんの人が時間を費やして繋いでくれたバンドなので、自分たちがもういいやと思ったから辞めるというのは違うだろうと思っています。

――また、今回のシングルは1曲のみの収録ですがBlu-ray Discが付いていて、昨年のツアー『nano.RIPE TOUR 2018「きせきのつるぎ」』から新宿BLAZEのダイジェスト映像を収録しています。

 この日はファン投票で人気の高かった曲を演奏したのですが3時間で30曲という、とにかく長いライブだったので、みんなで乗り越えたなという気持ちで、終わったときには達成感がありました。ただ長くて大変だったと言うよりも、ずっと幸せだった気持ちが大きいです。そんな表情も見てくれたら嬉しいです。

――ライブ映像を付けようと考えた経緯は?

きみコ撮影=榑林史章

 サブスク解禁など昨今の流れでCDを買う人が減っていますが、それでもCDを買ってくれる人は本当にnano.RIPEのことが好きな人たちだと思うので。そういう人たちが喜んでくれるものは何か考えたら、nano.RIPEが2人編成になってからライブ映像作品をリリースしていなかったので、これが良いんじゃないかと。もちろんサブスクは私も使っていますし、辿っていった先で新しく好きなものが見つかったりするので便利だし。その一方CDの価値を考えると、こういう付加価値が必要になっていく。きっとCDはグッズ化していくんじゃないかっていう気がしています。ライブのTシャツやタオルのようなものになるんじゃないかって。

――今後もアニメのテーマソングなど作っていかれると思いますが、今年はどんな曲を作りたいですか?

 去年高校野球の番組のテーマソングを作ったので、まだ分からないですけど、高校野球をテーマにした曲は勝手に作ろうと思っています(笑)。

――勝手にと言えば、昨年のツアー『nano.RIPE TOUR 2019「せかいじゅのはな」』でファイナルのゲストに声優の愛美さんを迎えて、愛美さんをテーマに勝手に作った曲を披露していましたね。

 あの曲はすごく評判が良くて、ぜひ何かに使って欲しいです(笑)。こういう誰かをイメージした曲を勝手に作るのは作り手としてとても面白かったので、どんどんやって行こうかなって思いますね。それもこれまでタイアップ曲をたくさんやってきたからこそできることなんじゃないかなって思います。勝手にシリーズで今後どんな曲が生まれるか楽しみにしていてください。

(おわり)

作品情報

nano.RIPE
22th Single「ラストチャプター」
4月22日発売
CD+Blu-ray Disc/LACM-14995/2000円 (tax out)

《CD収録内容》
Disc1
01.ラストチャプター
(TVアニメ「食戟のソーマ 豪ノ皿」OP主題歌)

《BD収録内容》
nano.RIPE TOUR 2018「きせきのつるぎ」
新宿BLAZE ダイジェスト映像

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