KICK THE CAN CREWのLITTLEが3月1日、デジタル配信シングル「八王子少年〜春よ、来い〜feat.RYOJI」を自身主宰の新レーベル「JIMOTO RECORDS」からリリース。松任谷由実の「春よ、来い」をカバーアレンジし、フィーチャリングにケツメイシのRYOJIが参加。2019年に亡くなった父への想いを込めて作り上げ、今までとは趣の異なった1曲に仕上がった。インタビューでは今作の制作背景に迫るとともに、愛韻家協会を立ち上げ、ラッパーではなくライマーへと肩書きを変えたLITTLEに話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】

「春よ、来い」でラップをしたいというところから始まった

LITTLE

――お父さんが亡くなって、この曲を制作されたとのことですね。

 この曲を作っている時に父親が亡くなって、楽曲の方向性がガラッと変わったんです。

――最初はどのようなコンセプトで書こうと思われていたのでしょうか。

 もともとは「春よ、来い」でラップをしたいというところから始まりました。去年の春に着手していて、2020年の春に向けて今の気持ちを書こうと歌詞を考えていて。歌をどうするのかというのも、その時はまだ決まっていなかったと思います。

――どのようなところを意識して歌詞を書かれたのでしょうか。

 まず、歌詞として成り立つようにと、自分の感情に誤解のないように伝えたいというのがありました。そこが作っている時から気にしていた部分で、父親に向けて<歌にするよ そっち届いてたらいいな >と歌詞で言っていますけど、実際届いたらどう思うかなとか。具体的にいうと僕が父に話す時の話し方のニュアンスなども思い出しながら書いていきました。

――リアルな部分ですね。

 歌詞というよりは手紙の要素が強いのかもしれません。エピソードを羅列するようなラップというのもあるんですけど、今回は僕の想いを綴った部分が大きいです。

――両親に感謝する歌詞は今まで敬遠してきたとのことですが、なぜ両親に感謝するラップが世の中には多いのかと改めて疑問に思いました。

 コミュニティを大事にしているので、無意識にそれは家族に向かっていくんじゃないかなと思います。基本的にラップは自分の話をするジャンルでもあるので、自分のルーツである家族に向かうことは自然なんです。おそらく妄想で書くようなスタイルの音楽だったら、あまり家族の話は出さないと思うんですけど。USでも2パックとか有名なアーティストも家族の事を歌っていますし。

――私の中では割と日本ならではのスタイルなのかなと思っていました。

 全然そんな事ないんです。むしろ、日本人だから家族の事を歌うことに「また家族のことを歌っているよ」と、茶化している人も中にはいますからね。海外ではそんな風に茶化す人はいないと思うんです。おそらくヒップホップをストリート感の中で見ているから、熱いことや本気の事を言うと、違和感を感じる方たちなんじゃないかなと。ヒップホップはもっとコンシャスな音楽だと思います。

――LITTLEさんは世には出ていないけれど、これまでに家族の感謝をテーマにした歌にチャレンジしようと思ったことはあったのでしょうか。

 それすらなかったんです。今回もここまで父に向けた曲になるとも思っていなくて、物語として少しは触れなければいけないなと思っていた程度で。結果的に違うところに入れ込めるようなストーリーではなかったので、思い切って舵を切りました。

――この曲を聴いて私は親孝行したいと思わせてくれました。

 割と僕は実家の近所に引っ越して、自分の中では親孝行したと思っていたんです(笑)。自分の成長した表情で、「ほら立派になっただろう」って。

――最後の<大人になる>という言葉にその想いも入っている気がします。ちなみにミュージシャン、アーティストになることに関してはご両親は賛成だったんですか。

 そうですね。でも、ラップに関しては理解はしていなかったと思いますよ。KICK THE CAN CREWで良い感じに盛り上がっていった時に、父が自慢気に「俺は音楽の成績は良かったんだ」と友達に話しているのを見ていたんですけど、僕の中では「音楽の成績とラップは関係ないぞ」と思って冷ややかに見ていたんですけど(笑)。

