ロンドン在住ポップシンガーのRina Sawayamaが4月17日、初のフルアルバム『SAWAYAMA』を、The 1975擁するUKの名門レーベルDitty Hitから配信リリースする。新潟で生まれ、4歳でロンドンに移住。その後ケンブリッジ大学を卒業してから、アーティストとしての活動を本格化。海外メディアThe FADERで「2017年の知っておくべきアーティスト」やDAZED「次世代を担う100人」に選出されるなどすでに頭角を現している。日本でも昨年「VOGUE JAPAN Women of the Year 2019」に選出されるなど世界中から注目が集まるポップアイコン。待望のフルアルバムのコンセプトは「家族とアイデンティティ」。Rina Sawayamaは自らの運命とどの様に向き合って来たのだろうか。彼女に電話インタビューをおこない、本作やこれまでの経験、日本の音楽などについて聞いた。【取材=小池直也】

スペシャルな経験だった『情熱大陸』

Rina Sawayama

――コロナ騒動で世界が揺れていますが、そちらは大丈夫ですか?

 イギリスでは2人以上での集会を避け、食品を買うとき以外は外出しないようにと呼びかけられています。クレイジーな毎日です。ツアーも延期になってしまいましたが、みんな同じ状況なので仕方がないですね。9月頃までには収束していてほしいです。

――昨年TBS系ドキュメンタリー番組『情熱大陸』にも出演されていましたが、放送されてからの反応はどうでしょう。

 子どもの頃から知っている番組でしたが、放送されるまで自分が出演するというリアリティがありませんでした。放送後は日本からフォロワーやファンがどっと増えましたね。番組のなかでは社会的な話にも踏み込みましたが、ポジティブな反応ばかりで嬉しかったです。

 今回は2カ月ほど撮影してもらいました。親戚も放送を観てくれたんですが、特に祖父母はあれで自分がどういうことをしているのかを理解してくれたと思います。とてもスペシャルな経験でしたね。

――Rinaさんは影響を受けた日本のアルバムとして、宇多田ヒカルさんの『First Love』と椎名林檎さんの『勝訴ストリップ』を挙げていますね。

 宇多田さんの「Automatic」がリリースされたときに私は8歳くらいでしたが、彼女の登場は音楽シーンにとって重要だったと思います。安室奈美恵さんも大きな存在ですが、日本の文化的・音楽的なレベルを上げたのは宇多田さんだったのではないでしょうか。初期のアルバム『First Love』、『Distance』、『DEEP RIVER』は聴きまくっていました。

 椎名さんは日本で育った義理の姉から勧められたんです。すごく生っぽい音だし、日本の女性が怒りを表現していることが新鮮でした。それでいてソングライティングは美しく、ジャズロックなサウンドが実験的で。家族旅行に行くと姉が椎名さん、私は宇多田さん、父はサザンオールスターズさんをよくかけてました。最近の日本の音楽はわからないですけど、子どもの頃はそれらを聴いていたんです。

――『First Love』と『勝訴ストリップ』で一番好きな曲はありますか?

 うーん、『First Love』ではないですが宇多田さんは「Addicted To You」が美しいですね。『勝訴ストリップ』は「浴室」が大好き。

 ちなみに宇多田さんは私のライブを観に来てくれて、実際にお会いしました。もう嬉しくて死にましたよ(笑)。セキュリティが厳しく、彼女を待たせてしまったのが残念でしたが「あなたのことが大好き」って言ってもらえて良かった。いつか椎名さんにもお会いしたいです。

遺伝するのは髪の色や目の色だけじゃない

Rina Sawayama

――アルバム『SAWAYAMA』は「家族とアイデンティティ」をテーマにされているそうですが、これについて詳しく教えてください。

 2年前から制作を始めました。特に「Dynasty」は今までで最もパーソナルな曲になっています。この曲を書いたことでアルバムの方向性が決まったと言えるかもしれません。また素晴らしい作曲家とコラボレーションできたことも重要で、自分の持っている個人的なビジョンを形にする手助けになりました。思い出やトラウマ、痛みを具現化できたのは彼らのおかげです。何においても「誰と制作するか」が大事。それによって前作の頃に比べてソングライティングが上手くなったと思います。

――「Dynasty」は一番時間のかかった曲だとYouTube動画「RINA TV」でも語られていました。この曲への思い入れを聞きたいです。

 アルバム全体がひとつのエッセイだとしたら、この曲はタイトルになると思います。ここで歌っているのは基本的に親から子へ継承される「痛み」について。人が抱えている問題は直視し解決しないと、子どもに継承され連鎖していく。それを断ち切ろう、という内容なんです。歌詞では「hereditary(遺伝)」という言葉を使っていますが、遺伝するのは髪の色や目の色だけじゃない。私自身も両親が心の苦しみやトラウマを受け継いでいると思いますから。

――それは日常で浮かんだ考えですか? それとも大学などで学んだアカデミックな知識から着想したもの?

