良い形でリミッターを常に外せるような人間になりたい

阿部真央

――続いてはアルバム表題曲である「まだいけます」ですが、これは11周年、まだいけますという決意表明ではなかったんですよね?

 それは曲が完成してからの後付けでした。もともとこの曲は男女の関係性の話なんです。平仮名6文字で「まだいけます」というと意味に縛りがない、とにかくまだいけるから、終わらせない、終わらせたくないという気持ちにフォーカスしました。あとストーリー性ではなくて、センテンスごとの気持ち良さを重視しました。

――一つのテーマで終わらず、色々な取り方が出来る楽曲に仕上がりましたね。レコーディングはいかがでした。

 この曲は難しかったんです。先程お話しした子音の問題があって、歌いたいタイミングで歌えない、もうワンテンポ早く歌いたいのに、遅くなってしまって何回も細かくやり直しました。「お前が求める私なんか全部壊してやる」の方が一見シビアそうに聴こえるんですけど、言葉の余白が残っている「まだいけます」みたいな曲の方が置き所が決まっているので難しいんです。あと、最後のところはすごく音が高いんですけど、ここも何回もチャレンジしました。この高さで行きたいけど、そこじゃない、それが自分の中に明確に決まっているので、そこに近づけるために何十回も歌いました。

――すごく微妙なところなんですね。Auto-Tuneようなピッチ補正は使わないんですか。ニュアンスがよければ、そちらを優先して補正を使う方もいると聞いたことがありまして。

 それ私キライ(笑)。基本エディットには頼らないように歌っているんです。ちょっとスポ根的なところが私にはあって。やっぱり直すのは悔しいじゃないですか。なので納得が行くまで何度も録り直すスタイルなんです。

――ロックですね! さて、5曲目の「pharmacy」ですが、あまり私の中では馴染みのない言葉なのですが。

 この言葉は昔やっていたアニメ『ふしぎ魔法ファンファンファーマシィー』というのがあって、その時に知っていたんです。それで1番のBメロで「旅に出なよ魂 腕の中はpharmacy」という歌詞を思いついて、すごく綺麗に韻が踏めたと思って。「どうしますか、あなたなら」がドラマ『これは経費で落ちません!』の主題歌なんですけど、この曲はその時に候補曲として一緒に提出していた曲なんです。

 原作は小説なんですけど、そのストーリーに沿った作り方をして、「どうしますか、あなたなら」が主人公の森若沙名子目線で、「pharmacy」は主人公に恋をする男の子、山田太陽の目線で書きました。この2曲は対になっています。

――さて、続いての「どうにもなっちゃいけない貴方とどうにかなりたい夜」なんですけど、阿部さんは“貴方”と表記する事が多いのですが、これはなぜですか。

 この曲は恋の歌でフィクションなんですけど、私は恋愛をするとつくしてしまう、敬うタイプなんです。年齢も自分より歳上の人が好みで、人生の先輩が多いんです。それもあって敬意を払った貴方を使っています。でも、オーディエンスのことや恋仲ではない人を表す時はあなたと使い分けていて。

 この曲が出来たのはお皿を洗っている時なんですけど、何カ月か前に男性とお話しする機会があって、その時にこの人は私に触りたいんだろうなと感じて…。今私は母親なので、恋もしていなかったですし、それを感じたとき、私は女性なんだなと改めて思って。異性というのを再認識した瞬間で、そういったときめきをくれるというのは良いよね、と思いました。そこから何カ月か経って「どうにもなっちゃいけない貴方とどうにかなりたい夜は」というメロディと歌詞が同時に出てきて、これはなんだろうと。

――分析が始まったわけですね。

 そうなんです。自分を掘っていく作業、出てきたものに対して、自分は何なのかと考えました。それで何カ月か前にあったあの気持ちがベースになっているのかなと。私とそういう仲になってはいけないけれど、あなたが私に触りたいという気持ちは知っていた、そこから触れられて止まらなくなってしまった、そんな歌にしようと思いました。

――そこから想像力が膨らんで一曲に仕上がって。リアルとフィクションが上手く融合した一曲なんですね。

 「今夜は眠るまで」もそうなんですけど、フィクションは昔に比べると増えました。リアルだけだと書けなくなってくるんです。

――そういえば制作中に好きな人が出来て、そこから生まれた曲もあるとお聞きしたのですが、それが「どうにもなっちゃいけない貴方とどうにかなりたい夜」ですか。

 その後に好きな人が出来て作った曲は「おもしろい彼氏」です。もうその人はいないんですけど。歌詞で<ちゃんと看取るね>や<死ぬまで側にいて>と言っているんですけど、もうその人とはお別れしていて。曲というのは自由だなと思いました。

――歌詞も<キスしたまま喋って>とおもしろい表現ですよね。さて、続いての「テンション」は独特な雰囲気もあり、歌詞にもパンチがあります。

 曲自体は弾き語りツアーが終わった後に完成した1曲です。歌詞にある<私の売りは孤独>というフレーズがすごく気に入っていて、最後もその言葉で締めています。私が歌うのにピッタリだなと思いました。私のバックグラウンドを知っている人が聴いたら、しっくりくると思うんです。

――私の売りは孤独という言葉が気に入っていたのに、なぜタイトルは「テンション」になったんですか。

 タイトルは悩んだんですけど、これも感覚です。歌詞に出てくる<ロンリーガール>は過去に作った「ロンリー」という曲があるし、<私の売りは孤独>というのはちょっと場末な感じもするし…。テンションという言葉もここにハマる良い言葉はないかなと苦肉の策で出した言葉でした。テンションの正確な意味は張り詰めた状態、緊張状態で、あまり良い意味合いの言葉ではないんです。私の中では弾いてしまったら死んでしまうくらいのイメージなんです。それで、これ良いかもと思ってタイトルにしたんです。

――タイトルは割と直感なんですね。

 今作は特にそうでした。目で見て印象に残る字面というのがあると思っていて、アルバムのタイトルもそうですし、6文字ぐらいだと読まずに目で見ただけで判断できると思っていて。それは結構考えているかも知れないです。ロゴ的な感覚なんです。

――最後に3月14日から始まる全国ツアー『阿部真央らいぶ No.9』への意気込みをお願いします。

 このアルバムを引っさげてのツアーです。ここからはリミッターを自由自在に、最終的に良い形で常に外せるような人間になりたいんです。それはライブに限らず、人を不快にさせない事が前提なんですけど。それを始められそうな最初のツアーでまだまだ成長させてもらえるツアーになると思います。2020年はそういう人生にしていきたい。高い志を持って挑むツアーでとても楽しみなので、今の私を観に来てほしいです。

(おわり)

記事タグ

関連記事は下にスクロールすると見られます。