――そうなんですか。

 だって自分は音楽の通知表、中学1年から中学3年までずっと1しか取ったことないんですよ。最初から最後まで「1」だった科目は音楽だけ(笑)。音楽は好きだったので、ラップがあって本当に良かったです。

――中学生の時からラップはもう聴かれていたんですか。

 その時はスチャダラパーとかは聴いていましたけど、それまではバンドブームの時だったので、バンド系の曲をよく聴いていました。小学校の時の写真でレピッシュのマグミさんが『WHAT's IN?』という雑誌でスカーフを首に巻いていたんですけど、僕も真似して同じようなのを買いに行って巻いてました。今見ると『仮面ライダー』みたいな感じで(笑)。当時はインディーズの音楽も流行っていたのでよく聴いていました。

――そこからラップ、ヒップホップに出会って今のLITTLEさんがいるわけですね。そういえばヒップホップ自体の歴史はそんなに長くないんですよね。

 ラップ自体は結構昔からあると思うんだけど、ヒップホップというジャンルはそんなに長くないと思いますよ。USも日本もそんなに歴史は変わらないと思います。

声色をすごく意識してレコーディングに臨んだ

「八王子少年〜春よ、来い〜feat.RYOJI」ジャケ写

――さて、「春よ、来い」は松任谷由実さんの楽曲ですが、リリース当時によく聴いていた曲だったりしますか。

 意識的に聴いていたかどうかは覚えていないんですけど、テレビや街でも流れていたので耳にはしていました。

――LITTLEさんのご実家が松任谷由実さんのご実家とも近いとのことですが。

 そうそう。ユーミンさんの曲は、「春よ、来い」じゃないですけど毎日、防災(無線)の音楽として街で流れていたんです。おそらく八王子全域で流れていたと思うんですけど。冬になると近所の商店街では「恋人がサンタクロース」が流れたりしてましたから。

――地元ならではの防災音楽ですね。この「八王子少年〜春よ、来い〜feat.RYOJI」はどのように皆さんに聴いてもらいたいなどありますか。

 それはよく考えるんです。届けるところまで想像して作ることが多いんですけど、今回は初めて考えなかった曲なんです。敢えてしなかったといいますか。それをしてしまうと手紙としての意味が違ってしまうと思ったんです。一応ラップとして単純にカッコいいフレーズとかも考えたんですけど、必然的になくなっていきましたから。それがすごく難しかった、簡単ではなかった部分です。

――感情を自然体で届けたいという思いが大きかったんですね。レコーディングはいかがでしたか。

 声色をすごく意識してレコーディングに臨みました。普段はその時に出た声でやっているんですけど、今作は普段考えないことを沢山考えました。だからといってこのスタイルをこの先徴収していくわけではないんです。この曲だからというのが大きくて特別な作り方をした曲なんです。
 
――RYOJIさんにはどのような歌を求めていましたか。

 彼が八王子出身というのもあるんですけど、もう彼の歌がこの曲には合うと思っていました。声の雰囲気やその奥にあるものですね。出来上がったものはそのイメージを超えるものになりました。

――ディレクションはご自身で?

 RYOJIくんも僕も基本的に自分で決めます。でも、僕の場合は一応人の意見も聞きたいので投げかけますけど。自分で良いと思ったもので決めていくのも大事なんですけど、第3者の意見もすごく大事なので。よくレコーディングでも、こだわりが伝わらない事があるんです。歌詞で「てにをは」をすごく気にしたりする人もいるんですけど、そこはそんなに重要じゃなかったり。でも、作っている時にすごく細かく作っていて、それこそ「てにをは」やニュアンスもすごく気にするんです。そこを抜けたらもう楽しい時間という感じなんです。

