クラシック・サクソフォン奏者の上野耕平が21日、4thアルバム『アドルフに告ぐII』をリリース。27歳で4枚のソロ作品のリリースはクラシック・サクソフォン奏者としては異例のスピード。今作は2014年10月にリリースしたデビュー作『アドルフに告ぐ』の続編という位置づけになっており、意欲的な新曲も収録。特に和太鼓奏者・林英哲とのコラボレーションは、サクソフォンの新しい地平を開いたと言えるだろう。インタビューでは挑戦的な作品内容だけでなく、音楽観や吹奏楽教育についても彼らしい持論を聞くことができた。【取材=小池直也】

作曲家の実験台にされている感はある

『アドルフに告ぐII』ジャケ写

――今作は1stアルバムの続編となっておりますが、これにはどのような意図が?

 タイトルの「アドルフに告ぐ」のアドルフはサクソフォンの発明者アドルフ・サックスからとったものです。このアルバムは発明者である彼とリスナーのみなさんにサクソフォンという楽器の素晴らしさを改めて知っていただきたい」という願いを込めて制作しました。収録曲も「サクソフォンのために書かれたオリジナル曲」という括りになっています。なかでも「ソプラノ・サクソフォンとピアノのためのソナタ エクスタシス」と「ブエノ ウエノ」は僕のために書かれた曲、委嘱作品になります。

――クラシカル・サクソフォンの新曲というと、いわゆる現代曲で難解な作品が多いイメージがありますが、今作は割とメロディアスでロマンティックな要素が強いと感じました。

 現代曲の中にはとても実験的な楽曲がありますが、僕自身、今は何回でも繰り返し聴きたくなるような楽曲に魅力を感じています。そして未来に残していけるものを作っていきたいと思っています。

 例えば「サイバーバード協奏曲」(作曲:吉松隆/1994年)の様な名曲を作曲家とのコラボレーションで生み出していきたいと思っています

――「サイバーバード協奏曲」は上野さんの師匠でもある須川展也氏が吉松氏を寿司屋で「サクソフォンの新曲を書いてほしい」と口説いた、という逸話がありますね。

 その後、須川先生は酔って机の下で寝ちゃったらしいですね(笑)。

――気になっているファンも多いと思うので、サクソフォンのセッティングについて教えてください。『アドルフに告ぐII』のアートワークを見ると、楽器のネック部分に見慣れないパーツが付いていますが、これは?

 これはリーフレックといいます。マウスピースの振動をネックのコルクを介さず、直接的に伝えるためのパーツなんです。びっくりするほど音が変わります。特に低音域がぜんぜん違います。

 マウスピースはセルマーのS90の180、リガチャー(留め金)はハリソンの復刻版、リードはバンドーレンの青箱3半なので普通ですね。あと「柴ネジ」というネジを使っています。セッティングは常に「より楽器がつながる様に」、「色々な音色を出せる様に」ということを考えています。楽器は中学校時代からヤマハを使っていています。

――楽器の名称はクラシック奏者は「サクソフォン」、ジャズの人は「サキソフォン」と呼ぶイメージがあります。

上野耕平

 僕の感覚だとジャズの方は「サックス」と呼ぶ印象がありますが、クラシック界は「サクソフォン」ですかね。「サックス」というと「サクソフォンだ!」って怒られたりもします(笑)。個人的には伝われば何でもいいんですけど、こだわる人は本当にこだわります。

――あらためて今作に収録されている2つの新曲について教えてください。

「ソプラノ・サクソフォンとピアノのためのソナタ エクスタシス」を作曲してくれた逢坂裕さんは藝大の同級生なんです。同じ寮に住んでいて、そこで友達になったら「曲を書きたい」と。僕も書いてほしかったので度々お願いしていて、今回で彼に作曲していただいたのは3曲目です。

 この曲は「あまり長すぎない尺でソプラノ・サクソフォンを使って書いてほしい」とだけオファーしました。初演は2017年だったんですが、初めて演奏した時、ソプラノの格好良さも、もの悲しさも出てくる素晴らしい楽曲だと。

――録音の音を聴いて、ソプラノなのに低音が豊かだなと感じました。

 それは嬉しいです。昨今のサクソフォン全体の音色って華やかすぎる気もしているんです。だから自分としては「より太く、深く」と考えています。特にソプラノは高音の美しさはもちろん、中低音をいかに出すかということにこだわっています。マウスピースはセルマーのワンスターを使っていて、それが今の地震が求める音の気分に適しているなと思っています。

 ソプラノにおける理想の音は、仏ジャズ奏者のStefano Di Battista氏。あの音はとても魅力的で、ソプラノサクソフォンの美味しいところが100パーセント出ているのではないかと。

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