 両方ですかね。若い時からセラピーやカウンセリングを受けていたのですが、それは人間の行動を理解するためでした。もしかしたら大学での勉強よりもセラピーの方が自分自身を理解することにつながったかもしれません。両親の離婚という経験もありつつ、心の構造を理解する試みが作品作りにつながった気がしますね。

 別れる前から両親はケンカが多く、私は彼らの感情の対象でした。お互いのことを悪く言うし、同じ出来事に対してそれぞれが違う見解を持っているから、こちらも混乱してしまうんですね。それで、だんだんと“自分の考える自分”よりも“両親の感情としての自分”が大きくなり、「自分自身の意見って何だろう?」と考えるようになってしまったんですよ。でも今作で「自分が何を言いたいのか?」をリセットできたと思います。

――「Akasaka Sad」は東京-ロンドン間の距離と複雑な心境が描かれていますね。

 「Akasaka Sad」は赤坂のあるホテルに泊まった時にインスピレーションが湧いてきたんですよ。私の母は新潟、父は東京出身です。新潟はのどかで美しい場所、東京は同じ日本人がたくさんいるので馴染みやすい場所というイメージ。でも、どことなく違和感があって「やっぱり外国人なんだ」というアウェイな気持ちになってしまう。東京にいればハッピーだと思い込んでたけど、結局そうじゃなかった。

 アイデンティティや抱える問題は場所じゃなくて常に自分に付きまとう。それは先ほどの「Dynasty」の「痛み」という部分と共通しますね。だから家族に会うと嬉しいですが、同時に大変だった時期の記憶も思い出すんです。だからサウンド的にもヒッチコックみたいな、違和感のある音を目指しました。

クソみたいな音楽は出したくない

――それから「Bad Friend」はEDM的なドロップセクションが来るかと思いきや、クールに過ぎ去る展開が印象的です。この意図についても聞かせてください。

 この曲を作る前、久しぶりにフェイスブックにログインして大学時代の親友が出産していたことを知りました。彼女は一緒に日本を旅行して、クレイジーな時を過ごした大事な友達だったんです。でも妊娠していたことさえ知らされなかった、その時の気持ちを楽曲で表現しました。自分とボコーダーだけのメロディは落ちていく悲しみを表現しています。

 サウンドのプロダクションも複雑なんですよ。関わっていた3人のプロデューサーからLogic(音楽制作ソフト)の全トラックを送ってもらって、それをエンジニアと自分とで解体し再構築しました。さらにサビの部分もレコーディングし直しています。聴いた感じは分からないかもしれませんが、シンプルなものほど難しい。逆にシンプルすぎても面白くないですしね。だからこそ一番誇りに思える曲でもあります。

――「Comme des Garcons (Like The Boys)」もそうですが、Rinaさんの制作は音楽/言葉/視覚が関係しあって成立しているものが多いですね。

 そうです。私はトータル制作が好きなんですよ。私のクリエイティブチームは素晴らしく、コンセプトをちゃんと理解して取り組んでくれるので、恵まれているなと感じます。

 あと私は編集ソフトを使えないので、今までプロデューサーを自称できませんでした。でも新作に関しては「自分がプロデュースした」と自信を持って言えます。全てのセッションにも参加して意見を伝えましたし、サウンド面でも自分なりにディレクションできましたから。

――他に制作においてのこだわりなどがあれば教えてください。

 革新的で良質なソングライティングを心がけています。私は意味のないことが好きじゃないんですよ。最近はストリーミングで音楽を聴く人が多いので、良いもの悪いものも溢れているじゃないですか。だからこそ、とにかく意味のあるものを作っていくことです。良い歌詞と良いメロディ。リスナーが聴くたびに新しいことを感じとってくれたり、新しい意味合いを見つけてくれたら嬉しいです。

――Rinaさんは音楽だけに留まらず、社会的にも意義深い発言をされています。自分の活動に何か使命感の様なものがあるのでしょうか?

 欧米に住んでいる自分には責任があると思ってます。こちらで活躍しているアジア系アーティストはまだまだ少ないですから、その代表としてクソみたいな音楽は出したくない。そして社会に対して正しい方向性を示していければと考えています。

 自分自身の生み出すものに意義を見出すことができれば、他の人が気に入らなかったとしても大丈夫。そういう使命感を持つのが日本人ぽいのかもしれません。でもシンプルに自分の作品を誇りに思いたいんです。

(おわり)

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