ラッパーからライマーへ

LITTLE

――若い世代のラッパーが沢山出てきていますが、LITTLEさんはどのような印象を持たれていますか。

 シンプルにすごいなぁって。ヒップホップは常にアップデートしていくジャンルだと思うし、いつも違うんです。特に若者はいつの時代も違う感性を持っているので、新しいなと思います。

――以前と比べて一番変化が大きいところはどこだと思いますか。

 自由度が全然変わってきています。変わったというより、新たなルールがあってこうなったというわけでもなく。それもあって、「あんなのヒップホップじゃない」という人も出てくるんですけど。ロックみたいにもう精神性の部分が強いんです。

――LITTLEさんが今注目している若手ラッパーはいますか。

 曲として聴いたことはないんですけど、『フリースタイルダンジョン(テレビ朝日)』に出ている韻マンのラップが面白いなと思いました。

――昨年はTHE ORAL CIGARETTESのライブにKICK THE CAN CREWで対バンされていましたが、若手ロックバンドとの共演はどうでしたか。

 僕らがやり始めた時も、対バンにヒップホップのグループはいなかったので、割と自然なことでした。異文化交流ですけど、今の若い方達はラップにも壁がないので、距離はすごく近いと思います。

――ボーカルの山中拓也さんが「NO RESPECT」と印字されたシャツを着て、楽屋に挨拶に行ったエピソードも面白かったです。

 あれはKREVAが真っ先に見つけて突っ込んでましたね。シャツの英字を無視しないタイプで(笑)。

――気軽に英字のシャツも着れないですね(笑)。世間にはよく見るとちょっと危ないものもありますよね?

 僕は割とそれは愛嬌だと思うので良いと思います。外国の方が間違った日本語を使ってるのも愛嬌があって良いなと思いますから。

――確かに憎めないですよね。さて、LITTLEさんは愛韻家協会というものを立ち上げられましたが、どういった経緯だったのでしょうか。

 最近、韻を踏むことがあまり良いとされていない空気感があって。自分がラップをやっていても、韻を踏んでいて「いいね」と言われている時代はそんなになかったんですよ。それ自体がダサいと言われたり。その中で数少ない知り合いの中で「あの韻が良かった」とか話していて。

――意外でした。ラップは韻を踏むのが普通だと思っていたので。

 そこが好きな人も、自分を含めて何人かはいて、話してる中で今年一番良かった韻に「賞金を送りたいぐらいだよ」って話していて。それでアワードをやりたくて、ここまで形にするのに3〜4年くらいかかってるかな。

――賞したいというところなんですね。

 そこに価値を生み出すとかではなくて、純粋に好きだという気持ちが強いです。なので、愛韻、愛でるということになりました。沢山の人に「いいね」と言ってもらいたいし、気持ちが欲しいから、クラウド・ファンディングで募って。

――そうだったんですね。肩書きがラッパーからライマーへ変わりましたが、なぜ変えられたのでしょうか。

 ヒップホップらしくあるために韻を踏まない、カッコいいラップをするためにライムを手頃にする事よりも、自分はライムありきでラップをしているなと思って。ラップをしたいから韻を踏んでいるわけではなくて、ライムをカッコよく響かせるためにラップをしていると思ったので、ライマーに変えたという経緯があるんです。

――一般的な考えから逆転して。

 そうそう。ヒップホップであまり韻が必要ないなら、こっちはこっちでやるよ、と始めたことなのに、それをやればやるほど、面白いことにどんどんヒップホップになっていくんですけど。最近はそんな風に感じています。愛韻家協会は本当に好きな人たちで楽しくやれれば良いなと思っています。その中で自分の歌詞を楽しんでもらえるようになったら、それは嬉しいですけど。

――最後にこれからの展望をお聞きしたいです。

 今回、1曲出したらアルバムも出したいなと思えました。これからも制作を続けて、大切な楽曲を作って届けていきたいと思うので、期待して待っていてください。

(おわり)

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