シンガーの林部智史が10月8日と9日、東京・Bunkamuraオーチャードホールで『林部智史 CONCERT TOUR 2019 秋~希望~』の東京公演をおこなった。ツアーは8月21日にリリースされた通算5枚目となるシングル「希望」を携えて、9月28日の山形・やまぎんホールを皮切りに、11月16日の群馬・太田市民会館まで12公演をおこなうというもの。ライブは1部と2部で音楽性を変え、歌手としてのアティチュードを感じさせる歌声で訪れた観客を魅了した。東京初日となった8日のライブの模様を以下にレポートする。【取材=村上順一】

僕の歌に乗せた想いが届いたら――

1部の模様

 平日だが多くの観客で埋め尽くされたオーチャードホール。ステージには紗幕がかけられていて、中の様子はうっすらと見える程度。会場が暗転し、いよいよライブの幕は開けた。1部と2部、休憩を挟んでの構成。1部ではしっとりとした楽曲を中心に歌唱。バンドの編成はピアノ、バイオリン、チェロ、ベース、ドラムの5人編成の豊かな響きをバックに。紗幕に投影された美しい映像と、林部の歌声が現実を忘れさせてくれた「追憶」。透明感のある歌声は、癒しの空間を作りあげる。

 林部の姿が見えると大きな拍手で迎える観客。寺尾聡のカバーで「ルビーの指輪」を披露。ノリの良いジャズアレンジで、スイングしたリズムに心躍らせ、林部の中低音をフィーチャーした、色気を感じさせる声にうっとりと時を預ける。

 「3年振りのオーチャードホール、みなさんにそれぞれの想いを胸に、僕の歌に乗せた想いが届いたら――」と、8月にリリースされたシングル「希望」のカップリングとして収録された「後ろ姿」。街や星といった映像演出も相まってノスタルジを感じさせ、丁寧に楽曲の情景を歌で表現していく林部。「ヒーロー」はクラシックの趣きを感じさせる優雅なアレンジの上に、林部の凛とした歌声とのマッチングが絶妙な1曲だった。ストリングの悠久な響きに酔いしれながら、林部の歌声を浴びる至高の空間。

 そして、デビュー曲「あいたい」は、ホールの空気感をも変えてしまった。ピアノのと林部の歌、アカペラで届けるパートもあり、少ない楽器編成でもドラマチックに展開。多くの人の感情を揺さぶりかける熱演。さらに情感を込めた「あなたへ」と続け、琴線に触れる歌声はホールの隅々まで浸透していくようだった。

心に寄り添えるような歌を歌うことができたら…

2部の模様

 休憩を挟み、2部では初披露となった未発表曲「No one can stop me!」はミラーボールが似合う、ソウルフルなナンバーだ。極上のグルーブに乗って、観客も自然に手拍子で楽曲を後押し。そして、劇的なピアノによるイントロがグッと心を引き寄せた「やさしいさよなら」は、ラテンのリズムが心躍らせる一曲で、林部も歯切れの良い歌で聴かせる。1部とは違った趣きの楽曲で会場の熱を高めていった。

 MCでは石井竜也のライブを観に行った話題。自分とは全く違うステージだったと感想を述べ、「自分も(メジャーで)3年半やってきて、歌を聴かせたい、歌で勝負したいというところが芯にあって、色んなことをやりますけど削ぎ落としていって、歌を聴かせるというところが残り続けるのかなと思いながらステージを観ていました」。

 「心の奥深いところまで旅をするように、歌を通して想いを最後の曲まで繋げていきたい」と、ここからはカバーを披露。洋楽から歌謡曲まで幅広い選曲、そのどれもが林部の色になっていて、名曲たちの新たな一面を見せてくれた。特に小椋佳・作詞の「山河」は、楽曲の持つスケール感と林部の歌声、さらに雄大な山々や河の映像が、どっぷりと世界観に浸らせてくれる。

 「デビュー前は歌が好きで好きで、好きな歌を皆さんに聴いてほしい、と思っていたが今は皆さんの心に寄り添えるような歌を歌うことができたらいいなと…。そして、そんな歌い手になっていけたらいいなと思うようになりました。そんなときに出会った曲が『希望』です。同じ山形出身の岸洋子さんの作品ですが、岸さんを偲ぶ思いも、新たに自分の曲としても、みなさんにこの曲を通して伝えていきたいと思うようになりました」と語る。

 さらに林部は「皆さんにとって一筋の光、希望が見えるような、皆さんの楽しみや生きがいに少しでもなれるような歌い手になっていきたい」と、想いを話す。

 そして、このツアータイトルにもなっている8月にリリースされた5枚目のシングル「希望」。ステージ後方から汽車のヘッドライトを想起させる眩い光、そして、新しい一歩を踏み出す合図ともいえる汽笛が高らかに鳴り響いた。叙情的で言葉を噛みしめるよな歌声は、林部のシンガーとしての矜持を感じさせた。

 コンサートが終わると、観客もこのステージでの感動をスタンディングオベーションで伝える。鳴り止まない拍手がこの日のステージの素晴らしさを物語っていた。林部がステージを後にしたスクリーンには、「見果てぬ明日へ 私の旅は始まる」の文字が投影され、コンサートの幕は閉じた。ゴールなどない旅かも知れないが、“希望”を胸に林部の歌い手人生はまだまだ続いていく。

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