SEEDAのアルバム『花と雨』を原案とし、笠松将が主演を務める映画『花と雨』が公開中。メガホンを取った映像ディレクター・土屋貴史氏はCMなど数多くの受賞歴を持ち、過去にPerfumeやゆず、BjorkなどのMVを手掛けた。本作は自身初の長編映画での監督作となる。感情の起伏が主人公・吉田にぴったりだった笠松への印象や撮影秘話などを聞いた。【取材・撮影=木村武雄】

ぴったりだった笠松の起伏

――アルバム『花と雨』を原案した作品ですが、撮るにあたって意識した点は?

 アルバム自体がご本人の自伝なので、そこを膨らませていきたいと思いました。本人に起きたことを歌詞にされているので生々しさというか、大声で芝居したり、劇のような芝居でもないリアリティさを意識しました。例えばカメラもフィックス(固定)しないで動かして撮ったらより生々しく見えるだろうなと。

――物語の終盤に出てくるお姉さんの部屋のシーンのカメラアングルは印象的でした。吉田の視点から俯瞰になるという。

 あれはお姉さんの視点というか、天から見た視点でもあって。あのシーンがキーでもあるので、わざと吉田から離れるカメラワークも入れてみました。

――笠松さんを主人公の吉田に選んだ理由は?

 オーディションに何人か来てもらいました。そもそも笠松さんはメインキャストとして受けに来ていなくて、でも見た一瞬でこの人めちゃくちゃいいなと思って。それで、無駄に時間を使わせても申し訳ないから気を使って「十分です。いいですよ」と早めに切り上げようとしたら、笠松さんが激怒して「ふざけんな!」と言って帰っちゃった(笑)。めちゃくちゃだなと思ったんですけど、主人公の吉田というキャラクターとまったく一緒だし、活かせるなと思って。もちろんその出来事だけが起用のきっかけではなくて、お芝居も圧倒的にうまい。それで彼を選んだんですけど、まさかそんなことをする人はいないですよね(笑)。

――なかなかですね(笑)。撮影中はどうでしたか?

 撮影中もめちゃくちゃな人でした(笑)。感情の起伏も激しい。でもすごく熱心。ご自身の考えは常に伝えてくるし、「演出的にはこうして欲しいので感情的に表現しなくてもいいよ」と伝えても「僕はそう思わない」と。そういうのは結構あって。その一方でとても素直な人で腑に落ちると「さっきはすみませんでした」と。面白い方です(笑)。

――役者さんに求めたものはありましたか? コミュニケーションを密に取れとか?

 それは役者さん同士でやっていたと思いますが、特に岡本(智札)さんと笠松さんは同じ事務所で同期ぐらい、劇中でも同じような間柄でしたから。それと、役者さんには日常会話のようにお芝居をして欲しくて、本読みの時も2倍ぐらい早回しでやってもらいました。お芝居がかったセリフやしゃべり方はなるべくやらない方がいいと思したので、それは先に伝えました。でも皆さん、お芝居がうまいので現場で「ああしてくれ、こうしてくれ」というのはそんなになくて。事前にインプットできる機会があったのでそこが良かったと思います。

――撮影中にこの人が輝きだしたとか、良い意味で変化したという“現場マジック”みたいなものはありましたか?

 変化したことはなかったですかね(笑)。吉田の姉を演じた大西(礼芳)さんは撮影中もずっと素晴らしいなと思いましたし。演出的にピークにしたいなと思ったのが、吉田(笠松)がお姉さんの部屋に行って泣いてしまうシーン。そこに関してはマジックがあったと思います。彼自身泣くつもりはなかったと言っていましたので。それが撮れたのは面白いと思います。僕も別の部屋でプレビューしていましたが、自分も泣きそうになるぐらいでしたから。

――音のはめ込みはどのようにされましたか?

 それはSEEDAさんがやられていて、編集に合わせて音はめして下さいました。この尺でこういうトーンの音を付けてくださいとお話してSEEDAさんも受け止めてくれました。

――そのSEEDAさん、映画を通して感じた人間性みたいなものはありましたか?

 一言では言い表せないですね、複雑ですから。ただ、本当にアルバム通りの人。その点はすごく面白いです。

――改めて視聴者に伝えるなら?

 正直、不親切な映画だと思います。セリフで説明していないし、分からないところも多いので。でもそれで良くて、映画の見方として本人の繊細な感情だけ見つめていくと面白かなと思います。見せたいのは感情のゆらめきだけ。そこがポイント。用語的なものや業界的に分かりづらいところもあると思うけど、そういう所も見てほしいですね。

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